2025年4月に韓国で行われたソウルモーターショーで初公開されたヒョンデの水素燃料電池車(FCEV)、2代目「NEXO」(ネッソ)。日本では10月の「ジャパン・モビリティショー2025」でお披露目されました。今回はしっかり長めの試乗で感じた水素燃料電池車の現在地をレポートします。
再進出で日本市場に導入されたFCEV
水素燃料電池車(FCEV)というと、電気自動車のさらに先の未来の車という感じがしますが、実は水素燃料電池の起源は1839年まで遡ります。イギリスのウィリアム・グローブが水素と酸素から電気を作る「燃料電池」の基本原理を発見し、1960年代のアメリカのNASAがアポロ計画などの宇宙船の電源として燃料電池を採用。1966年にはGMが世界初の試作用の燃料電池車「エレクトロバン」を発表。その後、世界的に多くのメーカーが試作車を作り、実証実験を開始した歴史があります。
当時は、日本でも日産やマツダなども実証実験を行っていました。実際に市販されたのは2008年に自治体や官公庁向け限定でホンダ「FCXクラリティ」を発表、2014年にトヨタが世界初の一般向け量産FCEVセダン「MIRAI」を日本で発売と日本メーカーが注力している印象です。とはいえ実は、ヒョンデが2013年(ミライ発売の前年)に世界初の量産型FCEV「ツーリンiX Fuel Cell」の生産を開始し、2018年にSUVの「NEXO(ネッソ)」を発売。これが世界的なヒットを記録し、FCEVとの関わりは日本メーカー以上に深いのです。
ヒョンデは2009年に日本の乗用車市場から撤退しましたが、2022年に再参入。その際に、日本導入第一弾として選ばれたのが、EVの「IONIQ 5」(アイオニック5)とFCEVの「NEXO」(ネッソ)の2台でした。その理由は、クリーンなクルマに特化することで、先進的なブランドイメージを強く印象づけること。そして、日本は世界に先駆けて水素ステーションの整備を進めていた水素インフラ先進国」であること。さらにすでに日本では「ミライ」がFCEVとして認知され、そこに人気のSUVを投入することで、実用性の高さから日本のユーザーにアピールができるという思いがあったようです。
ちなみに現在、日本で市販されているFCEVはトヨタ「ミライ」と「クラウンセダン」、ホンダ「CR-V e:FCEV」、そしてヒョンデ「ネッソ」の4車種です。
2代目「ネッソ」の第一印象は?
その2代目「ネッソ」に10日間試乗する機会がありました。前述のように「ネッソ」は、ヒョンデが本気で取り組むFCEV。水素と酸素の化学反応によって発電し、その電力でモーターを駆動します。走行時に排出するのは水だけというクリーンさに加え、数分で完了できる水素充填や、高速巡行でも電費が良いなど、BEVとは違う特長があります。
初代ネッソは2018年に登場。当時としては驚くほど完成度が高いFCEVでしたが、2代目は単なる正常進化版ではありません。より洗練され、意外にもそれほど「水素車」を主張していないのが印象的です。
デザインは大きく変わりました。初代は空力性能を優先したようなフォルムでしたが、新型は人気のSUVとして存在感を強めながら、面の処理やライティングで未来感を表現。特に、ピクセルのモチーフを取り入れたフロントまわりは、IONIQ 5などヒョンデの最新EVと共通する世界観をもちながら、ネッソ独自のクリーンなイメージを感じられます。
先進的で使いやすいユーザーインターフェース
車内では、2つ並ぶスマホの「置くだけ充電」がトレンドを押さえています。デジタルサイドミラーなので、前席の両端にモニターが設置されています。これは慣れるまでちょっと違和感があるかも。
しかし、ヒョンデのEVモデルと同様に、ウインカーを倒した方向の後方死角がドライバーディスプレイに映し出されるのは便利。そしてもちろん日本仕様は、右ハンドルで右レバーがウインカー。水平基調のダッシュボードに、柔らかな素材や間接照明を組み合わせ、居心地の良いリビングという感じ。リサイクルPETや植物由来の素材、バイオプラスチックなどのサスティナブル素材をさりげなく使っているのも好感度高いポイントです。
12.3インチのデジタルメーターと12.3インチのインフォテインメントディスプレイが一体化された「パノラミックカーブドディスプレイ」が印象的。エアコン調整などの物理スイッチも適度に残しているので、普通のエンジン車に慣れた人でも直感的に扱えます。FCEVはエンジン音がないのでロードノイズや風切り音が目立ちやすいですが、新型は吸遮音材や空力の処理を丁寧に行なった印象。
静かなことはもちろん、疲れにくい印象でした
技術面では、燃料電池スタック効率やエネルギーマネジメントを改良し、航続距離性能や実用域での安定性を向上。さらに静粛性が一段とアップしています。ここが10日間試乗して、一番感じた部分かも。
当然ながらエンジンは無く、発進は静かでスムーズ。しかもEV特有の強すぎる初速感がなく、アクセル操作に対して自然。街中では、大柄なSUVであることを忘れるほど扱いやすい。一方、高速道路での直線安定性が高く、100km/h巡航での静かさは抜群。
今回、長距離走行は一番遠いのが横浜市街から富士スピードウェイへの往復(片道100km弱程度)でした。一般道から高速道路、峠道など様々なシーンで乗りましたが、移動後の疲労感が少ないです。振動やノイズだけでなく、加減速の質感が穏やかなせいかも。これはスペックには表れない、人的感性の部分かもしれません。
ヒョンデはディーラーを持たず、オンライン販売が基本ですが、横浜にブランドを体験できる拠点「Hyundai Customer Experience Center」(ヒョンデ・カスタマー・エクスペリエンス・センター)があります。
なんと、パンクしていたトラブルも無事解決
実は、試乗車のネッソを借りて、翌日は自分の車で出かける用事があったので2日後にネッソで出かけようと思ったら、タイヤの空気圧センサーが点灯。右後ろのタイヤの空気圧が1つだけ他に比べて低い「200kPa」。他は260~270 kPa。とりあえずガソリンスタンドに行き、エアーを充填。しかしなぜか205kPaになっただけ。さらに2日ぐらい様子を見ても1つだけkPa。というわけで、GW中でしたが、新横浜の「ヒョンデ・エクスペリエンス・センター」へ。
すぐに対応してくれて、作業している間、私は2階のカフェから作業風景を見ながらティータイム。ちなみにメニューには、ヒョンデの車名がついたものもあり、もちろん「ネッソ」もありました!(今回は、別のものを選んでしまいましたが)
少しして担当の方が席まで来てくれて結果報告。どうやら原因は錆びた何かがタイヤに刺さっていたようで、パンク修理したとのこと。無事に他と同じタイヤの空気圧になりました!
水素の価格が高いことに驚愕!
最終的に10日間ほど、実際にマイカーのように使ってみて、一番の課題と感じたのは「水素」でした。新型ネッソの水素搭載量は6.69kg。54Lの高圧タンクを3本搭載し、タンクの容量は合計162L。700barの高圧水素を貯蔵し、一充填走行距離は最大970km(参考値)。満充填まで約5分。
しかし、水素ステーションはガソリンスタンドやEV用の急速充電器などに比べてかなり数が少なく、日本全国に149カ所(2026年2月28日現在)だけ。しかも減少傾向にあるそう。ネッソの一充填走行距離は1000km近いので、そんなに頻繁に入れなくても良いですが、祝日などはお休みのところが多いし、そもそも営業時間が短く不便です。
そして今回、驚愕だったのが水素の価格。イワタニが1,650円/1kgで、エネオスが2,200円/kg! しかも私が入れようと思った日は木曜日で、横浜近辺にあるイワタニの水素ステーションは木曜日定休なのでした。
エネオスの水素ステーションで充填したところ、充填開始時の水素残量が28%、航続可能距離は215km。そこから100%まで4.62kg充填し、値段は10,164円!!!
水素の充填は常に「満タン」が基本
ちょっと細かい話になりますが、今回の走行距離は288km。試乗スタートの時は100%ではなく、76%で航続可能距離605kmでした。オドメーターの累積走行距離は1263kmからスタートして、10日間で私が使った水素の量は48%だけでした。
つまり、充填した72%から私が使った48%を引いた「24%分の水素」を私が補填したということになります。というのも、水素の充填は途中で止められないのです。最後に自分が乗っていない分の水素代まで支払うという、モヤモヤが残る今回の試乗体験になったのでした。
それにしても水素、値段高すぎ。これじゃ、庶民は乗れない~!
取材・文/吉田由美






