電気自動車の大きなメリットのひとつが、減速時や下り坂でモーターを発電機として活用する「回生ブレーキ」です。はたして、標高差約1500mの富士スバルラインでEVの電池残量はどのくらい回復するのか。日産リーフとテスラモデルXで検証してみました。
回生ブレーキって、何?
まず、EVビギナーの方向けに「回生ブレーキって何?」というところから、簡潔に解説しておきます。
回生ブレーキとは、EVが減速したり下り坂の走行時、駆動用のモーターを発電機としてバッテリーに充電することを意味しています。エンジン車でブレーキを踏んで減速すると、ブレーキが機能して運動エネルギーを熱に変換し、空気中に熱を放出しています。EVの場合、モーターを発電機として電気に変換(減速する抵抗が発生)し、走行用のエネルギーとして回収できるということです。
長い下り坂で、エンジン車ではエンジンブレーキを使用しますが、EVでは回生ブレーキがエンジンブレーキのような役目を果たします。エンジン車では「下り坂でガソリンが増える」なんてことはないですけど、回生ブレーキの機能を備えたEVなら「電池残量が下り坂を走るほどに増えていく!」という目からウロコな体験ができるのです。
回生ブレーキを使うには、モーターを制御するインバーターが対応している必要がありますが、市販EVのほとんどはちゃんと回生ブレーキ機能を備えており、さらに高度に制御することで日常的な電費向上にも貢献しています。
ただし、超小型EVなどの一部の車種では回生ブレーキに対応していないケースがあります。また、満充電でスタートするとそれ以上充電できない、つまり回生ブレーキが機能せず、エンジンブレーキなしで下り坂を走行するような状態になることがあるので注意してください。
マイカー規制中もEVは走行可能なスバルライン
さて、今回の実証の舞台は山梨県河口湖町を起点とする有料道路「富士スバルライン」です。例年の夏、スバルラインではマイカー規制が実施されます。今年(2022年)の規制期間は7月15日〜8月31日でした。
でも、電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)はマイカー規制の対象外。規制期間中でも、富士山パーキングの受付で「確認証」の交付を受けることで、五合目までのフルコースを走行することが可能です。
ちなみに、富士山五合目への自動車道路は静岡県側にも「富士山スカイライン」と「ふじあざみライン」があり、ふじあざみラインでは2020年までスバルライン同様にEVは規制対象外だったのですが、昨年から規制対象(つまり走れない)になってしまいました。
ともあれ、EVだからこそ走れるスバルライン。貴重な舞台で回生ブレーキを検証するため、規制期間終了間際の8月29日の月曜日、実際に走ってきたという次第です。
日産リーフとテスラモデルXで回生量を検証
EVsmartブログ制作スタッフが連絡用に使っているSlackで「スバルラインで回生検証してきます」と予告したところ、アユダンテ社長の安川さんが「僕も行こうかな」と応えてくれて。回生検証は私のマイカーである日産リーフAZE0(30kWh)と、安川さんのテスラ モデルX P100D(100kWh)という、性能差満点の2台で実施しました。
モデルX P100Dが搭載するモーターのシステム最高出力は驚愕の500kW。一方、日産リーフAZE0は80kWです。回生ブレーキでは「モーターを発電機として使う」のですから、出力は回生での発電量にも関わります。はたして、どのくらい発電量に差が出るのでしょうか。
検証のスタートは五合目駐車場。麓の料金所を過ぎて、国道139号線と交差するあたりまでを計測区間として実走しました。
【富士スバルラインの諸条件】
距離/約30km
五合目標高/2305m
麓との標高差/約1500m
日産リーフは53%→68%へ15%の回生
五合目出発時
下り回生走行終了時
まず、私の30kWhリーフの結果です。五合目駐車場出発時のSOC(バッテリー残量表示)は53%。所定のポイントまで下りきった際のSOCは68%でした。回生量はSOCにして15%です。
バッテリーが新品であれば、30kWhの15%で約4.5kWhの回生電力量ということになるのですが……。残念ながら、以前の記事で報告したように、マイカーリーフは11セグ。いわゆる「セグ欠け」になっていて、満充電の電力量が減っています。
日産リーフ「セグ欠け」電池容量の目安
| 劣化度 | SOH目安 | 推定総電力量
(30kWhの場合) | 推定総電力量
(24kWhの場合) |
|
|---|---|---|---|---|
| 11セグ | 15% | 85% | 25.5kWh | 20.4kWh |
| 10セグ | 21.25% | 78.75% | 23.6kWh | 18.9kWh |
| 9セグ | 27.5% | 72.5% | 21.75kWh | 17.4kWh |
| 8セグ | 33.75% | 66.25% | 19.9kWh | 15.9kWh |
| 7セグ | 40% | 60% | 18.0kWh | 14.4kWh |
| 6セグ | 46.25% | 53.75% | 16.1kWh | 12.9kWh |
まだ10セグにはなっていませんが、おおむね25kWhのバッテリーになっていると考えて、「25×0.15=約3.8kWh」の電力を回生で再充電できたことになります。
ちなみに、スバルラインを上る前には「旅の駅 河口湖」で30分間急速充電。SOC100%からのスタートでした。従って、上りでのバッテリー使用量はSOCにして47%(約11.8kWh)だったことになります。ざっくり数字を丸めると、12kWh使って上り、下りの回生で4kWh取り戻した、くらいのイメージですね。
テスラ モデルXは34%→40%へ6%の回生
続いて、モデルXの結果です。五合目駐車場出発時のSOCは34%。麓まで下りきって、SOCは40%まで回復しました。回生量はSOCにして6%です。
五合目出発時
下り回生走行終了時
リーフが15%だったのに対して、モデルXは6%しか? ってのは大きな勘違い。モデルXのバッテリー容量はリーフの3倍以上の100kWhです。安川さんのモデルXは日本導入直後に購入した個体なので、さすがに10%程度は劣化していると仮定しても、総容量は90kWh。6%として、約5.4kWhの電力を回生できた計算になります。
リーフの約3.8kWhに対して約5.4kWhなので、圧倒的ってほどではないですが、やはり、高出力のモーターや大容量バッテリーを搭載したEVのほうが、より多くの電力を回生ブレーキで再充電できる、という結果になりました。
回生した電力で談合坂SA手前まで走れました
回生検証走行の後、私は旅の駅河口湖に新設された急速充電器について取材するため、安川さんとは別行動となったのですが。
東京への帰路、「五合目から下って充電できた電力でどこまで走れるか」も検証しました。結果、安川さんも私も旅の駅河口湖から中央自動車道を利用するルートで走り、安川さんからは「談合坂SA手前の75.1km走行地点で五合目SOCの34%になった」という報告が届きました。
安川さんは旅の駅から少し戻って河口湖ICから中央自動車道に入ったようですが、マイカーリーフのナビは近道して富士吉田西桂スマートICから中央に乗るルートを表示。モデルX同様に、五合目SOCの53%になったのは談合坂SAの数km手前でしたが、五合目からの走行距離は約65kmでした。
河口湖から東京へ向かう中央自動車道はおおむね下り坂傾向のルートとはいえ、スバルラインの回生で回復した電力で、旅の駅河口湖から高速道路走行で30km以上も走れるのが、EVならではの醍醐味といえます。
ちなみに、30kWhリーフの談合坂到着時のSOCは49%(談合坂手前の上りで一気に減りました)。このまま自宅まで帰着できるギリギリって感じだったのですが、急速充電器は2台とも空いていたので14分間充電。88%となり、のびのびと東京を目指しました。
一方、安川さんのモデルXは34%のまま談合坂にピットイン。そのまま余裕で東京まで無充電で戻った、ということでした。EVのバッテリー容量による底力の違いを痛感します。
ある程度スピード乗せて走るのが上手な回生のコツ
スバルライン、五合目の標高は2305mです。2000m以上の高地にマイカーで登れる場所は日本では希少。麓までの標高差も約1500mと圧倒的ではあるのですが。実は、スバルラインはとても走りやすく整備された道で、急勾配が少ないという特徴があります。つまり、回生ブレーキの威力を満喫するには、少々不向きなルートでもあるのです。
私の経験上も、同じ富士山五合目からの下りであれば、静岡県側の富士山スカイラインや、ふじあざみラインで下った時の方が、20〜30%ほどと、より多くの電力を回生することができました。また、先日電気バイク「XEAM」の試乗取材で箱根ターンパイクへ行った際も、頂上付近で電欠寸前だったのが、下りきったら30%近くまで回復。そのまま小田原厚木道路の大磯PAまで余裕で走りきって充電したことがあります。
あくまでも、個人的な経験に基づく感覚ですが、EVで上手に回生ブレーキを活用するには、アクセルを緩めすぎたりブレーキを踏みすぎるのは両方とも禁物です。もちろん制限速度に気をつけながらですけど、50〜60km程度まで下り坂の惰性で勢いを付けて走りつつ、減速すべきポイントでしっかりと回生ブレーキを効かせてあげるのが、メーターのSOCがピョンっと増えていきやすい走り方です。
ただし、スピードに乗せるとはいえ、モーターの出力を示すインジケーター表示が「Power」側に振れる(リーフの場合)ようなアクセルワークはもっと禁物。電池を消費しないようにしながら、勾配なりにスピードを乗せていけるかという微妙なアクセルワークが大切で、そんなこんなを操りながら走るのがまた、EVの面白さであったりもするのです。
この「上手な回生のコツ」は、あくまでも私個人の経験則的なテクニックです。EV歴を重ねてきた読者諸兄には、また違ったコツを会得している方もいらっしゃるはず。ぜひ、コメント欄でご教示ください。
(取材・文/寄本 好則)











