トヨタ自動車は先日のバッテリーEV戦略の発表で、2030年までに世界でのEV販売台数を年間350万台とする目標を示しました。日本における電気自動車普及活動の先駆者であり、日本EVクラブ代表理事の舘内端氏は、この発表をどう捉えるのか。「このままでは日本でEVは売れない」と提言する緊急寄稿です。
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トヨタが電気自動車に本気宣言〜2030年に350万台のBEV販売を目標(2021年12月15日)
世界最大メーカーのEV本格参入を歓迎
トヨタ自動車(株)が2030年までに350万台、30車種のEVを販売するとの発表を行った。そのことに関して個人的な感想のようなものを語りたい。まずどのようなスタンスで本レポートを書くか、私の立ち位置について述べておく。面倒な話だが、現在の私の立場上、必要だと思うのでお許しいただきたい。
数年前、私は35年以上も務めたカーオブザイヤーの選考委員を辞して、現在は評議委員として自動車や自動車業界と接しているが、個人としては、トヨタという企業の現在と行く末に特段の関心はない。一自動車メーカーとして、今後に成功するも、衰退するも、己の考える方向に向かって進めばよいと考えている。
一方、EVの普及活動を27年も行ってきた日本EVクラブの代表としては、世界最大の自動車メーカーが、ようやくEVに大きく舵を切ったことは大変に好ましく、歓迎したい。少なからず自動車によるCO2の排出量も減るだろう。
世界最大のメーカーが、長らくEVに対して後ろ向きともとれる態度をとってきたことは、各方面に甚大な影響を与えてきた。その影響は日本国内にとどまらず、米国、欧州、中国にも及んだに違いない。
トヨタの影響力を考えると、これまで国内メーカーの多くが、やたらにはEVに舵を切れなかったことは想像するに難くない。小さな市民団体である日本EVクラブの活動など、風前の灯火のようであった。
EVクラブは置くとしても、トヨタの消極的な姿勢はEVシフトの遅れをもたらし、日本の産業、経済にとって大いなる損失であった。また、減るはずのCO2排出量もその機会を逃したといえなくもない。
それが一転、EVに向かうことは、トヨタだけではなく、ほとんどのEV賛同メーカーのEV開発、販売に好影響を与えると考えられる。行政としても、国民、市民へのEV推進に力を入れやすくなる。
「EVが売れない日本」を変えていくのがトヨタの責務
もっともこうして日本がEV化に後れを取っている間に、欧州、米国では最新のEVを開発し、電池工場を各地に建設し、ノルウェーのように新車販売の70%ほどを占める(2021年11月の新車販売におけるEVシェアは73.8%)までにEV普及率を高めている国さえ出てきた。そして、ここがもっとも重要なことだが、かの国では国民・マーケットにEVアレルギーはなく、EVさえ開発して発売すればマーケットはすぐに反応し、販売は好調に伸びていったのである。
日本では逆のことが起きていた。どこに行っても、誰でも、「EVは使えない。だからまだ買わない」と言うのである。見事に反EVキャンペーンの成果は上がっていたのだ。世界最大、国内最大の自動車メーカーの転向は良しとしても、EVを販売するにはこうした反EVの世論をまずは払しょくしなければならず、それにはとてつもないエネルギーが必要で、長い時間がかかるだろう。マーケットは反EVであり、マーケットを舐めてはいけない。このままでは、絶対に日本でEVは売れない。
それだけではなく、今後に大きな問題となっていくエンジン車の開発停止、EV開発の推進、生産等に伴う業務転向、解雇等の労働問題にも、大きな影響力を持つのではないだろうか。「あのトヨタだって……」という言辞が良くも悪くも、労働現場で、協力企業との交渉の場で使われるに違いない。
これはトヨタとて免れる問題ではなく、EVネガティブからEVポジティブへの転向について、いずれ職種転向、解雇等に遭遇する(エンジン開発、生産も含めて)トヨタで、そして自動車産業で働く人たちに丁寧な説明が必要だろう。
EVシフトへの根拠と矜持を示す必要がある
そのような場面では、何を根拠にEVポジティブに転向するのか、説明する必要があるのではないだろうか。
これまで多くのカーメーカーのEV推進宣言を聞いてきた。もっともほとんどがヨーロッパのメーカーだが……。メーカートップの挨拶の冒頭は、必ずと言って良いほど「地球温暖化・気候変動」が困難な状況にあることの認識を示し、それに対する自社の責任を開示してきた。そして、自動車によるCO2排出量が世界の20%に及んでいることに触れるのが常であった。さらに、必ずや「わが社の自動車から排出するCO2をゼロにし、自動車を未来に存続させる」といった旨の力強い宣言が加えられるのである。
もちろんエネルギー問題の解決や、充電インフラの整備といったことへの対応も示される。たとえばBMWは、2013年にi3の生産・販売を始めるにあたって、生産拠点のドイツ・ライプツィヒの工場に巨大な風力発電機を2基設置した。また、軽量化のためにCFRPを使っているのだが、大量の電力を使うCFRPの生産に当たっては、北米の水力発電のある地域に生産工場を建設して、CO2ゼロを達成していることも発表した。
私はこうした宣言を聞くたびに、彼らには自動車生産者としての矜恃を感じてきた。そして自動車を愛する者の一人として、ともに地球と自動車を守ろうと思ってきた。振り返れば、これはもう10年ほども前の話である。
残念ながら今回のトヨタの発表で、地球温暖化・気候変動と、それに対する自社の責任に関する話の内容は乏しい印象だった。近いうちに、EVシフトの理由について、世界各国の政策や市場の変化、他メーカーの動向といった自らの企業としての生き残りに関することだけではない、トヨタとしての矜恃を感じられる話を聞きたいものである。
(文/舘内 端)

