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BMW『MINI Aceman John Cooper Works E』試乗レポート/サイズが絶妙なMINIのクロスオーバーEV

BMW『MINI Aceman John Cooper Works E』試乗レポート/サイズが絶妙なMINIのクロスオーバーEV

MINIの新世代電気自動車(EV)第3弾となる『MINI Aceman』に試乗しました。EV専用に開発されたスモールコンパクト・クロスオーバーの実力を探るため、関東エリア約400kmを駆けまわってみました。

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EV専用でMINI Cooperとは別のモデルに

BMW MINIとしては4代目となる『MINI Cooper 3 Door』が発表されたのは2023年9月のことで、日本でも翌年の2024年3月2日、「ミニの日」に販売が開始されました。最新版では、これまでの『MINI 3 Door』がMINI Cooper 3 Doorに名前を変え、さらにガソリンエンジン車とともに、EVをラインアップに加えたのが新しいところです。

その後、遅れて『MINI Cooper 5 Door』が追加になりましたが、こちらはガソリンエンジンのみ。代わりに、クロスオーバースタイルのEV専用モデル、MINI Acemanが登場しました。

MINI Cooper 3 Doorのデザインには惹かれるけれど、使い勝手を考えると5ドアがほしいというMINIのファンにとってはまさに朗報! また、コンパクトで魅力的なEVを探していた人にとっても、このMINI Acemanは期待が高まる一台といえるのではないでしょうか。

MINI Acemanのボディサイズは、全長×全幅×全高=4080×1755×1515mmで、これはMINI Cooper 5 Doorの4035×1745×1470mmに比べて全長、全高ともに45mm伸ばされていますが、全高は1550mmを下回っているので、一部の機械式駐車場の高さ制限もクリアできるのはうれしいところです。

基本部分はEV版MINI Cooper 3 Doorを受け継ぐ

現在のMINIには、MINI Acemanのほかに、MINI Cooper 3 Doorと、MINI Acemanよりも大きな『MINI Countryman』にEVが用意されています。このうち、MINI Countrymanが『BMW iX1』などと同じプラットフォームを採用するのに対して、このMINI AcemanはEV版MINI Cooper 3 Doorと基本部分を共有しています。

グレード展開も同じで、135kW(184ps)のモーターと40.7kWhのバッテリーを積む『E』、160kW(218ps)のモーターと54.2kWhのバッテリーの『SE』、そして、190kW(258ps)のモーターと54.2kWhのバッテリーを組み合わせたスポーツモデルの『John Cooper Works(JCW) E』があり、今回はJCW EをBMWジャパンからお借りしました。

実物を目の当たりにすると、MINI Cooper 3 Doorはいうまでもなく、MINI Cooper 5 Doorよりも大きく見え、はるかに存在感があります。それでも『トヨタ・ヤリスクロス』よりもコンパクトというのが信じられないくらいです。丸いヘッドライトが愛らしいMINI Cooper系とは異なり、角張ったデザインのヘッドライトのおかげでMINI Acemanの表情はなかなか精悍です。MINI Cooperとは違うことをアピールしたい人にはうれしいデザインといえるでしょう。

室内に目を向けると、シンプルなコックピットが潔く、私は一発で気に入りました。大きく丸いセンターディスプレイは有機ELにより薄く仕上げられていて、再生ポリエステルからつくられた2Dニット・ダッシュボードに浮かぶ姿がとてもおしゃれ。一方、運転席の前にはメーターパネルがないことに不安を覚えますが、その奥にヘッドアップディスプレイがあるため、運転中に必要な情報を得るには困りません。

感心したのが後方視界の良さ。直立したテールゲートと比較的大きなリアクォーターウインドーが備わるおかげで、真後ろや斜め後ろが見やすく、バックの際に広い範囲が目視できて安心です。

ガソリンエンジン版のMINI Cooper 3 Doorではホイールベースが2495mm、MINI Cooper 5 Doorでは2565mmであるのに対して、このMINI Acemanではさらに長い2605mmとしたことで、後席の足元は大人でも十分なスペースが確保されています。高めの全高のおかげでヘッドルームにも余裕があります。荷室も、後席を使用する状況で約60cmの奥行きが確保され、後席を倒せば約150cmまで広がり、ふだん使いには不満のないサイズです。

パワフルなモーターと賢い回生ブレーキ

円形のセンターディスプレイのすぐ下には、物理スイッチがまとめられ、POWERと書かれた中央スイッチを右にひねるとシステムがスタートします。シフト操作はその右のスイッチを上下して行います。MINI Acemanには「Green」「Timeless」「Go-Kart」という3つの走行モードがあり、POWERスイッチの左にあるEXPERIENCEスイッチで選択が可能です。

まずは標準的なTimelessを選んで走り出すことにしますが、MINI Acemanのなかで最もスポーティなJCWとあって、力強い加速とレスポンスの良さが楽しめます。高速道路などでアクセルペダルを深く踏み込むと、伸びのある加速でまわりをリードすることができて、スポーティさが実感できます。Go-Kartに切り替えると、さらに鋭い加速が得られますが、それでいて荒々しさはなく、思いのほか扱いやすいのが意外でした。

このJCWには一時的に約20kWパワーアップできるEブースト機能があり、ステアリングホイール左のパドルを引いてやると、一段と速い加速が味わえます。一方、省エネを意識したGreenではアクセルレスポンスが穏やかになりますが、それでも十分過ぎる速さを見せてくれました。

MINI Acemanの回生ブレーキは、ほかの電気自動車版MINIやBMWのEVと基本的な使い方は同じです。Dレンジでは、設定メニューから「低い」「普通」「高い」の3段階に加えて、前を走る車との距離などに応じて自動的に回生ブレーキの強さを調整する「アダプティブエネルギー回生」を選ぶことができます。

おすすめは「Bレンジ」や「アダプティブ」の使い分け

この「アダプティブ」は、先行車との距離を監視しながら自動的に回生ブレーキを強めたり弱めたりしてくれる便利な機能です。とくに交通量の多い高速道路や都市高速などで、車間距離を自然に保てるのがうれしいところです。ただし弱点もあって、前にクルマがいないと惰性で走ってしまうため、コーナーや信号で減速したい場面では回生が効かず、あわててブレーキを踏むなんてこともあります。どんなシーンでもしっかり回生ブレーキを利かせたいなら、「低い」「普通」「高い」のいずれかを選んでおくのが安心です。

一方、Bレンジに入れると「高い」に相当するしっかりとした回生ブレーキが得られ、アクセルペダルを離すだけで完全停止までできる「ワンペダルドライブ」が楽しめます。私のおすすめは、一般道ではBレンジ、高速道路ではDレンジのアダプティブを使い分ける方法です。シフトレバーの操作だけで簡単に切り替えられるところも気に入っています。

好き嫌いが分かれるJCWの乗り味

気になったのがMINI Aceman JCW Eの乗り味です。スポーティさがウリのJCWには専用にチューニングされたスポーツサスペンションが搭載され、足元も「225/40R19」のタイヤが装着されます。おかげで、俊敏なハンドリングが楽しめるのですが、そのぶん乗り心地は硬めで、一般道だけでなく、速度が上がる高速道路でも前後方向の揺れ(ピッチング)が絶えずあり、落ち着かない印象でした。

MINIらしいきびきびとした動きが好みならJCWは魅力的な選択肢ですが、もうすこし穏やかな乗り味を求めるなら、MINI Aceman SEをおすすめします。

気になる電費は、空いた一般道を走行したとき(平均速度37km/h)が8.2km/kWh、高速道路(常磐道)をACCを使って100km/h巡航したときが6.3km/kWh。高速道路を中心に約400km走行した際のトータル電費は6.7km/kWhとまずまずでした。

MINI Aceman JCW Eの一充電走行距離はWLTCモードで403km。ほぼ100%でクルマを借りたときには航続距離表示は365kmを示していました。一般道を中心に走ればカタログ値に近い航続距離が望めそうで、私には十分すぎる数字といえます。

途中、急速充電を試すこともできました。館山道の市原サービスエリア上りにある「赤いマルチ」の150kW器でSOC 9%から充電を開始したところ、一瞬100kW越えを見せたあと、70kWあたりをキープし、その後は次第に数字を下げながらも30分で32.8kWhを追加し、SOCは73%まで回復しました。航続可能距離表示は33kmから271kmまで増え、高速ならここから2時間以上走り続けることができそうです。

個人的には、乗り味を考えるとJCWではなくSEを選ぶと思いますが、扱いやすいボディサイズやシンプルさが好印象のコックピット、サイズのわりに広い室内など、MINI Acemanは日常の足として実に魅力的だと思いました。長い一充電走行距離を声高にアピールするモデルが多いですが、必要十分な航続距離に加えて電費や充電性能に優れるMINI Acemanは、いま私が買いたいEVの一台です。

取材・文/生方 聡

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この記事を書いた人

1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職し、システムエンジニアを経験。しかし、クルマに携わる仕事に就く夢を叶えるべく、1992年から「CAR GRAPHIC」記者として、新たなキャリアをスタート。その後、フリーランスのエディター/ライターとなり、現在はモータージャーナリストとして自動車専門メディアに試乗記やレースレポートなどを寄稿する一方、エディターとしてウェブサイトの運営などに携わる。愛車はフォルクスワーゲン『ID.4』。

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