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中国専売BEV「マツダ EZ-60」試乗レポート/向上した質感と攻めた価格で販売好調

中国専売BEV「マツダ EZ-60」試乗レポート/向上した質感と攻めた価格で販売好調

マツダが2025年9月に中国で発売した新型BEVの「EZ-60」に試乗、先立って投入されたEZ-6から進化したポイントなどを確認しました。日本市場ではブランド唯一の電気自動車だった「MX-30 EV MODEL」の生産を終了したマツダですが、中国専売BEVの投入が加速しています。

目次

EZ-6よりも質感が向上

EZ-60はマツダが現地開発した中国向けBEVの第2弾モデルです。2025年4月の上海モーターショー2025で発表されたのと同時に予約受付を開始、9月末に正式に発売されました。長安汽車との現地合弁「長安マツダ」が製造・販売だけでなく開発段階から関与しており、長安汽車が展開する「ディーパル」ブランドの「S07」をベースにしていると言われています。この開発手法は2024年に発売された共同開発第1弾モデル「EZ-6」でも同様で、そちらはディーパルの「L07」がベースとなります。

【関連記事】
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EZ-60は予約開始48時間で約1万台を受注するなど発表直後から大きな注目を浴びていました。EZ-6と同じくマツダ独自のフィロソフィーに則って設計されており、ディーパル車種がベースであることを感じさせない仕上がりになっています。

それだけでなく、EZ-60ではさらに上質感を高めるべく、EZ-6よりも一段進化したデザインや機能を散りばめています。単なる「SUV版EZ-6」では終わらせない、新たな世代の到来を告げるような新モデルとして誕生したわけです。

セダンのEZ-6登場初期より安い攻めた価格設定

具体的な部分ではまず、エクステリアデザインが大幅に刷新されました。マツダ車種と言えば商品群が世代ごとに分けられており、基本的にその世代に該当するモデルたちはほぼ同じようなフロントマスクを持ちます。一方でEZ-60はEZ-6にあったブラック基調のグリルを廃止、五角形グリル外周を囲うLEDイルミネーションをデイライトと繋げるなど、印象がガラリと変わっています。EZ-6も当初は洗練されたデザインだと感じましたが、その認識をあっという間に過去のものとさせるレベルでEZ-60は進化した印象です。

ボディサイズは全長4850 mm x 全幅1935 mm x 全高1620 mm、ホイールベース2902 mmと、日本でも販売されているCX-60よりも少し大きくなっています。

EZ-60では空力性能を意識したデザインがユニークで、グリル上部からボンネット前部分を空洞にして空気を通しています。Dピラーも同様に空洞となっており、空気抵抗を少なくしたことで航続距離や電費の向上に寄与したとのこと。

パワートレインはEZ-6と同じく、発電用1.5リッター直列4気筒エンジンを搭載するEREV(Extended Range Electric Vehicle=レンジエクステンダーEV)と、電気のみで走るBEV(Battery Electric Vehicle)の2種類から選択できます。AWDは設定せず、EREVとBEVどちらも出力254 hpのRWDのみとなります。

EZ-6ではグレード間でバッテリーの違いがありましたが、EZ-60ではEREVは容量31.73 kWh(CLTC航続距離160 km)、BEVでは77.94 kWh(600 km)に集約しました。

価格はEREVが11.99~15.49万元(約264.7~341.9万円)、BEVが15.09~16.09万元(約333.1~355.2万円)と、EZ-6の登場初期の価格よりも安い、攻めた価格設定です。現在はEZ-6も同じ価格帯まで値下げされたため、同じ価格でセダンのEZ-6かSUVのEZ-60かが選べます。

先進的な印象と快適性を両立した室内空間

では、実際に運転席周りを見てみましょう。筆者はEZ-6にも試乗したことがありますが(関連記事)、コックピットの質感は別次元と感じさせるほど進化しています。

まず目につくのは中央の26.45インチディスプレイで、助手席側までカバーしているのでとてつもない存在感があります。中国では移動中の娯楽体験を充実させるべく助手席用ディスプレイを備える車種が増えていますが、EZ-60ではそれらを融合させた形です。また、これに加えてEZ-6にはあったインストルメントパネル用ディスプレイも撤廃、車速やシフトポジション、航続距離といった情報はHUD、もしくは中央ディスプレイの左上で確認します。

EZ-6のサイドミラーは従来の鏡でしたが、一方でEZ-60ではデジタルアウターミラーを採用、ドアパネルの上部に後方視界を映し出すディスプレイを装備しています。デジタルアウターミラーは夜間や悪天候時でもクリアに後方を確認できる優れものですが、一方で実際に運転していると遠近感をつかむのに苦労することがあります。

目につく範囲でのディスプレイはデジタルアウターミラー用の左右2枚とセンターの計3枚のみなので、フラットかつ開けた視界が目の前に広がります。全高の低い車体に起因する低めのアイポイントと相まって、乗車体験はCX-60よりも格段にスポーティで、SUVとは感じさせないほどでした。

乗り味は少しスポーティすぎ?

乗り心地は正直、かなり人を選ぶセッティングです。比較的マイルド寄りなEZ-6よりも硬いどころか、改良前のCX-60と同じレベルの硬さと言った方がわかりやすいかもしれません。筆者は普段の足として車高調の減衰をもっとも硬くしたセッティングのクルマに乗っているので特段不快には思いませんが、ファミリー層であれば運転手以外の乗員から文句は出るでしょう。

一応は電子制御ダンパーなのでドライブモードを変えることで柔らかくなるはずではありますが、実際にモードを「スポーツ」から「コンフォート」にしても同じような印象を受けました。ただ、硬いのは硬くても、スポーティさに振った硬さなので酔うような感じではありません。また、リアはフロントよりも少し柔らかい乗り味なので、後部座席に座っての移動が苦になるほどではありません。

サスペンションの形式は前・マクファーソンストラット/後・マルチリンクとなりますが、後ろは4代目アウディ A6のようなH字型のロワーリンクを採用したものとなります。先述のとおり後ろの方が柔らかいので、マツダの2ドアオープン「ロードスター」と似たような設計思想を感じました。

アクセルやブレーキのフィーリングは他の日系EV同様に優しめな設計で、軽めに踏んでも激しいピッチをもたらす新興メーカーのEVとは一線を画しています。良い意味でガソリン車的で、中国でもようやく注目され始めた「酔いにくさ」では余裕で合格点を与えられます。

マツダ車としてのアイデンティティを改めて考える

EZ-60は確かに良いクルマですが、一方で「マツダらしさとはなんだろう」を問うクルマでもありました。

エクステリアデザインはSUVにしてはカッコ良く、中国のトレンドを取り入れたコックピットは先進的な印象です。ディスプレイのフォントやUIもEZ-6では安っぽかったですが、EZ-60ではよりマツダのブランドイメージに沿った設計になっています。

一方、細かいところではハンドル盤面のボタンが指紋汚れの目立つ光沢仕上げだったり、ウィンカーレバーを倒しても固定されなかったりと、従来のマツダ車では考えられない要素の連続です。

もちろん消費者の好みの違いはあるものの、ナッパレザーや木目、布地を上手く組み合わせた上質な空間が今のマツダ車の特徴だと思います。それがEZ-60では上位グレードでもとにかく合皮、そして柄にもない256色のイルミネーションをダッシュボードの周りにあしらっています。どれも中国の需要にコストを抑えて応えた結果なのでしょうが、中国から帰国して試乗したCX-60 PHEVの方が居心地は良かったです。

CX-60 PHEVのコックピット。

今後も中国専売EVの投入を加速

充電口はGB/T(DC急速充電)とGB/T(AC普通充電)。

EZ-60は2025年9月の発売初月で3317台、翌月には4565台を販売して滑り出しは好調です。参考までにEZ-6はどんなに多い月でも3000台に達していないので、セダンとSUVの違いがあるとはいえ、EZ-60の質感を高めた内外装や装備が高く評価されているのかもしれません。

マツダと長安汽車の挑戦はこれで終わりません。2026年以降も共同開発モデル第3弾、第4弾の投入を予告しており、中国市場だけでなく、中国国外への輸出でもますますの連携を深めていくとしています。

EZ-6は「マツダ6e」として欧州やオセアニア、東南アジア諸国で続々と発売されているほか、EZ-60も2026年中の欧州投入が期待されています。

2000年代には「マツダ6(日本名:アテンザ)」の投入で中国市場で一躍脚光を浴びましたが、ここ最近はEV戦略の遅れによる販売減少が顕著で、2024年は7年連続マイナスの8万1743台を記録しました。救世主となる現地開発EVを積極的に投入することで、再び中国におけるマツダのプレゼンス強化が期待されます。

取材・文/加藤 ヒロト

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この記事を書いた人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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