三菱自動車にEVのOEM供給契約を締結するなど、日本のEV普及に大きな役割を果たすことが期待されている台湾の「FOXTRON」視察レポートの番外編。日本進出を試みたこともあるバッテリー交換式のEVスクーター「Gogoro」が、台湾にはしっかりと定着していました。
日本でも実証実験が行われた「Gogoro」
今回の「FOXTRON」視察レポート第1弾の記事で、「MIH(Mobility in Harmony)」というEV開発向けのオープンプラットフォーム・コンソーシアムについて言及した。ジャパンモビリティショー2023では、そのMIHコンソーシアムの展示の一角に「Gogoro」のEVスクーターが並び、来場者の注目を集めていたことを記憶している。
実は筆者(正確には在籍する株式会社東京アールアンドデー)は、GogoroのEVスクーターの日本展開に関わってきた経緯がある。EVsmartブログでも以前紹介した(関連記事)ように、石垣島における実証事業がその代表例だ。

2018年、住友商事を中心に石垣島でEVスクーターのレンタル事業「GO SHARE」が立ち上がった(関連記事)。筆者はそれに先立つ2016年頃から、日本での認証業務など技術的な側面で関与していた。当初計画では、EVスクーター100台で事業を始め、順次200台まで拡大する構想だった。ところが実証開始後まもなく、2020年に島を襲った豪雨により多数の車両が冠水する被害が発生し、そのニュースを聞いたときのショックは今も忘れられない。
EVスクーターとバッテリー交換インフラをセットで展開
まず、Gogoroという企業の成り立ちを紹介しておく。Gogoroは2011年に台湾で設立されたバッテリー交換式電動バイクのベンチャーである。2015年にはパナソニックが資本参加し、創業期のバッテリーセルにはパナソニック製の18650が採用されていたと記憶している(現在のセル構成についての最新情報は手元にない)。交換式バッテリーを核に、スクーターとインフラをセットで展開するというユニークなビジネスモデルが、同社の急成長を支える柱になっていく。
冠水被害ののち、石垣島での事業が再開されたと聞いて胸を撫で下ろした。2022年にはEVsmartブログでGogoroの体験レポートが紹介されている。
そして2025年11月、筆者は台湾を視察する機会を得た。最初に訪れた台北市では、街中を走るスクーターの中にGogoroが多数混じっているのが目についた。訪問日は奇しくも、台湾南部を台風が直撃したタイミングで、石垣島での冠水の記憶が脳裏に蘇ったが、悪天候の常態化する地域でもGogoroが軽快に走っているのを目の当たりにし、耐候性と運用の強さに感心した。

翌日以降も、台北の街角のあちこちでカラフルなGogoroの姿を見かけ、バッテリー交換ステーションが点在する様子が確認できた。さらに南部へ移動すると、台風が通過した直後の地域でもGogoroは普段通りに稼働しており、そこにも交換ステーションが整備されていた。交換式バッテリーのネットワークが、天候リスクを抱える台湾でモビリティを支える重要インフラになっていることを、実地で実感した。
台湾で2,700カ所以上のバッテリー交換ステーションを展開
帰国後に公開情報を調べると、台湾国内では、Gogoro Networkが約65万人のライダーを支え、2,700か所以上に設置された合計13,000基を超えるバッテリー交換ステーションを通じて、130万個以上のスマートバッテリーが流通しているという。バッテリー交換は1日あたり40万回以上、累計では6億5,000万回超に達している。さらに、共通のバッテリーパックを、YAMAHAなどを含む55以上の車種が採用しており、車両メーカーを横断した互換性が、普及の強力な推進力になっていることがわかる。

Gogoro Network公式サイトから引用。
台湾でのGogoroは、自社のEVスクーター販売に加え、バッテリーパックのリースや、石垣島でも実施されたEVスクーターのシェアリングサービスを広く提供している。シェアリング料金は24時間で399台湾ドル(約2,400円)と手頃で、観光や短期利用のニーズに適した価格設定だ。街中に高密度で配置された交換ステーションと、アプリでの管理体験の滑らかさが、レンタルユーザーの不安を取り除き、二輪移動を日常的な選択肢にしている。
石垣島でのシェアサービスは残念ながら終了
日本でも、二輪の交換式バッテリーの潮流は進みつつある。オートバイメーカー4社とENEOSなどが共同で、交換式バッテリーサービス「ガチャコ」を立ち上げ、現在は東京・埼玉・大阪で約50か所前後のステーションが運用されている。最近ではEVスクーターだけでなく、超小型EVなどにも適用が広がっており、日本国内でもバッテリーの共通化・標準化が現実解として動き始めた。インフラの拡充と、運用ノウハウの蓄積が進めば、離島や観光地、都市近接エリアでの導入がさらに加速するだろう。
一方で、石垣島の「GO SHARE」については残念な知らせが入ってきた。この記事を執筆中に、2025年11月30日をもってサービスを終了するとの告知があったのだ。理由の一つとして、老朽化したスワップステーションの更新課題が挙げられている。島嶼部は塩害や台風による外装・機器への負荷が大きく、交換式インフラの保守・更新に相応の投資が必要になる。導入当初からの設備を長期間使い続けると、信頼性や安全性の観点で更新のハードルが上がるのは避けられない。
石垣島は年間で約150万人の観光客が訪れ、海外からの訪日客も多い観光地だ。移動の足として環境負荷の少ないEVスクーターを活用できる価値は大きい。台風や豪雨など厳しい気象条件を前提に、ステーションの耐候設計や冗長化、予備電源・通信の確保、迅速な点検体制を整えることが、持続可能な運用の鍵になる。自治体や民間事業者、観光業界が連携し、インフラ更新の費用負担やデータに基づく需要予測を共有すれば、収益性と利便性を両立した再構築も不可能ではないはずだ。
台湾で見たGogoroの成熟したエコシステムは、単なる車両販売ではなく、街全体のモビリティを編み直す社会的な仕組みとして機能していた。日本でも同様のモデルを実現するには、共通バッテリー規格の普及、交換ステーションの高信頼化、そして観光・地域交通との連携が不可欠だ。石垣島の「GO SHARE」がいったん幕を下ろすのは惜しいが、教訓を踏まえた形での再挑戦に期待したい。訪日客の多い島ならではの特性を生かし、EVスクーターの軽快さとバッテリー交換の利便性を、再び地域の強みとして根付かせてほしいと思う。
取材・文/福田 雅敏






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