FCVと1カ月生活記【第3回】水素ステーションの現状

自動車評論家の塩見智さんがホンダ『クラリティFUEL CELL』と1カ月をともにした生活レポート集中連載。第3回は実際に使ってみて感じた水素ステーションの現状について紹介します。

FCVと1カ月生活記【第3回】水素ステーションの現状

水素ステーションは、まだ少ない。

イワタニ水素ステーション芝公園。

クラリティ生活は続く。前回の遠出では、水素ステーション数の絶対的な少なさからくるFCVの特殊性を実感した。水素ステーションの数に比べれば、充電スポットの数は急速充電可能なスポットに限ってもそこら中にあるという感覚だ。我々は街じゅうにあるガソリンスタンドのおかげで給油に関する心配はなかった。燃費の悪いクルマに対して経済的な不満は感じても、給油のしにくさについての不安は感じなかった(人によるが)。

それが近頃では、政策や技術革新によるICE全体の燃費向上のため、過疎地を中心にガソリンスタンドが減りつつある。入れ替わるように徐々にではあるものの増えつつあるのがEVと充電スポットだ。そこへもうひとつのソリューションとして名乗りを上げたのがFCVと水素ステーションだが……。

かろうじてガス欠ならぬ、電欠ならぬ、水素欠を免れて遠出から帰還した前回(第2回参照)。高速道路上にひとつも水素ステーションがないこと、高速道路を降りたとしても近くにあるとは限らないこと、また夜間営業しているステーションが極端に少ない。FCVを日常の足にする場合、これらをよくよく頭に入れておく必要があることを痛感した。

例えば、近所にあって複数回使った練馬水素ステーションは、定休日が火曜、水曜と週2日あり、営業時間が13:00~17:00と短い。次に近いENEOS杉並ステーションは日曜が定休日で、営業時間は9:30~17:00。遠出に備えて当日早朝に充填することも、前夜のうちに充填することもできないのだ。そして先ほどウェブサイトを見ると練馬水素ステーションには「9/23(水)~10/14(水)定期点検で休業します」といった案内が出ていた。こうした点検や不具合によって営業していない確率が結構あるため、行く前に最新の店舗情報を調べる必要がある。

定期点検で休業中のENEOS練馬水素ステーション。

3種類の水素ステーション。

水素ステーションには大きく分けて3種類ある。オンサイト型とオフサイト型、それに移動型。オンサイトとはステーション敷地内で都市ガスやLPガスから水素を製造する方式で、オフサイト型とは他の場所で製造した圧縮水素もしくは液体水素を運んでくる方式。移動式とはオフサイト方式の一種で、本来ステーションに固定されている圧縮機、プレクーラー(水素をマイナス40℃に冷やす)、ディスペンサーなどがトラックに搭載され、移動が可能なステーションだ。

移動型の清流パワーエナジー岐南水素ステーション。

オフサイトかオンサイトかは直接ユーザーには関係ないが、移動式ステーションで入れると単価がやや高かった印象がある。これまでに充填したステーションで最も単価が高かったのが移動式(といっても店舗として営業しているので通常は動かさないで営業している)の清流パワーエナジー土岐水素ステーションの1kg1500円。最も安かったのがイワタニ水素ステーション芝公園(オフサイト)の1kg 1100円。ガソリンよりは大きな開きがある。一般的には1kg 1210円のステーションが多い。

ちなみに練馬区に土地勘がある人にはおなじみの東京ガスの巨大ガスタンク。正確にはガスタンクというのは港のコンビナートにあるもっと巨大なものを指し、街なかに点在する丸いのはガスホルダーと呼ぶようだが、それはともかく練馬水素ステーションは通称「練馬ガスタンク」の敷地内にあって、東京ガスが営業している。ということは当然タンク内のLNGから水素を製造しているのかと思いきや、実はオフサイト型で、よそから運んできているという。

FCVユーザーは水素ステーションで充填する際、ディスペンサー近くにクルマを寄せて店員にお願いする(セルフ方式はない)。ほぼ空の状態から満タンにするのに要するのは5分前後。ここは同じ電気自動車でもBEVに対して優れたポイントだ。運よくステーションが見つかり、さらに営業していればの話だが。ただし、先客が充填中だった場合、自分の番がきてもすぐに充填を始められるわけではない。ディスペンサーに十分な圧力がかかるようになるまで5〜10分(ステーションによる)待つ必要がある。

次回はクラリティFCそのものに焦点を当ててFCV生活をまとめたい。

【短期集中連載インデックス(予定)】
第1回●静かなる燃料電池まつりが始まった(2020年9月8日)
第2回●岐阜=東京往復レポート(2020年9月20日)
第3回●水素ステーションの現状
第4回●まとめ

(取材・文/塩見 智)

この記事のコメント(新着順)11件

  1. もともと都市ガスはほぼほぼ水素だったので、もう一度ピユア水素に戻せば、あとコンプレッサーがあればEV並みの自宅充填ができるかな?と思ったけど、プレクーラーが要るのか。700気圧と言わず、200気圧くらいならなんとかなる気もするが、それでは航続距離は旧型リーフ並。いろいろ法規の壁もありそう。やはりBEVですね。

    1. 阿竹様、コメントありがとうございます。

      >都市ガスはほぼほぼ水素

      都市ガスの主成分は天然ガスですね、とはいえ水素成分が(炭素と結合した形ではあるが)かなり多いというのは同意です。水素のまま家庭やスタンドに、都市ガス網を通じて送るというのは研究はされているようで、ちらほら情報を拝見しますが、水素の場合ステンレスのガス管はともかく、継手とかから盛大に漏れてしまうので多分ガス管をやり直さないといけなく、なかなか配送は難しいでしょう。今のように、街にミニコンビナート的なものを作ってそこでLNGを蓄積、そこで水素を生成して供給するしかないですが、そもそも都市ガスのようなものが配管されているのは、電気と違って国土の6%くらい。それ以外の地域はプロパンガスのボンベによるガス供給なので、まず原料のLNG/LPGをどう配送するかから考えないと厳しいように思います。

      実際に700気圧を200気圧にすると、その圧力の差だけ少ししか充填できないと仮定して、新型ミライで航続距離は
      https://www.toyota.com/mirai/
      647 x 200 / 700 = 185km
      2017年式日産リーフの航続距離は364kmですから、200気圧ではおおよそ2017年式の半分くらい、旧型と同じくらいになるんですね。

    2. ごめんなさい、ほぼほぼ水素といったのは天然ガス化以前の石炭ガス時代のはなしでした。一酸化炭素が三分の一くらい含まれていたのでガス自殺出来てた時代でした。都市ガスのピユア水素化は10気圧以下では何の問題もないというレポートも実験もあります。
      思ったんですが、プレクーラー無しで充填しても、暖まった分だけ後で冷ませば良いわけでevの普通充電みたいに家庭で200気圧普通充填というのが有っても良い気がします。

    3. 阿竹様、お教えいただきありがとうございます。以前はそういうことになっていたのですね。勉強になりました。石炭のガスそのまんまですね(汗

      プレクーラーなしだとタンクが溶けちゃうってのが問題だったように思います。確かタンクはCFRPで85℃(100℃で溶ける)が最大温度だったと思うので、
      http://www.valqua.co.jp/wp-content/uploads/pdf/technical/39j/vtn039-06.pdf
      充填速度を落とす必要が出てきそうです。
      https://www.jstage.jst.go.jp/article/hpi/45/2/45_2_60/_pdf
      ここに70MPaと35MPaの比較が出ていますが、Fig.5と6を見比べてみる限り300秒=5分かけて充填するなら何とか35MPaでもできそう。実際にはそれで満タンになるまでにはもっと時間がかかるでしょうから7分とか9分とかでしょうか。
      20MPaだと10分超えちゃって、電気自動車との差別化が難しくなりそう??

  2.  売電終了後の太陽光パネルの電気を利用して家庭内で水素を精製、利用出来るようにならないとなかなか普及は難しいと思います。

    水素ステーションへ行っての充填では在来のガソリン車と何ら変わりありません。
    BEVの利点は家で充電が出来る事です、遠出の時には急速充電にお世話になりますが私の場合はほとんど家充電で賄えています。

    法律の改定や技術革新が前提となりますが、家庭で水素を作って車や発電そしてお湯まで出来れば電柱や電線・ガス配管設備も要らなくなる訳ですから、光熱費削減に大いに役立つと思います。

  3. 水素ステーションを増えないと燃料電池車は普及しないでしょうが、普及前に水素ステーションを増やしても、えらく稼働率の悪いものになってしまうというジレンマに陥ってしまいます。その点、BEVの場合は普及に応じて充電器を増やして行けるという点で有利でしょうね。

  4. リーフとアイミーブを所有しており,長年使用していますが実用上困ったことはありませんでした。
    自宅には200Vの充電コンセントが2基ありますし,出先ではいたるところに急速充電器が設置されているので長距離移動でも問題ありません。
    FCVにはとても興味があり,県内第1号を目指そうかと本気で考えたこともありましたが,県内の水素充填所は1箇所だけ。
    おまけにそこに行くまで1時間近く掛かります。
    時間を掛けて充填に行って,帰宅したら結構水素が減っていたではね。
    知り合いの県内の石油元売り業者の責任者に尋ねてみましたが,EVの急速充電所は行政とのお付き合いで作ってみたものの,水素充填所はイニシャルコストが数億円と高くとても元が取れないので,行政から頼まれても設置するのは無理だと言ってました。
    FCVは決まった区間を移動する運送トラックなどには可能性があるかもしれませんが,個人が所有する乗用車としては無理があるかなと思います。
    LPGタクシーにしても,ガススタンドの減少で田舎ではどんどんプリウスなどのハイブリッドカーに転換していますので,国策として水素スタンドを大幅に増やさない限り将来性は厳しいように思います。
    そして水素の燃費を考えると,EVよりもアドバンスが無さそうなので,庶民にとっても購入意欲を削がれるのではないでしょうか。
    私がEVを購入した主な動機はランニングコストでしたが,深夜電力で充電するとガソリンや恐らく水素と比較してもかなり安い燃費(電費)で走れると思います。

  5. 燃料電池は素晴らしいけど普及しないとインフラも普及しない。
    お金持ちのミライさんが先行投資して燃料電池の発展と普及に貢献宜しくお願いします🤲

  6. 一回の充填で500Km以上走れるミライやクラリティの方がEVよりも長距離ドライブに向いている。テスラのXやSならともかく他のEVでドライブしたく無い。ミライで草津温泉や那須温泉にステーションなんか気にしないで行ける。都内か名古屋地区に住んでれば水素ステーションに困る事は無い。
    また高速のインター近くにもステーションは有るし。所沢、高崎、佐野藤岡、甲府昭和等。
    このレポートはFCVを貶すだけのレポート。
    こんなレポートをしても都市部での所有者は増えていくだろう。

    1. 水素を自宅で充填出来ないところはEVに決定的に劣る点でしょう。が、記事には書いてないですね。

    2. でも遠方にはいけないでしょ!? テスラ乗ってますが日帰り900kmでドライブしてきました。テスラスーパーチャージャーで15分充電(トイレ休憩混み)を3回。日本海側のPAでトイレ&食事休憩にチャデモで30分。一度も30%以下にならないで楽々ドライブ。
      現段階で水素を作る電気量や運ぶトラックを考えると全然エコではないし結局トヨタと政治のからみで完全にEVガラパゴスになってしまった日本。

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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