12月に予定されている発売を前にメディアを対象に最終プロトタイプ(ナンバープレートが付いていないだけで市販モデルと同じ)の試乗会が富士スピードウェイショートコースで開かれた。世界初の量産FCVとしてかなり実験的だった初代とは打って変わって、新型はFCVである点のみならず、スタイリングの良さや走りの気持ちよさを理由に買われてもおかしくないクルマとなっていた。あとは水素インフラの整備待ちという印象だ。
燃費の向上で航続距離も増加
2代目ミライは、クラウンなどが用いるGA-Lプラットフォームに、アップデートされたTFCS(トヨタ燃料電池システム)を搭載する。初代が大小2個の高圧水素タンクを車体後部に搭載したのに対し、2代目はセンタートンネルにもう1個追加し、後部の2個と合わせて計3個を搭載する。これによって水素搭載量は4.6kgから5.6kgへと増えた。これに加え、リチウムイオンバッテリーの採用や、システム制御の最適化などによって約10%燃費が向上したため、航続距離はWLTCモードで初代比3割増しの約850kmとなった。実質的航続距離は600km前後か。
全長4975mm、全幅1885mm、全高1470mm、ホイールベース2920mmと、初代に比べ85mm長く、70mm幅広く、65mm低い、堂々たるサイズとなった。クラウンに対して65mm長く、80mm幅広い。ホイールベースは共通。初代がプリウスを膨らませたようなフォルムだったのに対し、低く構えたロングノーズのセダンのフォルムだ。
チーフエンジニアの田中義和氏は「FCVだから選ばれるのではなく、カッコいいクルマだから選ばれ、それがたまたまFCVだったというのを目指したい」と意気込みを語る。実際、より未来感を感じるのは初代かもしれないが、2代目は“普通に”カッコいい。まるで直6エンジンが縦置きされていそうなコンサバティブな姿だ。
後輪駆動ならではの快適な走り
試乗会は富士スピードウェイのショートコースで行われた。左右シートを隔てるように水素タンクが鎮座するため、それを覆う格好のセンターコンソールが太く、大きく盛り上がっている。そのため前席は広々した印象ではなく囲まれ感が強い。ステアリングホイール奥の液晶メーターと地続きで地図を表示するセンターディスプレイが配置される。ATシフターはプリウスと同じような動きをするタイプ。ステアリングホイール、シフター、ペダル類のレイアウトは適切で、視界も悪くない。
アクセルペダルを踏むと、当たり前だが、音もなくスルスルと発進する。モーターの最大トルクは300Nmと従来の335Nmから減っているものの、最高出力は182psと従来の154psから向上した(FCスタックの最高出力は174ps)。車両のサイズアップに伴い車重は1930kgと初代の1850kgから80kg増加したが、体感上の加速力は十分以上。スポーツモードを選べばアクセルレスポンスが向上する。
速度を上げ、コーナーをいくつか通過してみて、ハンドリングの良さに気づく。ステアリング操作に対してドライバーのイメージ通りにクルマの向きが変わる。速度とステアリング操作なりの自然なロールに終始し、飛ばしても不安がない。飛ばさなければひたすらに快適だ。コーナーの脱出時に後輪駆動ならではの、リアが膨らむような挙動を感じられるのがうれしい。
顔なじみのテストドライバーが「走りを仕上げるのは難しくなかった。うちとしては珍しく前後重量配分が50対50と理想的な素性なので」と冗談めかして教えてくれた。実際、ミライのハンドリングには、欧州プレミアムブランドのFRサルーンのそれと同じ雰囲気がある。欧州車に似ていればOKというつもりはないが、長年日本車の手本だったのは間違いない。50対50という素性のよさに加え、必要に応じてリア内輪にブレーキをかけるアクティブコーナリングアシスト制御のおかげもあって、旋回能力は高い。
TNGA各モデルが採用するダンパーが奏功しているのだろう、路面のザラつきなどに起因する微小な入力のいなし方がうまい。タイヤサイズは235/55R19が標準で、245/45ZR20がオプション設定される。どちらもサーキットの縁石に乗り上げるような走りをしてもバタつくようなことはなかった。車体が大きいので見た目のバランスが取れているのは20インチだ。
全域で静かだが、わざわざアクセル操作に連動して車内のスピーカーからサウンドを出すアクティブ・サウンド・コントロールが備わる。ドライビングモードがノーマルかスポーツかでも異なるが、いずれにしてもその音は独特。エンジン音というよりジェット機のような音に聞こえた。必要なければオフにできるし、ギミックとしてはアリだと思うが、センターパネル付近の1カ所から聞こえてくるのでやや臨場感に欠ける。聞かせ方にもうひと工夫ほしい。
走行シーンを動画で紹介
※少し聞こえるエンジン音は、引っ張っている撮影車の音です。
官公庁も導入しやすい戦略的価格設定
一般ユーザーに純粋に魅力を感じて買ってもらうことを目指してトヨタが開発した2代目ミライ。「初代(約740万円※ただし補助金が約200万円出る)より安くします」と関係者が漏らすように、戦略的な価格となるようだ。初代はカーナビが別料金でこの価格だったが、新型では標準装備したうえで初代より安くするという。この内容で約500万円ということであれば、個人ユーザーも企業も購入しやすいのではないか。官公庁にしても、次世代車両ということもあり、2000万円のセンチュリーよりは叩かれにくいはずだ。
ただし社用車は官公庁向けということを踏まえてパッケージングを確かめてみると、後席の広さがやや不足していると言わざるを得ない。膝前、頭上ともに決して落第ではないが、十分とまでは言えない。リアドアの開口面積が小さく、乗降性が良くない。いざ座ってしまえばシートの掛け心地は良いし、足も自然なかたちで投げ出せる。FCVには水素タンクがあり、後輪駆動を採用したことで車体後部にモーターを配置する必要がある。ギリギリのところまでパッケージングを煮詰めた結果だとは思う。
全長が長いことが絶対に許されないクルマではないはずだ。ホイールベースをもっと伸ばして後席の空間を稼げばよいのではないか? この点について、田中チーフエンジニアに質問すると、「ホイールベースを伸ばすことは可能で、検討はしましたが、スタイリングのバランスや最小回転半径などを考慮し、最終的にこのホイールベースに決まり、おのずと後席もこの程度に落ち着きました」。ホイールベースをストレッチしたミライLWB(ロングホイールベース)があってもよいのではないか。
初代同様、外部給電機能をもつ。直流を交流に変換する外部充電器を介して給電するDC外部給電と、ハイブリッド車などと同じAC給電の両方が備わる。DC外部給電は最大9kWの電力を給電可能。容量は75kWh(一般家庭の1週間分)。
現時点で最高のFCV
ミライは現時点で最高のFCVだと思う。ただしユーザーが痛痒なく水素を入手できなければ、クルマが良くてもどうにもならない。一般社団法人次世代自動車振興センターによれば、20年7月時点で水素ステーションの数は135カ所。首都圏、中京圏、関西圏、北部九州圏の四大都市圏とそれらを結ぶ幹線沿いを中心に整備が進められている。それらの圏域を外れると、水素ステーションを見つけるのはなかなか難しい。1カ所もない県もある。高速道路上には1カ所もない。事前に予約が必要なステーションもある。夜間営業しているステーションもほとんどない。ディスペンサーの不具合で休業するステーションもままある。あるいは本来の充填能力を発揮できないまま営業を続けるステーションもある。これが水素ステーションの実態だ。
FCVが増えなければステーションは増えないし、ステーションが増えなければFCVは増えない。この「ニワトリが先かタマゴが先か」に対し、トヨタは自動車メーカーとしてFCVを良くして増やそうとした。これに応えるべきは水素供給側だ。実際には国が政策によって増やすしかない。FCVを増やし、ステーションを増やすことで両者のコストを下げ(クルマ側に対してもいつまでも1台200万円の補助を出せるわけがない)、水素消費を拡大し、水素エネルギーの社会受容性を高めていくことは、菅首相が所信表明で「脱炭素社会の実現を目指す」と宣言したことからもわかる通り、国家戦略だ。
ガソリン並みの手軽さとコストで水素が手に入るようになれば、新型ミライは充電設備を自宅に準備できずBEVを導入できない集合住宅在住者にとっての救世主となり得る。テスラがEVとして大成功を収めた最大の要因はクルマと一緒にスーパーチャージャーを開発し、地道に各地に設置していったことだと思う。ミライが売れるかどうかの鍵を握るのも水素ステーションが増えるかどうかだと思う。
(文/塩見 智 写真/塩見 智、トヨタ自動車)
FCV普及の問題点は先ず水素ステーションの拡充ですが、政府は脱炭素社会を宣言していますが、このままでは国際社会から遅れてしまいそうです。
水素の扱いの難易度が高いのは分かりますが自動車用ガソリンも危険度は有る筈です。
水素社会実現の為に水素ステーション設置の規制緩和の流れは有るようですが
一気に加速っセル必要が有ります。
先ずは水素ステーション設置のハードルを下げる事。
高速道路PAに水素ステーション設置を認可する事。
これは新たに水素ステーション設置(セルフ可能)の為のPAを
作っても良いと思います。
各高速の300キロ毎位に設置すれば一気に全国普及が出来ると思います。
この位しなければ脱炭素なんて念仏みたいな物に終わりますよ。
安心してFCVに乗れる日が来て欲しいです。
新しいMIRAI、かっこいいと思います。すぐにでも購入したいくらいです。
しかし、水素ステーションが東北地方には福島県いわきに1箇所しかありません。
仙台にすらないのです。我が岩手県に整備されるまでまだ何年もかかるでしょう。
それまで買うごとが出来ません。
都会がうらやましいです。
乗り心地はよかったでしょうか? 水素にも頑張ってほしいものです
おそらく 現在のCNG充填所151か所を 2021ぐらいには 水素充填所が上回る可能性があって 水素の価格も試算では近い将来かなり下がるらしいのですが 高圧ガス取り締法 や 充填所の超高圧圧縮ポンプの電力やメンテに 知恵が必要ではないかと思われます。圧力的には CNG 20Mps 水素 70Mps~80Mps 最近圧力が上がったような・・・。 (タイヤの空気圧が 2.3Kps~3.0Kpsぐらいであることを考えると)とてつもなく高圧で細心の注意が必要 ということが頭をよぎる 水素の場合出るのは水だけというエコさはあっても・・・。 近い将来 個人的には 現状の水素価格 充填所数UP 水素自動車の出物の中古車がない限り NGV→水素自動車ではなく NGV→電気自動車 に乗り換える可能性が高いだろう みんながどんどん水素自動車に乗って 良い*”出物”が出てくることを期待したい *ボンベの使用期限は現在15年のはずでそれ以上の使用は認められていない
現行のミライやクラリティには正直全く食指が動かなかったのですが、新型ミライは東京モーターショウで披露されたときにセダン好きの私には刺さりました。
現在所有しているのがGS450hとFiat500で、しかもGSは先日生産中止となってしまったので、GSの乗換候補に新型ミライは急浮上です。都内在住なので水素充填にはさほど困らないと思ってます。水素の値段をもう少し下げて貰えるとありがたいですね。
なにせ今のGSはハイブリッドなので燃料代は10円/km以下です。現行ミライで通勤している同僚は燃料代についてはエコじゃないって言ってまし、ネット上の記事等をみると15円/km位みたいですね。
再生エネルギー比率が更に高まり必要電力すべてが賄える社会になると必然的に電力が余るので、過剰電力の吸収先として水素も重要な位置付けをされているようです。以下リンク先はそこら辺を分かりやすく解説しているので参考に。
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0170.html
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0180.html
需要を超えて余った電気(今の日本では5月GW期間中の太陽光発電とか)を貯める為、現在は揚水発電所でを水組み上げて夜間に発電していますが、その余った電力を将来水素に変換するのかバッテリーに貯蔵するのか、はてまた既存のエンジンが使える合成燃料になるのかはわからないので、将来何が主流になっても良い様に補助金を政府は用意し、自動車メーカーは多額の開発費を掛けて燃料電池車を開発していると理解しています。
自宅で充電できるEVに対して外部で水素補給せざるを得ないのはデメリットかもしれませんが、都市部マンション住まいで自宅充電出来ないならば燃料電池車もありでしょう。そもそもクルマとして魅力があれば売れるんじゃないでしょうか。
メーオ様、コメントありがとうございます。
>都市部マンション住まいで自宅充電出来ないならば燃料電池車もありでしょう。そもそもクルマとして魅力があれば売れる
おっしゃる通りですね!車は気に入るのが一番だと思います。
有益なリンクをありがとうございます。欧州勢が水素でなんとか巻き返しを図ろうとする姿が見えてきましたね。
ヨーロッパのような大陸でこそトラックに最適だと思いませんか。
水素はトラック、バス用のシステムだと感じるし
実際に日野と組んでそっち方面に進出してる。
特許料やパテント等で収益をあげようとしているのではないか?
と思っています。
だとしたらホンダさんがかわいそうですが、
トラック製造会社は他にもありますからシステム売却益位は出るかな?
新型はランクが上がってほぼ同じ価格。此れは良いね。今週末にディーラーで詳しい情報が得られる。
予約も可能。都内に住んでればステーションにも困らない。
予約して来るつもり。
ますますガラパゴス化していくトヨタ。
水素という取り扱いにくい燃料で、トルクもパワーも電気自動車に及ばない。
航続距離はほぼ互角。
早く間違いを認めて電気自動車に舵を切るべき。
20年後には自動車会社で世界10位以内にトヨタは居ないかも。
Tesla1976様、コメントありがとうございます!
>早く間違い
確かに燃料電池車はユーザーメリットがほとんどないという点はありますよね。一つあるとすれば、石油中心のエネルギーインフラが脆弱であるという考え方は、高い見地から見るとありだと思います。これが水素社会なのだと思います。もちろんコストが高く、成功するかどうか分からない仕組みではあり、私見では負けそうだな、、という印象が強いのですが、今後世界はどうなるか分かりません。国レベルでは、石油の取引が簡単にできなくなるところまで想定して、リスクマネジメントをしていることもあると思います。その場合、水素は石油に代わって輸入可能なエネルギーの一つであり(その前にLNGという超強力な競合がいるわけですが)、2軍ではあるものの(失礼)、チャンスはあるというところではないでしょうか。
EVをトヨタが大量生産して世界中に普及してしまったら世界中の電力事情が逼迫してしまいますね。
核融合発電などの次世代脱炭素エネルギー技術が確立しないとEVは未だ早いと思います。
マスコミや一部の人が言っている無責任な批評は薄っぺらな内容だと思いますね。
ボブたなか 様、コメントありがとうございます。
実はそうなることはないと思います。
https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-and-fossil-fuel-power-station/
こちらで、仮の話ですが、日本ですべての乗用車を電気自動車に、軽自動車も含めて変更した場合、必要な発電電力量は10%増えることが分かりました。簡単な計算なので、ぜひ「無責任な批評」を信じる前に、ご自身の目でご確認ください。
そして、その変化は10年とかの短いスパンでは起こりません。20年、30年かけて、この増加量をカバーすればよいのです。また、当然ですが移行するに従い、ガソリンは不要になりますので、その分原油輸入は減少し、日本から出ていくお金は少なくなります。
5人乗りになると聞いていたので、後席を調べてみると、大きなセンタートンネルがあって、ビックリしました。
記事内の写真で黄色筒みたいなのがあるんですね。