短時間試乗でもわかる各メーカーごとの個性
はじめまして。この度、EVsmartブログのライターとして活動することになりました齊藤優太です。電気自動車ならではの加速力や静粛性の高さに魅了されEVの虜になりました。
さて近年、続々と上陸している輸入車EV。各メーカーごとにどのような個性があるのでしょうか。今回は、2020年12月に行われた『アウディ e-tron Sportback シークレットテストドライブ』に参加した筆者が、EVを乗り比べて感じたことをレポートします。比較したのは、メルセデス・ベンツ『EQC』、アウディ『e-tron Sportback 55 quattro』、テスラ『モデルX』です。
2020年12月に実施された『アウディe-tron Sportback シークレットテストドライブ』は、Audi Japan Sales が開催、抽選によって選ばれた複数名が参加する試乗会です。試しに申し込んでみたら運良く当選。貴重な3車種一気乗り比べの機会を得ることができました。
コロナ禍ということもあり、参加人数が限られ、1枠の参加者は3組6名までとなっていました。試乗会では、テストドライブ後すぐに車内の消毒や換気をする都合上、実際に車に乗っている時間が1台あたり数分と非常にタイトなスケジュールです。
しかし、クローズドコースでのテストであったため、市街地や公道などではできない急加速(全開加速)や急ブレーキのテストなどをテストできました。残念ながら、航続距離や充電時間などの使い勝手を試すことはできなかったものの、わずか数分の試乗の中で加速・減速、乗り心地などを体感。各メーカーの個性を十分に体感できる試乗でした。
では、筆者が乗り比べた各車のインプレッションをお届けします。
しっとりとした乗り味が特徴のメルセデス・ベンツ『EQC』
メルセデス・ベンツ EQCは、クロスオーバーSUVの「GLC」をベースにした電気自動車です。エクステリアは、ボンネット先端部に沿うように光る横一文字ライト、リアにも左右を貫くリアコンビライトが与えられ、ベースのGLCとはひと味違った『EQ』シリーズらしいスタイリングとなっています。
ドアを開け車内を見渡すと、近年のメルセデス・ベンツと共通の横長メーターやセンターコンソールに集約されたコントロールユニットなどが並んでいるため、メルセデス・ベンツのユーザーであれば違和感を感じることがない見慣れた造形といえるでしょう。
適度にホールド性があるシートに座り走り出すと、重たいものが引っかかりなく滑らかに動き出すようなフィーリングです。”重厚感”という言葉がぴったりな走行感覚でした。徐々に速度を上げていっても、しっとりとした乗り心地が持続し、高級車らしい乗り味になっています。エンジン車から乗り換えても違和感なく乗れるといった点がEQCの魅力といえるでしょう。
停止状態からアクセルをいっぱいに踏み込み全開加速をしてみると、フワッと鼻先が浮かび上がるような感覚とともに力強い加速をします。鼻先が浮かび上がるような感覚があるだけで、フロントタイヤのグリップやステアリングに対するコントロール性能は失われていません。短いコースだったため、すぐにブレーキ操作に移り、強めのブレーキングをすると、しっかりと減速します。
住宅街や渋滞時などを想定して、加速と減速を繰り返すと、ペダル操作に対して車が素直に反応。扱いやすい印象ではありましたが、前後の揺れであるピッチングが激しいです。アクセルとブレーキを頻繁に踏み変える運転をすると、荒れた海を航海してるかのような乗り心地になります。同乗者がいたら酔ってしまうほどピッチングです。
メルセデス・ベンツ EQCは、高級車らしい柔らかなしっとりとした乗り心地ですが、丁寧なペダル操作が必要といえるでしょう。
【試乗車スペック】メルセデス・ベンツ『EQC 400 4MATIC』
全長:4,770mm
全幅:1,885mm
全高:1,625mm
最高出力:300kW
最大トルク:765N・m
バッテリー容量:80kWh
完成度が高いナチュラルな乗り味〜アウディ『e-tron Sportback』
アウディ e-tron Sportbackは、2020年9月に販売を開始したミドルサイズの電気自動車SUVです。メーカーではミドルサイズと表現しているものの、寸法は全長4,900mm、全幅1,935mm、全高1,615mmとかなり大きく、狭い道路では気をつかう大きさです。
エクステリアは、アウディのSUVファミリー『Q』シリーズ同様に、8角形シングルフレームグリルです。エンジン車では、グリルの内側がラジエーターやエンジンを冷やすために網目状になっていますが、e-tron Sportbackでは一部分を除きグレーのパネル状になっています。また、4本スリットのデイライトや一文字に伸びるテールライト左右のスリットが特徴的です。
クーペライクな電気自動車SUVのe-tron Sportbackの車内は、水平基調のダッシュボード、ステアリングと並ぶように配置されたタッチパネル式のナビゲーションモニター、ナビモニターの下にはタッチパネル式のコントロールモニターが配置されています。また、運転席の正面には「バーチャルコックピット」、ダッシュボード左右のドアパネルには「バーチャルエクステリアミラー」のモニターが並びます。
モニターが多いインテリアは、先進的に見えますが、モニターの位置が低く視線移動が多くなるといった点がデメリットです。特に、バーチャルエクステリアミラーのモニターは、従来のミラーの位置よりも低い場所にあるため、後方確認をする視線移動には慣れるまでに時間がかかるでしょう。
座面にゆとりがあり、ほどよい高反発のシートに座り、発進準備をしてブレーキを離すと、ほぼ動きません。ごくわずかに動いてはいるものの、AT車の”クリープ現象”ほどスルスルと走り出すことがないため、走らせるためのアクセル操作が必要です。重さがあるアクセルを慎重に踏み足すと5メートルほどある巨体がスムーズに動きます。走り出しのアクセル操作以外は、エンジン車との違和感はなくナチュラルな操作感覚です。
停止状態からアクセルをいっぱいに踏み込み、全開加速をすると、車そのものが押し出されたかのような加速をします。若干フロントが浮く仕草を見せるものの、フロントタイヤのグリップが失われるということがありません。コースの長さの都合で、すぐにブレーキングに移るとフロントがわずかに沈み込みながら減速します。
住宅街や渋滞時などを想定して、加速と減速を繰り返してみると、前後の揺れであるピッチングは最小限に抑えられています。また、コーナリング時の遠心力で起こるロールも抑えられていました。ピッチングやロールはあるものの、同乗者が酔ってしまうほどではありません。
アウディ e-tron Sportbackは、足まわりがしっかりと踏ん張る乗り心地です。走りの面では上質でスポーティーな印象を受けます。しかし、バーチャルエクステリアミラーを含むモニター類の位置が低めであるため、視線の移動が多く”モニター慣れ”が必要です。
【試乗車スペック】アウディ『e-tron Sportback 55 quattro S line』
全長:4,900mm
全幅:1,935mm
全高:1,615mm
最高出力:265kW(ブースト時:300kW)
最大トルク:664N・m
バッテリー容量:95kWh
特徴的なドア開閉方式を持つシンプルで機能的な『テスラ モデルX』
電気自動車のパイオニアといえば『テスラ』。テスラのラインナップの中でも、特徴的なドア開閉をするモデルがSUVの『モデルX』です。今年になってアップデート(普通のメーカーで言うならモデルチェンジ)されましたが、試乗したのは以前のモデルです。
一般的な車にあるドアノブがなく、ドアスイッチを押すことでドアが開く機構になっています。ドアの開き方は、運転席と助手席が横開きのヒンジドアで、後席が翼を広げたハヤブサのように上方向に開く『ファルコンウィングドア』です。
空気抵抗を受けにくい流麗なスタイルのSUVであるモデルXは、全長5メートル超、全幅2メートル超の堂々としたボディサイズ。しかし、滑らかな弧を描くルーフラインと短めの前後オーバーハングによって、大きさを感じにくいスタイリングになっています。また、シャープで切れ長なライトまわりのデザイン、ドアスイッチやミラー部などにあしらわれたクロームメッキパーツにより上品な外観に仕上がっているのが特徴です。
ドアを開け車内を見ると、大型の縦長モニターが目に入ります。室内をよく見ると、落ち着きと上質さがあるダッシュボードまわりのインテリアパネルや随所にあしらわれたアルミ調パーツによって、シンプルでありながらエレガントです。
大型のモニターは、視界の妨げにならないようダッシュボードよりも低い位置に配置され、若干ドライバー側に傾けられています。また、大型モニターの明るさが夜間のドライブに支障をきたすのではないかという心配がありましたが、装着位置が低いため、気になることがありません。
現行モデルは大型モニターが横型になったり、スクエアなステアリングを採用するなど、インテリアが大幅にアップデートしています。
ソファのような座り心地のシートに身を委ねて走り出すと、ボディの大きさや車両重量を感じないほど軽快。アクセル操作に対する瞬発力は、電気自動車ならではの走行感覚です。
今回試乗したのは0-100km/h加速が2秒台を誇る『パフォーマンス』です。全開加速をしてみると、シートバックに身体を押し付けられるほど強力な加速をします。しかし、全開加速をするとステアリングのインフォメーションが希薄になり、フロントタイヤがグリップしているか、コントロール性が担保されているか不安になりました。
実際は、加速時も車両のコントロールができます。よって、さほど心配することではありませんが、ドライバーへのインフォメーションであるステアリングフィールは、運転の安心感に繋がる部分であるため、今後の改良に期待したいところです。
全開で加速した後にブレーキングをしてみると、必要にして十分な減速をしてくれます。また、住宅街や渋滞時などを想定して、加速と減速を繰り返してみると、ピッチングやロールはするものの、同乗者が酔ってしまうほどではありません。
テスラ モデルXは、鋭く軽快な走りを堪能できるモデルであり、車両重量が約2.5トンもある車とは思えないほどです。
【試乗車スペック】テスラ『モデルX パフォーマンス』
全長:5,037mm
全幅:2,070mm
全高:1,680mm
最高出力:451kW
最大トルク:931N・m
バッテリー容量:100kWh
各メーカーの個性を感じられた比較試乗
電気自動車3車種を乗り比べる貴重な機会で改めて再確認したのは「EVになっても各メーカーの個性がある」ということです。ゆったりとしていて重厚感があるメルセデス・ベンツ『EQC』、上質さとスポーティーさを兼ね備えるアウディ『e-tron Sportback』、電気自動車らしい鋭い走りと軽快感があるテスラ『モデルX』と、各メーカーが目指す「自動車像」を体感できた試乗会でした。
今回の高級車3車種を試乗して感じたことは、「高級車には電気自動車が最適」だということです。高級車といえば、「静かで滑らかな走り」というイメージを持つ方も多いでしょう。電気自動車は、高級車のイメージである「静かで快適な走り」という要件を満たしています。
しかし、どのモデルも1,000万円近い価格であることが、高級EVの普及にブレーキをかけているといえます。近年、メルセデス・ベンツ『Aクラス』やアウディ『A3』など、500万円前後で手に入る高級車は人気です。手が届きやすい価格帯の高級車が人気だという市場の動向からも、まずは500万円程度で購入できるプレミアム感の高いEVのバリエーションが増えることが、電気自動車が身近な存在になる第一歩かも知れません。
(文/齊藤優太)
今のEVは黎明期の国産セダンに似ていると思います。
たとえば初期型トヨタコロナは2年間で全く別物に生まれた変わりました。
なのでEQCを引き合いに出すのはちょっと気の毒な気がします(値下げして競争力を増したようですが)。
同じ意味でモデルXは最も不利ですが、大健闘しているのはさすがとしか言いようがありません。モデルYを含めニューモデルが入って来たらどうなるのでしょうね?
国産EVが気がかりです。
高級輸入EV3種のご紹介、ありがとうございます。
一部自動車評論家の様な特定メーカーに忖度した様な記事では無く公平な視点でご紹介頂いておりますが、内容は自動車評論家に匹敵する玄人の記事だと感じました。
性能では圧倒的にモデルXに分がありますが、ディーラーでFaceToFaceにて買える分だけメルセデスやアウディのクルマの方が買い易い気がします。
この中で個人的に最も欲しいのはモデルXではありますが。
現実的に庶民が買えそうなVWのIDシリーズなどが入ってくる事になりましたら、そちらもインプレッション記事をお願い致します。
今後の記事も期待しております。