※インタビューは2022年3月1日に実施。当時の役職名にて記載しています。
『4Rエナジー 浪江事業所』のバッテリー回収・再生実績
廃車になった日産リーフのバッテリーを回収し再生し『リユースバッテリー』を販売する、フォーアールエナジー株式会社(通称・略称:4Rエナジー)の工場、浪江事業所を見学し、様々な疑問を抱いた筆者。代表取締役社長、牧野英治氏にインタビューしました。
インタビューで熱く語った牧野社長、筆者の想定を超えてたっぷりとお話しいただきました。前編ではまず、これまで4Rエナジーは、何台のリーフのバッテリーを再生してきたのか、そもそもどういった思いで会社を立ち上げたのかといった点から伺いました。
宇野 2018年に『4Rエナジー 浪江事業所』が開所してから、今までに日産リーフ何台分のバッテリーが再生されたのでしょうか?
牧野社長(以下、牧野) リーフ数千台分の電池を回収して再生、販売してきていますね。
宇野 日産は、2020年9月にリーフの50万台累計販売台数達成を発表しています。これに対して数千台では、ちょっと少ないなという印象を受けます。
牧野 その数字はグローバルの数字ですね。日本では、2010年12月に初代リーフがデビュー、2011年に約1万台を販売していますので(バッテリーの回収は2011年に販売された初代リーフのものを基本としている)、数千台の回収・再生実績では、数10%台となります。これが、多いか少ないか、とのことですが、リーフは耐久性に優れており、なかなか廃車にならないという状況があります。
また、EV用バッテリーそのものに価値があるということから、廃車されたもののなかから、多かれ少なかれ他に流れていってしまっているという問題もあります。
こういったことから、回収数が少ないわけではなく、できるところに関しては、ほぼ回収ができている、という数字といえます。
数千台という数字は、それほど悪くない、と思っています。日本で廃車になるのは7割と言われていますから、その半分ぐらいが回収できたのであれば、しっかりできているほうだとも思っています。
きちんとバッテリー回収をするルール作りが必要
牧野 オークションサイトでは、かなりの数、リーフのバッテリーが出品されています。一番心配しているのは、YouTubeにもアップロードされている個人バッテリー再生です。これは、ケガをする危険がありますし、最悪の場合、死に至るケースもあり得ます。
極端な話ではありますが、もしそれで死に至った場合「日産リーフの電池は危ない」などという風評被害が出る恐れもあります。そうなると、リーフの販売にダメージがあるばかりか、大事なリユースバッテリーのマーケットにも悪影響が及ぶと思います。
そういう事態にならないよう、私は役所へ持続可能な社会を作るためにも、リユースバッテリーの大切さを伝え、問題が起こらないようにお願いをしてきました。その結果、今では、バッテリー再生について認証制度を作りはじめた、という報告を受けています。
バッテリー再生は、技術を持つ人が、しっかりとした設備のあるところで作業をする必要があります。そういう認証システムが整うと、自然に弊社が回収できるバッテリーも増えてくるかと考えています。
4Rエナジーはなぜ設立されたのか? 将来の展望は?
宇野 4Rエナジーの設立の目的を、将来的な展望を含めてお話を伺いたい。
牧野 そもそも会社を作ったときは、EV用バッテリーを再利用することでEVの価値、リセールバリューを上げよう、そうすることでEVの拡販に貢献していきたい、という目的でスタートしました。
しかし、会社設立のとき、「ちょっと待て。それでは、あまりにも会社としては内向きすぎる」という話が上がりました。そこで、カーボンニュートラルのみならず、エネルギー問題を解決するためにも、バッテリーのリユースを進めていかないといけない、と考えました。今では、カーボンニュートラルへの意識が社会全体で高まっていますが、当時は今ほどではありませんでした。
再エネの普及拡大・カーボンニュートラル実現のためにもバッテリーは必要
牧野 太陽光発電や風力発電をはじめとした再生可能エネルギーは発電量が不安定ですので、安定した電気を使うには蓄電池が必要です。しかし、蓄電池は高価です。そこで我々の出番。リユースバッテリーを安価に提供することで貢献しよう、という2つ目が会社の目的に加わりました。
最近にきて、論議が活発化しているのは、国際エネルギー機関(IEA)がスタディーしたこの先のCO2排出量の予測結果です。これは、2020年時点で存在している世界中の全自動車のうち、小型車のCO2排出量が、3.29ギガトンあり、この97%を削減しないと、2050年のカーボンニュートラルは達成できない、というものです。
すなわち、2030年代内に、小型車の新車をすべてカーボンフリーにしないといけないということになります。
2021年の全世界の小型車新車販売台数は約8,000万台で、2022年には約9,000万台になると言われています。しかし、この台数すべてをEVにすると、ニッケルやコバルトといったレアメタルなどのバッテリーの材料が不足し、やがて資源が枯渇するでしょう。そこで弊社は、EV用バッテリー用材料不足・資源枯渇問題の解決策のひとつをリユースバッテリーにして、社会に貢献しようと考え、3つ目の目的としました。
バッテリー生産時のCO2削減も課題
牧野 バッテリーを作っているときに発生するCO2の量も問題となっています。例えば、EVの標準的なバッテリー容量、62kWhの電池を作るときには、6.2トンのCO2が発生します(日本国内の工場で生産し日本の発電比率の現状を勘案した試算値)。この量は、日本の場合で3.23人が1年間で出すCO2に匹敵します(4Rエナジー担当者注/バッテリー製造時に発生するCO2の量は、IEAの資料から読み解くと62kWhのバッテリーの場合、6.2ton/CO2となります)。
前述した1億台近い台数のEVを生産したら、途方もない量のCO2を排出してしまいます。そこで、バッテリーを再生して、できる限り新品のバッテリーを作らないで済むようにすることで社会貢献をしたい、これが弊社の第4の目的となりました。
私は2代目の社長ですが、私が日産に在職していたときに「こういう会社をつくるべきだ」、また「初めから実ビジネスもやっていくのだ」という意気込みで立ち上げました。
リユースバッテリーの先駆者として得た知見と技術
牧野 この先、毎年何万台以上という大量のEVが生産されていくでしょう。そんな状況でリユースバッテリー生産に必要な技術開発をしようとすると、なかなか技術が追いついていかなくなると思います。この点においては、数千台レベルから技術開発を始めておけば、我々にアドバンテージが得られるはずです。
今まで回収・再生したバッテリーはすべて細かく、正確な測定を行ってきました。具体的には、バッテリーは計測前に12時間、ソーク(アイドリングのような状態)に置いて一定の温度にしてから、4時間ないし4時間半かけて測定を行います。
また、日産リーフに搭載されているコンピューターが収集した、走行時の環境や走行状態、バッテリーの使用状況、状態などあらゆる情報がビッグデータとして収集されています。このデータと各バッテリーの計測データをつなぎ合わせています。
こうすることで、近い未来に予測される大量のEVの廃車が発生するまでに、非常に簡易なバッテリー性能測定技術やバッテリー残寿命の予測技術の開発を済ませておくことができます。
今は、数千という少ないEV廃車台数ですが、毎年何万台以上というEVの廃車が出てきたら、バッテリー再生のため1台1台に12時間のソークと、4時間の測定の合計約16時間もかけていられなくなります。
我々は、大量のEV廃車に向けて、リユースバッテリー生産のために欠かせないバッテリー測定技術を実ビジネスを展開しながら開発してきました。この先も技術改良は積極的に、意欲的に進めていきます。
今後に向けた3つの計画
宇野 今後、再生バッテリー数の増加や工場の拡張などの計画はどのようなものになっていますか?
牧野 我々が放っておいても、自然にバッテリー回収数量は増えていきます。まずは、それをしっかりと処理できるようにしなければなりません。工場の拡張など、必要な設備の増強も必須です。これは今後の計画の1つ目です。
2つ目の計画は、シリーズハイブリッド『e-POWER』のバッテリーの再生です(筆者注/リーフとe-POWERのセルは異なります)。日産 ノート、セレナ、キックスに『e-POWER』搭載モデルがあり、今後も搭載モデルが増えていくでしょう。現時点で、e-POWER搭載モデルは、リーフの10倍の台数が販売されています。
e-POWERのバッテリーは容量が小さく、仕様がリーフと異なりますが貴重な資源には変わりありません。現在、すでにスタディを開始しています。
3つ目は、計画として決まってはいませんが、日産以外のEV生産メーカーとの協業もしたい、と考えています。
まとめますと、計画の1つ目は、今後増加する日産リーフの回収バッテリー数に確実に対応すること、2つ目は、『e-POWER』のバッテリー再生技術の確立です。3つ目の、日産以外のEVメーカーとの協業は、きちんとした「計画」と言えるように早くしたいです。この点は、まだ論議の途中段階ですので。
バッテリー再生のボトルネックと解決策
宇野 浪江事業所の見学をして、バッテリーの計測時間が全体の工程のなかでボトルネックになっていると感じました。
牧野 今のバッテリー測定方法を踏襲していたら、時間・人手・費用のすべてがかかってしまいます。そこで、先ほどお話しした、リーフのビッグデータが切り札となります。現在では、車両の走行状態を見れば、だいたいその車両のバッテリーの状態と、10年後の状態がある程度推定できるようになってきました。この技術をさらに磨けば、バッテリー再生のボトルネックとなっている測定時間の長さを大幅に減らすことができるはずです。
我々が今までの10年間で、数千台のバッテリーを測定して得た技術が、回収したバッテリーの残寿命予測技術になりました。
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牧野社長直撃インタビュー前編はここまで。後編では、4Rエナジーが再生したバッテリーはどこで使われているのか、リユースバッテリーのメリットは何か、今までで一番苦労したこと何かといった点についてお伝えします。ポイントは「リユースバッテリーには新品よりも価値がある」という発言の意味。数日後には公開する予定なので、お楽しみに!
※この記事は、録音されたインタビューから文字起こしをし、読みやすいように主旨を変えずに再構成しています。インタビューの全容は下記の動画からご覧ください。
新品より価値あり!4REの再生バッテリー事業の実績と課題、今後の展開をフォーアールエナジー牧野社長が熱く語る(YouTube)
(取材・文/宇野 智)
使用済蓄電池再生に期待です。4Rエナジー今後の風力発電自宅消費型の蓄電池には、必ず必要不可欠な蓄電池に、成ります。