割り切りが魅力的な超小型EV
フランス・パリ郊外のポワシーという工業都市にあるステランティスの工場敷地内で、短時間ながらシトロエンAMIに試乗することができた。AMIは2020年に登場したマイクロEVで、扱いは乗用車ではなく四輪原付自転車(14歳から免許取得可能)。フランス国内では売れ行き好調とのことで、実際、パリ名物のバンパー・トゥ・バンパー縦列駐車の列に点在していた。
思えばパリ市民は昔からマイクロカーが好きだ。縦列駐車の中にスマート・フォーツーだけ90度異なる角度で駐車している光景もよく見かける。数年前までリジェをはじめいくつかのマイクロカーがたくさん走っていたが、そのうちのいくらかがAMIに置き換わっているのだろう。
AMIのサイズは全長2410mm、全幅1390mm、全高1525mm、ホイールベース1728mm。スマート・フォーツーよりもひとまわり、いやふたまわり小さい。最高出力6kWのモーターで前輪を駆動する。
バッテリーの総電力量は5.5kWh。それでも車両重量が450kg程度しかないので、一度の充電で約75km走行することができるという。充電は交流の普通充電のみ。フランスでは220Vのコンセントを使い、ほぼ空の状態から約3時間で満充電となる。
最高速度は45km/hに制限されている。しかしそもそも四輪原付は高速道路を走行できないので問題ない。
ボディは強化プラスティックで未塗装。全車この淡いブルーだ。左ハンドルで運転席側は後ろヒンジの前開き、助手席側は前ヒンジの通常の開き方のドアが備わる。左右のドアを共通化することでコストを削減しているのだ。実にフランスらしい割り切り方ではないか。左右ウインドウは下半分を折り返すように開けられる。往年のシトロエン2CVを思わせる。
車内はほとんどすべてプラスティック素材で構成されている。左右シートの座面と背もたれ部分には最低限のクッションが配置されているが、シート裏面を見ると、鉄骨がむき出し。荷室はないが、助手席足元にスーツケースを置くのに適した形状の大きな空間が設けられる。車内空間は最小限だが、前後左右、それにサンルーフが大きいので閉塞感はない。何より非日常的で気分が上がる。
めちゃくちゃ遅いが、とても楽しい
キーを捻って始動し、運転席の座面左側(ドア側)に配置されたATセレクターでDを選んでスタート。広い直線でアクセルペダルを深く踏み込んでみたが、過去に経験したEV史上最もマイルドな加速を見せたので、思わず笑ってしまった。
最高速は45km/hと聞いていたので、そこまでは勢いよく加速し、リミッターで制限されているのだろうと予想していたが、なかなか40km/hを超えない。身も蓋もなく言えば、めちゃくちゃ遅い。45km/h付近が本当の最高速なのかもしれない。実際の交通のなかで試すことはかなわなかったが、コミューターとして40km/h程度出せれば十分という考え方なのだろう。
走行性能がその程度なので、ハンドリングはあまり重要ではないが、ステアリングを切れば切ったなりに曲がる。前後左右に小さく、相対的に車高だけが高いので、いかに低重心のEVといえども横転が心配なのだろう、ステアリングのギア比は相当にスローだった。
パワーが限られており、キビキビとしたハンドリングも持ち合わせていないが、そんなことは関係なく、走らせていてとても楽しい。自分ともうひとりを運ぶのに一切無駄のないパッケージからは潔さが感じられ、道具として満足感が高い。こういう割り切ったモビリティを実現するフランスの国民性や寛容度が羨ましい。
価格は7390ユーロ〜。1ユーロ138円とすると約102万円〜。月額約2600円程度(その場合は初回約43万円)〜で、多彩なリースプランが用意されており、シェアリングサービスも展開されている。高いか安いか判断が付かないが、買い切る人は少なく、各種シェアリングサービスで利用した分だけコストを負担するケースが多いと思われる。
(取材・文/塩見 智 写真/ステランティス・ジャパン、塩見 智)