日本でもEVで存在感急上昇中のBYD〜躍進のポイントを東福寺社長に聞いてみた

日本市場で着実に売れ始めているBYDの電気自動車。ジャパンEVラリー白馬(関連記事)に参加した東福寺社長に、ジャーナリストの赤井邦彦氏(最近になってEV取材を本格化した大ベテラン)がインタビュー。はたして、BYD躍進のポイントは?

日本でもEVで存在感急上昇中のBYD〜躍進のポイントを東福寺社長に聞いてみた

※ジャパンEVラリー白馬2024にも多くのBYD車が集結しました。(冒頭写真)

グローバルでテスラ超えを実現しつつあるBYD

電気自動車で日本市場参入を実現したBYDの攻勢が止まらない。2023年1月に日本の乗用車市場に初導入のEVモデルとなる『ATTO3』を投入してからわずか1年半、早くも販売車種は『DOLPHIN』、『SEAL』を加えた3車種に増えた。その間の日本国内の販売台数は1446台(2023年1月~12月/AIA:日本自動車輸入組合調べ)。台数的には決して多くないが、1年半の上昇曲線を見ると、この先の成長が大いに期待される。

世界的に見るとEVマーケットではテスラに継ぐ世界第2位(2023年実績)の地位を確立したが、直近のグローバルにおけるEV販売台数ではテスラをも凌駕している。BYDの圧倒的スピードを誇る市場拡張の前には、EVのパイオニアであるテスラも影が薄くなってきた。

白馬のイベント会場で語る東福寺社長。

飛ぶ鳥を落とす勢いとでも言おうか、世界における存在感を急速に高めつつあるBYD。では日本市場に於けるBYDの現状、そしてこれからのビジネス展開はどうか? BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長に話を聞いた。

BYDと日本の関係

赤井 ここ1年ほどで日本におけるBYDの存在が急激に高まっています。EV参入が大きな鍵になったかと思われますが、実はBYDはずっと前から日本と関係が深かったとも聞きました。

東福寺 日本との関係は2003年に日本で法人化して、携帯電話やラップトップのバッテリー供給としてソニーや東芝とお付き合いを始めた時からです。もう20年ですね。自動車関係では2015年にEVバスを販売しました。プリンセスライン株式会社という京都の会社が走らせるEVバスで、実際の路線を走らせることで日本の気候風土を調べる実証実験の役割をしたといわれています。いまは全国で約300台が走っています。

赤井 BYDの強みは自社製のバッテリーだと思いますが、他のメーカーとの違いは?

東福寺 そもそもBYDはバッテリーメーカーとして1995年に創業した会社です。バッテリーに関しては長い経験があります。いまBYDが力を入れているのがブレードバッテリーで、リン酸鉄リチウムイオンのバッテリーですが、結晶構造が強固で熱安全性が高く、希少金属を使っていないので安価で長寿命という特徴があります。ただ、サイズに対して容量が少ないので、それを補うためにシンプルな構造にして限られたスペースの多くのセルを搭載することで弱点を補っています。結果として航続距離は延びました。耐久性も非常に高く、8年間、15万キロを保証しています。

自分でドルフィンに乗ってみて品質の良さを実感

赤井 日本での乗用車販売は2023年からですが、参入に当たって難しさはありましたか?

東福寺 2023年から日本で販売を開始することが21年に決定されました。私は21年8月にBYDジャパンに入社、1年4ヶ月という短期間で準備しました。入ったときは乗用車部門は私一人でしたが、それからいろんな人に声をかけて、いまでは50人以上います。認証の専門家とかサービスのスペシャリストが来てくれました。

赤井 認証取得がかなわなければ日本では走れません。

東福寺 日本の場合、とても厳しい基準が設けられています。中でも型式指定となると国土交通省にとっても中国の量産メーカーは初めてだったので、BYDの常州工場まで来て戴き、必要なことを確認して戴きました。工場も見ていただきその認可もいただいたので、大きな進展でした。中国の製品というとこれまでは安かろう、悪かろうというイメージがありました。それを覆すことが出来たので良かったと思います。

日本発売第一弾のATTO3。輸入自動車特別取扱制度(PHP)ではなく、型式指定制度(TDS)による認証も取得した。

赤井 中国製品に関しては日本人の中にどうしても負のイメージが残っています。

東福寺 BYDに入社してすぐ、BYDジャパンの劉社長から、「東福寺さん、絶対に間違いありませんから」と言われたのですが、心配はありました。でも、21年11月にBYDジャパンのグループ会社であるTMC(TATEBAYASHI MOULDING株式会社:本社所在地:群馬県館林市)という金型会社の倉庫でドルフィンの実車を見て、しっかり出来ているクルマだと確認しました。外観を見ただけで良く出来ているのが分かったし、乗ってみてさらに安心しました。BYDの社員の我々が確信を持ったということ、それは大きかったと思います。

赤井 ドルフィンの販売開始は2023年9月20日ですが、それから約1年が経ちました。販売状況はいかがですか?

東福寺 最初は23年1月末にATTO3の販売を開始、その後、9月にDOLPHINを発売。今年3月にATTO3のマイナーチェンジを行い、6月にSEAL(シール)を発表しました。23年の新車登録台数は1446台です。台数だけ見れば少ないですが、ゼロからのスタートだと考えるとまずまずだと思います。しかし、この数字が5000台、1万台となっていかないと社会における存在感が出てこない。早い段階で累計登録台数5000台を目指しています。

BYD DOLPHIN

赤井 今度のシールで販売台数に拍車がかかればいいですね。ATTO 3は街中でちょくちょく見かけるようになりました。

東福寺 ATTO 3は手応えを感じています。販売店から買っていただいた顧客にメールでアンケートを行うのですが、いい反応のコメントをいただいています。中には40項目に渡る改善要項を書いてきてくれた方もいます。その方は人生最後のクルマとしてATTO 3を購入、初めてのEVがこんなに快適で楽しいとは思わなかったというコメントに、もっとこうだといいんだがと40項目の具体的な注文が添えられていました。こういうお客様はありがたいです。

赤井 短期間で販売台数が伸びているのは、BYDのスピード感ですね。とくに、早い時期から多くの販売店舗を設けている点は評価できます。

東福寺 現時点(2024年7月)では日本全国に55店舗の販売店があります。そのうち正規ディーラーは22店舗。今年の秋までには90店舗まで持っていきたいです。EVの場合はとくに、クルマを売っておしまいとはいかない。家庭の充電装置をセットで販売し、補助金の申請とかもあります。家庭に充電装置を取り付けることでストレスのないEV生活を送ってもらいたいので、お客様には実践的な情報をお届けできるようにしています。

赤井 このBYDの動きの速さはどこから来ているのですか?

東福寺 スピード感が重要、という考えが会社全体に浸透しています。私はBYDに来る前にVWで働いていましたが、両者を比べてみるとBYDの意志決定速度は尋常じゃないほど速いです。行動に移したときもそのスピードは鈍りません。
私が入社した2021年は単年度の販売台数が全世界で72万台でした。翌22年3月にはガソリン車の量産を打ち切ってバッテリーとPHEV半々になったのですが、そのときの販売台数は186万台になっていました。そして、2023年が302万台ですから、生産能力上昇のスピードがとてつもなく早い。生産工場の数も、2021年には上海、深圳、西安……と4カ所でしたが、いまでは10カ所になっています。生産能力は450万台まで賄えるそうです。このスピード感は、BYDがバッテリーメーカーとして誕生したことと関係あると思います。
いまでもバッテリーを中心とした電子部品の生産が主要な収益源になっていますが、半導体の生産スピードは落とせません。もしそのスピードが鈍ると、クルマだけでなく様々な分野に弊害が出ますから。ドッグイヤー(犬の1年は人間の7年、というたとえ)という、1年で7年分進むというスピード感でBYDは進んでいますが、それがEVの革新的な技術の導入や改良のスピードにつながっているんだと思います。

できるだけ早く、多くの車種を揃えたい

赤井 そのスピード感で行くと、日本市場の拡大も楽しみですね。

東福寺 日本でもスピード感を持ってやっていかなければと思っています。日本では多くの方がクルマを所有していますが、複数台所有はそう多くはありません。年に数回しか家族で出かけないのに大きなミニバンを所有して、普段もそれに乗っている。そのスタイルで行くと、BYDのいまのラインアップだと上手くはまらない。ですから、もう少しモデルを増やしていくスピードを上げたいと思っています。取扱商品としては7~8車種揃えば台数はもっと伸びるのではないかと期待しています。

BYD SEAL

赤井 やっぱり車種の少なさは販売台数に響きますね。

東福寺 そうですね、より多くのラインアップを揃えていくことと、販売店を100店舗揃え、1店舗当たりの収益性をあげていくことが重要です。いたずらに店舗数を増やすのではなく、出店していただいた会社が多くの収益を上げられるようにして、スタッフを揃え、それがさらなる利益につながり、そしてより大きな店舗に成長するといった好循環を早く作りたいと思っています。

赤井 自力での発展がそれぞれの店舗に求められると言うことですね。ところで、EVは補助金のおかげで販売台数を確保しているようにも思えます。

東福寺 補助金の原資は税金ですから、EVシフトが進んでガソリン車が売れなくなるとガソリン税をはじめとする税収が減ります。そうなってくると、いずれ補助金はなくなるのではないでしょうか。だから、補助金を当てにした価格設定にしないで、あくまで素のままで他ブランドと戦えるような料金体系を敷いたシステムを作っていきたい。もちろんいまはまだ補助金が出ていますから、付加価値としてお客様に勧めることはいといません。

赤井 これまでの経験を踏まえて,これからのBYDの進む道をお聞かせください。

東福寺 辛い想い出ですが、VWに勤めていたときに不正問題が起こり、非常に大きな痛手を被りました。販売実績が前年比50%まで落ち込み、お客さんが引いてしまいました。そのとき、信用を失うということの恐ろしさを痛感しました。BYDに来て、その点だけは誤魔化しのないように、いまある事実をベースに情報を正しく伝えていこうということでビジネスを進めています。これは大切な教訓でした。

赤井 最後にBYDのセールスポイントを。

東福寺 BYDの魅力はバリュー・フォー・マネー(Value for money)であり、他車から乗り換えても違和感なくすぐに使える汎用性に富んだクルマだということです。世の中で一番使いやすいEVだと思っています。

取材・文/赤井 邦彦

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 「大林モータース」という整備士サイトがありますが、ここでATT3についての評価動画が公開されています。このサイトによると、下回りの構造や材料は2000年頃のカローラレベル、今から見ると必要最低限でチープ、テスラやヨーロッパ車のような先進性はない。その一方で、内外装については使いやすく、走行性能はこだわりがなければ満足する人もいるだろうと言っています。バランスの良さを強調しています。
    BYDの最大の特色は低価格ですが、それを可能にしているのは、バッテリの内製化と構造や材料のコストカットです。またヨーロッパのデザイナーを採用することで、見栄えや使いやすさに力を入れていることが、評価につながっているのでしょう。
    https://www.youtube.com/watch?v=eDHzwMXI7YE

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					赤井 邦彦

赤井 邦彦

1951年生まれ。1977年から続けるF1グランプリの取材を通して世界中を旅し、様々な文化に出会う。若い頃は世界が無限に思えたが、経験を積んだいま世界も非常に狭く感じる。若い人は世界へ飛び出し、勉強や仕事だけでなく無駄な時間を過ごして来て欲しいと思う。その時には無駄だと思っても、それは決して無駄ではないことが分かるはず。 2014年、フォーミュラE誕生に伴って取材を始め、約5年間同シリーズをつぶさに見てきた。その結果、フォーミュラEの価値は大いに認めるが、当初の環境保護、持続可能性といった理念から少し距離が出来たように感じている。こうした、レースそのものよりも取り巻く状況に目を向けることが出来た取材は貴重だった。

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