中国市場向けで2車種目となるマツダのEV
EZ-6は2024年4月、北京で開催された「北京モーターショー2024」でお披露目されました。それまで何度か、マツダは現地合弁相手である「長安汽車」と共同で中国向けEVを開発していると報道されていました。新たに登場したEZ-6は長安汽車の電動ブランド「ディーパル(深藍)」から販売する「L07(旧名:SL03)」をベースとするモデルで、2012年の「長安マツダ」設立以来、初となる試みでもあります。
実は、マツダの中国向けEVはEZ-6が初めてではありません。2022年にコンパクトSUV『CX-30』を純電動に仕上げた『CX-30 EV』を投入しました。元々エンジン搭載車であるCX-30に無理矢理バッテリーを搭載した関係で全高は110 mm高くなり、フェンダーとサイドステップの黒樹脂部分がより分厚くなったいびつな見た目が特徴的でした。バッテリーには容量61.1 kWhのCATL(寧徳時代)製三元系リチウムイオン電池を採用、全グレードで出力214 hp、トルク300 Nmの前輪駆動という仕様でした。
マツダ初の中国専売EVとして満を持して投入されましたが、発売初月の販売台数はわずか104台、翌月には29台という散々なスタートを切りました。その後も月間販売台数1ケタが続くことは珍しくなく、ついに2023年の暮れには販売を終えています。
CX-30 EVの失敗を活かし、EZ-6はよりスタイリッシュなデザインで、エンジン搭載車をベースとしない生粋のEVとして登場しました。ボディは確かにベース車であるL07と同様のファストバック風4ドアセダンですが、マツダの「魂動」デザインに沿った上品なフロントマスクや有機的なサイドのプレスラインはしっかりとマツダのフィロソフィーを体現しています。テールライトはRX-7(FD3S)をオマージュした意匠となっており、過去の車種へのリスペクトも感じられます。
パワートレインは電気自動車(BEV)とレンジエクステンダー付きEV(EREV=Extended Range Electric Vehicle)の二刀流で展開されます。プラグインハイブリッド車(PHEV)が設定されていないのもベース車と同じです。BEVモデルが搭載するバッテリーはCATLと長安汽車の合弁企業である「時代長安」が製造するリン酸鉄リチウムイオン電池で、容量58.1 kWh/66.8 kWhの2種類から選べます。
一方で、EREVは発電用の1.5ℓ直列4気筒エンジン容量をベースに18.99 kWh/28.4 kWhのリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載、バッテリーのサプライヤーはCATLとBYDに次ぎ中国3位のシェアを誇る中創新航(CALB)です。
BEVとEREVどちらも後輪駆動モデルのみの設定で、出力・トルクはそれぞれ254 hp/320 Nm、214 hp/320 Nmを誇ります。なお、BEVモデルの航続距離は中国独自のCLTCモードで58.1 kWh モデルが480 km、66.8kWhのモデルは600 kmと公表されています。実用的な電費が6.5km/kWhとすると、58.1kWhは約378km、66.8kWhでは約434kmになります。
北京の知人が所有するEZ-6に試乗のチャンス
2025年1月、北京を訪れた筆者は知人が所有するEZ-6を初試乗する機会に恵まれました。
実車はすでに北京モーターショー2024で対面していましたが、改めて近くで見たり座り込んだりすると、サイズ感は数字ほど大きく感じません。ボディサイズは全長4921 mm × 全幅1890 mm × 全高1485 mm、ホイールベース2900 mmとなります。昨今の中華電動セダンの多くが全幅1.9メートルをゆうに超えるサイズであるのを見ると、EZ-6の全幅は良い意味でわきまえていると思いました。
エクステリアデザインは上質で、ベース車のL07と比較してもEZ-6の方がスポーティに仕上がっている印象を受け、見ているだけで運転の楽しさが想像できるほどです。中国の舗装状況に合わせて最低地上高が若干高かったり、フェンダーの隙間が広かったりするのは仕方ない点ですが、それ以外のデザインに関しては文句のつけようがありません。
運転席に座り込んでみると、確かにフロアの高さは否めません。ですが、シートが上手に設計されているおかげか姿勢はとても自然に感じました。純電動の4ドアセダンでありながら、ロードスターみたいな2ドアスポーツカーに乗っている感覚が味わえるのもマツダならではのこだわりでしょう。
個人的にはマツダ車特有の硬めな足が好きということもあり、EZ-6の乗り心地はちょうど良いと感じました。また、今回試乗したのは発電用エンジンを搭載するEREVでしたが、中国の消費者が特に懸念する「NVH(自動車の騒音や振動)」は上手に処理されており、普通に運転していればエンジン音などは気になりません。それでいて、ちょっとスポーティに走ろうとアクセルペダルを踏み込めばしっかりとエンジンが唸り、高揚感に包まれます。
昨今の中華EVは駆動モーターのチューニングが下手で、普通に走っていても酔いそうな感覚を覚えることが多いと感じています。ですが、その辺りもEZ-6は考えられており、マイルドだけどパワフルな加速感はとても気持ちの良いものでした。
UI の安っぽさが残念
一方で、残念に思ったのがインフォテインメント周りです。中央に位置する14.6インチディスプレイでは多くのクルマ同様に各種アプリケーションやメディア、エアコンなどが操作できますが、操作系のUIがあまりにも中国メーカー的だったのはガッカリしました。
マツダと言えば車載システムの「MAZDA CONNECT」がお馴染みで、黒を基調としたシックなUIやメニュー構成が高級感を演出します。EZ-6のUIはマツダらしさが一切無いどころか、インパネ用ディスプレイのフォントやメーターデザインまでもが安っぽい印象でした。インテリアの素材選びや設計はかなり頑張ってマツダ車らしさを表現しているだけに、ここはもう少し頑張って欲しい点です。
EZ-6の販売台数は登場初月に2445台、その翌月には1017台を記録しました。筆者が試乗後に話を伺った北京市内のディーラー「北京華日通店」によれば、このディーラー単体で月に10台ほどを販売しているとのこと。在庫車も多く取り揃えており、現在は工場出荷から大体1~3週間でデリバリーが可能と言います。
また、購入者の6割はガソリン車からの乗り換えで、残りはBYDなどの低価格帯EVからステップアップして選ばれているという状況とのこと。マツダ特有のハンドリング性能や安全性だけでなく、車内空間の居住性や内装の質感の良さなどの点がBYD車種から乗り換える理由としても挙げられるようです。
中国での価格は約300万円〜で販売は好調
中国での販売価格は13.98~17.98万元(約300.4~386.3万円)と、日系EVの中では比較的安価です。その中でも売れ筋は16万元(約341万円)前後以降の中上級グレードだそうで、EZ-6の価格に見合ったクオリティがしっかりと評価されていると言えるでしょう。
また、EZ-6はEREVとBEVの2種類がありますが、現在好調に売れているのはEREVの方だそうです。ディーラーの担当者によれば、特に北京ではナンバープレートの発給制限がある中でクルマを何台も持てないため、通勤や街乗りといったデイリーユースから、長距離移動までを1台でこなせるEREVの方が選ばれやすいとのことでした。CX-30 EVは「油改電(エンジン車を電気自動車にしただけのモデル)」の印象が強く、また価格が高かったために失敗した」とディーラーの担当者も言っており、EZ-6ではその反省が活かされた形となります。
2025年1月初旬にはEZ-6が欧州市場にも『マツダ6e』として導入されることが発表されました。イギリス向けには右ハンドル車が用意されるとのことですが、日本への導入はセダン自体への需要が乏しいために可能性が低いと推測します。ただ、マツダは次なる長安汽車との共同開発モデルの投入を2025年に控えており、こちらはディーパルのミドルSUV「S07」がベースと見られます。国産ブランドの電動SUVは日本でもまだ選択肢が少なく、実際に日本へ導入されたら注目を浴びることでしょう。
取材・文/加藤 ヒロト