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ジャパンEVラリー白馬に「アウトランダーPHEV」で参加してみた/ちゃんとEVにすればいいのに……

ジャパンEVラリー白馬に「アウトランダーPHEV」で参加してみた/ちゃんとEVにすればいいのに……

長年F1を取材してきたモータースポーツジャーナリストの赤井邦彦がEVを考えるシリーズ。白馬で開催された電気自動車の祭典に、プラグインハイブリッド車の三菱「アウトランダーPHEV」で参加したレポートです。

目次

EVラリーへの参加はPHEVでもOK

舘内端氏が代表を務める一般社団法人日本EVクラブの主宰する「2025日本EVラリー白馬」が7月12〜13日に開催され、参加してきた。舞台となる白馬村は長野県の北部に位置し、あと50kmも北に走れば新潟県糸魚川市に出て日本海に至る。白馬村から見上げる北アルプスの頂には真白な雪渓が輝き、高原は深い緑の香りに包まれていた。

東京からのんびりクルマで行った。白馬EVラリーに参加するにはクルマで行くことが条件だった。それもEV(電気自動車)かPHEV(プラグインハイブリッド車)ということになっている。そこで私は三菱自動車からアウトランダーPHEVを借り出した。EVが日本中から集まるイベントにPHEVで参加することはちょっと後ろめたい気持ちもあったが、主催者の日本EVクラブの規則ではPHEVも「電気自動車の仲間」ということになっているのだ。

昨年は正真正銘のEVで参加した。ヒョンデの「コナ」である。かつてヒュンダイと呼ばれていた韓国のメーカーがいまではヒョンデ。私の中ではその呼び名にまだ違和感があるが、クルマは素晴らしく出来が良かった。

今年もEVでと思ってはいた。フォーミュラEに関する記事など、EVsmartブログへの寄稿を始めたことなどをきっかけに、本腰を入れてEV取材に取り組もうと思い立ち、ここ1年ほどの間に実に多くのEVに乗ってきた。ほとんどが広報車を借りての試乗である。そして試乗車はどれも素晴らしいクルマだった。特に高額なハイエンドモデルはいずれのメーカーの車種でも遜色なく良かった。

では何が良かったか? 自動車雑誌じゃないから、ハンドリングだ、ブレーキ性能だ、加速感だなどと語ってもしょうがない。ごく普通に乗って自然に身体が感じたことを書くと、本当にどのEVも「当たり前にいいクルマ」と評することができたのだ。最初は心配した航続距離も、慣れてしまえばなんのことはない。いまの日本にはガソリンスタンドよりも便利じゃないかと思える数のEV用充電ステーションがある。

ガソリンスタンドが減っているのはEVの影響?

ガソリン車でもガス欠の心配はある。以前、ベルギーの山の中でその恐怖を味わったことがあった(山の中で車中泊か、と覚悟した)。日本ではそんなに長い距離の山道は少ないだろう。でも、最近は過疎地のガソリンスタンド(GS)が廃業に追い込まれているのを目にして、ちょっと心配になることがある。

ガソリンスタンドの減少はハイブリッドも含めた電動車普及の拡大に理由があるのかとEV派の知人に尋ね、他の要素の方が大きいと知った。まず、1994年のピーク時には日本全国のGSは約6万軒。それが2023年は2万7000軒、30年で半減した。彼が挙げた理由はいくつかある。まず、後継者不足。次に、2010年の消防法改正で、地下のガソリン貯蔵タンクは40年を超えると改修・交換が必要になった。ところがそれには莫大な費用がかかる。そこまでしてガソリンスタンドの営業を続ける意味があるのか、と廃業を選ぶところが増えた。また、最近のクルマは燃費がよくなり、加えてハイブリッド、EVとそもそもガソリンの消費が少ないクルマが増えた。そのせいでGSはビジネスとして立ちいかなくなってきたというのだ。

ん? やっぱりEV普及の影響もあるんじゃないか? ともあれ、時代の流れを読むと、消して突拍子もなく今の状況が現出したわけではなく、いくつもの要素が積み重なった結果として、我々は現状を経験しているということになる。

この先、何が起こるかわからないが、GSの数が減少するという事象だけでもこれだけ多くの条件が重なった結果だから、なにか新しいことが起こるとしてもいくつもの条件を必要とするだろう。

PHEVの存在理由って何?

さて、私は三菱アウトランダーPHEVを駆って白馬村へ急いだ。ガソリン車でありEVとしても走れるクルマだ。しかし、実際に自分で長距離を走ってみるまでは、正直言ってPHEVの存在理由がわからなかった。

地球環境を考えるならEVであるべきだが、他の解決法を提示してくれるならガソリンエンジンでいいんじゃないか。なぜ1台で両方を備える必要がある?

だが、答えはすぐに想像できた。EVに全面的な信頼を置けない人間には、PHEVがうってつけ。「ホントはガソリンエンジンが好きだけど、地球環境だって考えなきゃと思って、少しだけEVしてる」と、自分に言い聞かせるにはPHEVがちょうどいいのだ。

その存在意義を体感するためにも、一度PHEVにじっくり乗っておく必要がある。そう考えて東京から白馬に向かって走ってみると、早速EVでは味わえない感覚を味わった。自分が何に乗っているのかわからなく感覚だ。自分はいまガソリン車に乗っているのか、それともEVか?

PHEVはエンジン車という認識を自覚

しかし、少なくとも走り始めるとき、これは高速道路を使う長距離ドライブ時に多いのだが、充電器が設置されたサービスエリア(SA)、パーキングエリア(PA)を事前に確認しておく必要性を全く感じなかったのだ。

これまでEVで出かける時には常に「高速充電なび」で下調べをするようにしていたが、アウトランダーPHEVでの白馬往復ではその気持ちがどこかへ消え失せていた。つまり、私の中では「アウトランダーPHEVはガソリン車」という認識になっていることを自覚した。

しかし、ジャパンEVラリーの規則がそうであるように、一般的な理解は「PHEVはEVの仲間」のはず。搭載されたエンジンはEVでは限られた航続距離を伸ばすためという定義になっている。

しかし、今回中央道を白馬に向かって走ってみると、アウトランダーPHEVが搭載しているEV走行用のバッテリーは50kmほどでなくなり、その後はずっとエンジンで走行することになった。念のためとコーヒーブレークに立ち寄ったPAで一度充電はしたが、気休めの域は出なかった。

高速道路を走るとバッテリーは早々と空になってしまった。

で、気がついたのが、やっぱりPHEVはガソリンエンジン車だったということだ。EVのレンジエクステンダー(RE)と同じだと言う人もいるだろうが、システムに対する考え方は逆。けなげにエンジンで発電してモーターを回して走るREを褒めてやりたい思いが強くなった。

いっそ、ちゃんとEVにしちゃえばいいのに

さて、白馬村に着いて2日間にわたるフェスティバル「ジャパンEVラリー」に参加したが、日本中から60台を超えるEVが一堂に集まった光景は大変に見応えがあった。集まったEVの傾向としては、小型〜中型車が主流を占めていたように思う。メルセデス、ポルシェ、BMW、アウディといった輸入車のハイエンドクラスは1台もいなかった。

このことは何を意味するかと言えば、我が国で環境問題を真剣に考える上でEVを選ぶ人達は、本当の市井の人達だということだ。えせ環境派が、地道なEVを選択することはない。EVの持つ力(性能や使い勝手)を最大限発揮して住みやすい地球を作ろうとしている人達が、身の丈に合ったEVを駆って白馬に集まったのだ。

白馬村と言えば再生可能エネルギーによる電力100%自給の村。この地道な活動をしている自治体こそ、ジャパンEVラリー開催の地にふさわしい。そうした様々な条件を考えると、電気がなくても走れるPHEVで参加したのは、ちょっとイージーな選択だったかも知れない。

でも、借りたクルマへのお世辞ではなく、乗り心地も走行性能も操作性も大変よかったですよ、三菱アウトランダーPHEV。いっそのことちゃんとEVにしちゃえばいいのに。

取材・文/赤井 邦彦 写真/三代やよい

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この記事を書いた人

1951年生まれ。1977年から続けるF1グランプリの取材を通して世界中を旅し、様々な文化に出会う。若い頃は世界が無限に思えたが、経験を積んだいま世界も非常に狭く感じる。若い人は世界へ飛び出し、勉強や仕事だけでなく無駄な時間を過ごして来て欲しいと思う。その時には無駄だと思っても、それは決して無駄ではないことが分かるはず。
2014年、フォーミュラE誕生に伴って取材を始め、約5年間同シリーズをつぶさに見てきた。その結果、フォーミュラEの価値は大いに認めるが、当初の環境保護、持続可能性といった理念から少し距離が出来たように感じている。こうした、レースそのものよりも取り巻く状況に目を向けることが出来た取材は貴重だった。

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