BYDのEVで、ミッドサイズクロスオーバーSUVである『シーライオン7』で岡山に遠征しました。往路では、高速のSAPAにある150kW急速充電器を巡りながら10分程度の「ちょい足し」を繰り返してみることにしました。はたしてどんなロングドライブになったでしょうか?
150kW高出力急速充電器で「ちょい足し充電」の旅
岡山までのドライブの相棒は、BYDが2025年4月に導入した『シーライオン7』です。全長4,830mmのミッドサイズクロスオーバーSUVは、リン酸鉄(LFP)リチウムイオンバッテリーの「ブレードバッテリー」82.56kWhを搭載し、後輪駆動で590km、4WDでも540kmの一充電走行距離(WLTCモード)を達成。このうち今回は後輪駆動仕様をお借りしました。
横浜にあるBYDジャパンでシーライオン7を引き取り、都内の自宅に着いた時点でSOCは85%、航続可能距離表示は503kmでした。今回のロングドライブでは1日目に姫路まで移動し、予約したホテルで普通充電を行います。そこまでの距離は、東名や新東名などを乗り継ぐ経路で約600kmに及び、メーターの航続可能距離を見るかぎりは、経路充電が必要です。
ふつうに考えれば、途中のSAかPAで食事をするあいだに30分じっくりと急速充電するというのがセオリーです。ただ、600kmの行程となると、途中1回の休憩では済まず、たいてい4~5回のストップが必要になるはずです。どうせ休憩するなら、150kWの高出力急速充電器が設置されているSAPAを選び、休憩中の10分間を充電にあてれば、効率良く移動できるのでないか? 都合の良いことに、シーライオン7は100kW強を受け入れる急速充電性能を誇るので、「ちょい足し充電」の旅を実践してみることにしたわけです。
最近急ピッチで増えている高速道路SAPAの150kW器を設置したスポットを、この機会にできるだけ多く巡ってみたいという好奇心からのアイデアでもあります。
ちなみに、今回の旅では、高速道路ではアダプティブクルーズコントロール(ACC)を制限速度いっぱいに設定して走行。シーライオン7のエアコンは25℃でもかなり冷える設定で、これにシートベンチレーションを組み合わせることで暑さ知らずのドライブが可能でした。
最大150kW器設置のSAPA経路充電スポット巡り
東京から姫路に向かう高速道路の下り線には、東名・中井PA、新東名・駿河湾沼津SA、新東名・清水PA、新東名・浜松SA、伊勢湾岸道・湾岸長島PA、新名神・土山SAの6カ所に150kWの急速充電器があります。まずは現時点で東名高速唯一の150kW急速充電器がある中井PA下りを目指しました。
【東名/中井PA下り】
トリップ:82.3km
直近50kmの電費:6.0km/kWh
到着時 SOC:69%/航続可能距離:393km
出発時 SOC:84%/航続可能距離:481km
充電電力量:13.6kWh

東名高速下り線で3つめのSA/PAが中井PA。東京に住んでいると、なかなか立ち寄る機会がない。
東京に住んでいると、近すぎてほとんど立ち寄ることがない中井PA。1基あたり2口の急速充電器が2基見えます。このうち、グリーンのラインが施されるのがニチコン製の90kW器で、その奥にある赤いラインで彩られているのが150kW急速充電器です。ABB製Terra 184JJ-Xという機種で、1台単独なら最高150kW、2台同時でも各90kWの充電が可能です。ただし、1台単独でも、150kWで充電できるのは、ブーストモードが効いているはじめの15分だけ。今回利用したのはすべてこのタイプでした。
各スポットでの充電時間は10分程度のちょい足しなので、1台だけで充電器を使えた際は、ブーストモードに関係なく150kWの最大出力をひとりじめできます。
平日の朝7時過ぎということで、他に充電中のEVはなし。一般の駐車場からは独立しているので、マナー違反のエンジン車に邪魔されることもありませんでした。それでいて、PAのショップやトイレに近いのがうれしいところです。
さっそく充電を始めると、70%近いSOCであるにもかかわらずメーター内には80kWを超える充電電力が表示され、その性能の高さにひと安心。この日は朝食抜きで家を出たので、とりあえずなにか甘いものでもとショップを見渡すと、冷凍ケーキが並ぶ自動販売機を発見! 「5分で食べられるよ」と不二家のペコちゃんがアピールしていたので、「スイーツボトル ストロベリーケーキ」(税込750円)を購入しました。ただ、実際には10分経ったところではまだ硬く、次の充電場所で食べ頃をいただきました。さすが不二家だけに、間違いのないおいしさでした!

「5分で食べられるよ」ということだが、食べ頃までにはもう少し時間がほしい。
【新東名/駿河湾沼津SA下り】
トリップ:135.4km
直近50kmの電費:6.2km/kWh
到着時 SOC:73%/航続可能距離:417km
出発時 SOC:86%/航続可能距離:495km
充電電力量:12.1kWh

充電スペースがトイレや商業施設から近いのはいいが、一般車の駐車スペースと分離されていないため、マナー違反の車に充電スペースを塞がれることが少なくない。
中井PAを出て約45分、50kmあまり走行したところで新東名の駿河湾沼津SAへ。ここは、商業施設の手前に充電スペースがあり、いわゆる「青いマルチ(1基あたり最大90kW、4基合計で200kW)」と、中井PAと同じ赤いラインのABB製150kW器が並んでいます。さいわいここでも貸し切り状態で、シーライオン7の充電は出力80kW超で進みます。
充電スペースがトイレに近いのはいいのですが、一般車両と明確に分けられていないため、エンジン車によって充電スペースが塞がれていることがよくあります。お仕事系のワンボックスが目立つのは気のせいでしょうか?

駿河湾を見下ろせるはずのビューポイントだが、目の前の木に視界を阻まれる。
駿河湾沼津SAは、駿河湾の絶景ポイントとしても知られています。まずは海が見える場所に移動しますが、目の前の木が邪魔してよく見えない……。眺望を楽しむなら上り線がおすすめでした。人気のSAだけに、スイーツやスナックも充実しています。ここでは、走行中でも食べられるTAMAGOYAの「ころころシュークリーム3個入り」を購入。蓋を開けた瞬間、卵のいい香りが漂い、中のカスタードクリームは卵の黄身くらいの黄色で、実に濃厚でした。
【新東名/清水PA下り】
トリップ:166.6km
通過時 SOC:78%/航続可能距離:446km
駿河湾沼津SAから約30km、15分ほどで清水PAに辿り着きます。ここには、中井PA同様、ニチコン製の90kW器とABB製の150kW器がそれぞれ1基ずつあります。ただ、駿河湾沼津SAを出て間もなかったので、今回はスルーしましたが、SAよりも空いているので、充電の穴場といえるでしょう。
【新東名/浜松SA下り】
トリップ:251.7km
直近50kmの電費:5.1km/kWh
到着時 SOC:59%/航続可能距離:320km
出発時 SOC:75%/航続可能距離:414km
充電電力量:14.4kWh

急速充電器は、青いマルチが6口、ABB製の150kW器が1基2口と贅沢なラインアップ。
新東名のこのあたりは制限速度が120km/hに引き上げられるため、移動時間の短縮につながるのはいいのですが、EVの場合、速度が上がるとそのぶん電費が低下するのが辛いところです。実際、浜松SAまでの直近50kmは、5.1km/kWhで、東名走行時に比べて約1km/kWh悪化しました。
浜松SAの充電スペースは、一般の駐車場から分離され、しかも、青いマルチが6口、ABB製の150kW器が1基2口と贅沢なレイアウトです。ここでも貸し切り状態で、60%前後のSOCでは充電電力が100kWを上回りました。10分の充電で航続可能距離は414kmまで伸び、この時点で、目的地まで残り341kmという数字を上回ります。

浜松の名物といえば餃子とうなぎだが、今回はテイクアウトできる「冷凍三ヶ日みかん」(税込600円)をチョイス。
ところで、浜松といえば名物はうなぎと餃子です。SAにもレストランがありますが、ここまでの間食でいっこうにお腹が減らないため、食事は諦め、またまたスイーツに手を出すことに。みかんの産地として知られる三ヶ日にやや近いということで、遠鉄マルシェで「冷凍三ヶ日みかん」を購入。食べ頃は1時間後ということでしたが、エアコンの効いた車内ではなかなか溶けず、食べたのは姫路のホテルに着いてからでした。味わいは上品で、子どものころに食べた冷凍みかんのワイルドさはありませんでした。
【伊勢湾岸道/湾岸長島PA下り】
トリップ:361.4km
直近50kmの電費:7.1km/kWh
到着時 SOC:52%/航続可能距離:297km
出発時 SOC:69%/航続可能距離:397km
充電電力量:15.5kWh
伊勢湾岸道に入り、起伏が少なく、ペースも少し落ちたからか、シーライオン7の電費は7.1kmに向上しました。充電しなくてもギリギリ、ホテルのある姫路には辿りつけそうですが、せっかく休憩するなら、150kW器で充電しない手はありません。
ここはちょっとレトロな商業施設の手前と正面の2カ所に充電スペースがあり、手前にABB製の150kW器、正面に東光高岳の50kW器が1基設置されています。150kW器があるエリアは一般の駐車場から離れていて、充電待ちのスペースが2台あります。私が到着したときに先客はなく、ここでも150kWの性能を独り占めできました。

湾岸長島PAといえば、「湾岸長島IC」の出口方面とパーキングエリア方面への進行路を共用しており、PAに立ち寄ってからICを出て「ナガシマスパーランド」などに行くことができる。
ところで、湾岸長島PAといえば、「湾岸長島IC」の出口方面とパーキングエリア方面への進行路を共用しており、PAに立ち寄ってからICを出て「ナガシマスパーランド」や「三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島」にアクセスできるのが便利なところです。ICを出る前にEVを充電しておけば、帰りの不安も減るでしょう。

三重県桑名の名物「安永餅」が購入可能。この日はばら売り分があり、1個120円(税込)で伝統の味が楽しめた。
そして、ここでのお勧めスイーツは、近くの桑名名物「安永餅」です。その起源は江戸時代にさかのぼるといい、牛の舌に似た柔らかい餅のなかに、粒あんが入った素朴な和菓子です。湾岸長島PAではばら売りしていることもあり、この日は運良く手に入れることができました。とてもやさしい味で、1個120円という手頃さも魅力です。
【新名神/土山SA下り】
トリップ:410.2km
直近50kmの電費:4.8km/kWh
到着時 SOC:54%/航続可能距離:296km
出発時 SOC:71%/航続可能距離:392km
充電電力量:15.5kWh
最後に立ち寄ったのが、新名神の土山SAです。上り勾配が続いたためか、電費は4.8km/kWhに低下しましたが、充電なしでも姫路までは余裕で行けそうです。
土山SAは商業施設を上下線で共用していますが、もちろん、駐車スペースや充電スペースは別々に確保されています。どちらにも、ニチコン製の90kW器とABB製の150kW器がそれぞれ1基ずつあり、またまたここも先客がいないという幸運。湾岸長島PAもそうでしたが、10分間で15.5kWhを追加することができました。1時間平均に換算すれば93kWhですから、頼もしいの一言です。

「たぬ焼き」には定番のあんこなどのほかに、甘くないあんのベーコンエッグ味もあり、今回は迷わずこれを選んだ。
土山SAは土地柄、「伊賀忍者」と「信楽焼」を推していて、マスコットの「土山たぬき」はこのふたつを合体させた土山SAの象徴です。手軽に食べられるスナックのなかには、屋外のタヌヤ本舗が提供する「たぬ焼き」があるのですが、ここまでずっと甘いものが続いたのでやめておこうと思ったところ、ベーコンエッグ味があることを知り、まんまと購入。生地は甘いのですが、中身は甘くなく、間食にはちょうどいい味と量でした。
余裕で姫路に到着&宿泊充電できるのが安心
土山SAで10分の充電を終えて、SOC:71%、航続可能距離:392kmとなったシーライオン7は、ここから約170kmを走り、SOC:36%で無事に姫路のホテルに到着しました。この時点で航続可能距離は196kmとかなり余裕があったので、途中の「ちょい足し」をもう1カ所スキップしても辿り着けた計算です。しかも、宿泊したホテルで充電できることがわかっていた(詳細は後編でレポートします)ので、安心感は抜群でした。
【ホテル到着時】
トリップ:589.2km
直近50kmの電費:7.2km/kWh
到着時 SOC:36%/航続可能距離:196km
もともと、10分の「ちょい足し充電」だけで東京から姫路までドライブすることに不安はありませんでしたが、実際に走ってみて、その気軽さや快適さを実感しました。
EVを使ったロングドライブでは、途中どこで充電するか考えたり、充電でストップするぶん、エンジン車に比べて余計に時間がかかるといったイメージを抱いている人は多いと思います。私も2020年にフォルクスワーゲンの「eゴルフ」を手に入れたときは、ロングドライブはまさにそのイメージどおりの苦行でしたし、フォルクスワーゲンの「ID.4 Pro」に乗り換えた2022年終わり頃も、まだ楽ではありませんでした。
しかし、ここ数年で高速道路のSAPAに150kW器が増え、さらに90kW器が数多く設置されたいま、急速充電性能が高いEVを使うことで、充電のためだけに長い休憩時間を過ごす必要はなくなり、エンジン車と変わらぬ感覚でロングドライブできるようになったのです。少なくとも東京~大阪の移動であれば、EVを使うことに躊躇しなくてもいいでしょう。
マイカーEVの一充電走行可能距離は400kmもあれば十分
今回使用したシーライオン7は、590kmの一充電走行距離を誇り、ロングドライブを楽しむのに心強いのは確かですが、それ以上にSOC70%程度になっても80kW以上の急速充電性能を発揮することや、サイズのわりに電費が良いことのほうが重要でした。
必要とする一充電走行距離は、ふだんの使い方によって人それぞれでしょう。私はときどきEVでロングドライブに出かけますが、「ちょい足し充電」にうまく対応できるEVなら、一充電走行距離は400kmもあれば十分だと、いまは思えてきました。
取材・文/生方 聡
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