日本各地でバスのドライバー不足が深刻な課題となっており、自動運転バスへの注目度が高まっています。岐阜市に導入された新型車両にさっそく試乗。自動運転EVバスの開発にも関わるEVエンジニアの福田雅敏氏によるレポートです。
岐阜市内で運行している「GIFU HEART BUS」

日本各地で自動運転EVバスの運行が広がるなか、岐阜市に新型車両が導入されたと聞き、さっそく試乗してきました。岐阜市内では2023年11月からフランス製NAVYA ARMAが3台運行しており、今回はそこに中国WeRide社の新型車両が加わった形です。NAVYAは、ボードリーの前身であるSBドライブ時代の2019年、東京・汐留で日本初の試験走行を行った際、筆者も少し関わった思い入れのある車両でもあります。
岐阜市の自動運転バスは「GIFU HEART BUS」と名付けられ、中心市街地を5年間継続運行する日本初のプロジェクトです。全国はもとより海外からも乗車に訪れる人が多く、乗車人数は令和7年12月時点で8万9千人を突破。市民の生活の足としても定着しつつあり、事前予約をすれば無料で乗車できるのも魅力です。
ここで、レベル4自動運転の実現を見据え、課題だった障害物回避などを自動で行える新車両が、令和8年1月17日から既存の「中心部ルート」で営業運行を開始。一般試乗が1月23日から始まりました。類似した多くの自治体のケースなどでは短期の実証実験にとどまるのに対し、岐阜市は2028年3月31日までの長期運行を計画しており、2023年の運行開始から2年を経ての新型EVバス追加投入となりました。

NAVYA製の自動運転EVバス。
真っ赤な車体がトレードマークの「GIFU HEART BUS」は、NAVYAも新型も共通デザイン。JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」などで知られるインダストリアルデザイナー、水戸岡鋭治氏が手がけており、鮮やかな内装が印象的。外観は街並みに映え、ひと目でわかる赤い車両に丸みを帯びた優しいスタイルが印象的です。
レベル4自動運転にも対応可能な新型車両
新型車両のベースは、中国GOLDENDRAGON(廈門金龍旅行車有限公司)製の13人乗りEVバス「RoboBus」。これをWeRideがレベル4対応の自動運転車に改造し、ソフトバンクグループのボードリーが日本に輸入しています。ボードリーが提供する遠隔運行管理システム「ディスパッチャー」を搭載し、管制室から車両の状態や周辺状況をモニタリングして制御できる構成です。
主要諸元は、全長5,300×全幅2,280×全高2,850mm。CATL製89.16kWhバッテリーを搭載し、エアコン使用時でも航続距離は約200km。最高速度は設計上60km/hですが、日本仕様では40km/hに制限(岐阜市内の運行ではさらに低速)。車両重量は5,200kgです。
新型車両の特徴を整理すると、まず高度なセンシング機能が挙げられます。13台のカメラと5つのセンサーで車両周囲360度をカバーし、信号認識や最大200m先の障害物検知が可能。外に付けられた集音マイクで車外の音も拾い、救急車などのサイレンを検知すると自動的に減速・停止します。
路上駐車車両なども安全に回避

次にAIによる自動走行制御。クルマと歩行者を区別して認識し、それぞれの動きを予測して行動を判断します。路上駐車を見つけると、自ら車線変更して安全に回避して追い越しを行うなど、実交通に近い挙動が印象的でした。
車内レイアウトは実運行を強く意識しており、座席はすべて進行方向向きで、乗り心地と安心感を両立。一部座席は跳ね上げ式で、車いすがそのまま乗り込めるスペースも確保されています。丸みを帯びたデザインとあわせ、初めて乗る人にも「近未来感」と「公共交通としての親しみやすさ」を同時に感じさせる作りです。

定員はベース車で13人ですが、現在はレベル2の暫定運用のため、ハンドルが付いた運転席に加え客席10名分を使用。将来的には立席4名分のつり革も活用し、最大15人での運用を想定しています。
夜間の充電だけで計4台を運用中
運用体制はNAVYA 3台+WeRide 1台の計4台。岐阜市役所・メディアコスモスの駐車場には、WeRideの予備車1台と休憩中のNAVYA 3台が待機しており、ここで夜間に充電(規格はCCS2)を実施。日中の途中充電は行っていないとのことでした。
ダイヤは1日12便で、NAVYAとWeRideが30分おきに交互運行。最高速度は約20km/hに抑えられ、約5kmのルートを40分ほどで一周します。
このWeRide製自動運転バスは、北海道・上士幌町で2月5日から、愛媛県松山市でも3台体制で運行開始予定。松山では、従来のEVモーターズ・ジャパンが提供したEVバスがWeRide車両に置き換わる予定です。
「GIFU HEART BUS」の事業主体は岐阜市で、運行業務は地元の岐阜乗合自動車(岐阜バス)が担当。もともとバス交通が生活の足として根付いた街だけに、自動運転バスも「普通の足」として受け入れられつつあります。名古屋駅からJR快速で約20分とアクセスも良く、EVや自動運転に興味のある方には、気軽に「現段階の日本における実用自動運転」を体験できるスポットと言えるでしょう。
自動運転制御の滑らかさが印象的
実際に乗車してみると、NAVYAと比べて走行の滑らかさが大きく向上しているのが印象的でした。この日は一度もドライバーによる手動介入がなく、右折や追い越しもごく自然。EVならではの静粛性はもちろん、段差を越える際のバタつきも少なく、公共交通機関としてかなり完成度の高い乗り味です。

今回は幸運にもボードリーの担当者が最前列の運転席に座っており、その隣に座らせていただいてNAVYA運行時との違いや進化点を詳しく伺うことができました。
ハンドルは付いているものの、手を添えるだけ、足元にはブレーキペダルとアクセルが隠れていました。また、ハンドルの上にはディスパッチャーの大きな画面がメーターパネルのように置かれていました。そして、運転席上部には、センサーやカメラが検知した人・クルマ・パイロンなどをリアルタイムに表示するディスプレイがあり、「クルマが周囲をどう認識しているか」が一目で分かります。これを眺めているだけでも、自動運転好きにはたまらない時間でした。
ソフトバンクの自動運転プロジェクト初期から10年以上この分野を追いかけてきましたが、車両とディスパッチャーの両方が、ここまで「日常の足」に近づいたかと感慨深く感じます。
一方で、以前レポートしたZOOX(関連記事)のような「ドライバーがいない完全なレベル4車両」が、まだ日本では公道を走れていないのは残念です。とはいえ、WeRideの新型EVバスの乗り味は、ZOOXの時速50kmまで一気に滑らかに加速する潔い走りには及ばないものの、日本の制度や道路環境を前提にした自動運転バスとしては、岐阜のこの新型車両が現時点で最も完成度の高い一台だと感じました。5年にわたり市民の足として運行される意義は非常に大きいはずです。
こうした自動運転バスが全国へ広がれば、過疎地域の移動手段の確保や、インバウンド観光客の移動の課題解決にも大きく貢献するでしょう。その未来の一端をいち早く体験できる場所として、岐阜市の「GIFU HEART BUS」にぜひ一度足を運んでみてください。
【関連情報】
新たな「GIFU HEART BUS」の運行がいよいよスタート!(岐阜市公式サイト)
取材・文/福田 雅敏






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