バッテリーの釘挿し試験も実際に見学
BYD『シール』に中国・珠海市の珠海国際サーキットで試乗することができたので、主に動力性能について報告したい。24年のどこかのタイミングで日本に上陸することがアナウンスされている「アザラシ=SEAL」。サイズも性能もテスラ・モデル3イーターとしての使命を帯びたモデルであることは明らかで、すでに販売されている地域で激しい販売競争を繰り広げているはず。BYDとテスラのグローバルでの勢力争いは激化するいっぽうだ。消費者にとってはいいこと。
今回サーキット試乗したシールに搭載されるバッテリーはリン酸鉄リチウムイオンで、総電力量は82.56kWh。WLTPモードでの一充電走行可能距離は555km(実用に近いEPA換算推計値で約495km)。同社のバッテリーは「ブレードバッテリー」と呼ぶもので、彼らは外部からの衝撃に対して強いことに自信をもっている。
今回も深圳の本社ショールームで一般的なリチウムイオンバッテリー(三元系といわれるNMCタイプ)に釘を刺すと爆発し、ブレードバッテリーに同じことをしても何も起きないというデモを見た。公的機関のテストではないのでなんとも言えないが、BYDには国内の巨大で旺盛な需要があるとはいえ、グローバルのBEVジャンルで1位、2位を争う販売実績をもつということは、一定の信頼感を獲得していることのあらわれだろう。
このバッテリーがフロアのほぼ全体に敷き詰められ、フロントに最高出力160kW、リアに同230kWのモーターが搭載される。システム全体が発揮する最高出力は390kW(530ps)、最大トルクは670Nmに達する。リアモーターのみのRWDも存在するようだが、今回は試乗していない。日本仕様がAWDのみなのか、RWDもあるのかは未定。
テスラ モデル3のライバル車種にサーキット試乗
会場となった珠海国際サーキットでは、先導車が一般道をやや活発に走行する程度のペースで試乗した。せっかくのサーキットなのに、はっきりいってこれではハイパフォーマンスだろうがなんだろうが関係ない。そこで何度か自主的に前のクルマとの間隔を開けて全開加速してみた。シールの0-100km/h加速は3.8秒なので速いのは間違いない。BEV特有の音の高まりを伴わずに速度だけが勢いよく上昇する加速だ。
過去にいくつかのモデルで試乗したテスラの加速にはやや乱暴さもある。シールの加速に、あのように発進直後に背中を蹴られるような感覚はなく、やや車速がのってきてからパワーが増していくように感じた。ノーマルモードとスポーツモードの違いもチェックしてみたが、全開かそれに近い加速ではほぼ違いがわからなかった。緩やかな加速ではスポーツモードのほうがややレスポンシブだったように思う。
コーナーでは4WDならではの安定性を見せた。出口に向かって加速する際、あえてややラフにアクセルペダルを踏み込んでも、リアが外に膨らむ素振りを見せる前にフロントモーターが引っ張るように車両姿勢を維持してくれ、強力な加速でコーナーを脱出する。
終盤はゆっくりと走らせた。ステアリングフィールは良好。アシストは強めだが適切な範囲にある。乗り込んでから車両設定などを調整する間もない短時間の試乗だったし、サーキットの舗装がよく、乗り心地についてはほとんど報告できることがないのだが、ロールは自然で、BEVならでの低重心による安定感もあった。
端的に言って、全面的によくできていた。内装の質感も日欧米の最新のモデルと比べても遜色はない。90度回転して縦長、横長が自在のメインディスプレイも健在。テスラが物理的スイッチを可能な限り廃する方向にあるのに対し、シールはタッチ操作がメインながら、ATシフターのまわりにいくつかのスイッチを残しているのが面白い。
今年51歳の私は、同世代の多くがそうだったように欧州車に憧れ、日本車の成長とともに年齢を重ねてきた。そのため、どうしても日本を除くアジアンメーカーに対する上から目線を拭い去れないでいるが、最近のヒョンデやBYDを取材し、さすがにそれが間違いであることを認識している。
取材・文/塩見 智