BYD『SEAL』にサーキットで試乗レポート第2弾〜優れた加速とブレーキ性能を体感【加藤ヒロト】

BYDが2024年には日本でも発売されるスポーティセダン『SEAL(シール)』のメディア向け試乗会を、中国の珠海国際サーキットで開催。EVsmartブログからは複数の執筆陣が参加しました。第2弾は、現役大学生にして中国車研究家、加藤ヒロト氏のレポートです。

BYD『SEAL』にサーキットで試乗レポート第2弾〜優れた加速とブレーキ性能を体感【加藤ヒロト】

「SEAL」の日本発売は2024年春と発表

2023年10月中旬、BYD主催のサーキット試乗会および深圳にあるBYD本社見学に参加しました。

中国の自動車メーカー「BYD」は2022年7月に日本の乗用車市場への参入を表明、日本向けに全てBEVであるSUVの「BYD ATTO 3」、コンパクトカー「BYD DOLPHIN」、そしてセダン「BYD SEAL」を投入すると発表しました。その後、予定通り2023年1月より「BYD ATTO 3」を販売し、2023年9月末時点で約800台をデリバリーしています。次なる「BYD DOLPHIN」も2023年9月に無事発売開始しており、当初の計画車種の中で残るは「BYD SEAL」となっています。

BYD SEALは日本での発表当初、2023年下半期の発売を予定しているとアナウンスされました。でも、BYDは2023年10月28日より一般公開となる「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に中国の自動車メーカーとして初出展しており、そこでBYD SEALの発売時期が2024年の春となることが発表されました。

なお、JAPAN MOBILITY SHOWのBYDブースにはこれ以外にも、ともにBEVであるプレミアムブランド「仰望(ヤンワン)」の高級オフローダー「U8」、ダイムラーと共同設立した「デンツァ(騰勢)」の電動ミニバン「D9」(中国ではPHEVもラインナップ)が日本初公開されています。日本の国際モーターショー初参加ながらもEVバリエーションの広がりをアピールする展示内容となっています。

アジア各国からメディアやディーラー関係者が参加

今回のツアーは2023年10月8日から12日までの5日間で組まれ、日本のみならずマカオやオーストラリア、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ネパール、バングラデシュなどのアジア太平洋諸国から総勢約350名が参加しました。それぞれの国からの参加者は日程をずらして試乗会や本社見学がおこなわれましたが、日本からの取材陣にとっての初日の夜は全参加者が一緒にホテルでの歓迎パーティに参加しました。

歓迎パーティではBYDの日本法人トップを務める劉学亮氏が、BYDアジア太平洋セールス部門のジェネラルマネージャーとして挨拶をおこないました。その他にも、BYDの販売を手がける現地ディーラーの社長がオーストラリアとタイから参加し、それぞれの地域におけるこれまでの実績、そしてこれからの展望について語りました。

その翌々日には場所を広東省珠海市にある珠海国際サーキットに移し、BYD SEALのサーキット試乗会が実施されました。珠海国際サーキットは1996年11月に中国初の常設サーキットとして開業、当時はFIA F1世界選手権のレース開催も視野に入れていたのですが、今日まで一度もF1のレースは開催されたことがなく、現在は特定の地域・国のみで開催されるリージョナルな選手権に留まっています。

サーキットに到着すると、まずは担当者から簡単な説明が行われ、その後、ドリフト界におけるレジェンドの土屋圭一氏と塚本奈々美氏が登場。これに関しては我々も知らされていなかったサプライズ演出でした。両名は試乗会の合間にBYD SEALで豪快なドリフトを実演し、日本を含めたアジアからのメディア関係者たちを大いに盛り上げてくれました。

土屋選手のドリフト走行シーン。

ちなみに、日本からの参加者は全員メディア関係者でしたが、他の地域からの参加者はメディアだけでなくディーラー関係者も含まれており、サーキットでの走行に慣れていない人も少なくない印象でした。コーナーを曲がる際のポイントや、ライン取り、ブレーキング、そしてハンドリングまでかなり細かく説明され、比較的慣れている私にとっても改めてサーキットを走る際のポイントを再確認することができました。

会場の特設ブースでは試乗会以外にも、特別ラッピングを施した実車の展示やシミュレータ、そして食事なども用意されていました。自分の試乗の番が来るまではシミュレータを軽く触る方も多く、実際に私も体験してみました。ソフトはレーシングシミュレータ「アセットコルサ」にBYD SEALと珠海国際サーキットのMODをインストールしたもので、各種テレメトリ、走行に関わる細かな設定まで高いクオリティでした。そうこうしているうちに自分の番が来たのでじっくりと触ることはできませんでしたが、ちょっとした息抜きにはぴったりでした。

スムーズでパワフルな加速と優れたブレーキ性能を実感

番号を呼ばれるとまずはヘルメットを装着するように指示されます。レーシングスーツやグローブなどはなく、「動きやすい服装と靴+ヘルメット」という状態で試乗車に乗り込みました。車内には一人しか乗らないと思っていたために助手席にBYDのスタッフが座っていたことには少し驚きましたが、おそらくは安全確保のためでしょう。

実はこの時、私がBYD SEALに乗るのは初めてではありませんでした。2023年7月に日本のサスペンションメーカー「テイン」主催の試乗会に参加の機会があり、テイン中国工場(江蘇州宿遷市)近くにあるミニサーキットで試乗しました。ですが、そのサーキットはゴーカートを想定したスケール感だったので、初となる本格的な国際サーキットでの試乗はとても高揚感にあふれたものでした。

今回用意されたSEALの試乗車は複数あるグレードの中でも、最上位となるモデルです。バッテリーは容量82.5 kWhのリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、前160 kW(214 hp)・後230 kW(308 hp)のモーターを搭載、最高出力は390 kW(523 hp)を誇ります。四輪駆動モデルなので航続距離はCLTC値650 kmとなりますが、後輪駆動モデルではわずかに増えて700 kmとなります。日本向けには四輪駆動モデルがWLTC値で555 kmとされているのに対し、後輪駆動モデルの数値は未発表の状態です。

ひと度アクセルを踏み込めばしなやかに加速します。もちろんベタ踏みすれば670 Nmという驚異的なトルクが演出する0-100 km/h加速 3.8秒の加速力を堪能することもできますが、今回は節度をもって走る試乗会、前にも後ろにも他の参加車両がいるためにあまり思い切ったことはできません。とはいえ、珠海国際サーキットは鋭いコーナーが多く、そのコーナリングのためのブレーキ操作と前後のストレート区間における加速が肝心となるレイアウトです。試乗でも優れた加速とブレーキ性能を目一杯体験することができました。

ホームストレートでは190 km/h近くまで踏み込みましたが、その速度域においても車体がブレることはなく、ある意味スピードを感じさせない安定した乗り味という印象を受けました。ブレーキはディスク面に穴を加工した「ドリルドローター」を採用しており、爆発的な加速力に見合うブレーキ性能のために純正でもここまでやるのかと驚きました。もちろん一般的なハイパフォーマンスカーが純正でドリルドローターを採用することは珍しくありません。ですが、BYD SEALがここまでスポーツ性を備えているとは思っていなかったので、これに関しては大きな気づきを得ました。

実際にコースを数周してボディ剛性から十分なトルクとパワー、そしてブレーキはとても良いものであると感じましたが、一点だけ物足りなさを感じたのがサスペンションです。これに関しては先述の通り、テインの試乗会においてBYD SEALを「純正」「純正向上品のEnduraPro Plus」「スポーツ車高調のFLEX Z」「FLEX Z+自動減衰力コントローラEDFC5」の4セッティング×各30分じっくりと試したために、純正との大きな違いをどうしても感じてしまったのだと思います。

純正状態でのBYD SEALは細かなギャップを拾ってしまうためにバタつき感が強く、また一定の速度域でのコーナリングも早い段階で限界が来るのを感じました。遠心力がもたらすロールも割と大きく、踏ん張りを効かせないといけない場面もちらほらありました。もちろん純正サスペンションに高いパフォーマンス性能を求めるものではありませんが、サーキットでの試乗ということでこの辺りは気になってしまいました。

一方でテインの車高調「FLEX Z」を装着した状態ではコーナリング時の嫌なロールが抑えられ、またコース上に細かなアップダウンがあっても吸い付くように走ってくれます。安定感が増すことは加減速の余裕にも繋がるので、純正状態に比べていくぶんかラップタイムを縮めることができました。BYD SEALはボディとパワートレインにおいてすでに申し分のない性能を有していると感じたので、あとは適切なサスペンションやタイヤを選ぶことで、ちょっとしたサーキット走行会でも楽しめるスポーツセダンへと変化するのではないかという印象を受けました。

日本では手頃な価格で手に入れられるスポーツBEVがまだまだ多くありません。BYDとしては日本での展開を考えた時に具体的なターゲットを絞らないとしていますが、個人的にはサーキット試乗会で見せてくれたようなスポーツ面でのポテンシャルをもっと前面に押し出しても良いのではと思いました。

取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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