DMM EV CHARGE が日本初のNACS対応急速充電器公開〜発表に感じた「大丈夫ですか?」

DMMが日本初となる「NACS」と「CHAdeMO(チャデモ)」の両規格に対応するダブルコネクタ方式のEV用急速充電器の実機と、設置場所の事業者に向けた「0円プラン」の提供開始を発表しました。充電料金は55円/kWhを予定しているとのこと。発表内容には「大丈夫ですか?」と感じる点もありました。

DMM EV CHARGE が日本初のNACS対応急速充電器公開〜発表に感じた「大丈夫ですか?」

「DMM EV CHARGE」のサービスと発表の概要

動画配信サービスで一躍メガベンチャーに成長し、今ではDMM自身が「なんでもやってるDMM」というコピーを使うほど、文字通りのなんでも屋が、2023年5月にEV事業部を発足させ、EV充電スポットサービス(急速&普通充電)を開始しました。(※正式社名は「合同会社DMM.com」ですが、本記事では「DMM」で表記します)

2023年12月12日、東京都内で開催された記者発表会では、開始6ヵ月後(2023年11月)で申込台数5,000口(普通充電器)を受注したことをアピール。テスラの充電規格をベースにした「NACS(North American Charging Standard=北米充電標準規格)」と日本発の規格である「CHAdeMO」の両方にそれぞれ対応したコネクタをもつ急速充電器の実機を日本で初めて公開するとともに、最初の取り組みとして2024年度中に設置を目指す急速充電器1,000口のうち100口を、初期費用・月額費用・電気代のすべてを0円で導入できるプランを提供することが示されました。

プレゼンターの合同会社DMM.com EV事業部 事業部長 坂垣良太氏。

また、来期中にはNACS規格とのダブルガンを含めて1,000口の急速充電器と、9,000口の普通充電器、合わせて10,000口の設置を行うことを目標にしているとのことです。

記者発表会資料。新型ダブルコネクタ急速充電器の仕様書。出力90kW、液冷式であることにも着目したい。ケーブルは従来の90kW器に比べて細くて扱いやすかった(実際の動作は未確認)。

DMMがEV充電サービスを開始した背景は、米国296万台、中国1,410万台というEV販売台数に対して日本は41万台と普及率が低い現状であるものの、日本政府が掲げる2035年までに新車販売を電動車100%、および2030年までEV充電器の設置30万口(2022年時点は約3万口)とする目標があり、これからますますEV普及が進み、充電インフラの需要が高まることを挙げていました。

また、国内の急速充電器の規格ごとの口数比率は、チャデモが95%に対してNACS(テスラ専用ステーション)は5%と圧倒的に少なく、テスラユーザーには不便な状況であることを指摘。「EVをもっと楽しく。ぐっと身近に。」というスローガンの実現を目指すことを強調しました。

記者発表資料から抜粋

ここまでは、記者発表会のプレゼン内容をそのまま要約したものです。EVへの造詣が深い方は、「あれ? 大事な説明が抜けてない?」と思われたのではないでしょうか?

プレゼン後の質疑応答では、筆者と同席したEVsmartブログ編集長の寄本さんをはじめ複数の参加者からの質問が出ましたので、その全質問とDMMの回答(プレゼンターの坂垣良太氏が回答)をお届けします。

全質疑応答の要約

Q:なぜNACS規格の導入をしたのか? テスラオーナーからの要望があったのか?
A:最大の理由は、テスラが規格の仕様を公開したこと。DMMは、より早く市場に導入し、EVインフラ不足の課題を解決したかったから。
(宇野の所感)テスラオーナーの要望やニーズについての回答が得られなかったのは、徹底したマーケティングがされていないのでは? と推測しました。

Q:エンドユーザーの料金形態は?
A:一律1kWhあたり55円の従量課金で検討を進めている。

Q:一充電施設あたりの平均口数(これまでの実績)と今後の目標は?
A:サービスインの2023年5月から今までと2024年に設置するところのほとんどが普通充電器で、1口。今後は、NACS・CHAdeMO両規格対応の急速充電器が増えていくので2口(1基)が増えていくことになる。

Q:NACS・CHAdeMOの2台同時に充電したときの出力分配制御はどうなっているのか?
A:同時充電時の仕様については、メーカーと最終調整中。

Q:経産省の充電インフラ補助金を受けるにあたり、CHAdeMO認証取得が必要だが、NACSについては?
A:現段階でNACSは認証が取れていない。これからメーカーと交渉しながら認証を取りにいく。

Q:NACSは、どこが認証するのか?
A:確認して回答する。
(注)充電インフラ補助金の対象機種となるには、認証機関の認証を得た上で、経産省補助金執行団体への対象機種認定の申請を経て、対象充電設備一覧に明記される必要がある。

Q:100口の無料設置はいつまでか? この100口は、ダブルコネクタ急速充電器50基という解釈でいいか?
A:ダブルコネクタ50基を目標としている。この設置は、2024年度の補助金で設置する。同年夏~秋から設置が始まる見込み。

Q:NACS対応の急速充電は他社も発表している。「日本初」とは、どのような意味なのか?
A: NACS対応の発表は確かに他社も行っている。実機を伴った発表はこれが日本初である。

Q:テスラの日本法人と話しをしているのか?
A:していない。

Q:テスラスーパーチャージャーとの仕様の違いは?
A:開発担当者に確認後、後ほど回答する。

発表内容で「気になったところ」と「課題」

以上が、記者発表会の一部始終をまとめたものです。筆者は発表会場を後にしてオフィスに戻り、資料とプレゼンと質疑応答の録画データをチェックしていると、ふつふつと気になるところと課題が浮き彫りになってきました。

テスラユーザーはそんなに街なかのチャデモを使ってる?

筆者が知るところでは、テスラユーザーは自宅充電とスーパーチャージャーでの運用が中心であるという認識です。テスラ日本法人の方から直接聞いた話では、自宅充電設備がなくても、テスラスーパーチャージャーのみで運用するテスラオーナーも少なくないとのこと。

筆者もテスラ車に試乗し、遠方に出かけていますが、航続可能距離に対して適切な立地にある、CHAdeMOに比べるとはるかに高出力で、30分の時間制限を受けずにスマートに充電が可能なスーパーチャージャーのおかげで不便を感じたことはありませんでした。そもそも、北海道などスーパーチャージャーのネットワークが手薄な一部のエリアを走るケースや、高速道路のロングドライブで「ICで下りてSCへ行くのが面倒だな」といった場合を除き、テスラユーザーはCHAdeMO規格の急速充電ネットワークにそれほど依存していないはずです。

またテスラは、ユーザーの増加に合わせてスーパーチャージャーの意欲的な設置を進めています(もうすぐ複数台設置のステーションが全国で100カ所に到達)ので、テスラユーザーで急速充電に不便を感じている人は多くないでしょう。

記者発表会では、NACS規格の急速充電器は5%としかないことを理由にしていましたが、テスラスーパーチャージャーは単純な数の比較では現れない利便をテスラユーザーに提供しています。たしかに、チャデモ規格での充電でアダプターを使うと最大出力はアダプターの制限で50kWになってしまうので、NACSをそのまま挿して最大90kWを利用できるのは、テスラユーザーにとってのメリットです。はたして、NACSとのダブルガンがEVユーザー全体の利便性を高めることに繋がるのか。テスラユーザーがスーパーチャージャー以外にどのくらいNACS対応の急速充電器を求めているのかなど、この点、しっかりとしたマーケティング結果を見てみたいものです。

合理的で持続可能な急速充電器になるのか?

さらに、発表された急速充電器はNACS&CHAdeMOのダブルコネクタにすることによって、各規格で利用できるのは実質1口だけになっています。つまり、機種自体は複数口の仕様であるにも関わらず、複数口とは呼べない施設になるということです。

また、従量課金一律55円/kWhで、事業の持続が可能なのかどうかも疑問です。最大6kWの普通充電サービスで示されている料金と同額のようですが、90kWの急速充電器は初期投資が大きくなるのに加え、高圧受電のデマンド基本料金やメンテナンスなどに高額なコストが必要です。

発表会後、関係各所に確認したところ、やはり、日本国内でNACS規格製品の認証機関はまだ存在していません。

テスラとしては、NACSは北米標準として公開している規格なので充電器の開発自体は「ご自由に」ということになるのでしょうが、テスラ車のオーナーが利用する設備になるのですから、テスラともしっかりとコミュニケーションを取り、全モデルについて入念な動作確認を行うべきだと思うのですが、どうなのでしょう。

加えて、経産省がNACSという未知の規格に対して、DMMのダブルコネクタ急速充電器を2024年度以降の充電インフラ補助金の対象機種とする承認を出す見込みがあるのかどうか、この点はDMMに再度確認中(回答いただき次第追記します ※記事末に追記しました)です。もしかすると、補助金なしでも前進! するのかも知れません。

いろいろと課題がありますが、個人的にDMMのいろんなサービスはイノベーティブで好きだし、NACS対応の急速充電器をこのタイミングで発表したスピード感は、正直「さすが」とも感じます。

ただ、今回の発表は「日本初」のNACS規格対応急速充電器のお披露目が主な目的だったということになるでしょう。認証取得をはじめとするサービス開始までのロードマップや、エンドユーザー側の料金形態、サービス内容は、もっともっと調査や調整が必要、早期に具現化しないといけないだろう、というのが筆者の正直な所感でした。

また今後も「DMM EV CHARGE」の動向を追いかけて、必要に応じて記事等にてお伝えしたいと思います。

【2023年12月14日追記】 DMM.com の広報ご担当者から「補助金対象機種となる見込み」について「弊社としては承認を得られる見込みで随時交渉を進めていく想定です」と回答をいただきました。充電器本体の型番は承認を得ている機種なので、NACS仕様のケーブルへの判断(おそらく前例も規定もない)がどうなるか、ですね。充電インフラの多様化という観点からは、無事に動作確認&承認されてテスラ車での充電場所選択肢が広がるのは歓迎すべきことだと思います。(寄本)

【2023年12月15日追記】 発表会当日、充電器本体のプレート表示で「90kW(200A)×2口で180kWが最大出力」であることやメーカー名を確認しましたが、DMM.com の広報ご担当者から「メーカー名は非開示」との要望がありました。EVユーザーとしては知っておきたい情報ですし、筐体デザインなどで調べればわかることであり非開示の理由はわかりませんが、私の想像を超えた不都合があるのかも知れないので、プレートの写真を削除しました。(寄本)

【動画】記者発表会プレゼンと質疑応答の一部始終を収録

取材・文/宇野 智(寄本 好則 ※一部補筆)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. はじめまして。新潟県内の小さな町でアパートをいくつか持っている者です。記事の内容とずれてしまい、すみません・・・。昨年春頃に、アパートに(無料で)DMMの充電設備を付ける話を進めていたのですが昨年の経産省の補助金申請には間に合わなかった、ひいては次年度(6年度)に、ということで先月申請したらしいけど、昨日メールで回答があり「不採択」だった、と。そもそも田舎のアパート向けに付けるつもりなんてあったんだろうか不思議。担当者とのやり取りも稚拙な内容ばかりだったし、本気度が感じられなかったです。

  2. ポイントは高速のSA,PAだと思います。
    テスラが高速のSA,PAで充電しようとするとアダプターを介さなければならず、CHAdeMO充電で制限がかかるためMAX50kWとなる。
    NACS規格に対応したコネクタなら、充電器の性能を制限なく享受できるのは大きい。

    今後もMAX90kWの設置をメインに想定しているイーモビが推し進めるCHAdeMOの場合、高出力に対応したBEVは日本仕様を150kWレベルにコストをかけてデチューン、そのコストは車両価格に反映され、ユーザーが背負うという状況。

    それであれば、DMMなどの新規参入の充電プロバイダーにNACSやCCS2に対応した急速充電器を経路充電として設置を推進、高出力に耐えられないCHAdeMOは、PHVや低出力のBEV向けとして完全棲み分けをするのが得策と感じる。

    そうすれば、海外メーカーも日本だけでしか販売しないCHAdeMO規格にカスタムする必要がなくなり、コスト面でも負担がなくなる上、中古市場においても日本国内でしか売れないCHAdeMO規格の車両とで比較すればどちらが良いか一目瞭然だと思う。

  3. >国内の急速充電器の規格ごとの口数比率は、チャデモが95%に対してNACS(テスラ専用ステーション)は5%と圧倒的に少なく、テスラユーザーには不便な状況であることを指摘。
    対象になる電動車両(EV+PHEV&PHV)の車両数とテスラ車の台数を考えると当然なのでは?
    関西の某イオンモールにもスーパーチャージャーが8台設置されていて、それなりの期間を色々な時間帯で見た限りではほとんど(ほぼ全てと言って良いかも?)が利用台数0台、多くても2台同時充電が1度だけ?でした。
    「イオンモールにスーパーチャージャーを設置して欲しい!」とネット上などで声を出している割には実際に設置されてもスーパーチャージャーを使わないのね。と思ってしまった。
    そう考えるとDMM EV CHARGEでNACS対応急速充電器を設置しても利用する人はすごく限られるのでは?と想像しています。

    1. みきひこ さま、コメントありがとうございます。

      認証課金は、アプリだと思います。いずれにしても、PnCは無理、ですね。

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この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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