【燃費、充填について】
クラリティFCの燃費を評価するには、走行距離と走行パターンが不十分だが、結果をありのままに報告すると、5回充填し、104.2km/kg、48.2km/kg、107.3km/kg、86.1km/kg、76.7km/kgだった。トータルでは1343.3km走行し、17.5kg(計2万1743円)の水素を入れたので、76.8km/kgという結果となった。期待よりはかなり悪かったが、他の長距離走行の燃費報告を見ると、100km/kgを超えているものもあるので、ホントかなと思いつつ、自分の走りが乱暴だったのかなと反省している。
しかしFCVに関する一般論として、燃費性能やそれによる燃料代よりも、水素を充填したい時に充填できるかということのほうが気になる。一般社団法人次世代自動車振興センターによれば、20年7月時点で水素ステーションの数は135カ所。首都圏、中京圏、関西圏、北部九州圏の四大都市圏とそれらを結ぶ幹線沿いを中心に整備が進められているという。まずそれらの都市圏を外れる地域の方々にとってはFCV購入は現実的ではない。四大都市圏に住む人でも、近所(何km以内を近所と定義するかは人それぞれなので難しいのだが)にステーションがなければ検討しないほうが無難だ。
そして近所にステーションがあっても、夜間営業しているステーションはほぼ皆無なのと、しばしば臨時休業があるために油断できない。また営業していても、長期にわたって本来の性能(充填圧力)を発揮できないまま営業しているケースもある。そのため、近所に複数のステーションがあるという地域に住んでいる人でないと、自信をもってFCVをオススメできない。
【動力性能、乗り心地、快適性】
クラリティFCに話を戻すと、動力性能は十分。車重が1890kgと絶対的に重いので、重厚でゆったりした挙動を基本とするが、低速トルクの豊かさによって遅いとは感じない。BEVに備わる鋭い発進、中間加速を期待すると肩透かしをくう。刺激を抑えた特性だ。ただしBEVの鋭い加速も最初こそ楽しいが、やがて慣れ、飽き、しばらくすると穏やかに加速するようになる。スポーティーな走りを望まない場合でもレスポンシブなスポーツモードのほうが運転しやすいと感じた。
加速力に不満はないが、FCVのため、BEVのようにアクセルオフでの強い減速を使えないのが寂しい。バッテリー容量がHV並みと小さいので、BEVのように回生ブレーキによる強い減速を得られない。またHV、PHEVには備わるエンジンブレーキもないため、FCVは電動車としてはブレーキペダルを使って減速する機会が多い。
ちなみにアクセルオフでの強い減速を使ったワンペダルドライブに関してはメーカーによって考え方が異なる。先日マイルドハイブリッド版が発売されたマツダMX-30のエンジニアは、ワンペダルドライブを可能とするような強い減速をEV版MX-30に与えないと話す。理由は足を戻す動きによって微妙なコントロールをしなければならないことをよしとしないからだそうだ。正解はなく好みの問題だと思うが、自動化が進むと懐かしい議論になるだろう。
乗り心地は良好。世の多くのBEV同様、静粛性は高い。ロードノイズが聞こえる速度まではほぼ無音。電源をオフにした直後、コンコンコンという音が聞こえるが、クルマを離れる際に聞こえる音なので問題なし。
【デザイン、パッケージ】
デザインは今話題のHONDA eと同じデザイナーがとりまとめた。クラリティFCのデザインを最初に見た時には戸惑った。率直に言うと、ちょっと変だなと思った。特にボディ側面から見た場合の天地方向への分厚さが気になった。ただフロントのいわゆるエンジンベイにスタックとモーターを重ねて収め、車両後部に大小2個の水素タンクを配置し、5人乗りを実現したうえでラゲッジスペースも確保するとなると、かなり窮屈なパッケージングであることが容易に想像できる。
燃費のために空力性能も求められただろう。テールパイプがない分、車体底部をフラットにはしやすいだろうが。そういったことを理解したうえで毎日見続けているとだんだん違って見えてきた。
フロントマスク両脇にあるL字型のLEDのデイタイムランニングランプについては今も馴染めないが、リアウインドウからトランクリッドにかけてのなだらかで美しい処理や、リアタイヤの一部を隠すスカートは、このクルマを上品に見せている。あくまで個人的な見解だが、ハンサムではないがじわじわと魅力的に見えるという意味で、フランス車のようだ。今ではアヴァンギャルドないいデザインだと思える。
【使い勝手】
パッケージング上の最大の特徴は、登場時唯一のライバルであった初代トヨタ・ミライが4人乗りなのに対し、5人乗りを実現したことだ。ミライはFCスタックが前席下にあるのに対し、クラリティFCはフロントへ押しやったのが活き、後席周辺のスペースにあるのだ。ラゲッジスペースは、奥の方が後席背後に水素タンクがあるために一段浅くなっているが、全体としては十分だ。左右幅が広いのはゴルファーにとってはありがたい。
運転席まわりのデザインは凝っているが、あまり使い勝手がよいとは言えない。ATシフターの下にあるストレージは容量はたっぷりあるが、小物を出し入れしにくく、入れたものが見えないので、クルマを離れる際に持ち出すのを忘れがち。慣れが解決するのかもしれないが。
【結論】
冒頭に充填に関する懸念を書いたが、現時点ではそのことがFCVに関するすべてであり、EV/PHV、それにICEとは購入に対するハードルの高さが根本的に異なる。FCV購入を検討できる地域に住む人で、EVに興味、関心があるが、自宅に普通充電設備を用意できないため、BEVの購入を検討できないという人にとっては面白い選択肢だというのが、1カ月使って得た結論だ。ただし、休日、きままにあちこち遠出したい人はFCVには向いていない。
資源エネルギー庁は25年までに全国の水素ステーションの数を320カ所に増やすことを目標としている。仮に将来十分な数の水素ステーションが設置され、深夜営業するステーションが増えれば、FCVは現状の性能のままでも十分に魅力的な存在となる。
まもなくトヨタ・ミライが戦略的な価格と性能を備えてモデルチェンジすると言われており、これがどこまで台数を押し上げるかに注目が集まっている。FCVが増えないと水素ステーションが増えないし、ステーションが増えないとFCVは増えない。このあたりは政策次第だ。そんな中、大型車両は乗用車よりもFCVへの期待が高い。大型車のために水素ステーションが増えれば、それは乗用車にとっても好都合だ。
【短期集中連載インデックス】
第1回●静かなる燃料電池まつりが始まった(2020年9月8日)
第2回●岐阜=東京往復レポート(2020年9月20日)
第3回●水素ステーションの現状(2020年10月11日)
第4回●燃料電池自動車の評価と可能性〜まとめ(2020年10月27日)
(取材・文/塩見 智)
トヨタが始めたことからミライになったわけだけれど。
これって完全なミスリードだと思う。
締め括りで大型車向けと結論付けているようにトラック/バス向けのシステムだと思う。
BEVのeCANTER以外は市販化されていないが近距離の定期配送なら営業所で充電出来るのでFCVより取り回しがいい。
コミュニティバスなども同様でしょう。さしあたってはキャラバンのEV化と無くなってしまったeNV-200をモデルチェンジのタイミングで構わないので出直してもらいたい。
しかし幹線便となると圧倒的に航続距離が足らないのでBEVでは無理。
うむ。軽貨物さんに同じく大型バストラック向けと感じます。
ただしひとつ疑問、なぜか鉄道車両用には出てませんよね!!特に効率か最優先のJR東海が採用してないのがおかしいです。
一鉄オタの持論、ホントに効率的なら非電化の鉄道路線に使われるべきですが…そのJR東海が非電化長距離路線の高山本線へ水素システム搭載の車両でなくディーゼル発電機+モーター+蓄電池の車両を試験導入している地点で命運は決まっている気がします。おそらく名古屋に車両吉がある関係で水素ステーションの万一の爆発を危惧しているんじゃないかと。
それこそ非電化鉄道ばかりのJR北海道も開発費/初期導入費用/安全性などの観点から採用を見送っている可能性が高いです!!
そこから逆算すれば、政府行政のバックアップなくして水素社会が成り立つとも言えますよ!?それよりはJR東日本・JR九州のように各駅停車を蓄電池電車へ置き換えるほうが初期費用リスクとも少なくなる訳で。
※クルマ以外の論点を持てば電動化やエネルギーソースがわかりやすくなるんじゃないですか!?もっともこのブログで鉄オタは少数派ですが(爆)
「FCVは発熱でスタックが80℃近くになり」ということですと,普段からかなりの熱損失があるということなんですね。白熱電球とLEDの比較からも分かりますが熱が出る程エネルギー効率が悪いということになります。暖房時には役立つと思いますが,冬以外は無駄な熱を発生させているということになりますか。
ホンダのは燃費が悪いみたいだね。
私はこれまで40,000キロ以上乗ってトータル燃費は108km/kgこれは、大昔評論家の松下さんが書いていた燃費とほぼ一緒。
水素ステーションの設備投資は高額なので補助金がたっぷり出ないと民間事業者は手が出せないのではないでしょうか?個人所有の自動車としてはFCVはもうあきらめた方がよいと思います。バスや長距離輸送のトラックには可能性はあると思いますがこちらも補助金頼みでしょうね。私としてはFCV電車がいいのではないかと思います。線路沿いに電柱を立てる必要もなくなりますし電気設備も大幅に無くせるので費用対効果は高いのではないでしょうか?
BEVに興味津々さんに同じく、超高額な水素ステーション建設は民間ユースには向かないと思います!そして万一の災害被災時に爆発する危険も考えると尚更手が出しにくいでしょう(被害額が膨大)。
なので民生用としては無理、事業用である程度生き残るのみかと。
非電化鉄道向けにFCV特急電車、アイデアとしてはアリですが…上述の危険性を考えると及び腰じゃありませんか?…JR東海が高山本線などで試験中のディーゼルエンジン+モーター+蓄電池(なんと東芝SCiB)タイプ特急電車HC85系が出た地点で察しはつきましたが。
※以上鉄オタのお目汚し、失礼しました。
ヒラタツ様、鉄オタさんとのことで、、
電車って回生があるんじゃなかったですか?FCVだとそれなりにバッテリーを搭載しないと回生失効になってしまうような、、
電車って、架線側に回生できないんでしょうかね。。バッテリーじゃなく。FCVと全然スレ違いですが。
電車は回生を架線に戻して別の電車の始動に充てるようですが、電化されていない区間では車両で回収する必要があると思います。
キャパシタかな…
安川さん、もばるさん、こんにちは。
まずは電力回生の話から。
ディーゼル発電ハイブリッド鉄道車両は大概蓄電池も備えてますからクルマでいえば日産セレナe-POWERと同じじゃないですか?
実際JR東海のHC85系ディーゼル発電機付試験車両も回生用蓄電池として東芝SCiBを採用してますし…当然インバータも東芝製、それらは重々承知での設計でしょう。
次いでFCV(燃料電池車)の話、化学ネタです。
反応式は2H2+O2⇔2H2O、右向きは多いが左向きは常温では条件を変えないと難しく、当然蓄電池は必須と考えるべきです。仮に化学平衡が気圧などの条件で変わったとしても反応速度が遅ければ話になりませんし。
このあたりは理工系知識を総動員しないと厳しいんじゃないでしょうか!?
実際に運用されたレポートはとても役立つものと感じました。
まずはお礼申し上げたいと思います。
燃料費を距離で割ってみると約16円/Kmとなるでしょうか。
燃費の良いガソリン車と比較するとちょっと厳しいでしょうかね。
そしてEVの場合は深夜電力で充電すると約2円/Km程度?と比較になりませんね。
しかしEVに実際に乗っていて気付くのはヒーターを入れると航続距離が半減することです。
FCVの場合がどうなのかは興味がありました。
ガソリン車は排熱をそのまま利用できますがFCVもそうなっているのでしょうか。
時節柄ヒーターを入れる機会はありませんでしたが、FCVには内燃機関はないので排熱を利用することはできず、BEV同様ヒーターを入れると航続距離を減らす要因になると思います。
ミライはオートエアコン使ってもそんなに航続距離減らないよ。一年中入れっぱなしだが、春秋等燃費が良いシーズンで120km/kg位
冬の悪いシーズンで110km/kg位
あと、長距離ドライブなら航続距離500キロは走れるから余裕を持って400キロ程度のドライブが可能。EVより週末ドライブ向き。近くに水素ステーションが有ればね。都内なら365日夜9時まで営業してるし。近くにステーションが無い人には向かない。
FCVは発熱でスタックが80℃近くになり、その熱を利用して暖房しているので、BEVのように燃費は下がらないと思います。一方で冷房はBEVと同じように燃費下がると思います。
面白い記事ですねさん、そうなんですね。ありがとうございます。