※編集部追記
発電方法別の発電容量と、燃料電池発電の水素調達先について確認の上、記事に追記しました。(2022年1月25日)
なぜ浪江町でエネマネの実用化検証を開始したのか?
福島県は、常磐道が通る海沿いの「浜通り」、東北道が通る阿武隈高地と奥羽山脈に挟まれた内陸で福島市などを含む県中部の「中通り」、県西部で越後山脈と奥羽山脈に挟まれた「会津」の3つの地域で構成され、それぞれ地形、気候、交通、歴史に顕著な特色の違いがあるところです。
浪江町(なみえまち)は、浜通りの中間よりやや北側に位置しており、面積は223.1k㎡、東京23区のおよそ3分の1程度の広さです。
浪江町は、2011年3月11日に発生した東日本大震災、東京電力福島第一原発事故により町内全域に避難指示が出されました。その8年後、2019年3月31日にようやく「帰宅困難区域」を除いて避難指示は解除されましたが、今でも、帰宅困難区域には住民は戻れず、その区域を通る道路は歩行者と自転車は通行することすらできない状態です。
浪江町から福島第一原子力発電所までの距離は、最も近いところで約4km、浪江町役場までは約8km、中通りに位置する二本松市との境界に近い山あいの津島支所までは約30kmとなっています。
東日本大震災発生当時の浪江町の人口は約21,500人。震災前は、福島第一原発で働く人々が浪江町で一杯ひっかけて帰っていく、といった飲食店が多い賑わった街でした。しかし、現在の住民登録者数は約16,400人、実際の居住人口は約1,600人という状況になってしまいました。
2013年4月からは、空間放射線量が低い順に3つの区域にわけられ、うち2つの地域で日中の立ち入りが可能となり、復興が急がれました。そんな中、2018年3月26日、日産と住友商事が共同出資した日産リーフのバッテリー再生工場「フォーアールエナジー(4RE)浪江事業所」が開所します。この工場は、国内初となる車載用バッテリー再生事業を行うもので、浪江町の地域経済の発展に期待されるともに、新たなまちづくりのパートナーなりました。
浪江町は震災後、再生可能エネルギーに積極的に取り組み、2021年2月に日産と「福島県浜通り地域における新しいモビリティを活用したまちづくり連携協定」を締結、再生可能エネルギーの利活用、低炭素化に向けた取り組みをさらに強化しました。
この協定では、EVを活用した地域モビリティサービス実証実験「なみえスマートモビリティ」も実行。2022年は、この実証実験も第3フェーズに入っています(詳しくは後日公開予定の記事で紹介します)。
そして、今回のEVの充放電システムを活用したエネルギーマネジメントシステムの実用化検証の開始に至った、という経緯があります。
EVの充放電システムを活用したエネルギーマネジメントシステム
このEVの充放電システムを活用したエネルギーマネジメントシステム実用化実験は、浪江町の公用車「日産 リーフ」を活用し、日産の充放電制御システムをPCS(パワーコントロールシステム)に搭載、風力発電および太陽光発電システム、水素燃料電池といったRE発電設備から得た電力で構築、運用するものです。
エネルギーマネジメントシステム概要
エネルギーマネジメントシステム概要は次の4点。齟齬がないよう、プレスリリースの原文をそのまま引用します。
・太陽光、風力、水素燃料電池からの発電量と、商業施設「道の駅なみえ」の電力需要の情報を基に、PCSに搭載された充放電制御システムが、EVの充放電を自律的に行う。
・本充放電制御システムは、浪江町で公用車として使われている5台のEVのバッテリー残量や使用パターン(走行距離、出発時刻など)を考慮し、また「道の駅なみえ」の電力使用状況に応じて、充放電を行う優先車両を決め、必要なタイミングで充放電を可能とする。
・本システムを活用することにより、商業施設の使用電力のピークを下げ、コスト削減が期待できる。また、EVの充電電力のRE100%を目指すことで、REの有効活用と、電力系統の安定化に貢献する。
・EVの利用者の利便性を考慮し、利用者専用アプリを開発。利用者はアプリからクルマの使用時間と必要充電量を設定することで、使用時間外には充放電を行い、使用開始時間には必要な充電が完了されている。
特段の新たなハードウェア投資が不要、がポイント
浪江町のEV充放電システムを活用したエネルギーマネジメントシステムでは、既存の太陽光発電システム、風力発電システム、水素燃料電池で発電、蓄電はEVを活用するといった構成で、PCS以外には新たに大がかりなハードウェア投資が不要というところが大きなポイントです。
発電は、風力と太陽光、水素燃料電池と3種類あり気象条件による発電量変動の影響も少ないといったところもポイントです。
発電容量は太陽光が「37.5kW × 3基」、風力が「1kW × 3基」、水素燃料電池が「3.5kW」。燃料電池での発電に使用する水素は、同じ浪江町に2020年に完成した「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」から調達しています。FH2Rは敷地内の太陽光発電による電力でRE100のクリーンな水素を製造している施設なので、今回のエネルギーマネジメントシステム全体でもしっかりと再エネ100%=RE100が実現できていることになります。
浪江町全体がRE100%達成なるか?
このEV充放電システムを活用したエネルギーマネジメントシステム実用化検証は「道の駅なみえ」への電力供給も行っています。
「道の駅なみえ」は、128台を収容する駐車場と、浪江町請戸漁港で水揚げされた海の幸を楽しめるレストラン、人気ラーメン店、福島産フルーツの専門店などの飲食店と十分な席数を有したフードコート、地元住民の憩いの場にもなっている談話コーナー、無印良品、地元の名産品を販売する店舗といった数多くの設備があります。
このような比較的大きな商業施設と、EVがRE100%でまかなえるようになれば、浪江町全体のRE100%達成が見えてきます。
悲しいかな実際の居住人口が約1,600人となってしまった浪江町。しかし、だからこそ町全体でRE100%を達成するハードルは低いといえます。人口が少ない町でも、日本初のRE100%達成自治体となれば、持続可能なエネルギー社会とモビリティ社会への大きな一歩となり、世界中からも注目を浴びることでしょう。
浪江町のEV充放電システムを活用したエネルギーマネジメントシステム実用化検証が今後どうなっていくのか、今後も追いかけていきたいと思います。また、浪江町を応援していきたいとも思いました。
この取材のほか、モビリティ実証実験「なみえスマートモビリティ」の体験、フォーアールエナジー浪江事業所の工場見学もしてきました。近日中にレポート記事を公開しますので、どうぞお楽しみに!
(取材・撮影・文/宇野 智)
※アイキャッチを含む一部は日産提供画像
以下、記事内容では無く編集ポリシーについて、こうあったら尚良いのかなと感じます。
1.追記/編集に際しては、一見して判り易い表記・注記をする。
2.記事のタイトル/タイムスタンプ辺りにも、著者名(と小さめの写真も可)を記す。
のりたま 様、アドバイスをいただきありがとうございます。今後検討させていただきます。