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交換式バッテリーなら約164万円から/NIO「firefly」試乗から見えてくる中国小型BEVの現在地

交換式バッテリーなら約164万円から/NIOの「firefly」試乗から見えてくる中国小型BEVの現在地

中国では新車販売における新エネルギー車のシェアが50%を突破、BEVに絞っても30%を超えています。電気自動車普及拡大の大きな原動力になっているのが、安価な小型EV車種のバリエーションです。NIOが発売して話題となっている「firefly」に試乗。中国における小型EVの現状を併せてレポートします。

目次

NIOをはじめとする新興メーカーの現状は?

中国新興EVメーカー「NIO(蔚来)」が2025年4月に発売した小型BEV「firefly」に試乗しました。

公式サイトより引用(冒頭写真も)。

2010年代中盤以降に誕生した中国の新興EV勢の中でも、「NIO」や「シャオペン(小鵬)」、「理想」、そして「リープモーター(零跑)」といった会社は規模も大きく、比較的安定して新車種を投入しているメーカーです。それぞれの強みや特徴も異なり、例えばNIOは交換式バッテリー、理想は発電用エンジンを備えるレンジエクステンダー付きEV(EREV)中心のラインナップ、リープモーターはステランティスとの提携で進める海外進出など、それぞれの戦略を展開しています。

ただし、これらの中でも経営状況に不安を感じさせるのがNIOでした。NIOは2024年通期で中国国内で22万1970台を販売、そのうち2万761台が低価格ブランド「オンヴォ」の車種となります。比較的中~上級価格帯の車種を取り揃えていることから売上高は657.3億元と高いですが、純利益はマイナス226.5億元(約4679.3億円)と赤字続きです。

参考までにシャオペンは17万4935台を販売し、純利益はマイナス57.9億元(約1196.1億円)、リープモーターは28万4285台で純利益はマイナス33.1億元(約687.3億円)とこちらも赤字。新興勢の中で唯一の黒字を2期連続で達成しているのは理想で、50万513台を販売、純利益は80億元(約1652.6億円、前期比31%減)を記録しました。

NIOの販売台数は悪くはありませんが、ラインナップはBEVのみとなります。それに対して理想の競合車種はすべてEREVで、価格もNIOより安いです。全モデル交換式バッテリー対応に加え、各地への交換ステーションの建設、さらにはスマートフォン発売など「単なるBEV製造・販売」の枠を越えてさまざまな事業に手を出していることが災いして研究開発費は年々増加、2024年は127.8億元(約2639.4億円)を計上しました。激化する値下げ競争による利益率の低下も相まって、NIOの赤字脱出は困難を極めている状況です。

fireflyは欧州をターゲットにした低価格小型BEVブランド

そんなNIOですが、中国以外に力を入れているのが欧州市場です。ノルウェーを皮切りに、2020年代前半にはドイツやオランダ、スウェーデン、そしてデンマークに進出。2025~2026年にはオーストリア、ベルギー、チェコ、ハンガリー、ルクセンブルク、ポーランド、ルーマニアに拡大しようとしています。もちろんSUV「ES6」「ES8」や、セダン「ET5」、ステーションワゴン「ET5T」などの本家NIO車種も展開されますが、それよりも重要な駒になると期待されているのが今回の記事の主役、「firefly」です。

fireflyは2024年12月に発表されたNIOの低価格小型BEVのブランドで、現在は1車種のみで展開されています。本来のターゲットは欧州市場、競合相手も「スマート」や「ミニ」のBEVモデルですが、欧州による中国製BEVに対する関税政策の影響で進出が遅れており、現在は中国市場のみで販売されています。

ボディサイズは全長4003 mm x 全幅1781 mm x 全高1557 mm、ホイールベースが2615 mm。私自身、発表時からfireflyのルックスにはかつての「Honda e」の面影を重ねていましたが、Honda eは全長3895 mm x 全幅1750 mm x 全高1510 mm、ホイールベース2530 mm と、サイズも似通っています。

フロントマスクは3つの丸で構成されたライトユニットが特徴的で、リアの灯火類も同様の構成となっています。Honda eも丸目2灯の顔つきでしたので、こういった小型BEVにはある種のキャラクター性を与えることで、一気に親しみやすくなると感じました。

インテリアは昨今の中国EVらしくシンプルで、運転席に座って目につくのは「ダッシュボード」「ハンドル」「2つの画面」といった具合です。6インチのインストルメントパネルにはドライブレンジや車速、航続距離、モーター出力、そして各種警告灯しか表示しないという潔さです。

中央には13.2インチディスプレイが鎮座していますが、ホーム画面は右上に選択中のドライブモードを表す可愛らしいイラストのほかに、日付・時刻や再生中メディア、そして各メニューのピクトグラムと、簡素で可愛らしい雰囲気です。何でもかんでも背景を壮大な自然の写真にしてその中にくるくる回せる車両の3Dモデルを置くようなUIには飽きていたので、fireflyのアプローチはとても新鮮でした。

もう少しインテリアの話をすると、シートは合皮+ファブリックで座りやすい素材です。下位グレードではシートヒーター付きの座面下が収納スペースになっているのに対し、上位グレードでは収納が無いものの、シートベンチレーションとマッサージ機能が付与されます。ダッシュボードやセンターコンソールはかなりプラスチッキーな質感ですが、価格を考えれば妥当でしょう。

軽快な走りが魅力的で「いま最も欲しい中国製BEV」

全グレードがシングルモーター、出力140 hp/トルク200 Nmを後輪に配置する後輪駆動です。最近の中国メーカーはどこもかしこもツインモーター、大半の消費者が扱うには過剰な500 hp以上というマキシマリズム的風潮があるので、わきまえた性能を持つfireflyのような存在がありがたくも感じました。

そして実際にハンドルを握って運転してみると、より一層この性能が楽しく感じられます。車両重量はわずか1492 kg、1.5トンを切るボディを後輪が力強く蹴り出してくれる感覚は病みつきになります。軽快なハンドリングで俊敏にボディが追いついてくれるホンダ eの感覚が筆者は大好きだったので、fireflyもまさにそのようなダイナミクスで自然と笑みが溢れてしまいました。楽しい面だけでなく、狭い路地を駆け抜ける際の小回りといった実用面も当然しっかりとしています。お世辞なしで、いま最も欲しい中国製BEVです。

公式サイトより引用。

価格は下位グレードが11.98万元(約246.5万円)、上位グレードが12.58万元(約258.9万円)となります。2025年6月からは交換式バッテリーに対応する月額399元(約8200円)のBaaS(Battery as a Service)もスタートしたため、これに加入する場合は車両価格はそれぞれ7.98万元(約164.2万円)と8.58万元(約176.6万円)となります。なお、バッテリーは容量42.1 kWhのサンオーダ(欣旺達)製リン酸鉄リチウムイオン電池で、一充電走行距離はCLTCモードで420 kmと公表されています。

アフターサービスや利便性への不安もある

ここまではかなりベタ褒め論調で綴ってきましたが、一方で不安も残ります。クルマを買うというのはスペックだけでなく、修理やメンテナンスといったアフターサポートまで込みで考えないといけません。赤字続きのNIOの体力がいつまで続くかを考えると、fireflyを長期的に運用するのはかなりスリリングだと思います。

また、先述の通りfireflyは交換式バッテリーに対応するものの、中国約3200か所に建設されたNIOの交換ステーションはホイールベースの都合上、1件もfireflyに対応していません。NIOは2025年秋ごろから試験的に稼働させていく第5世代ステーションにてNIO/オンヴォ/fireflyすべてのバッテリー交換に対応するとしていますが、fireflyがどこでも日常的にバッテリーを交換できるようになるのはもう少し先のことになるでしょう。

NIOのバッテリー交換ステーション。※公式サイトより引用

ジーリーやBYDの小型EVと切磋琢磨

A~Bセグメントに分類される中国の小型EV市場では現在、ジーリー(吉利汽車)とBYDが二大巨頭として君臨しています。2024年中盤ごろまではBYD「シーガル」が月間4万台前後で圧倒的トップ、その次が月間2万台前後の上汽通用五菱「ビンゴ(繽果)」となっていました。ですが、2025年に入ってからはジーリーの新モデル「星愿」が6.88万元(約141.6万円)という低価格で攻め込んできており、両者のシェアを奪取、現在は月間4万台前後を販売しています。

BYD シーガル

fireflyは発売してから毎月4000台弱を売り上げていますが、ジーリーやBYDにはまだまだ及ばない状況です。シーガルもfireflyも試乗した筆者の印象ではfireflyの方がボディが安定しており、内装の質感や完成度も高いと感じました。

一方で価格はシーガルが6.98万元(約143.7万円)からと安く、fireflyと同レベルの運転支援機能を持つグレードでも7.88万元(約162.2万円)で買えます。ジーリーの「星愿」もシーガルと同価格帯ですが、運転支援機能に関しては上位グレードでもクルーズコントロール程度にとどまります。

fireflyは2025年中に約20か国へ投入される計画で、イギリス市場向けの右ハンドル仕様車は早ければ2025年10月に発売の予定です。EUに加盟していないイギリスは中国製BEVへの関税を設けていないために中国メーカーにとって有利な市場とされていますが、一方でわざわざ右ハンドル仕様車を作る必要があるため、同時に香港や東南アジア諸国といった左側通行国へ同時に上陸する傾向があります。

満を持して欧州市場へ進出したものの販売は伸び悩み、加えて2024年からは追加関税も課されているため、NIOにとっては厳しい挑戦が続いています。fireflyを投入することでどれだけプラス方向へ舵を切れるか、そして欧州の消費者にどれほど受け入れられるか、引き続き注目したいポイントです。

取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)

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この記事を書いた人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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