BYDが電気自動車の新型コンパクトSUV『元PLUS』発売〜約60kWhで260万円程度の驚愕価格

中国で今、最も勢いのある自動車メーカー「BYD汽車」が2月19日に新型電気自動車のコンパクトSUV『元 Plus(Yuan Plus)』を中国やオーストラリアで発売しました。中国ではすでに2022年の元旦から先行で受注しており、約2万件のオーダーが入っているとのこと。中国車研究家の加藤ヒロト氏がレポートします。

BYDが電気自動車の新型コンパクトSUV『元PLUS』発売〜約60kWhで260万円程度の驚愕価格

BYDの新エネルギー車が大人気!

まずは、BYDがどのようなメーカーなのかをおさらいします。BYDグループは多彩な事業部門を担当する子会社から形成されていますが、その中でも主要2部門が自動車の製造を担当する「BYD汽車」、そして電子機器を担当する「BYD電子」です。これ以外にも「BYD半導体」「BYD軌道交通」「BYD太陽能(太陽エネルギーの意味)」などありますが、今はBYD汽車にフォーカスしましょう。

1995年に広東省深圳市に誕生したバッテリーメーカー「BYD」は、陝西省にかつて存在した「西安秦川汽車」を買収し、自社の自動車部門にします。当初は西安秦川汽車時代の車種を継続して生産し、2008年にはガソリン車の「F3」をベースにした世界初の量産PHEV「F3 DM」を完成させます。よくある誤解ですが、BYDは電動車だけを作る自動車メーカーではなく、今でも電気自動車に加え、プラグインハイブリッド車やハイブリッド車、純粋なガソリン車も生産しています。

販売は非常に好調で2021年1-10月の中国国内における新エネルギー車の累計販売台数においては、トップ5に2021年に発売された車種を含め3車種がランクインしています。

1位/上汽通用五菱 宏光MINIEV
2位/BYD 秦PLUS PHEV   
3位/テスラ モデルY
4位/BYD 宋 Pro/PLUSPHEV
5位/BYD 秦 PLUS EV

また、2021年10月単月のEV/PHV/PHEV世界販売台数ランキングでもBYD 秦PLUS PHEVやBYD 元EVなど6車種が20位内にランクインしています。BYD 秦 PLUS PHEVの月間販売台数は「テスラ モデル3」を抜いて世界第3位でした。

記事中写真はBYD公式サイトから引用。

BYD汽車の乗用車における主力は「王朝シリーズ」と呼ばれるラインナップで、それぞれのモデル名は中国大陸にかつて存在した歴代王朝の名前から名付けられています。それぞれ、フラグシップセダンの「漢(HAN)」、コンパクトセダンの「秦(QIN)」、ミドルサイズSUVの「唐(TANG)」、コンパクトSUVの「宋(SONG)」、サブコンパクトSUVの「元(YUAN)」となっています。

また、そこからパワートレインの違いのみならず、ボディ形状の異なる派生車種がいくつかのモデルに設定されています。宋や秦に設定されている「PLUS」モデルは標準モデルよりも大幅にデザインを変更し、ボディサイズも拡大されています。宋には「MAX」も存在し、これは通常の宋がコンパクトSUVなのに対し、宋 MAXはミニバンとなっています。そしてこの度、サブコンパクトSUVの元にもPLUSモデルが設定されたことになります。

元PLUSは高性能で安い!

現行型の元には「元 EV」、「元 Pro」、そして今回正式にリリースされた「元 PLUS」の3モデルが用意されています。元 EVはマイナーチェンジ前の顔を持つモデルで、元 Proは同じボディに新たなデザイン、バッテリー、そしてモーターを与えたモデルとなっています。第1世代モデルにあたるそれらのモデルは全長4360 mm ×全幅1785 mm×全高1680 mmですが、新登場の元 PLUSは全長4455 mm×全幅1875 mm×全高1615 mmでホイールベースも185 mm延長した2720 mmとゆとりのサイズを実現。ここからも、第2世代の元 PLUSが大幅に進化したことがわかります。

変わったのは外見だけではありません。元 PLUSはBYDが開発した新世代プラットフォーム「e-プラットフォーム 3.0」を採用する初のモデルであり、次世代の性能と装備を備えたことが特徴です。

バッテリー容量は49.92 kWhと60.48 kWhの2種類が用意されており、それぞれ航続距離(NEDC方式)は430 kmと510 kmと発表。430 kmモデルに豪華版と尊貴型、510 kmモデルに尊荣型、旗艦型、旗艦型PLUSという合計5グレードが設定されています。実用に近いEPA値に換算(80%程度と推計)すると、それぞれ約344km、約408km程度の航続距離となるでしょう。

何よりも驚くべきなのがその価格です。

49.92 kWhモデルは中国政府の補助金適用後の価格で13万1800元(日本円換算:約240万5700円)〜、60.48 kWhモデルは14万1800元(約258万8000円)〜となっています。60kWh程度のバッテリーを搭載し、実用的にも400km以上の航続距離を誇るEVが300万円以下で買えるというのは、素直に驚きです。

なお、中国におけるEVに対する補助金政策は2022年限りで終了することが発表されているため、終了後はそれぞれメーカー希望小売価格としてそれぞれ約1万元(約18万3000円)高い価格となる見込みです。

斬新で遊び心満載のインテリアデザインにも注目

元 PLUSのインテリアデザインは「リズミカルな空間」というユニークなコンセプトをもとに、BYDのチーフインテリアデザインディレクター、ダイムラー社から移籍したミケーレ・パガネッティ氏が手掛けました。

センターコンソールを2色レイアウトとし、中央に流線型のセンターコンソール、両サイドにダンベル型の空調コンセントを装備し広がりのあるインテリアデザインとなっています。新しいスラストタイプの電子シフトレバーのデザインも特徴的です。

上級グレードには15.6インチのコントロール用タブレットが装備され、DiLink 4.0(4G)インテリジェントネットワーク接続システムを装備し、ACCアダプティブクルーズ、自動駐車、BSD死角監視、TSR交通標識認識、AEB自動緊急ブレーキ、LKA車線維持、LDW車線逸脱警告、FCWなどの運転支援システムを備えています。

また、マルチカラーのリズミカルなインタラクティブな照明、インテリジェント音声システム、タッチLED読書灯、VTOLモバイル充電器、クラウドサービスなども搭載。カラオケマイクも装備されています。

純電動のコンパクトSUVでこの低価格と性能を両立させているライバルは少なく、間違いなくBYDの元 PLUSは大いなるアドバンテージを獲得することになるでしょう。多くのEVメーカーはこのクラスよりも少し大きめの高級SUVをリリースしており、価格もほとんどが30万元(約547万5000円)以上になっています。

同クラスの純電動SUVも存在するには存在しますが、元 PLUSには遠く及ばない性能と装備なのが現状です。15万元(約273万8000円)以下で航続距離実質400 km以上、それに加えてBYDが誇る最新のバッテリーとコネクテッド機能も充実しており、まさに世界のコンパクトSUV市場におけるゲームチェンジャーとなるでしょう。

オーストラリア向け販売サイトより引用。

元 PLUSは諸外国市場への輸出もすでに発表されており、その一つがオーストラリアです。すでにオーストラリア向けの販売サイトもローンチしており、車名は「アット3(Atto 3)」となるようです。BYDの量産車がオーストラリアに上陸するのはこのモデルが初めてであり、実際に上陸したら他のEVのみならず、通常のガソリン車に対してもその優れたコストパフォーマンスで優位に立てるでしょう。日本への導入は発表されていませんが、とても気になる1台です。

(文/加藤 ヒロト)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 手の届きやすい価格には好感が持てます。
    これが日本に導入されたら、
    他車種にも波及効果がありそうな気がします。
    とはいっても、日本国内で販売するための最適化でどのくらい車両価格が高くなるのか?(国内メーカーとどっこいになったりして…)

    いろいろ選べるように(小さいものから大きいものまで)なるといいですね。

  2. ドアノブがキモい!前後左右の内側に同形状で吐出しているが好みではない。内装デザインが変だと

  3. いいなー、オーストリア!こんなコスパのいいEVを買えるなんて。
    早く日本にも入ってきてー!

  4. かなりの商品力を持つEVですね。なぜ小さな、それも右ハンドルの豪州市場から攻めるのかは不思議ですが、4月に発表されるかもしれないというカローラより少し大きなセダンEVにも注目をしています。

    ところで、e-platform 3.0の初採用はDolphinで、このYuan PlusはSUVとしての初採用ではないかと。

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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