中国の新エネルギー車向け補助金政策が2022年限りで終了へ

今や世界最大のEV市場となった中国。電気自動車をはじめとする、新エネルギー車普及を推し進めた政策の一つである補助金が、2022年限りで終了することが発表されました。その背景などを、中国車研究家の加藤ヒロト氏がレポートします。

中国の新エネルギー車向け補助金政策が今年限りで終了へ

※冒頭写真は2021年4月の上海モーターショーで展示されたレクサス『LF-Z Electrifiedコンセプト』。(写真/トヨタ自動車)

2021年の販売台数は年間約330万台

2021年12月31日、中華人民共和国財政部(我が国の財務省に相当)、工業和信息化部(通称:工信部。経済産業省及び総務省に相当)、科技部(文部科学省に相当)、そして国家発展改革委員会は、個人所有の「新能源車(新エネルギー車)」に対する2022年の補助金額を前年比で30%削減し、2022年12月31日限りで補助金政策を終了させることを伝える通知を発布しました。

中国はEVやPHEVに対する補助金を特にここ3年間で大幅に削減し、2020年は前年比10%減、2021年は前年比で20%削減されていました。財政部はこの削減と打ち切りに関して、新エネルギー車が十分に普及したことを理由としており、補助金政策の導入されたきっかけが「新エネルギー車の購入促進」であったことを考えると、妥当な判断と考えられます。

なお、国が支給する補助金は本来、2020年に終了する予定でした。しかし2019年の新エネルギー車販売台数が補助金30%削減の影響からか、前年比で4%下がって約120万台となってしまいます。それでは政府が掲げる新エネルギー車に関する目標(年間200万台販売)の達成が難しくなるため、補助金の継続に頼って販売台数を伸ばすことを選択しました。新型コロナウイルスの感染拡大で冷え込んだ国内景気を再び点火するためという理由もあるでしょう。

そして2021年の年間販売台数を見てみると、新エネルギー車の年間販売台数は約330万台と前年比約2.5倍の伸びを経験します。ここまで新エネルギー車の販売が好調であれば、もう補助金は出さなくても良いだろうと判断するのも納得です。

中国で発売されているトヨタ『C-HR EV』。

補助金政策の変遷

それでは中国の新エネルギー車に対する補助金政策の変遷を振り返ってみましょう。中国において新エネルギー車が国家主導のプロジェクトに指定されたのは2007年ごろでした。2009年1月には財政的な支援のもと、1000台の新エネルギー車を運用する国内の都市を毎年10都市ずつ増やしていくプロジェクトを打ち出します。

これに関して真っ先に取り組み、最初に新エネルギー車への補助金を提供したのは重慶直轄市でした。重慶市政府は2011年までに1100台の長安汽車製新エネルギー車に対して補助金を提供することを掲げました。これが、中国における新エネルギー車向け補助金政策の先駆けとなりました。

2010年には国主導で上海、長春、深圳、杭州、合肥の5都市において、EVとPHEVを個人で購入し、登録、所有した場合に交付する補助金も開始されました。当時はバッテリー容量の大きさによって補助金の額が決定され、1 kWhあたり3000元(約5万4000円)、PHEV向けの上限は1台につき5万元(約91万円)、EV向けは1台につき6万元(約109万円)と決められました。
(日本円換算金額は2022年1月12日現在)

これも中国限定で2020年に発売されたトヨタ『IZOA EV』。

国の補助金額は徐々に減額されてきた

補助金の交付以外にも、汽車購置税(自動車取得税に相当)などの免除も新エネルギー車に対して行われてきました。EV/PHEV/FCVに対する免除措置は2012年からはじまり、現行の措置ではとりあえず2022年12月31日まで継続される見込みです。

なお2011年から2015年までは通常のハイブリッド車への汽車購置税、消費税、そして車船税(車両と船舶に対して課税される財産税)の半減措置も設定されていました。

2015年には新エネルギー車への補助金政策を数年間かけて減らしていくことが発表され、2016年から2020年までは、2013年から2015年に比べて5000元減額される内容となりました。割合で比較すると、2016年の補助金基準額に対し、2017年から2018年は20%、2019年から2020年は40%も減額されました。

NIOのバッテリー交換ステーション。中国のEV普及は補助金頼りを卒業しつつあるということか。

今回発表された2022年版の個人所有車に対する補助金の額については、航続距離が300キロ以上400キロ未満のEVは9100元(邦貨換算:約16万4500円)、400キロ以上のEVは1万2600元(約22万7800円)となります。また、PHEVに関してはWLTP方式で43キロ以上、NEDC方式で50キロ以上の電動航続距離を有するモデルにしか4800元(約8万7000円)の補助金は支給されません。

減額に減額を重ね、ついには終了することとなった国の補助金政策ですが、それぞれの省や直轄市、自治体レベルでの補助金も廃止されるとは限りません。例えば、上海市での2021年における補助金は、EVが国の提供する補助金の50%、排気量1.6ℓ以下および電動航続距離51キロ以上のPHEVが30%を支給するとしています。

上海市におけるEV/PHEVに対する補助金は中国国内で生産された車種に限るもので、輸入モデルに関してはナンバープレートの取得代金が無料になるものの、補助金の支給はゼロとなっています。ちなみに、燃料電池車に対しては国産輸入問わず、国の補助金と同額が上海市から支給されます。上海市におけるこれらの優遇政策は2022年も継続される見通しですが、補助金額の詳細やそれ以降に関しては不明です。

ナンバープレート割り当てにも優遇措置アリ

新エネルギー車への優遇措置はナンバープレート発給の際にも適用されてきました。中国では大都市を中心にナンバープレートの発給枚数に制限をつけており、さらに競売か抽選という方法でしか入手できません。日本のように申請すれば誰でもナンバープレートが取得できるわけではないのです。

人気のあるナンバープレートは日本円で1組100万円以上という地域もあります。

そして年間新規発給枚数に関してガソリン車では制限がある都市でも、上海、杭州、海南省などでは新エネルギー車は無制限としてきた経緯があります。

2021年8月に中国商務省は新エネルギー車のさらなる普及拡大に向けて、各地方に政策や措置の導入を促す方針を示した際、新エネルギー車のナンバープレート発給枚数を上積みすることや申請条件を緩和する措置を取ることを奨励しました。

一方、1994年から発給制限を行ってきた上海市政府は2022年1月に新エネルギー車に対するナンバープレート割り当て優遇に対して2023年からPHEVを対象外とすると発表しています。

メーカーによる購入補助金の動きも

2021年12月のNIO DAY で発表された『ET5』。中国市場には値頃で魅力的なEVが続々と登場しつつある。

補助金減額を補填する独自策を打ち出すメーカーも現れています。中国で今、最も勢いのあるEVメーカー、NIO(上海蔚来汽車)は2021年12月31日から2022年3月31日の間にES6、ES8、そしてEC6の3モデルを注文し、デポジットを支払った購入者に対し、2021年の補助金と減額された2022年の補助金の差額をNIOが負担することを発表しました。75 kWhバッテリー搭載モデルは1万1340元(約20万5000円)、100 kWhバッテリー搭載モデルは1万2600元(約22万7800円)ほどの購入補助金がNIO独自で提供されることになります。

国の補助金は終了することとなりますが、ここで注目されるのは自治体である各省や直轄市が支給する補助金の行く末です。国と合わせて2023年以降は打ち切りにするのか、それとも自治体独自で支給し続けるのか、この辺りの判断はその自治体の財政状況、そして新エネルギー車に対する「やる気」で分かれることになりそうです。

中国国内における各EVモデルの販売価格は供給体制との兼ね合いもあり、値上がりが続いています。そこで国の補助金打ち切りが重なることになるので、消費者層の購買意欲に影響を与えることは避けられないでしょう。2023年以降も中国のEV普及は勢いを維持できるのか、注目したいところです。

(文/加藤 ヒロト)

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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