「広州モーターショー2023」レポート【中国車編】ミニバンや低価格のEVが続々登場

2023年11月17日~11月26日に広東省広州市で開催された「広州モーターショー2023」。新車のワールドプレミアは4月に開催される上海や北京(それぞれ毎年交互に開催)より少ないですが、電気自動車に関して数多くのニュースに富んだモーターショーとなりました。前編は中国車に注目してレポートします。

「広州モーターショー2023」レポート【中国車編】ミニバンや低価格のEVが続々登場

※冒頭写真はジーリーのギャラクシー『E8』。

ブランド全方位戦略のジーリーは絶好調

中国の民営メーカー「ジーリー(吉利汽車)」は多数のブランドを傘下に収めていることで知られています。現在はロータスやボルボ、スマートなどの海外ブランドだけでなく、リンク・アンド・コー(領克)、ジーカー(極氪)、ギャラクシー(銀河)、ジオメトリー(幾何)、リヴァン(睿藍)、メイプル(秋楓)、ファリゾン(遠程)、レイダー(雷達)、極越といった自主ブランドも揃える、世界的な一大自動車グループへと成長しました。

また、BEV一辺倒ではなく、通常のガソリン車やHEV、PHEVも展開しており、それらに搭載する高効率型エンジンの開発にも積極的です。2023年7月には日産や三菱が属するルノー・グループとハイブリッド用エンジンおよびトランスミッションの合同研究開発に関する提携を結びました。

ギャラクシー『E8』

今回の広州モーターショー、ジーリーは「ギャラクシー」から初のBEV『E8』を発表しました。ギャラクシーではPHEVを「L」、そしてBEVを「E」で名付けており、これまでにコンパクトSUV『L7』、そしてコンパクトセダン『L6』の2台が展開されています。今回発表されたE8は同時にギャラクシー初のラージセダンでもあります。

E8は「新世代の純電動フラッグシップセダン」になるとジーリーはアピールします。特徴的なのは内装で、ダッシュボードの前に位置するディスプレイは45インチの8Kディスプレイ一枚に集約しています。また、搭載システムはクアルコムの最新チップセット「スナップドラゴン8295」を採用、30 TOPSの計算能力を誇ります。

また、ジーリーのプレミアム純電動ブランド「ジーカー」からも初のセダンが登場しました。『007』はギャラクシー E8と同じ「サステイナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャ(SEA)」プラットフォームを採用しますが、ボディは全長4865 mm x 全幅1900 mm x 全高1450 mm、ホイールベース2928 mmとギャラクシー E8よりも少し小さいです。

ジーカー『007』

007では新世代のデザイン言語を採用し、これまでのジーカー車種とは異なるフロントマスクを特徴としています。また、高度な運転支援機能を支えるのはNVIDIA開発の車載チップセット「Orin」、LiDAR×1、高精細カメラ×12、そしてミリ波レーダー×5などのハードウェアです。

ジーカーは2021年10月以来、2023年11月時点で累計17万台以上を販売したと発表しました。今後5年以内に欧州、中東、そしてアジア諸国への上陸も計画しており、その勢力はじわじわと拡大しています。

低価格セダンに純電動ミニバン〜注目の車種が続々

「上海汽車」は「ロエウェ(荣威)」ブランドより新型セダン『D7』を発表しました。D7はBEVだけでなく、PHEVも揃える二方面作戦で中国EV市場へ殴り込みをかけます。上海汽車は海外市場ではMGブランドが、国内の小型EV市場では子会社「上汽通用五菱」が好調です。一方、ロエウェはSUV車種を多く取り揃えるものの、コンパクト車種の主力となるガソリン車『i5』、そしてBEV版『Ei5』は設計の古さが否めません。そこでPHEVとBEVの両方を揃える新たなD7を投入することで、世代交代を図ると解釈できます。

ロエウェ『D7』

最大の魅力はその価格にあります。PHEVモデルは15FHC型1.5ℓ直列4気筒エンジンと容量21.4 kWhのバッテリーを搭載、WLTC方式で純電動航続距離103 km、総合航続距離1250 kmを誇ります。価格は12.58~14.58万元(邦貨換算:約258.7~299.8万円)ですが、2023年12月5日からの期間限定施策として10.98~13.28万元(約225.8~273.1万円)で販売されます。これほどの性能を持つPHEVセダンがこの価格で手に入るとのことで、国内での注目度は非常に高い印象です。

BEVモデルではCLTC航続距離510 kmの容量59.2 kWhと、610 kmの68.5 kWhを用意、それぞれ14.98万元(約308.1万円)と17.68万元(約363.3万円)から販売されます。上海市内ではEi5がタクシーとして多く採用されており、今後は徐々にD7へ置き換えられていくかもしれません。

ここまではセダンばかりを紹介してきましたが、これ以外にも「中国新興EV御三家」からはミニバン車種が続々と投入されています。

そのうちのひとつ、「理想」では初BEVであり、初ミニバンでもある『MEGA』をお披露目しました。今までの理想車種はどれもSUVであり、1.5ℓ直列4気筒エンジンを搭載するEREV(レンジエクステンダー付EV)でした。MEGAは理想にとっての大きな一歩となるモデルですが、その高速鉄道車両のような奇抜な見た目は中国国内で賛否を呼ぶほどにホットな話題です。

理想『MEGA』

全長5350 mm x 全幅1965 mm x 全高1850 mm、ホイールベース3300 mmのおかげで室内は7人が座れる大空間を実現しました。パワートレインはツインモーターの四輪駆動で最高出力536 hp、容量102.7 kWhのバッテリーを搭載しますが、800 Vシステムのおかげで出力520 kWまでの急速充電に対応、22分で600 km走行分を充電するとしています。正確な価格は現時点で明らかになっていないものの、60万元以下になると理想はアナウンスしています。

同じ「中国新興EV御三家」に数えられる「シャオペン(小鵬)」も初のミニバン『X9』を一般に公開しました。理想 MEGAの近未来的ルックスとは対照的に、シャオペン X9はより従来のミニバンに近いエクステリアを持ちます。X9もボディサイズは全長5293 mm x 全幅1988 mm x 全高1785 mm、ホイールベース3160 mmと迫力ありますが、最小回転半径は4WS搭載のおかげで5.4 mと小回りも利きます。

シャオペン『X9』

パワートレインは出力315 hpの前輪駆動モデルと出力496 hpの四輪駆動の二種類が展開される予定で、MEGA同様に800 Vシステムも搭載します。X9の予約価格は38.80万元(約798.1万円)からとなります。

BYDも新モデルを発表

BYD『シーライオン07』

EVの販売台数ベースでは世界トップとなる「BYD(比亜迪)」も新モデルをお披露目しました。海洋生物や艦船の種別から車名を名付ける「海洋」シリーズの最新モデルとなる『シーライオン07(海獅07)』は全長4830 mm x 全幅1925 mm x 全高1620 mm、ホイールベース2930 mmのスポーツSUVです。今回発表されたのはBEVですが、PHEVの『DM-i』モデルものちに追加される予定です。

これに加え、BYDは海洋シリーズの大幅なモデル整理も発表しました。今後、SUV車種はすべて「シーライオン」を名乗ることになり、近日中に『シーライオン05』や『シーライオン06』も登場することのこと。

セダン車種も同様に「シール」下にまとめられ、2024年中にコンパクトセダンを2モデル投入するとしています。一方、BYDは『宋PLUS』を欧州で『シールU』として販売する予定であり、命名規則における混乱は必至となるでしょう。

また、BYDは『宋L』や、デンツァ(騰勢)ブランドの『D7』といった同クラス車種をいくつかラインナップしており、シーライオン07との共食い状態になるのではないかとの見方もあります。

後編では【日本車編】のレポートをお届けします

取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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