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広州モーターショー2025レポート/日産「N6」など日本メーカーの注目新型車も登場

広州モーターショー2025レポート/日産「N6」など日本メーカーの注目新型車も登場

11月21日~30日、中国広東省の広州市で第23回広州国際モーターショーが開催されました。縮小ムードと伝えられてもいますが、主役はやはりBYDなどの電気自動車(EV)やPHEV。来場者は85万5000人を超えたとのこと。日産のPHEV「N6」など、日本メーカーの電動車も発表されました。中国車研究家、加藤ヒロト氏のレポートです。

目次

BYDやジーリーグループの出展内容は?

広州モーターショー(Auto Guangzhou)は、毎年4月に交互で開催される上海・北京モーターショーと比べると規模は小さいですが、広州周辺に本拠地を置くメーカーは多いため、それらによる発表に注目が集まります。一方で今回の広州モーターショーは例年と比べ、出展ブランドが減り、ワールドプレミアも少ない印象を受けました。

BYDは毎年、ひとつのホールを丸ごと貸し切って全ブランドのブースを展開しています。本家BYDに加え、「デンツァ(騰勢)」「仰望」「方程豹」各ブランドのダイナミックな展示、さらには水上浮遊機能を持つ高級SUV「仰望 U8」のデモンストレーションも外で実施するなど、あの手この手で来場者の興味を惹きつけました。

ですが、モーターショーの本質部分である新車や新技術の発表はとくになく、BYDブランドでは既存車種の2026年モデルに関する発表や、すでに発表済みの新モデルの発売発表会をするにとどまりました。一方で2025年夏に発表されたデンツァの大型SUV「N8L」や方程豹の大型SUV「鈦7」などは初の国際モーターショーということもあり、筆者含め海外メディアからの注目が大きかったように感じます。

デンツァ N8L

数多くのブランドを擁する「ジーリーグループ(吉利汽車)」では、例年姿を見せていた「リヴァン」や「スマート」の単独ブースはなく、また傘下に収めるイギリスの「ロータス」は同じく傘下の「リンク・アンド・コー」ブースを間借りする形で出展しました。メインのジーリーブランドからはLEVCブランドで展開している純電動ミニバンのEREVモデルを初公開した程度で、BYD同様に特段目を惹く内容はありませんでした。

トヨタは中国向け電気自動車「bZ7」関連が中心

では、日系メーカーはどうでしょうか。今回はトヨタ(一汽トヨタ・広汽トヨタ)、レクサス、日産(東風日産)、ホンダ(東風ホンダ・広汽ホンダ)、マツダ(長安マツダ)が出展しましたが、各社ともに毛色の異なる発表内容で印象的でした。

トヨタによるEV関連のニュースは、2025年4月に公開したBEV「bZ7」の機能や装備、価格帯といった続報がメインでした。bZ7は広州が本拠地の「広汽トヨタ」が製造・販売を担当するため、最初のコンセプトモデルは広州モーターショー2023でお披露目されました。翌年には「bZ FlexCabin Concept」から「bZ7 Concept」へ改称、そして今回の詳細発表へ繋がります。

トヨタ bZ7

bZ7はシャシーをレクサス部門やGR部門と共同で開発し、「運転する楽しさ」と「移動手段としての快適性」の両立を重視したと言います。加えてエアサスペンションと電子制御ダンパーも採用するなど、フラッグシップ高級セダン並みの足回りを実現しています。

発表で安全性をとことん目立たせていたのはとてもトヨタらしいですが、新興メーカー製EVの発火事故がここ最近相次いだこともあり、中国において消費者の安全性に対する関心は確かに以前より上がっています。中国政府は2026年7月から車載バッテリーの新たな安全基準を施行するほか、事故発生時の緊急脱出を容易にするドアハンドル形状の新要件も制定しており、bZ7はそのどちらにもしっかりと適合するとアピールしました。

具体的な価格は未発表であるものの、発表イベントでは随所で価格帯が20万元(約440万円)台であると強調しました。機能や装備からすると25~30万元前後(約550~660万円)でもおかしくない一方、20万元台でないと中国メーカーに太刀打ちできないとの見方もあります。個人的に親しい中国メディアでは下位グレードが15万元(約330万円)から販売されるとも大胆に予想しており、2026年初頭に予定されている正式発売が今から楽しみです。

トヨタは他にも、一汽トヨタから純電動セダン「bZ3」にLiDAR 1基と中国の自動運転ベンチャー「momenta」が開発したレベル2+級運転支援機能を搭載した新モデルを公開しました。

日産からは約220万円のPHEV「N6」が登場

日産からは新たなBEVは登場しなかったものの、先行して発表されたPHEV「N6」と、アルティマのBMCモデルである新型ティアナが注目の的でした。N6は発売以来毎月6000台前後を売り上げる「N7」のPHEV版と位置付けられ、N7よりも全長が100 mm短いボディを持ちます。新開発の1.5ℓ直列4気筒エンジンや容量21.1 kWhバッテリーなど特徴は多いですが、何よりも特筆すべき点は9.99万元(約220万円)という安さだと思います。

これまで日系メーカーが中国で発売してきたEVはクオリティは高かったものの、中国メーカーが乱発するライバル車種には価格を理由に対等に競争できていませんでした。2025年に登場した広汽トヨタ bZ3Xや東風日産 N7は10万元台前半~半ばで発売したことで課題を克服、従来の日系メーカーでは考えられなかった異例のヒットを記録しています。

N6ではN7よりも価格をさらに安く設定。エントリーグレードで10万元を切り、トップグレードでも13万元(約287万円)しない価格帯を実現しました。これにより、BYDにおける主力コンパクトセダン「秦L」や、ジーリーの「ギャラクシーA7」を射程圏内に収めています。

また、今回のモーターショーには間に合いませんでしたが、2025年12月に画像を公開した新型SUV「NX8」ではBEVに加え、日産の量産車として初のEREV(レンジエクステンダー付きEV)も揃える予定です。中国ではBEVと同じく人気のEREVはトヨタもSUV「ハイランダー」とミニバン「シエナ」の次期モデルで挑戦するとしており、両者ともに中国の特色あるパワートレイン戦略に柔軟な対応を見せています。

ホンダは先行きに不安を感じる点も

トヨタや日産と対照的に、相変わらず先行きが不安視されるのがホンダです。ホンダは2025年4月の上海モーターショー2025で新たな中国専売BEV「GT」を発表、2025年末の発売が期待されていました。そのため、今回ではbZ7のように何らかの続報が聞けることを楽しみにしていましたが、直前になって投入の延期を決定、さらには計画自体が中止になったのではとも現地で噂されていました。

2025年3月に発売した東風ホンダ S7/広汽ホンダ P7は需要に見合っていないパッケージングと競合よりもはるかに高い価格設定が災いし、両モデル合わせて月600台程度しか売れていません。

以前に試乗した際、確かに運動性能は良くて運転が楽しかったですが、一方で中国の消費者はまだそのようなBEVを求める段階に至っておらず、「作りたいBEV」と「求められているBEV」の認識のズレが顕著でした。投入予定だった「GT」もS7/P7のようにスポーティさに振っていると強調していたので、今後の社運はいかに方向性を仕切り直せるかに掛かっています。

トヨタや日産はこの調子で新車種を投入、マツダも2025年9月に発売した「EZ-60」ではセダン「EZ-6」よりも質感を向上させて好調ですが、ホンダはそもそも中国で生き残れるか不安に感じるほどです。

中国メディアのJapan Mobility Show 2025に対する印象は?

今回の広州モーターショーは2年ぶりの開催となった「Japan Mobility Show 2025」直後だったこともあり、多くの点で両モーターショーの違いを意識しました。日本のモーターショーは現実離れしたコンセプトカーが多く、見ていても実感が湧かないと批判する声がかねてより聞かれます。一方でいくつかの中国メディアにJapan Mobility Show 2025に対する印象を聞いてみると、真逆の回答が返ってきました。

Japan Mobility Show 2025を訪れた中国メディアは、各社のコンセプトカーにそれぞれが描く企業のビジョンが表れていると高く評価していました。

中国のモーターショーは確かに出展企業も台数も多いですが、ショー自体はもはや発売決定済みの新モデルを大々的に「再公開」する場でしかなく、モビリティの未来を描くことよりも直近での商業的成功を重視しています。また、Japan Mobility Show 2025では子供連れでも楽しめる要素が多く、将来世代に対する投資も積極的だという印象を受けたそうです。メディア的視点で言えば、いつまでも展示車両の前を占拠して延々と中身のない生配信を行うインフルエンサーがいなかったため取材しやすかったとのことでした。

Japan Mobility Show 2025は海外勢の出展が減っているものの、依然として海外からは日本メーカーの動向を探る良い機会と認識されているようです。

新興EV勢がフルサイズ高級SUVをお披露目

先述の通り、中国メーカーではBEVと同等にPHEVやEREVの選択肢を増やしています。そのための新型エンジンやトランスミッション開発も各社は進めており、その技術力をアピールする技術展示も各ブースで展開されていました。

また、今回発表された新モデルの傾向で顕著だったのは、新興EV勢が旗艦モデルとしてこぞってフルサイズ高級SUVをお披露目した点です。3~4年前までは大型ミニバンが流行りを見せていましたが、ミニバンにおける不動の売れ筋がある程度定まったのか、流行が大型SUV(各社ともに「9」を車名に入れることから「9系SUV」とも呼ばれる)に移っている印象を受けます。日本勢が現状投入している中国専売EVはどれも価格帯が安めの中型車種ですが、30万元前後(約660万円)の大型EVに挑戦する姿も見てみたいです。

次に中国で開催される主要な国際モーターショーは2026年4月の北京モーターショーです。それまでに日本勢からはトヨタ bZ7が発売されており、ショーの前後で日産 NX8や、マツダの次なる中国専売EVがお披露目されることでしょう。中国全体のトレンドが安全性重視に寄りつつある中、2026年に姿を見せる新たなクルマたちにどのような変化をもたらすかが楽しみです。

取材・文/加藤 ヒロト

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この記事を書いた人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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