リモートドライビングで舞台に登場
ソニー・ホンダモビリティは2024年1月9日(現地時間)、アメリカ・ラスベガスで開催中のテクノロジー展示会「CES 2024」において、2025年発売予定のバッテリーEV『AFEELA』のアップデートを発表した。
プレスカンファレンスでは無人のAFEELAを、川西泉社長がプレイステーションのコントローラーを使って操作し、舞台の中央まで、まるでラジコンのように走らせた。川西社長は「リモートドライビングによる走行はあくまでも技術デモで製品には反映はしない。しかし、私たちはソフトウェアが新しい機能と価値を提供すると確信している」と述べた。
今回のプレスカンファレンスで明らかにされたことは、もはや「自動車」の新製品発表会ではなかった。出てくる単語は、スマートフォンやゲーム機の新製品発表とたいして違いがないほどだ。
昨今、IT業界では「AI」が話題だ。今年のCESでもあらゆる家電がAIに対応するという発表が相次いだ。
AFEELAでは、ADASにおいても、AI技術を活用する。物体認識においても、テスラなどを除く一般的な自動車メーカーがやっていないようなAI技術を導入することで、逆光時に車両の陰で見えずらくなっている人物や、夜間時の前方トラックなどをしっかりと認識、さらに経路推定にも機械学習を使っていくという。
また、AFEELAに搭載されている多数のセンサーやカメラで得たデータを元に、パソコンなどでADASがどのように動作するかを試すことができるようになるという。AFEERAを実際に走らせなくても、パソコン上で、天候や他のクルマ、歩行者などが様々な条件を変えて、ADASの動きをシミュレーションできるというわけだ。
これを開発しているのが、ゲーム開発会社である「Epic Games」だという。
さらにこれからAFEELAを開発する上で、ソニー・ホンダと協業することになったのが、プレイステーション用のゲーム「グランツーリスモ」を作っているポリフォニー・デジタルだ。リアルの実写開発に、デジタル空間におけるクルマの乗り味を熟知しているポリフォニー・デジタルの知見を投入することになるようだ。
車内には対話型のパーソナルエージェントが搭載されるが、AIとしてのパートナーとして迎えられたのがマイクロソフトだ。マイクロソフトは、今話題のAIである「ChatGPT」をベースとした「Copilot」というAIサービスを提供している。長距離ドライブ時など、ヒマなときにはAIが話し相手になってくれるようだ。
ソニー・ホンダは徹底して「水平分業」でAFEELAを開発している。自動車メーカーのように自社に加えて、下請けを使って開発する「垂直統合」ではなく、得意な技術を持つところといち早くパートナーとして、手を組んで開発を進めている。
そもそも、新規参入なので、下請けなどがいないのは事実なのだが、ソニーがこれまでのIT企業として培ってきたオープン戦略は、従来の自動車メーカーとは一線を画すスタンスと言える。
アメリカの法規に合わせた変更点
AFEELAのデザインは、どちらかというとノッペリとした見た目で、これが賛否両論だったりもする。AFEELAが最初に発表された時、川西社長は「スマートフォンはどれもデザインがシンプルだ。AFEELAもアプリやソフトが中心というスマートフォンに通じるコンセプトであり、あえて外観はシンプルさを徹底させた」と語っていた。
今年、プレスカンファレンスに登場したAFEELAは、ぱっと見た感じ、去年と同じように見えるのだが、実は一部のデザインが変更されている。ソニー・ホンダ関係者によれば「全く新しく作った車体」とのことだ。
まず、最初に気になったのが、フロントガラス上にあるLiDARだ。去年モデルよりも大きくなった印象なのだが「大きさはほとんど変わっていない」(川西社長)とのことだった。昨年モデルではルーフが黒ベースだったのだが、今年は車体の色に合わせて明るめの色合いになったため、LiDAR部分が目立つようになったようだ。
もうひとつ、今年のモデルで目立っていたのがドアミラーだ。昨年モデルはHonda eのようにドアミラー部分にはカメラだけが設置されていたが、今年のモデルではリアルな鏡に変更され、サイズも一般的なクルマと変わらない。
この変更点について川西社長は「アメリカでは法規によって、リアルな鏡でなければならない。ただ、ドラミラー部分にカメラは内蔵されているので、車内で左右後方の映像も確認することは可能」という。
さらに変更されたところがリアまわりだ。
AFEELAは、そもそもフロントとリアに「メディアバー」と呼ばれる長細いディスプレイが埋め込まれていた。スパイダーマンなどキャラクターを表示したり、時刻などの情報、例えば、AFEELAを盗まれてしまったら、遠隔操作「この車両を盗まれました。次の電話番号に連絡してください」といった文字情報を表示するといったことも可能であったのだ。
昨年のモデルではフロントとリア部分にメディアバーがあったのだが、今年のモデルではフロントのみとなり、リアのメディアバーは廃止となった。川西社長によれば「これも法規の壁を超えられなかった」とのことだ。
確かにリア部分にスパイダーマンのような赤をベースとしたキャラクターが光って表示されてしまえば、後方を走るクルマにブレーキランプと勘違いされかねない。そうした配慮から、メディアバーはなくなってしまったようだ。
去年に比べてデザイン的に変更点が出てきたAFEELA。川西社長は「今回はエモーショナルなデザインにしている。基本のデザインコンセプトは変わらないが、デザイン変更はまだまだ終わらない」と語った。AFEELAは量産に向けて着実に進化しつつあるようだ。
取材・文/石川 温