テスラの最新FSD V13.2.2.1とは?
今回試乗した2024年製モデルYロングレンジに搭載されていたのは、テスラが誇る完全自動運転(FSD)のV13.2.2.1です。FSD13は昨年の秋にアメリカやカナダで導入されて、その後も頻繁にアップデート(関連記事)。2025年には欧州や中国にも提供することが計画されています。
日本では未だ規制の問題などでフルのFSD機能を導入することが難しく、「オートステア」「ナビゲート・オン・オートパイロット」など、名称は似ていても実際に使える機能は制限が多いのが現状です。しかし本場アメリカでは、ハイウェイや住宅地、ストップサインや信号のある市街地、駐車場内の低速域でも、テスラが自動的にハンドル、アクセル、ブレーキ、さらにはウインカー操作まで行います。ドライバーが前方を注視していることは必要ながら、ほぼ完全といえるレベルで運転を代替してくれます。
今回注目すべき点は、アメリカのテキサス州、ヒューストンからオースティンまで約250kmの全行程で、出発地点の駐車場から目的地に縦列駐車するまで手放し運転だったというところ。日本のオートパイロット機能だと、高速道路上だけアシストするイメージが強いですが、アメリカでは運転席に座って前を見ていればテスラが勝手に運転してくれます。交差点、左折・右折、合流、分岐など複雑なシチュエーションでも、車両に取り付けられた7個のカメラとAIが連携し、あたかも熟練ドライバーのようにスムーズに操作していくのです。
市街地から高速まで連続でFSDが可能
今回のドライブはテキサス州ヒューストン市内の駐車場から始まりました。ナビで目的地をセットして、ボタン操作とブレーキの「タップ」でFSDモードに切り替えると、モデルYは駐車枠からゆっくりと動き出します。ステアリングもアクセルペダルも人間が全く介入しない状態で、まずは駐車場の出口へ。アメリカの広大な駐車場は通路も広めですが、進行方向を決めるまで一瞬クルマが「どちらに進むか」考えているかのような間があり、そこに「AIが判断している」という感覚が垣間見えます。
駐車場を出ると、ほどなくしてストップサインがある交差点へ。ここでの挙動は非常に人間に近い印象を受けました。ストップサインに合わせて減速し、停止の「間」をしっかりと取り、左右を確認してから再度加速して交差点を抜けます。そのブレーキ加減、視線や注意配分を模した動きは、まるで習熟したドライバーが運転しているかのようです。
また、アメリカでは交差点にストップサインが多く、どこで誰が先に進むかをあいまいに譲り合うケースがよく見られますが、FSDはそうした状況にも慌てることなく、他車の動きを推定して動作を決定していました。
ハイウェイに合流するまでの一般道は片側5~6車線もあります。初めての土地では、合流や車線選択だけでも神経を使いがちですが、FSDは数百メートル先のルートや周囲の交通状況を360度、常に把握しながら自然に車線変更を実行します。
加速・減速もスムーズで、ガクンとブレーキを踏むような挙動はありません。減速はモーター制御で1km/h刻みとも言えるほど繊細に行われ、車線変更前のウインカー点灯のタイミングも絶妙。人間が運転するとありがちな「急ハンドルでヒヤッとする」動作も見受けられません。
ハイウェイ上での挙動
ヒューストンからオースティンまで、片道およそ250km。途中、休憩と充電を挟みつつ3時間ほどの旅路です。ハイウェイに乗ると、さらにFSDの安定性が際立ちます。
車線が拡張工事中で線が乱れているエリアや、速度差が激しい大型トラックとの併走も難なくクリア。周囲のトラックが幅寄せしてくるようなシーンでは、ごく自然にモデルYが余裕をもったスペースを確保し、衝突リスクを避ける姿勢を見せました。
合流や分岐が先に控えている場合や、後方から速いクルマが接近している場合でも、FSDは早めに車線を移るなど柔軟に判断。ときにはドライバーが手動でウインカーを出しても、それを素直に受け入れて車線変更を完了します。「人と機械が協調している」感覚が感じられました。
長距離ドライブ中の充電を試すため、途中2ヶ所のスーパーチャージャーに寄りました。ハイウェイを降り、店舗敷地内まで車を進めると、FSDが駐車枠近くまで自動で進みます。今回のバージョンでは駐車枠への収まりがまだ少し甘い場合があるようで、一発で完璧に枠のど真ん中に停めることはできませんでした。しかし、FSDとは別にオートパーキングという機能があるので、それがFSDに統合されれば精度はさらに高くなることが期待できます。
テキサスのハイウェイでは、合流レーンが突然消えたり工事で車線が途切れたりといった場面も多く見られます。今回は実際にそうした工事区間でも、FSDがスピードを緩めたり、一時的に広がった車線から正しいルートに戻ったりと、臨機応変に対応していました。車線のラインが薄くなったり消えかけたりする状況で人間なら少し戸惑いそうなところを、FSDはあくまでカメラ映像や過去の学習データから最適解を見出しているように感じられます。
オースティン市街地の複雑な道路環境
ハイウェイを順調に駆け抜けた後は、オースティンのダウンタウン近辺へ。大都市らしく、入り組んだ交差点や多彩な車線、信号が連続するエリアです。
ナビの設定ルートと実際の交通事情が少し食い違い、FSDが一瞬戸惑うような場面も。しかし即座にFSDがルートを再計算して迂回するという高度な判断を見せてくれました。ナビに示されたルートとは異なる選択をすることがあるというのは興味深いポイントです。テスラのシステムは、ナビゲーション以上に「FSDが現場の状況を優先している」かのようにも見えます。
市街地の交差点では、歩行者や自転車、右左折する対向車、複数車線を跨いでくる車など、瞬間的に判断が必要なシーンが多発します。今回の走行中も、横道から合流してきたクルマに合わせて減速したり、青信号になってもわずかに前の車が動く様子を待ってから追従したりと、人間顔負けの配慮を見せました。
ゴール地点に設定したAirbnb(予約した貸別荘のような宿泊施設)のあるエリアは、細い道やゲート付き駐車場が存在します。最後は宿泊する建物付近の路上で、FSDが縦列駐車の判断を行い、ウインカーを出してするりと枠に収まってみせました。衝撃的だったのは、DとRのギアチェンジからハンドル操作、最終的にはパーキングへの切り替えまで自動でスムーズだったことです。
最も注目すべきは、この車両が自動運転に特化した超高額な特別モデルではなく、アメリカの中流階級や一般家庭でも手が届く価格帯である点です。高性能EVというと、かつては富裕層向けの高嶺の花でしたが、テスラの量産体制と技術革新により、モデルYは日常使いが現実的な存在になりました。また、維持コスト面でもガソリン車より優位な場面が多いですし、ファミリーカーとしても導入しやすく、実用車の選択肢として広く受け入れられています。
まだ完璧ではない
もっとも、駐車場内での細やかな動作や狭い枠への正確な駐車は、まだまだ課題が残っている部分です。今回も、スーパーチャージャーにバックで駐車しようとした際に、枠の位置取りがずれていたり、施設内で回り込む経路の途中で挙動がぎこちなくなったりするシーンがありました。
ただし、こうした細部の操作精度はソフトウェアアップデートで常に改善されることが見込まれており、テスラのFSDは数週間ごとの更新で着実に進化しています。次のアップデートでは駐車時の微調整を含め、さらにスムーズになる可能性が高いです。
アメリカで体験したテスラFSD V13.2.2.1は、「ほとんど完全自動運転」と言えるレベルでした。市街地や高速道路、駐車場の出入りまで、必要な操作のほとんどをシステムが自動的に行い、人間は前方や周囲をモニターするだけ。旅慣れない土地を移動するにも、FSDが熟知した地元民のような運転で目的地へ導いてくれます。
実際に手放し状態で250kmを走り切ると、もはや「運転から解放される」という言葉では足りない衝撃があります。まるで信頼できる専属ドライバーにハンドルを預けているかのようなリラックス感。しかもそのドライバーは360度カメラで周囲を常に監視し、自動学習で動きも洗練され続ける優秀さを備えています。長時間の移動を苦痛なく済ませられる未来が、すでに目の前まで来ています。
テスラモデルYの自動運転FSD V13を使って手放しロングドライブ(YouTube)
取材・文/畑本 貴彦(テスカス)
YouTubeも見ましたが、素晴らしい進歩です。サイバーキャブもあながちハッタリだけではなさそうです。イーロン・マスクは好きになれませんが彼の擁するスタッフは素晴らしい仕事をしていますね。人間は目と経験だけで運転含む行動一般をするわけですから、他のセンサーを捨象してカメラに絞り込んで開発する姿勢は技術的困難を乗り越えさえすれば他の追随を許さないでしょう。ここ数日DeepSeekでテック業界や証券市場に嵐を巻き起こした中国とそしてこのテスラ、前人未到の境地を突き進んでいる気がしています。独禁法を根拠に米テック業界から巨額の罰金を搾り取るEUやそれに続こうとしている?日本、出る幕なさそうです。
本題とは関係ありませんが、YouTube動画の中で言及されていたフロントのライセンスプレートを付ける/付けないは米国 各州の法規によります。格好が悪いから付けないというのは違います。