電気自動車だけじゃない! テスラの人型ロボット「オプティマス」君に注目

Q1の決算発表でも言及されて、5月5日にはさらなるアップデートを果たしたのがテスラの人型ロボット「オプティマス」です。世界のEVシフトをリードするテスラが目指すエコシステムを象徴するプロダクトについて、元テスラの中の人、前田謙一郎氏が解説します。

電気自動車だけじゃない! テスラの人型ロボット「オプティマス」君に注目

※冒頭画像はXの動画から引用。

自動車会社からAI・ロボティクス会社へ変革を遂げるテスラ

今回は、昨年の第2世代発表から注目を浴びるようになったテスラの人型ロボット「オプティマス」について紹介したいと思います。5月5日にはXで最新アップデートのポストがアップされて「Optimus」がトレンド入りするなど、注目度はますます上昇しています。

オプティマスはその名の通り人の形をしたロボットなのですが、ここまで話題に上がるのはその開発に自動運転FSDで培われたテクノロジーとテスラが投資を進めるAIの双方を詰め込んだ将来のテスラエコシステムの頂点に立つ製品だからです。

オプティマス第2世代。(画像出典:x.com @Tesla_Optimus)

オプティマス製品単体だけでなく、その背景も理解するためには、最近のテスラの動向をおさらいしておく必要があるでしょう。ご存知の通り、最近のテスラに関しては様々なニュースやイベントが目白押しです。大きなものだけでも4月のQ1決算発表から従業員のレイオフ、スーパーチャージャー部門の縮小(?)やイーロンの中国への電撃訪問などなどとてもダイナミックで、トピックスを追いかけるのもやっとです。

テスラの今後の大きなトレンドは自動車・エネルギーをベースにAI・ロボティクスカンパニーに進化を遂げていることであり、その流れから見ると昨今の動きがよく理解できるでしょう。ちなみにアメリカの大手メディアではこれらの動きを「EV失速」と評するなどネガティブな報道もあるので惑わされないようにしないといけません。

オプティマスはテスラのエコシステムで頂点に君臨する。(テスラ決算資料より引用)

これまでEVの普及に注力し、昨年モデルYが電気・ガソリンに関わらず全世界で最も売れた単独モデルとなった今、テスラは完全自動運転の開発とロールアウトに注力しています。FSD12が配信されてから、イーロンは北米の従業員に対して納車前にFSDのデモや説明を義務付け、既存顧客と新規顧客に対しFSDを1カ月間無料で提供することにしたのも記憶に新しいところです。そしてアメリカでの最新のFSDによる自動運転の映像を見るとかなりの完成度になっていることが見て取れます。

さらに先月には兼ねてから噂されていた低価格モデルを今年の終わりに前倒し、そのプラットフォームを使ったロボタクシーも8月に発表するとイーロンが明らかにしました。これまでは低価格モデルは2025年末か26年とされていましたので、かなりアグレッシブなプランです。テスラはFSD12で完全自動運転の道筋がつき、さらにこのAI分野も加速していくのが今後の流れでしょう。そして、その先にあるのがそれら技術を結集した「オプティマス」なのです。

オプティマス、これまでの開発経緯

テスラのオプティマスは、人間と同様の作業を行えるように設計され、家庭内や工場など、さまざまな環境で退屈で危険が伴なったり、繰り返しが必要となるような作業のために開発が行われている人型ロボットです。

オプティマスは、テスラの自動運転車技術に使われているAIやセンサー技術を応用しており、それによって周囲の環境を認識し、複雑なタスクを自律的にこなす能力を持っています。テスラはこのロボットが一般的な家庭や企業にとって手頃な価格で提供されることを目指しており、将来的には人間の生活を大きく変える可能性があるとされています。

イーロンが人型ロボットを作ろうとしたのは人工知能に強く惹かれながら、恐れを感じた時だとしています。人を傷つけかねないAIを誰かが作るかもしれないと考え、2015年にOpen AIを立ち上げました。

さらに自律運転ができるロボタクシーはつまりのところホイールを履いたロボットであり、それが作れるなら手足も持ったロボットも作れると言うのがイーロンの考えです。車と同じように実際の画像情報で学びながらどう動くのか自動で学習していくのがオプティマスなのです。

オプティマスの最初のバージョン、バンブルビー(Bamblebee)が発表されたのは、2022年9月30日の年次AIイベント、「AIデー」でした。当時、実際にイーロンから紹介されて出てきたオプティマスは短い間でしたが、かろうじてステージ上を歩いて、ぎこちなく手を振ったりしました。また、事前に撮影された動画では物を運んだり、テスラのオフィス内で植物に水をやったりもしていました。ただし、これは事前に準備されていたコンテンツであり、テスラ的なマーケティングプロモーションの側面も多くみられました。

その後、2023年の3月に第1世代の発表があり、同年12月には第2世代へと進化、現在の形となる白と黒を基調とした外観になりロボットらしくなりました。これまでの外観の比較がわかりやすいですね。また、当初発表されたスペックでは身長173cm、体重73kgということで実際に隣にいてもあまり威圧感がないサイズ、男性だが女性だかわからずエルフ的(北欧神話やゲルマン神話に登場する神秘的な存在)デザインがその特徴です。

ちなみに、2021年のAIデーでこのオプティマスのコンセプトが発表された時には、現在の形によく似たボディースーツに俳優を入れてダンスをさせる、、という冗談がすぎるパフォーマンスが注目を浴びました(笑)。

人間が中に入って踊るパフォーマンス。(YouTube Teslaチャンネルの動画から引用)

最新のオプティマスはさらに高度な作業や動きが可能

しかしながら、先日、オプティマスのX公式アカウントでポストされたアップデートではオプティマスが4680バッテリーセルをコンベア的な棚から取り出して仕分ける作業をしたり、オフィスを自由に散歩したりとかなりの進化を遂げていました。Bumblebee からわずか1年半くらいでここまでの機能を搭載できているのはまさに驚きです。

この作業をするにあたり、オプティマスはend to end(運用の自動化)でニューラルネットワークがバッテリーを仕分けするようトレーニングされており、オプティマスに搭載されているFSD(Full Self Driving)コンピューターでリアルタイムに動作しています。

また、これらの動作は2Dカメラと指先の触覚センシングだけで行っています。人間では簡単な動作のように見えますが実はとても難しい動作です。上半身全体で仕分けを行いながら、下半身ではバランスを取っています。これらの制御全てに自動車のテクノロジーを応用していることが素晴らしいですね。

オレンジのカゴに入れる際には小さな仕切りを見ながらバッテリーを入れないといけませんし、実際にオプティマスは次の空いているスペースを自分で見つけて入れています。さらに、入れることに失敗した場合は自動的にやり直しも行っています。

動画には失敗してやり直す様子も紹介されていました。

仕分け作業だけではなく、オプティマスは普通の速度でオフィスを歩いています。以前からイーロンのポストでもオプティマスと散歩する、と言うような映像がありましたが、それまでのぎこちない感じからはすごく改善して自然に歩いているようです。これだと社内便のようなものも運ぶことはすぐに可能になりそうです。もっとも、実際にオプティマスが自分のそばを通ったり、自律行動をしているとびっくりするでしょうね。とはいえ、これも将来的には当たり前の情景になってくるのでしょう。

オフィスを散歩するオプティマス。

さらに機能面で言うと、今年後半に登場する新しいオプティマスの手は、22の自由度(DoF: Degree of Freedom)を持ち、人間の動きにより近くなるようです。これは実際にイーロンがポストしていますね。

オプティマスの今後と発売予定は?

先日のQ1決算発表のQ&Aにおいてイーロンは「2024年末までにオプティマスが工場でさまざまな実用的なタスクを実行し、2025年末までにロボットをいくつかを外部販売することができるかも」とコメントし、多くのメディアでも取り上げられていました。

「最近は役に立とうとしています」というXの投稿コピーにあるように、テスラの工場で実際にテストとしてオプティマスが使われているようで、実用化へ前進していることが分かります。

以前よりイーロンは「オプティマスが過小評価されており、その需要は将来100億以上ものユニットに達する可能性がある」として、多くの製造業やサービス業の仕事を代行できるとアピールしています。また、オプティマスは乗用車よりずっと安くなると思う、とも述べています。

確かに、仮定ではありますが、乗用車より安価な200万~300万の製品価格で、オプティマスの寿命が5年以上あり、一人の従業員や作業員の労働と完全に置き換えることができたら、メンテナンスや充電を考慮しても、ロボットのコストは人間に給与を払い続けるよりコストパフォーマンスが圧倒的に良くなる可能性があります。

すでに工場内で活躍中?

映像の中でもありましたが、スタッフの遠隔操作でトレーニングデータを取得し、それらをスケールすることで、いろいろなタスクに応用できるとしています。オプティマスが、洗濯物をたたんだり、棚に物を収納したりする姿も確認できます。

最近では労働力不足が取り上げられていますが、さらに人口が減っているような国々(特に日本でも)では、これらオプティマスのような人型ロボットが果たす役割は単なる危険や苦痛を伴う単純作業からの置き換え以上の可能性を持っているのではないでしょうか。

テスラ車にはxAIが開発するGrokの搭載が予想されていますし、それがオプティマスに入ると実際に会話もできることができるでしょう。テスラの自動車で培ったテクノロジーとAIへの莫大な投資は、私たちが漫画でみてきたSFの世界をより現実的なものにしてくれそうです。

文/前田 謙一郎

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この記事の著者


					前田 謙一郎

前田 謙一郎

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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