春風のように軽快~ボルボ『XC60 T8 Twin Engine AWD Inscription』

スタイリッシュで躍動感あるデザインで日本でも人気が高まっているボルボ。SUVラインアップの中心モデル『XC60』の最上級グレードであるプラグインハイブリッド車『T8 TWIN ENGINE AWD Inscription(ツインエンジンAWDインスクリプション)』に、カーライフエッセイストの吉田由美さんが試乗。インプレッションレポートを届けてくれました。

春風のように軽快~ボルボ『XC60 T8 Twin Engine AWD Inscription』

「衝突被害軽減ブレーキ」の先駆け

少し前までは「安全」「北欧」イメージでしたが、今やすっかり「お洒落」「洗練されている」といったイメージの自動車ブランドになったボルボ。

そのイメージチェンジのきっかけになったのが、フラッグシップSUV『XC90』の登場です。2002年に発売されたXC90はそれまでの「角ばったステーションワゴン」という印象が強かったボルボのイメージをガラリと変えました。驚くほどスタイリッシュだったのです。

しかし強烈なインパクトを与えたものの、XC90だと「大きい」とか「値段が高くて手が出ない」と思っていた人でも思わず欲しくなるタイミングで登場したのが2代目『XC60』。2017年のことでした。

ここで一気にユーザーの注目を集めて、ボルボ人気を不動のものに。日本でも「日本カー・オブ・ザ・イヤー2018-2019」のイヤーカーを受賞しましたが、世界的にこの年のアワードはXC60が総ナメ。勢いに乗っているという印象です。

そしてもうひとつ、XC60といえば、2021年11月から国内で販売される国産車の新モデルには装備が義務化となる最新安全装備である「衝突被害軽減ブレーキ」。これの停止版を最初に搭載したモデルでもあります。低速での追突を未然に防ぐための安全装備ですが、追突の危険を感知したのにドライバーがブレーキを踏まなかった場合は自動的にブレーキをかけ、エンジンの出力を抑制える機能です。

簡単に言うと、低速の場合ならドライバーがブレーキを踏まなかった場合に停止。スピードがもう少し高い場合には、被害を少なくするという安全装備。各社この機能の呼び名はさまざまですが、ボルボでは「シティセーフティー」という名前で、導入したのが2009年の初代XC60のときで日本初の機能でした。

それまでも「衝突被害軽減ブレーキ」はありましたが、「最後のひと踏みはドライバーがやる」ということにこだわっているのと法的な問題もあり、緊急のブレーキをかけても停止まではしていませんでした。しかし今や緊急ブレーキで停止させるのは当たり前。ボルボはいち早くこの機能を搭載した、「衝突被害軽減ブレーキ」の ”切り込み隊長” なのです。それに続いてスバルが「アイサイト」を世に送りだしたことで、日本国内での認知度が一気に上がりました。

最高出力は233kW(318ps)+65kW(87ps)!

XC90に比べると、スポーティなデザインとコンパクトなサイズ……、といいつつ、全長4690㎜×全幅1900㎜×全高1660㎜。決して、コンパクトというサイズではなく、ミドルサイズのSUVです。

パッと見、エクステリアデザインで印象的なのはトールハンマーと呼ばれるデザインのLEDヘッドライト。これもXC90からボルボ車に導入され、今やボルボのアイコン的な存在になっています。

その後に発売されたXC40の時には、XC90、XC60、XC40を靴にたとえ、XC90はフォーマルシューズ、XC40はスニーカー、XC60はカジュアルシューズと言われていましたが、まさにその表現がピッタリ。XC90 を小さくしたという感じではなく、全く違う個性を、しかもスポーティにまとまっているという印象です。

そしてその「カジュアルシューズ」にたとえられたXC60のプラグインハイブリッド(PHEV)モデルが「T8 Twin Engine AWD Inscription(T8ツインエンジンAWDインスクリプション)」。

ボルボではPHV(プラグ・イン・ハイブリッド)システムのことを「ツインエンジン」と呼んでいます。動力源は、エンジンと2つのモーター。2リッター直列4気筒DOHCエンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを加え、最高出力318PS 、最大トルク400Nm。さらにフロントモーターで最高出力46PS、最大トルク160Nm 。リアモーターが最大トルク87PS、最大トルク240Nmが加わり、環境にも優しいAWD(全輪駆動)のパワフルな走りを8速ATで操ります。

そして10.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、満充電時のEV走行可能距離は45km(WLTP ※EPA値は約27km)となっています。

インテリアは、とにかく気持ちイイ~!

そしてインテリア。これが抜群に気持ちイイ~。グレードが「インスクリプション」なのでシリーズ中の高級版ではありますが、水平基調のシンプルなデザインに落ち着いたウッドパネル、レザーのシート、そしてフル液晶のメーターディスプレイ。センターにある9インチ縦長のタッチスクリーン式ディスプレイは、エアコンの温度設定から先進安全装備の設定などほとんどの操作がこの中で行われます。

そのため、車内はスッキリ。断捨離の女王、”こんまり” さんがデザインしたのでは? と思うぐらい超シンプル。そして乗り込んで真っ先に目に留まるのが、クリスタルのシフトノブ。これはスウェーデンの「オレフォス」というブランドのクリスタル。スウェーデン王室御用達ブランドで、ノーベル賞の晩餐会でも使われているグラスとか。シフトノブだけで気分が上がります。

ドライブモードは6つ。センターコンソールにあるコロコロでモードを変えます。EVで走行する「Pure(エコ運転)」は、電池さえあれば125km/hまで加速が可能。エンジン走行とEV走行を自動切換えして最適な運転をする「Hybrid(日常の運転)」、テキパキ走りたいときの「Power(スポーティ)」、ドライバーのお好みに合わせる「Individual(運転嗜好)」、四輪駆動でしっかり踏ん張って走行するので雪道などに使いたい「Constant AWD(四輪駆動)」、未舗装路などを走行するときに使う「Off Road(オフロード)」モードがあります。

後半で紹介した3つは、出番は少ないかもしれませんが、いざと言う時に頼もしいSUVになります。そして、特別に設定しなければ、エンジンをかけると自動的に「Hybrid(日常の運転)」モードになります。

設定によってアクセルレスポンスやステリングの操舵力などが変わります。しかしどのモードも静粛性が高く、しかも滑らか。「パワー」でもエンジンが唸るわけではなく、上品にパワーを発揮する、という感じ。「ピュア」モードを選択すると、車両はハイブリッドのバッテリーからエネルギーを使用し、エアコンの出力が抑えられてエコな温度調整に切替わります。

それにしても、ボルボのこの軽やかさはなんだろう? ハンドリングもアクセルやブレーキのタッチもそう。軽やかで、まったくクルマの重さを感じない。しかもそれはどのモデルに乗っても同じように感じるのだから不思議。

そして電気自動車ならではの「Hold(ホールド)」と「Charge(チャージ)」機能も備えています。「ホールド」ではバッテリーの電気を温存。「チャージ」機能を高速道路を巡航する時に使うとどんどん電気が溜まります。

そして「エコドライブモード」は特別な機能がいっぱい。中でも「Eco Coast(エコ・コースト)」という機能。シフトをDレンジに入れ、「ピュア(エコモード)」にし、速度が約65〜140㎞/hで走行中、ドライバーがアクセルペダルから足を離しても惰性で走り、燃料を節約する機能。アクセルから完全に足を離すとスイッチオン。下り勾配6%を越えると解除されます。…なのですが、これは今や新世代ボルボにはすべて搭載されている機能だとか。知らなかった……。私の愛車(ボルボXC40)にも搭載されていたとは……(笑)

「なぜ気が付かなかったのだろう」と考え、理由がわかりました! 高速道路などだと早めにACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を設定してしまうため、コースティングしているのが分からなかったのではないかと。ちなみに「エコ・コースト」中は、ディスプレイに表示されるそうです。

「エコ・コースト」のこと、よく考えたら、忘れていただけかも。そういえばほかの車で体験したことあるから。

また、シフトレバーで「Dモード」のほかに回生ブレーキの効きを調整できる「Bモード」を選択できます。左に押せば「ー」、右に押せば「+」。シフトアップは自分で、ダウンは自動でやってくれます。私はシフトチェンジを忘れがちで、エンジン音が変わって気づくことが多いため、むしろ燃費を悪化させているような気がします。なので個人的にはこのモードはほとんど使いませんが、お好みでお使いください。

充電してみて気がついたこと。

今回の試乗では最初の航続可能距離は700㎞。EVの航続可能距離は4㎞だけになっていました。

試乗で109㎞走行し、充電は1回。200Vの普通充電で50分ほど充電し、2.5kWh をチャージ。EV走行可能距離は充電前に3kmだったのが6㎞増えて、9㎞になりました。その時、ガソリンでの走行可能距離は670㎞。返却前にはガソリン4ℓほど給油。燃費は11.4㎞/ℓと表示されていました。

この車でひとつ、ボルボさんにリクエストがあります。それは充電時に気がつきました。充電口は、助手席側のA ピラーの付け根ぐらいの位置にありますが、私が充電した六本木ヒルズの充電器は右側にあるため、充電口は反対側。前方にはあるとはいえ、充電器の備え付け充電ケーブルだとギリギリ。そしてこのクルマ、横幅は1900㎜あるし。ボルボさん、もう少し充電口の位置、どうにかならないでしょうか??

車種によって充電口の位置がバラバラなのは、スペースに余裕のない駐車場だと「ケーブルが届かない!」なんてことにもなりかねません。充電インフラと自動車メーカーの新たな課題といえるかも。

今回はあまり距離も時間も乗れませんでしたが、このクルマ、もう少し長く乗りたかったな。

(取材・文/吉田 由美)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 充電口が反対側であればバックで入ればよいのではないでしょうか。

    1. e-NV乗りのmasaaki様、コメントありがとうございます。実は六本木ヒルズの駐車場はほとんどが、駐車スペースに向かって左側に充電器が設置されています。今回の取材で使用した充電器は壁の都合で逆側に付いていたようですね。
      そして、これは車両メーカー側の問題でもありますが、充電スタンド側の設置の問題でもあるのです。実際に普通充電器にしろ急速充電器にしろ、特にスペースの制約の少ない普通充電器については、駐車スペースの真ん中に設置することが推奨されています。なぜかこれを全く守っていない工事業者がとても多いのですよね。今回のケースも、真ん中近辺に設置していればどの車両でもうまく充電できます。

      ご指摘のようにバックで入った場合、この充電器の場合はケーブルが短く、ケーブルが届きません。例えば私の場合、テスラは左後ろ充電口なので、バックで入れると(この取材の場合は左後ろ、しかしほとんどの駐車スペースでは)右後ろに充電器があるので、右後ろから左後ろまでケーブルを延ばすことになりますが、記事中の写真のような感じでケーブルがボディに接触してしまいますし、充電中はトランクを開けられなくなります。

      もちろん自動車メーカーは、いい加減複数のメーカーで協力して、充電ポートの位置を世界中で統一すべきです!
      ただ、インフラ側もできる限り工夫して、最低限のガイドライン、すなわち、充電器は駐車スペースの背面中央部分に設置、片側に寄せる場合にはケーブルは長め、を徹底していただけると嬉しいですね。

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この記事の著者


					吉田 由美

吉田 由美

短大時代からモデルをはじめ、国産自動車メーカーのセーフティドライビングインストラクターを経て、「カーライフ・エッセイスト」に転身。クルマまわりのエトセトラについて独自の目線で、自動車雑誌を中心にテレビ、ラジオ、web、女性誌や一般誌まで幅広く活動中。

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