日本で最も売れている輸入車のPHEV
2010年に登場し(日本導入は11年)、17年にモデルチェンジして2世代目となった現行ミニ・クロスオーバー。このミニ・ハッチバックの派生モデルもすっかり世間に浸透し、もう「全然ミニじゃない!」とその大きさに目くじらを立てる人もいなくなった。全長4315mmはともかく、全幅1820mm、全高1595mm、ホイールベース2670mmというサイズは確かにコンパクトではないが、ブランドの名前として受け入れられた。今やVWゴルフを抜いて日本で最も売れている(外国ブランドの)輸入車はミニであり(※)、クロスオーバーもかなり貢献しているはずだ。
(※)日本自動車輸入組合『外国メーカー車モデル別新車登録台数順位』
ミニシリーズは、ワン、クーパー、クーパーSの3つのグレードを基本とし(ワンがないモデルもある)、ワンよりクーパーのほうが、クーパーよりクーパーSのほうがスポーティーかつ装備が充実していて価格も高い。加えて、クロスオーバーに限って今回試乗したクーパーSEというPHEV仕様が存在する。1.5リッター直3ターボエンジン(最高出力100kW、最大トルク220Nm)と6速ATに加え、総電力量10kWhのリチウムイオンバッテリーで駆動するモーター(同65kW、同165Nm)がリア車軸に組み込まれている。WLTCモードで58km(欧州モデルのWLTPレンジは26mi=約42km ※EPA推計約37km)のEV走行を可能とする。
ガソリンエンジン自体のスペックは控えめだが、これはモーターアシストを前提として最適化されているものであり、実際に走らせると、発進加速、追い越し加速ともに十分に活発。ビュッと発進するし、どんな場面からもグイグイ加速する。バッテリーに電力が十分残っている場合は、積極的にモーターのみで走行しようとする。その間の感覚はEVそのもの。静かでスムーズ。電力があまり残っていない場合や大きな負荷をかけた場合にエンジンがかかる。かかった直後は3気筒の音と振動が目立つものの、しばらくすると気にならなくなるのだが、エンジンの始動と停止は何度も繰り返されるので、わずらわしいといえばわずらわしい。
普通充電で「失敗」も体験
せっかくPHEVの試乗なので充電も試してみた。ミニ・クロスオーバー・クーパーSEは普通充電のみに対応。池袋のサンシャインシティの地下駐車場に多くのケーブル付き普通充電器(NEC製)が備わっている(EVsmartで確認するとサンシャインパークには180台の普通充電器と出力25kWの急速充電器1台が設置されている)のを見つけ、買い物を兼ねて出向いた。
充電器に備え付けのケーブルの長さは長くも短くも見え、リアから駐車した場合、左前フェンダーにあるミニ・クロスオーバーの充電ポートに届くかどうかわからなかったので、面倒だが前から突っ込んで駐めた。駐車後、まず別の場所にある充電コントローラーに充電認証カードをかざし、指示に従って操作をした後、駐車位置に戻る。あとはガンを差し込むだけ。車内のメーターで充電開始を示すアニメーションが始まったので、クルマを離れた。
約2時間後、どの程度充電されたか、ワクワクしながら戻ったら、充電されてなかった。バッテリー残量は1%のまま。ショック! 充電が始まったようで始まっていなかったのか、それともいったん充電は始まったがなんらかの理由ですぐに中止されたのかはわからない。ともあれいくらかでも充電されるのを確認してからクルマを離れるか、アプリか何かを通じ充電状況を確認すべきだった。それが生活に組み込まれていない“充電素人”の典型的な失敗だ。
EVの急速充電ならプラス20〜30分の待ち時間(充電スポットが少なく待ちが生じていれば話は別だが)で済むが、普通充電の場合はそうはいかない。ただPHEVであるがゆえに大きな問題にはならない。ハイブリッド車として走行すればよいだけの話だからだ。とはいえプラグイン電動車の最大の特徴である充電という行為がうまくいかないと、がっかり感が大きく、ストレスとなる。
宿泊施設での充電がありがたい
後日、栃木県那須町の新電力Looopがもつ宿泊施設のLooopリゾート那須を取材する機会があり、同施設の普通充電器にてひと晩かけて充電することができた。20時53分に残り3%の状態で充電を開始した際、「フル充電完了時刻 1時13分」と出ていた。約4時間で充電が完了するというわけだ。翌朝、ばっちりと100%まで回復し、48kmのEV走行が可能と表示されていた。めでたしめでたし。
ミニ・クロスオーバーは、ハッチバックのミニよりもひとまわり大きい分、それなりにユーティリティー性能が高い。特に後席はゆったりしていて、ミニ・ハッチバックの3ドアは言うに及ばず、5ドアと比べてもずっと広い。荷室もしかり。特に荷室の天地が高いので、ハッチバックよりもたくさんの荷物を積み込むことができる。PHEVのクーパーSEとなってもそれは変わらず、車体後部にバッテリーを搭載したうえでこの荷室容量であれば文句ない。
満充電から数十キロのEV走行が可能なことを利用し、デイリーユースではガソリンをほとんど使わず、遠出する際にはエンジンを使えるので航続距離の心配をしなくて済むというのがPHEVの真価だ。普通充電が可能な環境にあれば万能だ。半面、EV走行中はエンジンがおもりとなって航続距離を減らすし、エンジン走行中はバッテリーなどがおもりとなるなど、いずれにしても使っていない部分が足を引っ張るという構造的な弱点もある。EV、ICEのそれぞれに対する長所も弱点もあるが、全体としては非常に現実的なソリューションといえる。
一般論として、EVならば急速充電を使えるため、総電力量が大きいタイプなら自宅で充電できなくても使えないことはないが、急速充電に対応していないPHEVを自宅で充電できない環境で使うのはナンセンスとまでは言わないがあまり意味がないように思う。だったらHEVか効率の高いICEを選ぶほうがスマートだろう。なぜなら、例えばミニ・クロスオーバー・クーパーSEはSD(ディーゼルエンジン搭載)よりも燃費自体は劣るのだ。これならこまめに充電し、しばしばEV走行しないとPHEVを買う意味がない。やはり、集合住宅への普通充電設備普及が大きな課題であることを実感した。
(取材・文/塩見 智)
こんばんは。
記事内の【普通充電で「失敗」も体験】部分にあったNEC製普通充電器(充電コントローラー有)の手順は本体にも掲示されており、接続後の認証となっています。
このあたり、メーカーによっては認証後コネクターがロック解除になるタイプもあって、一旦覚えてしまえばなんてことないことなのですが初めてはいろいろなことがありますね。
一番いいのはどの充電器でも手順が同じ、ってことなんですけど…。
これから出るであろうMINIのBEV仕様も気になります。
そうなんです。仕事柄、主要なニューモデルにはだいたい試乗しますが、充電を必要とするほどまとまった期間、距離を試すに至らなかったことに反省しています。ミニは30年代前半にはEVブランドとなることを発表しています。楽しみですね。