近ごろ「水素」まわりが賑やかです
というのも、5月23日に開催された「スーパー耐久第3戦富士24時間レース」で、開発中のトヨタの水素エンジンを搭載するレースカーがデビュー。走行するチームは、トヨタ自動車の豊田章男社長がポケットマネーで作ったレーシングチーム「RookieRacing」。今回のレースには、豊田社長自身も「モリゾウ」選手としてレースにも参戦していることでも大注目されました。とはいえ、こちらは水素を燃料とする水素エンジン車。
先ごろ発売された水素を使った燃料電池車(FCV ※先日、今後は「FCEV」と呼ぶことが発表されましたが、公式サイトなどでの表記はまだ「FCV」のままです)新型「MIRAI(ミライ)」は、水素と酸素を化学反応させて作った電気がモーターで動かし、クルマが動きます。しかもその時排出されるのは排気ガスではなく水だけ。
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というように、同じ「水素」を使っても、使い方が全く違うクルマです。
水素の話題はほかにも。3月からスタートしている東京2020オリンピックの聖火リレーでは、トヨタが開発を主導した世界で初めての「水素トーチ」が使われています。これは、知らない方が多いかも。
新型『MIRAI』はスタイリッシュに大変身
現在の2代目新型ミライは2020年12月9日に販売を開始し、デザイン一新。先代のミライは、プリウスに近いデザインでしたが、新型はガラリと大変身。
どちらかというと「カムリ」のようなクーペライクのスタイリッシュなデザインとなり、イメージチェンジ。フロントグリルは水平基調。フロントライトは先進的な1灯でロービームとハイビームを切り替えを行う「Bi-BeamLEDヘッドランプ」とデイタイムライト機能付き「LEDクリアランスランプ」を採用。
プラットフォームは「レクサス」のフラッグシップモデル「レクサスLS」にも採用されている大型FR「GA-L」を採用し、ボディサイズは全長4975㎜×全幅1885㎜×全高1470mmで、先代に比べると全長85㎜、全幅70㎜、ホイールベースも140㎜長くなり、「センチュリー」を抜かせば、トヨタのフラッグシップモデルの風格が漂います。とはいえ、逆に全高は65㎜低くなり、絵にかいたようなワイド&ローのスタイルはスタイリッシュで4ドアクーペのよう。
ボディカラーは全8色ありますが、小さな傷を自己修復する「セルフリストアリングコート」が全車標準装備されています。
運転席周りで印象的なのは、インストゥルメントパネルに設けられた「ウォーターリリーススイッチ」。先代から採用されていますが、発電によって発生する水は自動的にも車外に排出されますが、このスイッチを押せば自由に排出することができます。このスイッチが設置されているパネルには「MIRAI」というロゴが。ダッシュボードは全体的に柔らかいレザーに覆われ、ピアノブラックとのコンビネーションが高級感と先進感を演出します。
Zグレードの前席には「快適温熱シート」や「シートベンチレーション」が標準装備。
荷室にはAC100V(1500W)のコンセントが装備されています。
車内には12.3インチの大型センターディスプレイとメーターパネルがあり、こちらもデザイン一新。レイアウトも変わっています。エアコンの吹き出し口のデザインも個性的ですが、助手席側のエアコン吹き出し口からセンターコンソールまで、助手席を囲むように銅色のアクセント。シフトレバーまでエアコン吹き出し口が繋がっているように見えます。Zグレードには14個のスピーカーを装備する「JBLプレミアムサウンドシステム」が標準装備。
スマホのワイヤレス充電が装備されているのは個人的にはうれしいポイント。
走行時に吸入した空気を綺麗にして排出する空気清浄システムが作動し、PM2.5をはじめ化学物質を除去するので、車内も常にクリーンな空気に包まれるのも、とくに今の時代はうれしいですね。
タンクには約5.6kgの水素を充填可能
「ミライ」は水素を貯蔵する高圧水素タンク3本を搭載。総容量は141ℓ、約5.6㎏の圧縮水素ガスが貯蔵可能。水素は70MPs(約700気圧)に圧縮して貯蔵されます。水素タンクは車体の後ろ部分に2本横置にし、センタートンネル部分に縦に置いています。FCスタック(発電装置)はフロントのボンネット下に搭載されています。
安全装備系も最先端で、トヨタの先進装備がたくさん装備されています。
駐車をサポートする「アドバンスドパーク」が標準装備。ステアリング、アクセル、ブレーキのほかに車両が自動制御し、縦列駐車、並列駐車、車庫入れ、加えて線が無い駐車スペースでも駐車サポートを行います。今や「新型ヤリス」にも駐車サポートシステムが搭載されていますが、さらに滑らかでスムーズに。
新型「ミライ」の進化は、車内に乗り込んだ瞬間からその静かさからも感じられ、その高級感に驚きます。当然、エンジン音はありません。その代わり疑似エンジン音「アクティブサウンドコントロール(ASC)」が設定され、走行モードに連動したサウンドを流します。ドライブモードは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」で、モードによって音が変わります。
乗った感じはまさにEV で、滑らかで加速もいい。駆動用モーターの最高出力は182PS 、最大トルク300Nm。常にフラット感を保っているというイメージで、路面の凹凸にも柔軟に対応し、乗り心地もいいのです。
水素ステーションを利用してみました
そして一番の懸念は水素ステーションでの充填でした。
今回は5日間試乗し、充填したのは2回。2回目の充填までの合計走行距離は497㎞で水素の給水素量は5.36㎏。水素1㎏あたり約93㎞走行できたことになります。
最初の充填は「イワタニ水素ステーション群馬高崎」。200km走行し、充填量は1.97㎏で2383円。2度目は「イワタニ水素ステーション芝公園」で、297㎞走行し、充填量は3.39㎏、4101円。価格はどちらも同じ会社なので、1㎏1100円計算。
燃費としては100円で約8.25km。ガソリンがリッター150円として、走行コストとしてはガソリンエンジン車と同じ程度か、少し安上がりというイメージでしょうか。
電気自動車に比べると充填時間は短いので、給水素量にもよりますが数分程度なのでストレスはありません。しかし問題は水素ステーションの数や営業時間です。
私はミライに試乗期間中、軽井沢へ行く用事があり、周辺の水素ステーションを調べたら最寄りは高崎。少し走行ルートからは外れますが、まあ許せる範囲。しかし軽井沢に無いのはちょっと残念。というか、長野方面には水素ステーションが無いのでこちらの方面の人はまだ燃料電池車は購入できないかも。
充填時には危険があるとのことでセルフ給水素できず、さらに充填している近くで写真&動画も撮影NGでした。水素は無色無臭のため、万が一漏れていたらのことを考えての対応とか。しかも水素ステーションは空いている時間が短いのも玉にキズ。
水素ステーションの数がもっと増え、営業時間も長くなり、自分でも手軽で安全に給水素できて、さらに水素の価格がもっと安価になれば、普及する可能性が高くなるのかも。後は、今のところ710万円〜(税込)の車両価格がもう少しお安くなれば……。
ちなみに今回の試乗車は、条件付きで手放し運転が可能な「Advanced Drive」(アドバンストドライブ)機能は未搭載のモデルだったので、次回はアドバンスドドライブを搭載しているモデルで、水素カーライフを愉しみたいと思います。
(取材・文/吉田 由美)
先日トヨタ水素カローラが水素内燃機関で富士24時間耐久を走りきりました。XEVの様な二次電池を搭載する車より水素内燃機関の方が、高価で廃棄などの問題も有る二次電池を搭載せず、考えていくと一番効率的ではないかと思ったのですが、今後の水素内燃機関の発展についてご見解をお聞かせいただけたら幸いです。また、海外はこの水素内燃機関について何か動きはあるのでしょうか?漠然とした質問で申し訳ありません。
mat様、コメントありがとうございます。
そうですね、補給時間という点ではまだ水素内燃機関は短い利点があるのですが、そのほかのすべての点において、ガソリン車よりメリットがあるとは言えない、というのが最大の課題だと思います。電気自動車には、欠点もありますが、多くの利点もありますよね。
水素内燃機関は、まずそもそも燃料電池ほど効率が高くないため、航続距離がさらに短くなります。上記耐久は、補給1回じゃないですよ。何回も水素を補給しています。長距離旅行するときに、電気自動車と同じくらいの間隔で水素の補給が必要かつ、自宅で補給できないことにより、水素インフラは電気自動車の充電インフラの数倍の規模が必要だと考えられます。電気自動車は、80%程度の補給を自宅で済ませられているからです。
さらに、水素内燃機関は燃費が悪いため、水素燃料電池より、もちろんガソリンよりも燃料費が高く、ユーザーにとっては維持費の高額な車両ということになります。そして、エンジンであるために、残念ながら大気汚染物質であるNOxは発生することになり、完全なゼロエミッションにならないという課題もあります。
基本的に、水素内燃機関は、実際に実現することは私はないと考えています。どう考えても水素燃料電池のほうがマシだと思います。
電気管理技術者として&もと応用化学専攻者として、水素エネルギーの在り方を考えてみました。
水素の生成方法は再生可能エネルギーと密接になるはずで、こと太陽光発電に関しては天候次第で大幅に発電能力が変わり送配電線の電圧も大きく変わる、かといって蓄電池はまだ高い…それやから燃料電気と水素というバッファー(緩衝設備)が考えられたんです。
ここはむしろ蓄電池は自動車用に、水素はエネルギー蓄積用に特化すべきやないですか!?バストラックなど大型モビリティは重量的に蓄電池より水素有利なはず、既に天然ガスで動いている車両なら転用もしやすいはずですから…ガス事業で有名な岩谷産業はそれを考えてはるでひょ!?
同じトヨタグループなら日野自動車が先陣切ってやってほしいです…トントントントンヒノノニトン、水素でエコのヒノノニトン(笑)
Miraiは大きすぎですね。
日本で本気で売るつもりはないんでしょう。
水素を作るために電力消費するのは本末転倒な気がします。電気を充電するのとどっちが安く済むのでしょうか?
Miraiの車体が大きいのは同意しますが、重要なのは水素ユニットを小型化できた事なんです。
ちなみに燃料ですがオーストラリアの風車、太陽光などの再エネで褐炭から取り出した液化水素をCNG船で運搬するプランです。
1艘でミライ13000台が満タンに出来るとの事。
エネルギー側では、Jパワー、岩谷産業、川崎重工業、シェルジャパン、丸紅、ENEOS、川崎汽船、住友商事、AGL Energy Limitedが参加。
自動車業界では、トヨタ、日野、いすゞが参加。
FCV車両を製作し幹線道路沿いに水素スタンド増設で話が進んでいます。
欧米諸国も昨年あたりから水素に大量投資を決定していますので、大型車両や(対車両で燃費の悪い)船舶辺りから水素が採用されていくと思います。
今のところは電気の方が安いです。
ただインフラが進んで消費の多い大型車両が増えると水素も下がるでしょう。
匿名 様、コメントありがとうございます。
>1艘でミライ13000台
先日公開された実証実験用の船ですよね。13000台というと多く見えますが、月2回水素を入れるとして、6500台分。仮に電気自動車と同等の(日本国内)20万台まで普及したとして、この規模の船でしたら1か月あたり30艘必要になります。航海に仮に1か月として、往復2か月ですから必要なのはその2倍ですね。電気インフラと比べると、非常に多くの投資が必要で、かつたった20万台を維持するだけでもこのサイズの船では60艘が毎月フル稼働、というのはあまり現実的ではないです。当然川崎重工業様ではこの船のサイズを100倍にするそうで、そこまで技術開発が進めば、もうちょっと現実的なお話になると思います。
フロントデザインが残念。ラジエーターが不要なのだから、黒くて大きなグリルは不要なはず。名前は「ミライ」なのに、スタイルは「過去」を引きずってる。グリルやエンブレムがないと売れないという人もいるでしょうが、そこは、それこそチラッと見ただけで「ミライ」を予感させるデザインにして欲しいな。
ラジエーターは不要なのですが、酸素を取り込まないと電気が生成できませんので、エンジン同様に空気は結構要るんですよね。
初代ミライでは、それをアピールするためにああいうフロントマスクにしたというような記事を読んだ覚えがあります。
二代目も踏襲しているのでしょう。
水素について教えてください
水素に関してはトヨタの戦略ミスだと思う。
ミライでぶち上げたものだから課題山積みでハイブリッドのように横への展開もできない。
トラック/バスには良いシステムだと思うのでそちらで頑張ればいいのにと思う。
特にバスは走るルートや距離が計算できるので水素ステーションの整備も楽なはずです。
水素エンジンにしてもしかりで、直接水素を燃料とするのであれば大量のバッテリーを積むこともないので安くできるということなのだろうと思う。
どういった使い方をされるかわからない観光バスやトラック、ましてや乗用車で市販して文句言われるのなら是非とも循環型バスで展開させるべきだと思う。
たまにしかバスに乗りませんがディーゼルエンジンの振動や音、加減速のぎくしゃくした挙動はどうにかならないのかとその度に思います。
軽貨物様、いつもためになるコメントありがとうございます。
>トラック/バスには良いシステム
これどうなんでしょう。。私はちょっと自信がないままなんです。
MIRAIを見る限り、燃費はガソリン車と同等なので、恐らく既存のバス・トラックよりFCバスやFCトラックの燃料費は少し高めになると想像しています。
もちろん将来的に台数が増えれば軽油より安くなるかもですね。
二点目は重心で、今のFC商用車は全部、屋根にタンクを載せています。これで日本では走行できていますが、欧米の安全基準をクリアできるのでしょうか?
最後に、給水素インフラです。今の水素ステーションはほとんどがオフサイトで、圧縮水素をトレーラーで運んでいます。
https://www.sdk.co.jp/gaspro/products/industrial_gas/hydrogen.html
これによれば3,000Sm3 @ 19.6MPaとのこと。
1Nm3 H2 = 0.08988kg, 3000Sm3だと、3000 / 1.0732 x 0.08988 = 251kg。これでミライ45台分弱充填できるわけです。
路線のFCバスを例にとります。
https://www.asahi.com/articles/ASNCZ74Z1NCTUTNB011.html
ここから水素タンクは20kg。すると先ほどの水素トレーラー1台分で、バスを10回補給できます。
これだと、バスの営業所1か所につき、毎朝水素トレーラーが1台入る必要があります。
高速道路のSAPAは液化水素が必要ではないでしょうか。。そこまでやるのかな?とちょっと心配になります。
岩谷産業さんのサイトを見ると液体水素の供給に力を入れているようですね。
ただ、トレーラーで運ぶとなると災害時はお手上げでしょうし「まずトレーラーをFCV化したらどうだ?」とツッコミを入れたくなります。
安川様コメントありがとうございます。
重心の件ですが。
今のレイアウトはベース車両が既存のものの転用ですから
専用設計になればタンクも下面に降りてきてタンクの本数も増やせると思っています。
コストについては生産が拡大すれば下がってくると思いますし、ガソリンからの脱却をごり押しするためにガソリン税があげられる可能性もあるのではないかと思います。
コスト以上に問題だと思われるのが水素ステーションの問題ですよね。
高速道路のステーション整備は定期バスのタイムスケジュールに影響を及ぼすでしょうが、ミライのような不定期でゲリラ的な運用を無視すれば何処に整備すればよいのか計画しやすいと思います。
路線バスやトラックなら定期的に動いているので水素ステーションの設置間隔が計画的に効率良く行えますが
そこにアトランダムなミライのことまで考えるのはかえって普及を遅らせているように思われます。
本当はガソリンを入れる時も特に冬の乾燥時期には携帯電話の使用は危険だという認識を持っている人は少ないのではないだろうか。電話やメール、WEBを使っていなければ通信してないから大丈夫と思い込んでいる人もいそうだが、電源が入っていれば通信は常に行なっているから動作はしていてスパークが飛ぶ可能性があるからである。水素の場合は圧力が高いので漏れないように対策されてはいるがバルブジョイントの劣化や異物で漏れた時のことを想定するとやはり携帯電話の使用はやめておいた方が良いだろう。さらに水素ステーションでは水素を極端に冷やしているのでいるのでジョイント部がかなり冷たくなる。そのため資格を持ったスタンドマンが手袋をして給水素する手筈になっている。さもないと手がジョインと付近にくっついて取れなくなったり凍傷になる危険性があるからだ。水素ステーションを作るには冷却装置付きの高価な巨大タンクが必要なため、1カ所作るのに4〜5億円かかるとも言われているし、保管のための電力も馬鹿にならない。つまりW2Wの考え方からすると必ずしもエコとは言えないようだ。芝のステーションは土日は休業らしいので一般庶民にはまだまだ使い勝手が悪いように思う。あと30年くらい経てば普及しているかもしれないかな。
水素に関する話はここ最近トヨタぐらいしか聞きませんでしたが、あのレース以降、他社の取り組みも取り上げられるようになりました。
最近だと川崎重工が力を入れているようです。石炭から水素を作るプロジェクトや、それから生まれた水素を運ぶ船、バイクの電動化+水素エンジンバイクの開発が進行している模様です。水素運搬船は運搬面でのコストはありますが、まだ大型化が難しいという課題があります。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2df8b9e081cc869a5792214c6e878b7e79f5b2ab
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/kattansuisoproject.html
https://www.netdenjd.com/articles/-/250569
https://www.aviationwire.jp/archives/227610
他にも、イスラエルの新興メーカーが、小型軽量(重さ10kg)かつ部品点数も少ない水素エンジンを開発した模様です。
https://jp.techcrunch.com/2021/05/25/aquarius-engines/?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAACxaIE5RvELQbjLLbUAoWDnSRDqR_aYeuxQpMogl5rs_dFf2ZgF5SozO_puMmBTrEMwA34TNMfGQW6DxSlMJW7PgwyXveXiQTqYXCZjwZthVaqrZwuc3t_U_wEQEZFSG7LtOnFCM78qL0x5N7X6yCOssMbYU9dYCEYyTU0tDm4FS
どれも取り組みとしては評価できますが、インフラの整備はまだ課題でしょうね。もう一つの代替燃料であるe-fuelは既存のインフラを利用できるという利点がありますが、水素は新しく作らないといけないので、政府がどれだけ供給網の拡大や水素ステーションの安全技術向上に投資をしてくれるかにかかってますね。