シトロエンのPHEV『C5 X ハイブリッド』試乗レポート〜とてつもなく快適なクルマ【塩見 智】

シトロエンがフラッグシップとして日本導入を予定している『C5 X』のプラグインハイブリッドモデルに、モータージャーナリストの塩見智氏がフランスで試乗。シトロエンらしい個性満点の乗り味レポートを紹介します。

シトロエンのPHEV『C5-X ハイブリッド』試乗レポート〜とてつもなく快適なクルマ【塩見 智】

フラッグシップにPHEVモデルを投入

昨年のプジョー508、シトロエンC5エアクロスSUV、DS7クロスバックに続き、今年はプジョー308、DS4、DS9と、ステランティスの旧PSA側から新しいPHEVモデルが続々と登場している。旧FCA側のジープも昨年レネゲードにPHEVの4xeを設定。また昨年は旧PSA側からプジョー208、2008、DS3クロスバック、シトロエンe-C4、今年になってFCA側からフィアット500eと、BEVモデルも次々と導入された。いつの間にかステランティス・ジャパンは電動ラインアップが最も充実したインポーターになっていた。

そして同社は今年の後半にもう一車種、新たなPHEVモデルの投入を予定している。その名はシトロエンC5 Xハイブリッド。シトロエンはPHEVをハイブリッドと呼ぶ。C5のセダン/ワゴンの販売を終了して以来、長らく不在となっていた旗艦モデルの復活だ(C5エアクロスSUVがあるが、SUVが旗艦というのも……)。1.6Lガソリン直4ターボエンジンを搭載するPHEVモデルだ。

C5 Xはまずスタイリングがユニーク。昔ながらの呼び方をするならば「5ドアリフトバック」というのがしっくりくる。最近ではあまり見かけないなだらかなリアハッチが特徴。著しく車高が高いわけではないが、大径タイヤによってロードクリアランスは一般的な乗用車よりもしっかりと確保されている。といっても前輪駆動なので特別悪路に強いわけではない。

PHEVシステムは508、C5エアクロスSUV、DS 4、DS 9と一連のステランティス各モデルが用いるのと共通で、C5 Xには総電力量12・4kWhのバッテリーを搭載。8速ATが備わる。エンジンが最高出力180ps、最大トルク300Nm、モーターが同110ps、同320Nmをそれぞれ発揮する。両者が同時にピークパワーを発揮するわけではないので、システム上の最高出力は225psとなる。

走りは他の多くのPHEV同様、バッテリー残量に余裕がある場合、EV走行を基本とし、高い負荷をかければエンジンが駆動に加勢する。電動車の常として、このパワートレーンならではの特徴があるわけではないが、発進から高速域まで余裕があり、不満なし。エンジンがかからない領域での音と振動のなさは、後述する素晴らしい乗り心地と組み合わせられることで、一層価値を増す。残念ながら短時間の試乗のみだったので、今回は充電を試みる機会はなかった。

小さなことは気にならない鷹揚な乗り心地

このC5 Xのみならず、最近のシトロエン各モデルにはアドバンスト・コンフォート・シートが備わる。長時間走行時の疲労の少なさはC5エアクロスSUVやC4で確認済み。肉厚の低反発系クッションがふんだんに用いられ、腰を掛けると身体が適度に沈み、面でホールドしてくれて心地よい。

また加えてかつてのハイドロニューマチックおよびハイドラクティブ・サスペンションに代わる新たな足まわりの特徴であるプログレッシブ・ハイドローリック・クッションも装備される。セカンダリーダンパーを用い、不快な突き上げを減らすこの仕組みによって、速度域や路面状況を問わず常にソフトな乗り心地が、前後左右席分け隔てなく乗員全員に振る舞われる。

他のモデルでその快適性は実証されているが、車体の大きなC5 Xと組み合わせると効果抜群。小さな悩みがバカバカしくなるくらい鷹揚な乗り心地がもたらされる。上下動の大きさ、ロールの深さを嫌う人もいるかもしれない。が、シトロエンという時点で万人受けを目指したクルマではないので問題なし。

乗り心地向上のダメ押しとして、ハイブリッドにはアドバンスト・コンフォー ト・アクティブ・サスペンションというシステムが装備される。これはプレミアムブランド、DSの上級モデルに設定される、フロントカメラで前方の路面をスキャンし、通過予定の路⾯の凹凸を識別し、ダンパーの減衰⼒をリアルタイムで最適化するアクティブ・スキャン・サスペンションに相当するシステムだ。

これらの合わせ技によって、C5 Xはとてつもなく快適なクルマに仕上がっていた。これまでシトロエンで最も乗り心地がよいのはC5エアクロスSUVだったが、旗艦モデルとして華麗にこれを上回った。

元来、シトロエンは独創的なクルマづくりで知られる。1930年代の昔から前輪駆動車の可能性を信じていたし、50年代にはサスペンションの一部であるスプリングにとぐろを巻いた金属ではなくオイルとガスを封入したものを採用した。スタイリングも決して他に似ていない。ステランティスのいちブランドとなった現在では、主要コンポーネンツを他ブランドと共有するため、独創性は薄まったが、スタイリングにせよメカニズムにせよ、昔からのファンが納得でき、新しいファンも獲得できる絶妙なところを突いている。かつてのシトロエンの持ち味を、最新技術を用いて復活させており、日本導入が待ちきれないモデルだ。

(取材・文/塩見 智)

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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