BYDのSUV電気自動車『シーライオン7』で東京=岡山を往復したロングドライブのレポート。後編ではシーライオン7がロングドライブに適したクルマかどうかについて、乗り心地や走行性能、充電などについてレポートします。
経路の高出力急速充電器が充実したから「岡山もEVで!」

旅の目的地は岡山国際サーキット。「TIサーキット英田」の時代にはF1が2回開催されている。
岡山県美作市にある岡山国際サーキットには、年に数回、取材で訪れます。東京からの移動手段としては、新幹線や飛行機という選択肢もありますが、クルマの運転が好きでモータージャーナリストになった私としては、状況が許すかぎりクルマで移動することにしています。直近では今年5月にディーゼルターボエンジンを積むドイツのSUVを利用しましたが、東名、新東名、新名神などに90kWや150kWの高出力急速充電器が充実したこともあり、次はEVにしようと思っていたのです。
そして今回、ロングドライブの相棒として選んだのが、BYDが今年4月に導入したシーライオン7です。まず、シーライオン7について概要を説明しておくと、全長4,830mm、全幅1,925mm、全高1,620mmと、トヨタ『ハリアー』を少し大きくしたくらいのボディを持つミッドサイズクロスオーバーSUV。EV専用「e-Platform 3.0」プラットフォームを採用し、バッテリーパックを車体構造として組み込む「CTB(Cell to Body)」技術で高剛性と広い室内空間を確保しました。

今回のロングドライブの相棒は、1モーターで後輪駆動仕様のシーライオン7。ブレードバッテリーを82.56kWh搭載し、590kmの一充電距離を誇る。クロスオーバーSUVを名乗り、クーペのようなスタイリッシュなフォルムが特徴。街中でも目立つ存在だ。
ラインアップは、230kW(308PS)のリアモーターを搭載するRWD(後輪駆動)仕様の『シーライオン7』と、これに160kW(215PS)のフロントモーターを加えて4WDを構成する『シーライオン7 AWD』を設定。いずれも、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの「ブレードバッテリー」を82.56kWh搭載し、RWDが590km、AWDが540kmの一充電航続距離を誇ります。このうち今回はRWD仕様の広報車をお借りしました。
上品な仕上がりで落ち着くコックピット

シーライオン7のコックピット。ほとんどの操作は大型タッチスクリーンで行い、ダッシュボードには物理スイッチが見当たらない。
最近は街中でBYDのEVを見る機会が増えました。なかでも、セダンの『シール』やこのシーライオン7は、存在感あるサイズのボディに、美しい曲面で仕立てられたエレガントなフォルムが実に魅力的で、街で見かけるたびについその姿を目で追ってしまうほどです。
インテリアの仕上がりも上品で、ダッシュボードとそれに連なるドアのデザインはすっきりしているものの、ステッチが施された素材が使われるなど、嫌みのない上質な雰囲気に仕立てあげられていて、とても落ち着きます。
デジタル化の最先端を行くBYDのEVらしく、ダッシュボードからは物理スイッチが排され、車両の設定などは大型タッチスクリーンで行うことになりますが、使用頻度が高い機能は大型タッチスクリーンのトップレベルに操作されたり、また、ハザードスイッチ、ブレーキのオートホールド、音量、回生ブレーキの強弱、エアコンのオンオフといった操作はセンターコンソールのシフトレバーまわりに物理スイッチやタッチスイッチが用意されます。

センターコンソールには、シフトレバーを囲むように使用頻度の高いスイッチが配置されている。手前、左から2番目のスイッチで回生ブレーキの強弱を設定できる。
さらに、「シートベンチレーションをオンにして」や「窓を少し開けて」」といった音声操作にも対応しているので、走行中に不便を感じることはありませんでした。

ナッパレザーシートは標準装備で、シートヒーターに加えてシートベンチレーションが搭載されるため、夏場でも快適に過ごせるのがうれしい。
休憩中などにメールのチェックなどPCで作業することがよくありますが、このシーライオン7は後席の足元が広く、ゆったりと仕事ができるのがうれしいところです。荷室もボディサイズ相応に広く、なにかと機材がかさむ仕事の移動にはぴったり。標準でラゲッジカバー(トノカバー)は装着されませんが、このクルマにはディーラーで購入できるアクセサリーのラゲッジカバーが追加されていて、荷室の中が見えないので、セキュリティの点で安心感がありました。

大人が座っても足元、頭上ともに余裕あるスペースが確保されるリアシート。

荷室は後席を使用する状態でも約1mの奥行きが確保され、後席を倒せば約2mまで拡大可能。車中泊にはもってこいだ。
1モーターでも余裕ある走り
シーライオン7は、いわゆる「ワンペダルドライブ」には対応しておらず、電動パーキングブレーキのオートホールドを解除しておけば、ブレーキペダルから足を離せば、ゆっくりとクリープを始めます。ここからアクセルペダルを軽く踏むだけで、シーライオン7はスムーズにスピードを上げていきます。車両重量は2,230kgと決して軽くはないものの、素早く、ストレスなく加速していくのはまさにEVの美点です。
このシングルモーター仕様は最高出力が230kW(308PS)ですが、アクセルペダルの踏み方次第では、まわりのクルマを楽にリードできる速さがあります。0-100km/h加速はRWDが6.7秒で、AWDの4.5秒には及びませんが、個人的にはRWDで十分過ぎるくらいのパワフルさを感じました。
回生ブレーキは、シフトレバー脇のスイッチで2段階に調整が可能。強めの「HIGH」にしても減速は強すぎず扱いやすいですが、そのぶんブレーキペダルを踏む場面も多く、個人的にはもう少し強めにほうが好みです。一方、「STANDARD」でも弱めの回生ブレーキが利き、アクセルペダルから足を離したときにコースティングさせたい人には不満かもしれません。
ただ、私の場合、回生ブレーキの強弱にかかわらず、減速が不要な場面ではアクセルペダルの力の抜き具合を調節することでコースティングさせているので、機能としてコースティングができるかどうかは、正直、気にしたことはありません。
静粛性の高さもロングドライブの快適さを後押し
最高出力が230kW(308PS)のリアモーターは、高速道路の合流や追い越しでも余裕ある速さを見せてくれます。一方、ロングドライブの場面では、アダプティブクルースコントロール(ACC)を使うことで、巡行中はもちろんのこと、渋滞でも楽ができるのは、多くのみなさんが日々体験しているはずです。
さらに便利なインテリジェントクルーズコントロール(ICC)が用意され、ステアリングサポートを行ってくれる反面、コーナーを通過中に制御が解除されることがよくあり、もうすこし熟成が必要だと思いました。また、速度標識を読み取る機能も、誤った数字を拾ったり、警告が煩わしかったりして、私はオフにして走行。このあたりは、OTA(Over-The-Air)でのアップデートに期待したいところです。
一方、シーライオン7の場合、走行時の静粛性が高く、高速道路でもキャビンが静かに保たれます。ロングドライブの際、この静かさもドライバーの疲労軽減につながっています。
シーライオン7の乗り心地は少し硬めで、路面によってはザラついた感触を伝えてきますが、十分に快適なレベルに仕上がっています。高速では落ち着いた走りを見せてくれます。意外だったのが、岡山国際サーキット近くのワインディングロードで、コーナーではロールを抑えながら、面白いように曲がっていくさまは、ちょっとしたスポーツモデルを凌ぐほど。その気持ち良さに驚かされました。
ホテルで予約充電の快適さを実感
ロングドライブにあたって不安と思われている航続距離については、シーライオン7の高い急速充電の受け入れ能力と、高速道路上の充実した急速充電ネットワークにより、快適な旅ができたのは【前編】で触れました。
さらに今回は姫路のホテルで予約充電ができたのが、旅の安心感を高めてくれました。

6kWの普通充電器はe-Mobility PowerとEV充電エネチェンジの認証に対応。到着時に36%だったSOCは翌朝には100%に。
私が宿泊したのはルートインホテルズ系列の「姫路キヤッスルグランヴィリオホテル」で、この5月から宿泊者にかぎり普通充電器の予約が可能になりました。このEVsmartBlogでもレポートが掲載されていますので、詳細は「宿泊者のEV充電予約OK! ホテルルートイン上山田温泉で『安心の満充電』宿泊レポート」というレポート記事をご覧いただくとして、私もホテルを予約すると同時に、公式サイトから普通充電器を予約しました。
もともと多くのホテルで普通充電ができるということもあって、これまで何度もルートインホテルズを利用していますし、近年は普通充電器が3kWから6kWにアップグレードされているため、本当に助かっています。しかも、予約充電ができるようになったわけですから、自分でホテルを選べる場合は、最優先でルートインホテルズを選んでしまいます。
今回宿泊したホテルでは、駐車場の充電スペースが専用のパイロンでブロックされていたうえに、予約者の名前が書かれたパイロンが置かれていて、ちょっとうれしい(笑)気分を味わいました。これなら他の宿泊者などがわざわざここに駐車することもないでしょう。さらに、充電プラグにはダイヤル錠が掛けられ、予約者以外が使えないようにする対策も万全。おかげでスムーズに充電が始められ、到着時に36%だったSOCは翌朝の出発時には100%。以後3日間にわたって、岡山国際サーキット周辺をバッテリー残量の心配することなく移動できました。

宿泊予約した「姫路キヤッスルグランヴィリオホテル」の充電スペースは、他の宿泊者が駐車できないようパイロンでブロックされていた。
ルートインホテルズの普通充電器はe-Mobility PowerとEV充電エネチェンジの認証に対応しており、今回はe-Mobility Powerのカードを使ったので認証も簡単でした。ただ、どちらにも加入していない人のために、ルートインホテルズの公式アプリで決済ができるようになったらさらに便利かなと思いました。
あと、充電プラグにはダイヤル錠がかけられているのは安心ですが、チェックイン後にダイヤル錠を解錠するために再度駐車場に足を運ぶことになるので、個人的にはパイロンでスペースをブロックするだけでも十分ではないかと思いました。そのほうがホテルスタッフの負担も減りますしね。
ということで、途中の移動も、途中の充電も実に快適だったシーライオン7とのロングドライブ。年内はもう一度、岡山遠征がありますが、またEVで行きたいなと思っています。
取材・文/生方 聡
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