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「BYD SEALION 6」発表会&試乗レポート/「スーパーハイブリッド(PHEV)」は日本市場攻略の切り札となるか?

「BYD SEALION 6」発表会&試乗レポート/「スーパーハイブリッド(PHEV)」は日本市場攻略の切り札となるか?

BYDが中国で人気を誇る「スーパーハイブリッド」システムを搭載したミッドサイズSUVの「SEALION 6(シーライオン 6)」の日本発売を発表しました。BYDオートジャパンは日本で3年間に4車種のEVを発売していますが、当初目指したペースで売れているとはいえません。はたして、PHEVは日本市場で躍進する切り札となるでしょうか。

目次

日本が得意とする2モーターハイブリッドシステムを採用

発表会で登壇したルー氏(左)と、BYDオートジャパンの東福寺社長。

2025年12月1日に開催された発表会(関連記事)では、海外市場向けPHEVの開発責任者である魯超(Chao Lu=ルー・チャオ ※以下、ルー氏)博士が登壇して技術説明を行い、続くトークセッションとグループインタビューでメディアの質問にも答えました。

シーライオン 6の「スーパーハイブリッド DM-i(デュアル・モード・インテリジェントの略)」は、18.3kWhの大容量バッテリーと最高出力145kW(197PS)のモーターを主として前輪を駆動し、熱効率43.04%を誇る1.5Lの高効率エンジンを補助的に使う点に特徴があります。構造的には、駆動用モーターとジェネレーターが平行軸で並ぶ最新のトヨタやホンダのHEVシステムに類似しており、市街地や一般道ではバッテリーの電力とエンジンを発電機として使うシリーズ走行が主体となります。

技術説明に登壇したルー氏は、これまでトヨタやホンダのHEVや日産のe-powerなど、日本のハイブリッドシステムを熱心に研究してきたと明かしました。BYDは2008年に世界で最初に量産型のPHEVを発売しており、この時は2モーターHEVシステムでしたが、2010年代にはドイツメーカーが主に採用する多段ギアボックスとDCT(デュアルクラッチ)を使ったシングルモーターシステムに移行した時期もあったようです。

それが、2021年に発売したDM-i4と最新のDM-i5では再び2モーターシステムに回帰し、エンジン車よりも安い価格(79,800元=約160万円)で発売した「秦プラス」などが中国で大ブレークしたわけです。

世界トップレベルの高効率を誇るエンジンとHVシステム(EHS)

ルー氏は、ガソリンエンジンではひときわ高い15.5の圧縮比を実現するために、シリンダーブロックとシリンダーヘッドにそれぞれ独立した冷却系統を採用し、クールドEGRでノッキングを抑制したと説明。エンジン開発競争の激しい中国でも最高レベルの43.04%の熱効率を達成しています(中国自動車技術会の認定書も披露)。

また、最高回転数15,000rpmの駆動用モーターは、運転領域の90%以上で90%超えの高効率を達成し、44.3kW/Lという優れた体積効率で小型化しています。

お家芸のバッテリーでは、モジュールを介さないブレードバッテリーを直接冷却して冷却効率を高め、寒冷時には独自のパルス発電技術により1分間に3℃の急速加熱で充・放電効率を高めたといいます。ちなみに、シーライオン 6は18.3kWhのバッテリーでEV走行距離は100kmを確保。バッテリーのサイズに応じてPHEVモデルのEV航続距離は252kmまで伸びるようです。

ルー氏はインタビューで、「DM-iの一番のコンセプトは低燃費」と語りましたが、WLTC総合燃費22.4km/Lは同クラスのトヨタハリアーPHEV(20.5km/L)や現行RAV4 のPHEV(22.2km/L)を上回り、特に市街地モードでは26.4km/Lと優れています(ハリアーとRAVのPHEVはリアに小型のモーターを持つ4WDだが、車両重量は1920kgでSealion 6(1940kg)とほぼ同じ)。

クラッチによってエンジン直結のパラレル走行になる高速道路モードでは20.8km/Lと少し落ちますが、この数字もハリアーと同等で、車重が2100kgを超える三菱アウトランダーにはいずれのモードでも大きく優っています。

早速試乗して「PHEVありかも!」と実感

この技術プレゼンテーションを聞いた数日後、BYDオートジャパンが開催した試乗会に参加し、どんな走りか確かめてきました。筆者はモータージャーナリストではないので国産車のHEVやPHEVの試乗経験はそれほど多くないのですが、1時間余り箱根の山を登り下りした感想は、パワートレインの静かさ、スムースさは圧巻で「これならPHEVありかも!」という驚きでした。

SOC 25%以下ではEV走行モードには入らないという説明でしたが、乗り込んだ時のバッテリー残量は24%。登坂を始めるとインパネには確かに「HEV」の表示が出ますが、エンジン音はほとんど聞こえず、「本当にエンジンかかっているの?」と思うほど室内は静かです。アクセルを踏み込むとアトキンソンサイクルのエンジンが大きな唸りを立てる、これまで体験した国産HEVとは様子が違います。

300Nmの最大トルクがあるので加速も良く、ステアリングや足回りも軽快に動く印象で、登りのワインディングで思わずスピードを上げたくなります。アクセルを深く踏み込んだり、傾斜がキツくなるとさすがにエンジン音は高まりますが、気になるほどではありません。

芦ノ湖スカイラインで少しスピードを上げてみても、私の運転レベルならパワーも十分で足回りも破綻することはなく、1900kgを超える重量のSUVということを忘れさせてくれる気持ち良さでした。

WLTC走行サイクルで80%以上モーター走行する。

下りではみるみる回生してEVモードに復活

標高450mの御殿場ICから芦ノ湖スカイラインの湖尻峠(850m)まで登って、バッテリー残量は19%まで減りましたが、下りではみるみる回生し(回生ブレーキの強さは、ディスプレイ上で2通りから選べる)、半分下ったあたりで残量は25%を超えてEVモードに入りました。

これで登りの「HEV」状態ではやはりエンジンが稼働していたことが確認できましたが、それにしてもパーシャルスロットルでのHEV走行は静かです。1.5Lという小排気量の上、車内は人工音でノイズキャンセルされており、これが静粛性に貢献しているようです。ちなみに、車外でボンネットを上げてもエンジン音は大きくはなく、閉めればほとんど気になりません。

こうして御殿場IC近くの試乗会場に戻った時は、SOCは29%まで回復していました。その分ガソリンは消費し、ガソリン燃料の航続可能距離表示は190kmから135kmまで減ったので、試乗距離(約40km)を考えると、燃料エネルギーの一部がバッテリーの電気に置き換わったことがわかります。

個人的にはBEVよりPHEVに好感

今回、シーライオン 6の前にEVのシーライオン 7(4WD)に少し試乗したのですが、こちらは390kW/690Nmの強大なパワーと静かさは圧倒的ですが、重量2.3トンの重さからくる慣性モーメントの大きさが、ブレーキング時や旋回時には気になってしまいます。また、路面の凹凸では、サスペンションがショックを吸収しきれずボディが揺さぶられ、乗り心地も固く感じました。

その点PHEVの方は、バッテリーの重さを感じることなく、スムースなエンジン車に乗っているのと同じ感覚で運転できますし、静粛性や加速も十分なレベルです。今回、高速道路は試せていないので、100km/h前後で巡航時のフィールや燃費は確認できていませんが、日常の使用が一般道中心であれば、SOCが25%を切ってもモーターを主に走行するのでBEVと遜色ない静かでスムースな運転が味わえるでしょう。高速道路でも筆者の所有するアウディA4アバントTDIクワトロのように20km/Lを超えてくれば、PHEVは次の車の選択肢になると感じました。
(ちなみに34,000km走行したA4の累積燃費は目下16.2km/Lです)

これまでPHEVに関しては、過渡的な技術といわれたり、実際は充電せずに走る人が多いのでCO2削減に繋がらないといった批判もありましたが、100km以上のEVレンジがあればユーザーの充電頻度も減るでしょうし、欧州でもフォルクスワーゲンなどドイツメーカーがEV航続距離120km以上のPHEVを次々に導入して最近の販売台数も増えています。
(2025年1~10月のPHEV販売は116,514台、前年同期比+40.2%。出典:ACEA. EU+UK+EFTA)

欧州でBYDの成長を牽引するPHEV

BYDの今年の欧州販売(1~10月)は138,390台(前年同期比+285% ※ACEA=欧州自動車工業会データ参照)と、すでにマツダを上回りスズキやテスラに迫っていますが、これを牽引するのは56,608台(Automotive News/Dataforce参照)を販売しているPHEVのシールUで、VWティグアンやボルボXC60とPHEV販売台数の首位を競っています。BYD、吉利汽車、チェリーなどの中国メーカーは、17~35.3%の追加関税(+既存の一律関税10%)の対象外であるPHEVの導入を加速しています。

欧州でPHEV販売トップを競うBYDシールU。

また、EVシフトのスローダウンを受けてACEAやドイツ政府は、2035年のエンジン車販売禁止の見直しを強く要請しており、欧州委員会はこれを受けて、2035年以降もPHEVの販売を認めることや、e-fuelに加えてバイオ燃料などの使用を認める規制の変更を近く発表する見込みです。ここからも、BYDが今後当分の間、PHEVがBEVと並んで主要な役割を果たすと主張するのも理解できます。

「先生であり、師」である日本を超えたのか?

筆者のハイブリッド車の試乗経験は限られていますが、ドイツメーカーの1モーター式PHEVや日本のフルハイブリッド車は、前者は価格が高く中途半端に思え、後者はエンジン回転上昇時の騒音やトルクの立ち上がりの遅れが気になっていました。

今回のBYDのDM-iは、低速から70~80km/hまでスムーズなモーター走行で、エンジンの存在が気になりません。高速道路ではシリーズモードより効率の良いエンジン直結のパラレルモードに切り替わります。まさにモーターとエンジンの良いとこ取りをした印象です。BYD勤続8年で34歳のルー氏は、「日本は先生であり、師」と話していましたが、今回試乗してみて、これは師匠に追いつき、ひょっとしたら超えたのではと感じた次第です。

中国では昨年までのPHEVブームは一段落して成長のペースは緩やかになっており、中国メーカーは、欧州を筆頭に東南アジアや南米へ輸出攻勢をかけています。国内販売と輸出の比率を半々にする目標を掲げるBYDなので、グローバルサウスなど充電インフラの十分でない地域では、外部充電の必要ないストロングHEVがあればさらに成長できるのではと思いますが、ルー氏は「HEVも何度か検討したが、PHEVの方がユーザーの使用コストが下がる」という回答でした。

中国でPHEVブームを巻き起こした秦DM-iシリーズ。(常州のBYDショールーム)

レギュラーガソリン対応と400万円切りは必須だった

今回、シーライオン 6がシーライオン 7より100万円安い398.2万円(FWDモデル、AWDは448.8万円)で発売されたことに驚きの声が上がりました。BYDオートジャパン社長の東福寺厚樹氏に、「中国で『内巻』と言われる果てしない価格競争を日本に持ち込んだのでは」と質問したのですが、「本社の仕切り価格を特別に下げてもらったということはない」ということでした。

あるグローバルな調査で、「品質と性能が同じ中国車が20%安かったら買うか」という質問で、日本は「YES」と答えた比率が他国に比べて顕著に低かったそうで、「なんとしても400万円切りを」という思いはあったそうです。そのためにインポーターや販売店のコストやマージンなどで調整できることはやったとの話でした。

PHEVの導入にあたっては、欧州向けモデルを持ってくれば一番早いと考えて実績のある車種を選んだそうですが、レギュラーガソリン対応に時間がかかり、当初は今年10月の発売の計画が、2026年にずれ込んだとのこと。このほかにも日本市場向けにV2H/V2L対応と、中国より高速道路の法定最高速度が低い日本の運転環境を考えてエンジンをチューニングしたそうです。

フォルクスワーゲンジャパンなどで輸入車販売経験が豊富な東福寺厚樹社長。

価格について、「シーライオン 6はシーライオン 7よりもなぜ100万円も安くできるのでしょう。エンジン+バッテリーだと、従来ならガソリン車より2~3割高くBEV並みになりますが」とルー氏に伺うと、「シーライオン 6のDM-iユニットは大量に生産されていて、その分コストダウンができている」「シーライオン 7は内装など車両グレードがシーライオン 6より1クラス上」とのことでした。

軽EVとPHEVが日本市場攻略の鍵となるか?

100kmのEV航続距離があれば、充電器がないマンション住まいの人でも、月に2~3度外で充電すればほとんどの場面でEV走行を維持できるかもしれません(急速充電は出力18kWまで対応)。 また12Vの補機バッテリーもLFP製で質量はわずか2.2kgと鉛バッテリーの5分の1で、劣化が少なく15年交換の必要がないとのこと。BYDが提供する自宅用の壁掛け充電器も7万円(3kW仕様)ですから、自宅のAC充電器の設置費用が気になるユーザーの敷居も下がりそうです。

日本製のPHEVより2割以上安い価格と、ランニングコストの低さが理解されれば、今回のシーライオン 6の登場は、PHEVが有望な選択肢であると日本市場で認知させるきっかけになるかもしれません。来年にはPHEVがさらに2車種、JMSでも注目を浴びた軽乗用車EVも登場します。軽EVと「スーパーハイブリッド」で、来年もBYD から目が離せない一年になりそうです。

取材・文/丸田 靖生

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この記事を書いた人

1960年、山口県生まれ。大学卒業後、マツダ(株)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト駐在)をへて、日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から17年間、フォルクスワーゲンジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在はコミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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