電気自動車の最新ロンドンタクシー LEVC『TX』と2泊3日のランデブー♡【吉田由美】

レンジエクステンダーEV(電気自動車)となって日本にも導入されたロンドンタクシー『LEVC TX』に、カーライフエッセイストの吉田由美さんがじっくり試乗。レポートを届けてくれました。

電気自動車の最新ロンドンタクシー LEVC『TX』と2泊3日のランデブー♡【吉田由美】

レンジエクステンダーで走行距離は600km近く

「電気自動車になった新型ロンドンタクシー」……。実はこの最新モデルが日本に導入されたのを知ったのは、私が関わっているYouTubeチャンネル『クルマ業界女子部』のカメラマンさんとのミーティングの時でした。

そして、この車のことを調べようと思った矢先に、雑誌『エンジン』が年に一度開催する大試乗会で、私が試乗を担当する一台が新型ロンドンタクシーだったのです。

YouTube『クルマ業界女子部チャンネル』でもレポート公開中!

ということからのご縁で、今回のレポートとなりました!

でもすでに一度、少し試乗は行っているので今回は少し長めの2泊3日の試乗です。

まず、この車のプロフィールのご紹介。

1908年にマン&バートンにより「Unic 12/16キャブ」として誕生し、1989年から「LTI社」(ロンドンタクシー社 The London Taxi International)として長年、愛されてきた「ロンドンタクシー」が、、2017年に中国のGEELYグループ(吉利控股集団)傘下となり、社名も「LEVC(London Electric Vehicle Company)」に。GEELYグループの次世代商用EV担当という位置づけです。
そのため、GEELYグループのさまざまな「いいとこどり」をしているプラグインハイブリッド(レンジエクステンダー付きEV)になりました。基本は電気自動車。エンジンは走行用ではなく、発電してバッテリーに給電されます。バッテリー残量が少なくなるとエンジンが始動して電力を補給します。

乗り込んだ印象は、たとえば車内の運転席まわりやタッチパネルなどはGEELYグループのボルボとの共通点がいっぱい。タッチパネルは手袋をしたまま操作が可能なので、タクシードライバーさんが白い手袋のまま操作することができます。

LEVC公式サイトより引用。

【参考】
LEVC JAPAN 公式サイト

エンジンは最大出力67kW@4000rpm 、最大トルクは160Nm の3気筒1.5リッターエンジン。駆動用の電気モーターは、150Nm(ピークトルク255Nm)、ピーク出力120kW。EV用高電圧リチウムイオンバッテリーは前席下部分に配置されていて、総容量は31kWh(利用可能エネルギーは23.25kWh)。もちろん12Vの補機用バッテリーも搭載されていて、電送系のパーツにはこれまたGEELYグループ「LYNK&CO」の刻印がありました。

航続距離はEVモードで約104㎞、レンジエクステンダーでは約488㎞。合計で約600㎞近く走行可能(欧州WLTP参考値)とされています。
(編集注※EPA換算推計値では、EVモード走行距離約93km、レンジエクステンダー走行距離約435km、合計約528km)

「LEVC」では「TX」で実現した環境に優しいテクノロジーを「eCITY」と呼んでいます。(編集注※31kWhの電池を搭載したレンジエクステンダー。プラグインのシリーズハイブリッドといったイメージですね)

LEVC公式サイトより引用。

もともとのロンドンタクシーはもっと小さいイメージでしたが、TXはだいぶ大きくなって全長4855㎜×全幅2036㎜×全高1880㎜。実際には全幅が2m超えで大きいのですが、全長のほうが長く感じられます。

そして驚くのは車両総重量2.9トン!(車両重量は2.31トン)もあることです。ボディにはアルミを使って剛性と軽量を確保しているのにこの重さ。

実はこの「TX」、ナンバープレートの分類番号が「800」。8ナンバーは、使用目的や車体の形状が特殊で特別な自動車である「特殊自動車」に区分されるところから、いろいろな工夫が盛り込まれていることが伺えます。つまりこのTXはスタイリッシュなロンドンタクシーでりながら、「福祉車両」でもあるのです。

全ての人に優しいデザインが印象的

ドアが観音開きになるのもロンドンタクシーの特徴らしい。がっちりしたドアグリップと、しっかりしたドアの厚みが乗る人に安心感を与えます。

床は低めで地面から370㎜。とくに後席部分がとにかく広くてフラット。後席は6名乗り。3席列目のパッセンジャーシートは前向きに、2列目シートはそれぞれ独立して設置され、通常時は跳ね上げられていて、使用する際にシートを下げるタイプです。

2列目シートが跳ね上がった状態だと車いすに乗ったままスムーズな乗車が可能。しかも車いすが1台の場合はほかに4人乗車可能。最大車いすは2台まで乗せることができ、その場合は3列目の3人+車いす2台乗車できます。ただし、2台になると固定が個人的には心配かなと思いました。ちなみにシートベルトは車いす用のものを装着するので、そこは安心ですが。

LEVC TX Accessibility Video Guide(YouTube)

車いすは助手席側ドアの下部分に格納されたスロープがあり、それを引き出して使用しますが、このスロープの出し入れも手軽で簡単。しかもスロープがドアを最大に開けたときでもそれより少しだけ長いぐらいだし、スロープが緩やか。もちろん車いすはしっかり固定でき、なおかつ車いす用のシートベルトも用意されています。

至る所に黄色いグリップがあるのも、小さいお子さんやお年寄り、ハンディキャップの人にとっても嬉しいポイント。そしてスロープが格納される側の2列目の跳ね上げシートは、そのまま横に90度強、回転をし、車いすまでは使わないものの、そのまま乗り込むのが辛い人にも優しいデザインになっています。

そして大きな特徴は、前席と後席の間のパーティションがしっかりしたアクリルで全面仕切られていることです。空いているのは料金の受け渡しをするだけの小さな隙間だけ。これならタクシードライバーさんも防犯上、安心ですね。

しかしこのパーティションのお陰で、前席と後席の音声が効きにくくなるため、両方にマイクが設置されています。もちろんマイクをオフにすることもでき、聞かれたくない話の場合はマイクを止めることも可能。また、後席は独自でエアコンの温度設定もできます。

走らせてみた印象は……。

ドライブ中の回生ブレーキは2段階(0を入れると3段階)。ドライブモードは3種類で、「スマート」が電気の残量があるときはEVモード、無くなったら自動的に充電を始める通常走行モード、「セーブ」が電池を温存するモード、常にEV走行できるのが「EV」モード。。

ACCは残念ながら設定が無く、クルーズコントロールと、車線逸脱防止システム付き。ちなみに車線からはみ出しそうになると「ゴゴゴ」と音がします。この部分は、ボルボの安全装備が最小限しか搭載されていないので少し残念に思います。

CHAdeMOの充電口はフロントに。

充電はチャデモの急速充電器を推奨されていて、実際に3回の充電も試してみました。30分の急速充電で、EV走行可能な距離は42㎞→80㎞に。17.2kWhを充電することができました。最初は「EVモード」で走っています。

充電翌日、撮影があったのでこの後は電気を温存させるため、38㎞ほど「セーブモード」で走行。撮影後に2回目の急速充電も30分充電し、航続可能距離は32㎞から75㎞へ。

そして最後はまた、30分の急速充電を行い、航続可能距離は118㎞に。13.3kWhを充電できました。

2泊3日の期間中、約141km走行しましたが、マメに充電をおこなったのでガソリンは入れることなく3日間を終了。

「LEVCジャパン」取締役の渋谷剛史さんのお話によると、自身が体調を崩した時の車いす生活体験から「こういった車いすでもみんなと一緒に移動できるタクシーを導入したかった」とのこと。

「これまで車いすでタクシーに乗れるとしてもミニバンのような大きなタイプが中心。リアのハッチを開けて乗るタイプなので、ほかの人と一緒に乗っても疎外感がある」そう。これを解消できるTXは真ん中に乗れるので、一緒に乗っている人とのコミュニケーションもスムーズです。

ちなみに車いすは助手席の部分にシートが無いので、折り畳み式ならここに畳んで置けます。またこの部分にはトランクを2個くらい積むことも可能です。

レトロなロンドンタクシーのデザイン力、レンジエクステンダー付きEVで、みんなに優しいおもいやりグルマ。ちなみに運転するドライバーさんにも優しく、私が大好きなシートヒーターも完備!

現在、価格は1120万円。補助金などを活用した場合は756万円とのこと。ちょっと高めの印象ですが、ちゃんと次なる秘策(?)も考えられているようです。

ただ、この車に試乗していると、すれ違う人に不思議そうな顔をされます。なにしろ屋根に「TAXI」の文字が書かれていますから。ちなみにこれは無くすることも、ほかのものにすることもできるそうです。タクシー以外にも使えそうですね。

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(取材・文/吉田 由美)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. レポートお疲れさまでした…いやはや電動ロンドンタクシーが実は福祉車両だなんて!思わず手持ちの「へぇ」ボタンを16回押しちゃった(^^;;;
    確かに古めかしいデザインで車体が重く車幅も大きいなど難点がいくつも出ますが、逆に車椅子でも変わったデザインの車に乗れる点ではイイかもです。
    気がかりなのは値段…少なくとも公的団体への導入は厳しいでしょうか。某市のテスラXが市民の反感を買った笑えない話を目にしたもので(リーフe+だったら停電時の電源供給目的で反論はなかったはずです)。
    電費はあまりよろくないようで(141km/30.5kWh)重たいからですかねぇ!?

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この記事の著者


					吉田 由美

吉田 由美

短大時代からモデルをはじめ、国産自動車メーカーのセーフティドライビングインストラクターを経て、「カーライフ・エッセイスト」に転身。クルマまわりのエトセトラについて独自の目線で、自動車雑誌を中心にテレビ、ラジオ、web、女性誌や一般誌まで幅広く活動中。

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