「ジャパンモビリティショー 2025」に出展後、各地の地方開催にも出展し注目を集めたBEVキャンピングカー「ムーン T-01」。「日本初の本格的なEVキャンピングカー」とアピールされたクルマに、メディアとして初となる試乗&車中泊を敢行。未来を感じた一方で、実用面で見過ごせない課題にも気がつきました。
「moonn T-01」ってどんなキャンピングカー?

moonn T-01
「moonn(ムーン)」は、横浜でCarstay株式会社が運営するキャンピングカー製造拠点「Mobi Lab.(モビラボ)」が展開する最新のブランドです。同社は、キャンピングカー車中泊スポットのシェアリングサービス「Carstay」の運営も行う新進気鋭のベンチャー企業です。
ブランド名の由来は「Mobility Of New Normal」からとのこと。「未来のキャンピングカー」という意味も込められています。同社では、「SAny(サニー)」というブランドも以前から展開(内燃機関キャンピングカー)しています。サニー(Sunny=直訳では「太陽が照っている日」)と対照的なムーン(月)という関係性を構築しています。

内装はシックなビジネスホテルの印象。32インチモニターはオプション。自前のPCをモニターに接続してNetflixを鑑賞した。
ムーン T-01は、2023年8月9日のプレスリリースで「日本初の本格的なEVキャンピングカー」と銘打たれて発表されました。キャンピングカーとしての特徴的な装備は、BEVらしく充実した家電製品を採用していることです。デザイン重視のシンプルモダンな冷蔵庫(容量72L)日立「Chiiil(チール)」と、同じくデザイン性が高く機能面も評価が高いバルミューダ製のオーブンレンジを標準装備。オプションで32インチモニター(TV受信機能なし)が設定されます。

冷蔵庫とオーブンレンジ。シンク、コンロは省略されている。これで十分だった。
快適装備は、Dometic(ドメティック)製パーキングクーラー(天井埋め込み)か、マックスファン(ルーフベント)どちらかがオプションで選択可能となっています。
電源関係では、容量5,000Whの24Vサブバッテリー(200Ah)、3000Wインバーターを搭載。外部給電のほか、走行用バッテリーからサブバッテリーへ充電する回路(手動切替式)が装備されています。24Vバッテリー(大型ディーゼル車用)を選択できるのはBEVならでは。オプションで、370Wソーラーパネルが選択可能です。
ベース車両は、HW ELECTRO(HWエレクトロ)の「ELEMO-L(エレモL)」。キャンパー架装部分以外のアーキテクチャ、パワートレインはベース車両に準じています。
HWエレクトロ「ELEMO-L」って、どんなEV?

エレモL
エレモLは、HWエレクトロが日本市場向けに展開する中型商用BEVバンです(関連記事)。アルミフレームと樹脂パネルを組み合わせた軽量なボディ構造を採用し、最大積載量1250kgで約7㎥の広大でスクエアな荷室スペースを備え、エクステリアもスクエアでシンプル、クリーンにまとめられています。
ボディサイズは、全長5,457mm×全幅1,850mm×全高2,045mm。トヨタ「ハイエース」スーパーロング・ワイドボディ・ハイルーフ(5380×1880×2285mm)に近いサイズ感です。
デビューは2023年1月、東京オートサロン2023で発表(関連記事)され、2023年3月21日に公式HPで先行予約が開始されました。

走行用バッテリーはフロア下に搭載。将来的にはロングレンジモデルの登場の可能性があるかも。
パワートレインは、43.5kWhのLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーを搭載、一充電走行距離は、HWエレクトロの公式HPでは200km、ムーン T-01のカタログ情報では270km(ともに測定モードの記載なし)と示されています。モーターは後輪に位置するRWD(後輪駆動)で、最高出力は80kW(109PS)、最大トルク265N・m、最高速度は90km/hとなっています。
HWエレクトロの設立は2019年5月。「環境問題」と「社会貢献」の視点から『The Essential Piece of Mobility(人に、社会に、不可欠なピースであるために)』をコンセプトに、次世代の多用途EV商用車「ELEMOシリーズ」の車両の開発・製造と販売を行うファブレス(工場を持たない)メーカーです。
パートナー企業は、米国Cenntro(セントロ)社で、公表はありませんが、エレモLのベース車は同社の「Logistar 260」とされています。

セントロ Logistar 260(画像:Cenntro)
エレモLは、災害時の移動可能な電源インフラとして、またキャンピングカーのベース車両としてなど多彩な架装モデルとして展開されています。
エレモLの車両価格は605万円から、ムーン T-01は1,105万円から(ともに発表時点の予定価格)となっています。
ちなみに、ジャパンキャンピングカーショー 2026で初披露されたKIA「PV5」ベースのキャンパー「PBV」の車両本体価格は「キャンパー P」の879万円、ライトな車中泊仕様の「C」が769万円です。ほかに直接的なライバル車は現時点では見当たらないので、価格優位性について語ることができませんが、ベース車両に対してプラス約500万円の架装部分について、見方によっては割高な印象を持つ人がいるかもしれません。
「moonn T-01」に試乗して気付いた課題
今回の試乗コースは、モビラボ(横浜市旭区東希望が丘)~丸太の森キャンプ場 RVパーク(神奈川県南足柄市)を往復、走行距離は130kmでした。モビラボの説明では、ムーンT-01が国内外で試乗記事として露出したことはこれまで1度もなく、本取材が国内メディアとして初めてです。
試乗&車中泊した感想を率直に言うと、「キャンピングカーとしては、シンプルな装備ながら快適な車中泊ができた。ただ、クルマとしてはいくつかの課題があった」というものでした。
この点は、モビラボ側の設計や技術面というより、ベース車両の課題となるでしょう。気付いたのは次の13点。順に説明していきます。
【安全性能】気になったヒヤリポイント
1. クリープ時の挙動が危ない
低速のクリープ挙動が唐突で、駐車場や狭路ではヒヤリとする場面がありました。この点は個体差なのかもしれませんが、傾斜のあるところで徐行すると、ガクンガクンと加速・減速を短い間隔で断続的に繰り返す現象が発生しました。
2. 自動ブレーキ、ACCなど先進安全技術がほしい
現状の装備だと、送迎や長距離運用を前提にしたとき安全支援がもう一段ほしいと感じます。最近の商用車は、先進安全技術の採用が進んでいます。せっかくの「未来のキャンピングカー」ですので、安全装備・運転支援技術はしっかりと採用してほしいと思いました。ベース車両としても、これは望ましいところです。
3. シフトに「P」がほしい

ELEMO-Lのシフト(ダイヤル式)には「P」レンジがありません。停止・駐車の一連動作で「P」がないのは、直感的に扱いづらく、誤操作リスクが増えるおそれがあります。
駐車時は「N」に入れて、サイドブレーキを引くという所作だけでは、心もとない印象です。安全面は問題ないとは思いますが、多くのBEVが採用する、物理的にギアを固定するシフト「P」は備えてほしいと感じました。
【急速充電性能】大きめの車体で最大50kWは力不足を感じる
4. CHAdeMO充電性能向上
運用の要になる急速充電性能。仕様はCHAdeMO規格で最大50kWまでとのことで、実際に東名高速海老名SA下りの90kW器で充電したところ、最大46kW程度の出力が確認できました。車体のサイズや、遠出を伴うレジャー用途であることを考えると、少なくとも最大100kW程度の急速充電には対応してほしいと感じました。

【実際の充電状況】
充電時間:30分
SOC推移: 38%→66%
充電量:17.0kWh(充電器側の表示値)
最大充電出力:約46kW(充電器側の表示値)
外気温:11℃
【走行性能など】疲れる/疲れないの分岐点
5. 回生ブレーキ調整機能がほしい
回生の強弱を選べないと、電費よりもまず「乗り味」の最適化が難しくなります。ELEMO-Lの場合、回生ブレーキのON・OFFもない仕様です。アクセルOFF時には、適度な回生ブレーキがかかりますが、もっと効いてもいいと感じるシーンがたくさんありました。また、高速道路走行時には空走(コースティング)を使いたいと感じる場面があります。回生ブレーキの強度が調節できれば、走行状況に応じた設定で走行することにより、電費向上にも繋がるはずです。
6. 直進安定性が悪い
高速域では直進の落ち着きが不足し、長距離だと疲労につながりやすい印象です。30km/hを超えたあたりから、直進安定性の悪さがとても気になりました。常に修正舵が必要でした。もしかすると、これも個体差なのかもしれません。アライメント調整で解決される可能性もあります。

リアゲートを開放。例えば向こうが海だったら最高ですね。天井にはオプションのDometic製パーキングエアコンが装備されている。
7. ステアリングのダル傾向が強い
操舵の応答がやや鈍く、狙ったラインに乗せるのに神経を使いました。また、ステアリングに遊びが多く、全体的にダルなステアの印象を受けました。個人的には、電動パワステはもう少し重くてもいいし、ステアリングギア比を少し変えて、ややクイックにしたほうが運転しやすいかもと感じました。直進安定性が悪い&ダルなステアで、1時間半ほどのドライブながら少し疲労感を覚えました。
8. ハネて固いリアサス
リアの突き上げが強く、乗員の快適性を考えると改善したいポイントです。
ベース車両が最大積載量1,250kgのバンなので、ムーン T-01の架装では、空荷に近い荷重となり、リアサスはハネてしまうのは仕方がないことです。ただ、キャンピングカーとして見たとき、長距離運転時の疲労度アップの要因となりますし、荷物や装備された家電製品への影響も懸念されます。

モーターはデフに直結されている。リーフスプリングは6枚。
リアサスはリーフスプリングでしたので、キャンパー架装後の荷重を計算して、リーフを1枚抜き、減トン(最大積載量を減少させる車検手続き)をすると解決できるかもしれません。
【運転姿勢や操作性】ドライバー適合に課題を実感
9. チルト・テレスコステアリングがほしい
運転姿勢の合わせ込みが難しく、ドライバーによっては疲れやすいポジションになります。ステアリング位置は固定です。コスト面からこの仕様になったと推測もできますが、より適正なドライビングポジションが取れて、運転時の疲労軽減にも繋がるチルト・テレスコ機能は装備してほしいと感じました。
10. 30km/h以下のインバーター音
低速域で耳につく作動音があり、BEVならではの静粛性を期待するとギャップを感じるでしょう。発進時と減速時、30km/h以下のインバーター音が非常に大きく、人によっては不快感を覚える音の周波数帯だと感じました。
商用車という割り切りがあるかとは思いますが、仕事で使ってもドライバーにはストレスを与える要因になりそうです。インバーターはフロントボンネット内にありましたので、遮音材を入れるなどの対策で解決されるかもしれません。
【日本への最適化】右ハンドル化などを望みたい
11. 右ハンドル化
日本国内で広く受け入れられる1台とするためには、右ハンドルの設定は避けて通れません。

ダッシュボード上、右側のモニターは、後方および周囲360°を映し出すアフターパーツ。
ムーン T-01のカタログには「今後、右ハンドルも販売予定」と書いてありましたが、全長約5.5m、ミラーを含めた全幅で2m超ともなると、左ハンドルはセールス面でも大きなハンディキャップとなってしまうでしょう。
12. ドアミラー電動化
ミラー調整が手動だと日常のストレスが大きく、商品性として惜しい部分です。ドアミラーの角度調整は、鏡面を指で押して調整するタイプでした。ベース車両の仕様そのままとのことですが、商用車でも毎日同じ人が運転するとは限らないので、電動リモコンミラーはほしい装備です。
ムーン T-01は、キャンピングカーシェアリングサービスでも展開されているので、ことさらドアミラーの電動化を望むところです。特に、初めて運転する人は、大きな車体でなくてもセッティングを一発で決めることが難しく、走り出した後にドアミラーの角度調整をしたくなりがちです。
13. ワンタッチウインカー(軽く触れると3回点滅)がほしい
こうした細部は、積み重なると運転の快適さを左右します。車線変更時など、意外と利用シーンが多いワンタッチウインカー。なくても問題はないですが、あったほうがいいと感じたポイントです。
社長が感じた「BEVはキャンピングカーの最適解」

ムーン T-01の試乗前に、Carstay株式会社の代表取締役である宮下晃樹さんに開発経緯などをインタビュー。お話を伺うと、宮下さんはなんと「インドア派」だったことが判明。インドア派でも外に出たくなるクルマを作りたかったそうです。そこで、「BEVはキャンピングカーの最適解」だと感じて開発を進めることになったと語ってくれました。
また、日本最大のキャンピングカーイベント「ジャパンキャンピングカーショー 2026(2026年1月30日~2月2日開催・幕張メッセ)」で初披露された、KIAのBEV商用バン「PV5」がベースのキャンパー「PBV」が登場したことをどう受け止めているのかについても語ってくれました。その宮下さんが開発の裏側などを熱く語ったインタビューの一部始終は、こちらの動画をご覧ください。
BEVキャンピングカーの需要はあるはず
ムーン T-01の試乗・車中泊を終えて感じたのは、「BEVキャンピングカーの需要は一定数あるはずだ」ということでした。ジャパンキャンピングカーショー 2026では、まだまだBEVキャンパーはマイノリティでしたが、実際にムーン T-01でのキャンプで快適さを実感。今後、BEVキャンピングカーは増えてくるだろうと感じました。
電気を使わず、原始的な火だけで過ごすキャンプも魅力ですが、日常生活の延長線上で気軽に車中泊、旅ができるのは、クルマの「オール電化」を達成したBEVキャンピングカーならではの魅力です。
今回、EVsmartブログの記事は「ムーン T-01のEVとしての評価」を中心にまとめました。キャンピングカーとしての実力について感じた点などは、アウトドア系メディア「CAMP HACK」に寄稿しています(関連記事)。また、試乗や車中泊の様子を紹介する動画を筆者のYouTubeチャンネルで公開しています。
今後、ムーン T-01がどう進化していくのか、引き続き、BEVキャンピングカーの動向に注目していきたいと思います。
取材・文/宇野 智






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