スイスの三輪EV『キーバス』日本上陸!〜政府公認の郵便配達車両の実力は?

スイスのEVメーカー『KYBURZ(キーバス)』が日本上陸。日本正規代理店である株式会社イベンタスがメディア向け試乗会を開催しました。興味深い背景を持ったスイス生まれの三輪EV試乗レポートと、イベンタス社CEO 上田氏のインタビューをお届けします。

スイスの三輪EV『キーバス』日本上陸!〜政府公認の郵便配達車両の実力は?

※冒頭写真はKYBURZ 2nd Life DXS に試乗する筆者。

新車ではない。スイス郵便のリニューアル車を輸入販売

メディア向け試乗会といえば、通常は新型車。しかしこの試乗会は新型車でもなければ、新車でもありませんでした。今回試乗車はキーバス製の『2nd Life(セカンドライフ)DXS』と名付けられたリニューアル車です。

DXSは、10年以上前にスイスポストの郵便配達車両として採用されたことをきっかけに、ヨーロッパやオセアニアの主要都市の郵便配達車両に次々に採用されていったEV三輪車。郵便配達車として任務を終えた車両は、キーバス社が隅々までチェックし新たな部品を使って、リニューアル車として販売されています。

そのリニューアル車をイベンタス社が輸入、日本の法規制に合うように調整されて販売されるのが『キーバス セカンドライフ DXS』となります。

もう、この時点でライフサイクルのエコシステムができあがっており、サスティナブルな印象を受けませんか?

イベンタス社担当者の商品説明、代表者インタビューを動画にまとめました。

【動画レポート】

車検不要で維持費も安い

キーバス セカンドライフ DXS。スイスのデザインと言われて納得の姿。

キーバス セカンドライフ DXSのボディサイズは、全長200cm、全幅80cm、全高124cm。標準的な250ccのビッグスクーターの大きさとほぼ同じです。モーターの定格出力は0.96kW(約1.3PS)。最高出力は3.5kW(約4.8PS)ということで、一般的な原付スクーターより小さいかな、という程度です(後述しますが、トルクが太く走行にはまったく不自由しません)。

このスペックだけを見ると、運転に二輪免許が必要かと思いきや、普通自動車免許が必要となる「側車付軽二輪車」に分類されるとのことでした。AT限定免許で運転可能です。また、運転時のヘルメット着用は義務付けられていません(イベンタス社は、安全のため着用を推奨)。

搭載する駆動用バッテリーの容量は「100Ah」で、モーターの電圧が24Vなので「24V×100Ah=2.4kWh」ということになります。充電は家庭用100V電源で可能で、ほぼ空の状態から満充電までの充電時間(車載充電器の性能によります)は約8時間。航続距離はカタログスペックで「70〜115km」と表記されていて、実用的には100km程度と推察できます。1回の充電費用は、電気料金が平均的な25円/kWhとして、25円×2.4kWh=60円くらい。

側車付軽二輪車は、車検が不要。自動車税は年3,600円、自動車重量税は初回登録時のみの4,900円、自賠責保険料は年7,650円と、250ccの自動二輪車とほぼ同じ維持費となります。

車載の充電器は230V対応。後部に格納される昇圧トランスで日本の家庭用100V充電器に対応させている。

試乗して実感。海外の郵便配達車として採用されている理由

前述しましたが、キーバス セカンドライフ DXSのモーター定格出力は、0.96kWと一見頼りないスペックです(この0.96kWという最高出力はEUの規定によるもの)。取材時、筆者はこの数値だけが印象に強く残っており、原付免許で乗れるのではないかと思ったほど(冷静に考えればそうではないのですが…YouTube動画ではふつうに「原付免許で乗れる?」と担当者に質問してしまっています)。

商品説明を行う、株式会社イベンタス COO 有馬幸一氏。

最大トルクは未公表となっていますが、実際に試乗してみると明らかにエンジンの原付スクーターより出だしは鋭い印象で、あっという間に最高速度(45km/h)に達してしまう実力を持っていました。試乗時は空荷の状態で、なおさらパワフルに感じやすいのですが、ややきつい勾配の登り坂を走ったときの感覚から、重い荷物を積んでも楽に走れるはずです。そもそもモーターは、特に低回転のトルクが太い特性があります。

最高速度は、10・20・30・45km/hの4段階で注文時に設定され、納車後の変更はユーザー側でできないようになっています。これは、EUの規定で三輪車の最高速度が45km/hに規定されていることと、スイスの運転免許制度は、75歳で免許返納が義務付けられ、返納後は「L2e」と呼ばれるカテゴリーの車両のみ運転できるようになっていること(キーバス セカンドライフ DXSはこのカテゴリーに属する)、免許返納後に運転する車両の最高速度は、医師が決めるという制度によることからの仕様となっています。

最大積載量はフロント部30kg、リア部90kgの合計120kgとなっています。なお、別売りのトレーラー『PAH』が用意されており、その最大積載量は150kgで、合計270kgもの積載が可能となります。

また、最大積載量350kgの軽自動車登録のトレーラーをけん引することも可能。けん引免許不要で合計470kgまでの積載して運転できることになります(これは軽貨物車の最大積載量350kgより多くの荷物が積める!)。

ちなみに、専用トレーラーのブレーキは、けん引する側の車両の回生ブレーキと連動する機能を備えており、イベンタス有馬氏は「まったくけん引している感じがしない」と語っていました(今回の試乗会は、トレーラー付き車はありませんでした)。

車両後部にヒッチメンバーを標準装備。画像の車両はオプションの軽トレーラーをけん引するための2インチ汎用ヒッチメンバーを装備している。

安全と利便性を高める機能では、シートにセンサーを備えて、ドライバーが着座していないとパーキングブレーキが解除されないオートブレーキを備えています。キーをONにしてアクセルを回しても、着座していないと発進しません。逆に、シートから降りると自動でブレーキロックが作動します。このため、乗り降りの度にパーキングブレーキを操作する必要がありません。また、三輪車ですからバイクのようなスタンドを使用する必要もありません。まさに、郵便配達では神機能。日常生活の使用でも便利で安全です。

試乗してみると、定格出力の小さなモーターとは思えない加速にびっくりしました。空荷での走行ですので、なおさら加速は良いのですが、感覚的には100kgを超える荷物を積載して乗ってちょうど良いのではと感じるくらいでした。回生ブレーキも備えていてかなり強力。空荷で走行中、アクセルを一気に緩めるとタイヤが一瞬ロックするほど。

三輪車のため、カーブを曲がる時に二輪車のように身体を倒してコーナリングできないこと、アクセルワークがエンジン車と異なるといったクセがありますが、すぐに慣れました。ハンドル角度の最適化と、後輪のデフによってコーナリング時の安定性が確保されているとのことです。さすが、世界各地の郵便配達車として採用されているなと、その実力を感じました。

事故減少。積雪路でも問題なし。

シンプルなインパネ。なんと、ドリンクホルダー(小物入れ?)付き。

キーバス製三輪EV導入後の事故発生について伺うと、その答えは「二輪車のときに発生していた転倒による事故はゼロになった」とのことでした。三輪車は二輪車と比べると安定性は優れますが、カーブでは二輪車より曲がりにくく(運転に少しコツが必要)、急ブレーキをかけたときはバランスを崩しやすいのですが、車輪が1つ増えたことによる安全性への効果はてきめんだったと言えます。

また、スイス生まれであることは、日本の積雪地帯での使用に十分に耐えうると考えることができます。現時点、日本の積雪路での走行テストは行っていないとのことですが、スイスの気候は北海道や日本の高原地帯と似ている寒いところで、高低差の多い地形という特徴もあります。

キーバス セカンドライフ DXS のタイヤはオールシーズンタイヤを装着。本国仕様と同じタイヤで、本国ではこのタイヤのまま雪道を走行しているようです。また、細めのタイヤを採用することで路面との接地面が小さくなり、滑りやすい路面でも食いつきをよくしているとのことです。

EVは、エンジンより回転数のレスポンスがいいので、滑りやすい路面でのアクセルワークがしやすい特長があります。こういった点も、世界中の都市の郵便配達で採用されている理由となっているのでしょう。日本で導入しても問題ないのではないでしょうか。

今後の可能性

キーバス正規代理店 株式会社イベンタス 本社前にて。

試乗会での商品説明、試乗した印象から、キーバス セカンドライフ DXSに、サスティナブルなモビリティとロジスティクスの可能性を感じました。

ただ、このモデルが一般に普及するとは考えにくいのも事実です。質実剛健な印象で、価格も高い。三輪車といえどもキャビンがなく雨風のあるときの走行は辛い。日常生活の足として使い勝手が良いとは言えません。しかし、物流のラストワンマイルの手段と考えれば、十分に実用的で使いやすいモデルだと言えるでしょう。

イベンタス社は、セカンドライフ DXSを一般向けに販売していますが、日本の郵便配達や宅配便などの物流のラストワンマイルで活躍できるはずです。日本の道路事情、物流事情にもマッチしたモデルではないかと思います。

スイスでは事業者間でキーバスのEV三輪車をシェアしているとのこと。朝7~9時は新聞配達で使用、9~17時を郵便配達で使用し、19~22時を宅配便と3業態で使い回しているそうです。車両価格が高いため(現地では二輪車の3倍ほどの価格になるとのこと)、事業者間でのシェアが始まったとしていましたが、仮に車両価格が安くなったとしても、ラストワンマイルを担う業者間でEVをシェアするエコシステムはとてもサスティナブル。日本でも導入を進めたほうが良いのではないでしょうか。

イベンタス社は、今回の日本導入に際してスイス郵便へ取材するなど、プロダクト販売だけにかかわらず広い視野で取り組んでいました。商品を輸入するだけでなく、その商品を使用したモビリティ、ロジスティクスも輸入しているような印象です。

「日本はまだ遅れている」イベンタス代表者インタビュー

株式会社イベンタス CEO 上田伸氏。

株式会社イベンタス CEO 上田伸氏は、脱炭素化社会、持続可能な社会づくりへの貢献の第1弾として、キーバス社のEV輸入販売を始めたと語り、単なるEV輸入代理業にとどまらない今後の展開を語りました。

また、日本の自動車電動化について上田氏がどう感じているかを尋ねたところ、日本はそれなりに進んではいるがと前置きした上で「技術は持っているが、先進的な取り組みについてはまだまだ遅れている、法制度を含めた枠組みもできていない」旨を語りました。

上田氏は、日本郵便株式会社のOBで日本の物流に精通。世界の物流を客観的に見て、今後の日本の物流を持続可能なものにするため、さまざまなことを考えているようでした。自動車の電動化の波は、自動車産業への多彩なプレイヤーの参入を促しています。今後はますます、イベンタス社のようなベンチャーが、サスティナブルなモビリティ、ロジスティクスの実現、底上げの大きな原動力となっていくのでは、と期待が高まった試乗会でした。

『キーバス セカンドライフ DXS』の車両価格は、94万6,000円から。トレーラー『PAH』は60万5,000円。ちなみに、新車の『DXS』は178万円。試乗や問合せはイベンタス公式HPから。
※価格はすべて税込。

【関連ページ】
『KYBURZ』(日本)公式サイト

(取材・文/宇野 智)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. これって、再生品ですよね?
    これなら国内メーカーのAIDEA社やBLAZE社の方が余程魅力的です。

  2. 価格が高いですね!(汗)

    結構!国内のベンチャー企業は、電気自動車を販売していますが。
    中々、普及しませんね!

    本命の新型の軽自動車EVが、出るのが待たれます!

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この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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