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テスラ『モデル3』で横浜=広島を往復/長距離ドライブの快適さと今後のスーパーチャージャー

テスラ『モデル3』で横浜=広島を往復/長距離ドライブの快適さと今後のスーパーチャージャー

もともとテスラやポルシェの「中の人」だったこともあるコンサルタントの前田謙一郎氏が、2月に納車されたテスラ『モデル3』RWDで横浜から郷里の広島にドライブしたレポートです。「電気自動車でも長距離は快適」という実感とともに、スーパーチャージャー(NACS規格)の今後を考察!

目次

片道約850kmの旅もテスラ&スーパーチャージャーで快適!

ゴールデンウィークを利用して、横浜の自宅から広島まで往復約1,700kmを、先日納車されたテスラ モデル3 RWD(後輪駆動)で長距離ドライブを行った。テスラやポルシェに勤務していた頃にも同様の長距離ドライブを経験したが、2025年の今、テスラのスーパーチャージャーネットワークの進化と使い勝手を改めて実感したく、この旅行を計画した。
※冒頭画像は広島スーパーチャージャー。

結論から言えば、片道850kmの道のりは、スーパーチャージャーの充実したネットワークとオートパイロットの快適さにより、驚くほどスムーズだった。車内エンターテイメントやEVならではの静粛性など、家族からの評判も良い。

2016年〜2020年のテスラ在籍時と比べ、車両の機能や充電インフラは大きく進化しており、日常使いはもちろん、長距離ドライブでも何の不便も感じなかった。ただ一つ、日本では高速道路のSAPA内にスーパーチャージャーが設置されておらず、高速を降りて充電する必要がある点が気になった。

神戸御影スーパーチャージャー。

テスラならではの快適な長距離ドライブ

テスラが独自に整備している超急速充電インフラは、国際的な議論にもつながっている。トランプ政権下のアメリカは関税交渉の中で日本のチャデモ規格を非関税障壁とみなしていることが報じられ、テスラユーザーとしては今後の交渉の行方が気になるところだ。

そんな中、5月9日にはマツダが国内BEV用にテスラのNACS(North American Charging Standard)を採用すると発表もあった(関連記事)。今回は、テスラでの長距離ドライブの快適さや充電ポイントを紹介しつつ、スーパーチャージャーの今後についても考えてみたい。

後席モニターでYouTubeやNetflixを観ることができ、大きなユーザーインターフェースがある新型モデル3は子供達からも好評で「テスラで広島まで帰るのも楽しそう」と賛同を得て、今回のドライブが決まった。金曜夜に横浜を出発し、三重県で1泊後、広島へ。帰りは広島から京都で1泊し、横浜に戻るルートとした。今後同じように西にドライブをする方は充電や経路の参考にしてほしい。

高速はほとんどオートパイロットで走行

横浜から遠州森町SCヘ出発。

以前は御殿場のスーパーチャージャーを西への充電拠点として利用していたが、今回は2024年10月に開設された遠州森町スーパーチャージャーを選び、今夜の宿泊地である三重県桑名市を目指した。私は集合住宅住まいで基礎充電設備がないので、自宅近くの東名川崎スーパーチャージャーで340km分を充電し、約3時間のドライブで電池残量20%の状態で遠州森町に到着。夕食を済ませながらフル充電する計画だ。

出発時は雨模様で渋滞を心配したが、東名〜新東名の混雑は予想より軽く、オートパイロットのおかげで快適に巡航できた。助手席の子供はApple Musicでお気に入りのバンドの音楽をかけたり、ナビゲーションでどの辺りを走っているのかなど、現在地を確認して遊んでいる。普段は短時間の送迎がメインのため、テスラのユーザーインターフェースをじっくり体験するのは新鮮だったようだ。

後席の子供はBluetoothヘッドフォンでYouTubeを観たりしている。普段一人で運転している時には気づかないが、ドライバーだけでなく、乗員全員が楽しめる設計に、改めてテスラのこだわりを感じた。

オートパイロットで快走中。

運転面でも、テスラのオートパイロットは秀逸だ。自分が所有する他の車ではレバー操作や速度調整に慣れが必要でモニターの表示も古く、制御も心許ないが、テスラはダブルプッシュとスクロールで簡単に速度設定や機能のオンオフが可能で周囲の車や障害物もモニターで確認できる。

EV特有の振動の少なさと静粛性は心地よく、長時間の運転でも疲労が少ない。FSD自動運転(フルセルフドライビング)が日本でも解禁されれば、さらに快適になるだろうと期待しながら、遠州森町スーパーチャージャーに到着した。

シンプルで効率的な充電体験

到着した遠州森町スーパーチャージャーは、静岡県の遠州森町パーキングエリア(一般道側)に設置された日本初のV4スーパーチャージャーだ。2024年10月に運用を開始、国内600基目かつグローバル60,000基目の記念拠点として特別仕様のポストもある注目の充電スポット。充電ポストは12基あり、約15分で最大275km分の走行距離を充電できる。雨の中でも認証不要でプラグを挿すだけで充電が始まる手軽さは大きな利点だ。(ちょうど以前にポルシェタイカンで嵐の中ずぶ濡れになりながらパーキングエリアでチャデモ充電の認証に苦労した経験を思い出した)

遠州森町SCの特別仕様のポストで運よく充電。

充電中に夕食をとり、航続可能距離約413km(95%)まで回復。テスラの長距離ドライブの唯一の難点は、高速道路のSAPA内にスーパーチャージャーがないことだ。隣接エリアとはいえ、高速を一旦降りてスマートインターで迂回する必要があるし、スポットによっては最寄りインターから10分以上運転しないといけない場所もある。ポルシェ時代、タイカンの800V充電が日本で対応していない理由を本社役員に説明した際も、メーカー側の努力だけでは解決しない、国や政策に絡む問題が多くあると感じた。この点については後ほど触れたい。

ほぼフル充電で遠州森町を出発。

神戸を経由して広島へ

その後は、みえ川越SCが高速道路から近いことから三重県の桑名で一泊して、翌朝充電も行い、神戸北SCを目指して出発した。途中、「神戸の街をドライブしたい」という家族の希望で急遽ルートを変更し、神戸市内をドライブ。神戸御影SCで充電を行った。個人的には、長年訪れる機会のなかったフランク・ロイド・ライト設計のヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)を思いだし、訪問できたのは車で旅行をするメリットだった(子供たちには不評だったが)。

その後は、神戸から広島東インターを目指し、山陽自動車道を進む。新緑が目に優しく、道が直線的で走りやすいこともあり、オートパイロットのおかげで快適なドライブを楽しめた。神戸市内の渋滞には少々疲れたが、テスラの静粛性は疲労を軽減してくれたと思う。

広島SC。

広島では、西区のショッピングセンター「レクト」の駐車場内にあるスーパーチャージャーで充電。この拠点は2020年2月に開設され、テスラ時代にも試乗などで何度か訪れていた。

蔦屋書店やショッピングモールなどあり大変使い勝手が良いが、広島ではその後新たな充電施設が増えていない。改めて充電ネットワークを確認すると、神戸以西では岡山、姫路、広島、北九州と、中国地方のスーパーチャージャーが少ないことに気づく。地方では自宅充電が容易な環境もあるが、都市部のマンション居住者など潜在的なEVユーザーを考えると、今後のさらなるネットワークの拡充に期待したい。

広島で数日過ごし、出発前日に再度広島SCで充電後、神戸北SC、みえ川越SC、遠州森町SCを経由して横浜に帰宅した。横浜に帰宅した際の総トリップは距離1,708kmでエネルギー合計は214.5kwh、平均エネルギーは125.7Wh/km(約7.96km/kWh)。高速道路中心であったが、神戸や広島などでの市街地走行も含めて、やはり国内市販EVでトップクラスの電費性能であることも実感できた。

2月中旬に納車後4600km以上走行。

今後のスーパーチャージャーについての考察

このように、オートパイロットの快適さとスーパーチャージャーの充電体験は往路、復路とも素晴らしかったが、長距離ドライブでは高速道路を一旦降りて充電する必要がある点が少しだけネックだ。

別売のチャデモアダプターを使えば高速道路上の充電も可能だが、認証の手間やアダプターの利便性の低さ(最大出力が約50kWに制限される)、そして筆者のモデル3は無料充電特典付きのため、日常的にチャデモでの運用はしておらず、アダプターも購入していない。テスラユーザーの視点ではあるが、スーパーチャージャーの高速道路内設置は利便性を高め、日本のEV普及全体も後押しすると思う。

一方、5月9日にはマツダが国内向けBEVに北米充電規格(NACS)を採用するというニュースが流れた。2027年以降に国内で販売するBEVの充電ポートにNACSを採用することをテスラと合意したとのこと。これはNACSの拡大に向けての一歩であり、マツダを皮切りに今後は他の日本メーカーも続くことが予想できる。

アメリカでは2023年以降、NACSが充電インフラの標準規格として急速に普及している。フォード、GM、トヨタ、ヒョンデなど主要メーカーがNACSポートの採用を決め、新型EVに搭載する予定だ。3月にはヒョンデUSAはCCS1用ののNACSアダプターをユーザーに無償で配布する発表を行い、2025年モデルのアイオニック5はNACSポートを標準で備えている。

画像:Hyundai USA

政治的には、トランプ政権下のアメリカが日本のチャデモ規格を非関税障壁と主張している。特に、日本の政府補助金がチャデモ対応充電ステーションを優遇し、テスラのNACSなどアメリカメーカーの充電システムを排除している点を問題視している。武藤経済産業大臣は、アメリカ製EVもアダプターでチャデモ充電が可能だとしつつ、非関税障壁と見なされれば交渉の議題になると述べていた。両国は2025年6月までに「相互に有益な合意」を目指すことで一致しているが、充電規格に関する具体的な進展はまだ見られていない。

テスラのスーパーチャージャーネットワークは、信頼性と普及率で他を圧倒し、アメリカ市場での充電インフラの基盤を固めた。アメリカ市場で各メーカーが採用するということは日本でも横展開が可能であり、前述のマツダのNACS採用は日本でも展開可能なことを示した形だ。

日本においてはチャデモへの投資は維持しつつ、アメリカからの市場アクセス要求に応える形で、スーパーチャージャーへの補助金や高速道路内設置を交渉のカードとするのはどうだろうか。個人的な期待も含むが、これらは日米双方の利益にもなるし、日本のEV普及全体を加速させる有効な一手になると思う。

ヨドコウ迎賓館とモデル3。

取材・文/前田 謙一郎Youtube / Spotify

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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