最新のOTAアップデートにより急速充電性能が向上したというボルボの電気自動車『EX30』。その実力を確かめるため、まずは約270kmを走行してバッテリーを減らしたのち、150kW急速充電器で受電能力をチェックしました。ボルボ・カー・ジャパンの担当者に伺ったOTAアップデートに関するボルボの取り組みとともにお伝えします。
走行モードやアクセルワークで表情が一変

今回試乗したのは、2025年夏に追加導入された『EX30 Ultra Twin Motor Performance』です。簡単にスペックを紹介しておくと、フロント:115kW(150ps)、リア:200kW(272ps)のあわせて2基のモーターにより4WDを構成。69kWhの三元系(NMC)リチウムイオンバッテリーを搭載し、一充電走行距離は535km(WLTCモード)となっています。
試乗は11月のある日、都内にある「Volvo Studio Tokyo」からスタート。クルマを受け取った時点でSOCは81%、航続可能距離は326kmでした。まずはSOCを10%程度まで減らし、向上したという急速充電性能を試すために、高速道路を中心にドライブすることにしました。
EX30 Ultra Twin Motor Performanceには、「レンジ」「標準」「パフォーマンス」の走行モードが用意されています。まずは、基本的にリアモーターのみで走行する標準モードで出発しますが、軽くアクセルを踏むだけなら穏やかな走りで、スポーツモデルであることを意識する場面はほとんどありません。それでもBEVらしい素早い加速や豊かなトルクによって、日常域では十分にキビキビと走れます。

一方でアクセルペダルを踏む右足に力を込めると一気にトルクが立ち上がり、印象が一変。とくにパフォーマンスモードではアクセルレスポンスが鋭くなり、踏み込んだ瞬間に圧倒的な加速を見せます。そんなスポーツカー顔負けの速さには驚くばかりです。
パワフルなクルマだけに乗り心地はやや硬めで、路面によってはショックを拾う場面もありましたが、全体としては十分に快適なレベルに収まっています。
ワンペダルドライブや回生ブレーキ調節方法も進化
回生ブレーキは、EX30の導入当初は「ワンペダルドライブ」のオン/オフで選ぶ方式でした。オンではやや強めの回生でアクセルオフから停止まで可能でしたが、一般的なEVほど強力ではなく、減速から停止まで時間がかかる点が気になりました。オフでは弱めの回生となり、アクセルオフでクリープが発生する仕様でした。
一方、最新のEX30では回生ブレーキを「OFF」「低」「高」の3段階で選択でき、さらにクリープの有無も独立して設定できるようになりました。特に「高」は以前より明確に強く、アクセル操作だけで速度調整がしやすくなっています。クリープ無しならワンペダルドライブが可能です。
急速充電は150kW器で最大143kWを確認

電費は、高速道路をACCで100km/h巡航したときが5.7km/kWh、比較的空いた一般道を走ったときが7.5km/kWhでした。
シンプルで機能的なUXと、圧倒的な加速性能、それに日常で扱いやすいボディサイズなどが魅力のEX30 Ultra Twin Motor Performanceは、ボルボ最小のEVとして独自の価値を築いていると感じました。
そんなことを思いながら、約270kmを走り、たどり着いたのが東関東自動車道上り線にある酒々井(しすい)パーキングエリアです。ここには最大出力90kWと150kWの急速充電器が1基ずつ設置されており、幸い150kW器には先客がいませんでした。
パーキングエリアに到着した時点でのSOCは9%。急速充電性能をチェックするには、まさに打ってつけの状況でしょう。ちなみに、OTAアップデート前は、充電時の電流は最大200Aに抑えられており、どんなにがんばっても90kWを超えることはありませんでした。
さっそく充電を開始しますが、センターディスプレイに表示された数字は60kW!? 私が1日かけて走った努力は報われないのか……そんな絶望感が脳裏をよぎりました。

ところが充電開始から2分が経過するあたりから出力を示す数字はぐんぐんと伸び、一気に140kWオーバーの領域に。そして5分後にはSOC20%でピークの143kWをマークしました。e-Mobility Powerで使える150kW器で、143kWは私の体験上の自己ベストです!
その後はSOCの増加とともに徐々に充電電力は落ちていきますが、20%台で130kW超、40%台で110~120kW、50%では約100kWで推移。充電開始から15分が経過してブーストモードが終わると約80kWに低下しましたが、計30分の急速充電でSOCは80%まで回復し、充電量は47.9kWhに達しました。
以前、所有していた『EX30 Ultra Single Motor Extended Range』では150kWで30分の充電量は36.8kWhが最大でしたので、これを3割ほど上回る計算です。頻繁に経路充電するEX30オーナーには朗報でしょう。
ソフトウェアの時代を先取りしたいボルボ

ボルボ最小のSUVにしてEVである『EX30』が日本に導入されたのは2024年のはじめのことでした。発売当初は一部、未完成な部分がありましたが、それがさまざまなOTAアップデートにより、いまや完成形に近づいています。
これまでEX30で行われたOTAアップデートには次のようなものがあります。
●スマートフォンがキーになるデジタルキー
●ワイヤレスCarPlay
●充電中の出力表示の追加
●バッテリーSOH(State of Health)表示
●ワンペダル設定の変更・最適化
このOTAアップデートについて、ボルボ・カー・ジャパンでプロダクトグループに所属する畑山真一郎さんにお話を伺いました。
OTA(Over-The-Air)アップデートとは、スマートフォンのOSアップデートと同様に、無線通信によって車両ソフトウェアを更新し、購入後も充電性能、インフォテインメント、ユーザーインターフェース、走行特性といった性能が向上する仕組みです。
ボルボがOTAアップデートを始めたのは、2023年1月からでした。EX30がまだ発売される前のモデルからで、「Googleベースのインフォテインメントが搭載されたMY22~23以降のモデルには通信機能が標準化され、OTAアップデートの準備が整いました」と畑山さん。
OTAアップデートを行うために、対象となるクルマはその設計段階から工夫が凝らされています。「将来の拡張性を見据えた車両開発が行われています。わかりやすい例を挙げると、EX30では物理ボタンを必要最小限に抑え、画面上に表示される“グラスボタン”を中心に操作体系を構成しています。物理ボタンは機能追加ができませんが、グラスボタンは要件を満たせば、ボタンの数を増やしたり、機能を拡張することができます。プラットフォームや内部ハードウェアも将来の機能拡張に備えており、OTAと親和性の高い設計がなされています」(畑山さん)とのこと。
いま自動車業界ではSDV(Software Defined Vehicle)に注目が集まっています。これは、クルマのさまざまな機能や性能をソフトウェアで管理し、アップデートによって購入後も進化させていくという考え方です。スマートフォンのように、使いながら機能が良くなっていくクルマ、とイメージしていただくとわかりやすいと思います。
OTAアップデート機能を備えたEX30はその第一歩のように思えますが、これについて畑山さんは「EX30以前は、EVであっても基本的に既存モデルに近い技術構成となっていました。しかし、ボルボが現在進めているOTAの取り組みは、まさにSDVの先駆けといえるものです。今後は、ソフトウェアで機能を拡張することを前提にしたクルマづくりへ本格的に移行していきます。その最初の例が来年登場する『EX90』や『ES90』で、これらは“未来に向けた準備が整ったクルマ”として投入されます。ボルボはこの領域を、ハードウェア面でも、開発組織の再編という面でも、さらに強化していく方針です」と答えました。
その言葉どおり、ボルボではソフトウェア開発に注力しています。ボルボは本社のあるスウェーデンのイエテボリに大型テストセンターを新設しました。約3億SEK(スウェーデンクローナ=約41億円)の投資によるこの施設は、24時間365日、世界中の技術拠点からリモートで統合ソフトウェアテストが可能で、最終的には500台のテスト装置を備える計画です。世界各地のテックハブ(ストックホルム、ルンド、上海、バンガロール、シンガポールなど)と連携し、OTA品質向上の中核拠点として機能します。

また、将来のEVはひとつの基盤技術であらゆるモデルをつくる「ボルボ・カーズ・スーパーセット・テックスタック」を採用する方針です。このスーパーセット・テックスタックは、ハード・ソフトを共通化し、モデル間で“積み木のように”モジュールを組み替えることで開発効率と品質を大幅に引き上げる仕組みです。
クルマのライフタイムを通じて常に最善の状態を維持できるOTAアップデートは、とくにソフトウェアで制御できる領域が広いEVにとっては不可欠な取り組みです。これまで安全性で高い評価を得てきたボルボが、ソフトウェアの分野でもリードする未来が訪れるかもしれません。
取材・文/生方 聡






コメント