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電気自動車と水素燃料電池自動車の使い勝手を実体験レポート/EVスペシャリストのマイカー日記

電気自動車と水素燃料電池自動車の使い勝手を実体験レポート/EVスペシャリストのマイカー日記

自動車研究開発を手掛ける東京アールアンドデーで長年EV開発を手掛けている著者陣の福田雅敏氏は、この2年でホンダ「クラリティFUELCELL」、BYD「ATTO 3」、トヨタ「クラウンFCEV」を乗り継いでいます。EVとFCEV、それぞれの使い勝手はどうなのか? 実体験のレポートをお届けします。

目次

通勤用車両として水素燃料電池自動車を利用

筆者は、2023年3月にホンダ クラリティFUELCELL(以下、クラリティ)を通勤や日常の足として乗り出した。当初は、社員が打ち合わせなどの移動の手段とするため、誰でも乗れる1台の社有車としてFCEVを導入したのであるが、あまりにも稼働が少ないため、もったいないとのことから、筆者の通勤用車両として回ってきたのである。筆者自身、マイカーとしてFCEVに乗るのは初体験だった。

稼働が少ない理由の一つは、やはりインフラである水素ステーションの少なさであり、そのステーションの開店時間という障壁である。

弊社は神奈川県の厚木市にある。クラリティ導入時には、隣町である海老名市と伊勢原市(移動式)に水素ステーションがあったが、営業は平日のみだったり、開店時間が9時~17時で使いにくかった。また、途中12時から13時は昼休憩が入ったりする。挙げ句の果てに、ほどなくしてどちらのステーションもあえなく閉店してしまったのである。

会社と自宅は往復1時間程度掛かる道のりだ。自宅で充電できるEVや、会社から1、2分のところに2か所もあるガソリンスタンドのような便利さがない。社員も導入当初は、燃費などの調査のためにある程度は使っていたのだが、だんだんと稼働が低くなり、水素を入れることが面倒という理由で使われなくなっていた。

筆者は都内に住んでおり、厚木市までの通勤途中に少しルートは外れるが、3カ所の水素ステーションがあるという比較的恵まれている環境だった。FCEVの使い勝手を自ら確かめるにはよい機会という思いもあって、真剣に付き合ってみようかと思った次第である。

通勤では、ちょうど1日100㎞走る。クラリティの燃費(水素なのであえて)は、カタログ値では750km。実燃費はその70%程度の500km程度。満タンから残量ギリギリまで使えば、1週間(5日として)はほぼ持つ計算になるが、そうもいかないので木曜日ぐらいをメドに水素ステーションに立ち寄ればいいだろうと考えていた。

しかし、24時間営業が多いガソリンスタンドと違い、開店時間が17時までといった制約があり、残りの推定航続距離が200kmを切ると、いつ、どこで水素を入れようか考えなければならなくなる。

会社にも毎日行くわけでもなく、都内だけの移動に使うことも多いので、週2回ぐらい、移動途中の近くのステーションで入れる。水素ステーションの開店時間によって平日に充填出来ない場合は、いずれも片道30分程度掛かる場所にある休日も営業している水素ステーションへ足を運ぶことになった。ステーションに行くだけで往復1時間以上はかなりの負担だ。

クラリティで東京=白馬を走ってみたら……

現在、日本国内の水素ステーションは160カ所程度である。したがって、遠出は少し準備が必要となる。

日本EVクラブ主催の「白馬EVラリー」に東京から参戦したエピソードをご紹介しよう。まずは自宅近くのステーションで満タンに。白馬までおよそ280km。余裕で着く距離ではあるが、白馬に水素ステーションは存在しない。イベントで試乗や現地での移動もあるため、途中での水素の充填が必要になる。そのため、ナビで予めルートを確認し、なるべく合理的な場所になるステーションを探してみると、上信越自動車道の須坂長野東インターチェンジ付近にステーションがあることがわかった。

東京から200km程度で、ちょうどいい距離である。そこから白馬まで約80km、往復と現地での試乗会参加と移動を考えると、200km程度走ると想定されるので、そこで往復とも水素を入れることを計画した。

まずはステーション概要をホームページで調べる。木曜日が定休日で、開店時間は9時~17時(12時~13時が昼休み)。金曜日に東京から白馬へ向かい、日曜日に帰るので問題はないはずだ。でも、これまでの経験から(点検日などの臨時休業など)不安があったので、予め電話で両日とも営業しているかの確認を行った。

このような確認をしなければならないのがFCEVと付き合ううえで必須となる。下手をすると、1泊余計に泊まるなど計画を変更しなければならないからである。往路、予定通りここで水素を充填していたらMIRAIが来た。店員は2台重なることやクラリティとMIRAIの組み合わせは初めてと驚いていた。

水素の価格がいきなり1.5倍に値上げ!

水素燃料電池自動車との付き合いで、驚かされたことがある。2023年の春、水素価格が概ね1.5倍(ステーションの運営会社にもよるが)になったのである。金額にして1,000~1,100円/kgだったものが、1,650円前後となったのである。

ガソリンでいきなり1.5倍になることは無いとは思うが、水素ではこれが現実だった。国の2030年の目標では300円台/kgなので、真逆の状況となっている。さらに付け加えると、2024年の春にもこれも運営会社にもよるが、更に1.3倍程度、金額にして、高いところでは、2,200円/kgになり、この2年で2倍近くになったのである。ガソリン車とのランニングコスト比較については後述する。

クラウンFCEVの納車待ちの期間はBYD ATTO3を使用

1年ほど乗ってきたクラリティであるが、ホンダの方針としてリース専用であったため2024年の5月には車両を返却することが決まっていた。私としてはもう少しFCEVと水素インフラなど水素を体験したいとの思いから、2023年11月に発表されたトヨタ クラウンセダンFCEV(以下、クラウン)の導入を決めたのである。

納車に時間が掛かることを想定して、2024年初頭には弊社の隣のトヨタディーラーと商談を行い、納期は当初2か月程度とのことで、3月に発注するよう話を進めていた。

3月になり、発注をしようとしたのだが、2024年度のFCEVの補助金が決まっていないことなどを理由に、発注できるタイミングが大幅に遅れ、クラリティのリースアップ期限の5月になってしまったのである。発注した時には、納期も3~5か月と延びており、目途として9月と言われたのである。

そのため、足を失った筆者は、既に社有車として2023年12月に納車されていたBYD ATTO 3(以下、ATTO 3)をクラウンが納車されるまで乗ることになったのである。筆者が乗り始めた時の走行距離は2,800km程度であった。

筆者にとって久し振りにじっくりと付き合うEVだ。FCEVとの比較でまず初めに感じたことは、会社で充電できることの便利さだった。会社には充電設備があるので、仕事を終え帰宅するときには、満充電になっている。これまで通勤途中で寄り道をして水素を充填していた生活と比較して、EVの付き合いやすさを実感できた。

自宅周辺の充電環境には恵まれていた

筆者の自宅は集合住宅ながら、敷地内に2区画の普通充電器付き共用駐車場がある。ただし、マイカーは1軒で1台しか敷地内に登録できず、妻の愛車を置いている。したがって私の通勤車であるATTO 3は自宅近隣の月極駐車場を借りたため自宅での充電はできない。しかしながら、勤務先の駐車場で充電できるのはとても便利だ。職場での充電もまた「基礎充電」環境といえるだろう。

公共の急速充電器を利用する場合は、会社契約のe-Mobility Powerのカードを使う。家から5分以内に、充電器は3か所もあり、そのうち2か所は90kW。残りの1か所もガソリンスタンド(サービスステーション)併設の50kWであり充電環境には非常に恵まれていた。これは、筆者の自宅が幸運ということではなく、東京都の場合、もうこの程度の充電インフラ整備は進んでいるということだと感じている。

ATTO 3の充電性能が秀逸

ATTO 3で驚いたのは、気温などの条件にもよるが、最大出力90kWの急速充電器でおおむね87kW程度、およそ1.5C充電ができることであった。30分間で条件が良ければ35kWh、およそ200~250km走行分の充電ができる。

急な遠出予定が入って急速充電に行く場合でも、自宅から往復10分、充電時間30分の計40分で、充電開始時のSOCがよほど低くなければ、ほぼ満充電状態になるのである。これまで、クラリティではおよそ1時間は掛かっていた。

クラリティに乗っていた当初、海老名の水素ステーションはガソリンスタンド併設で便利だったが、そこが閉店となった今、タイヤの空気圧調節や洗車などする場を失い、わざわざスタンドに行く必要があった。でも、近隣に充電器併設のサービスステーションがあることで、充電のついでに洗車やタイヤの空気圧点検ができて、トイレなども利用できる。サービスステーション併設は非常に便利だと改めて感じた次第である。

そのATTO 3だが、およそ半年、筆者の走行パターンで距離にして約4,000km 乗ったがが、4〜5回ほど「一充電航続距離」のカタログ値である470km以上を記録したのである。エアコンは常に入れっぱなしである。クラリティは、カタログ値750kmに対して、実航続距離はいつも500kmほど、カタログ値の7割程度という印象であった。

そのため、ATTO 3との生活は、会社で充電可能であり、外での急速充電もストレスはなく、普通のガソリン車よりむしろ便利というか、楽な生活を送れたのである。

クラウンで再びFCEV生活を始めたが……

2024年11月、発注から半年ほど経って、ようやくクラウンが納車になった。ちなみに、ATTO 3は継続して社有車として活躍しているが、私が多くの社員に「使える!」話を広めたおかげか、以前より格段に稼働率が上がっている。やはり、EVシフトを進めるために、リアルな体験を通じた啓蒙活動の重要性を感じた次第である。

ともあれ、クラウンの納車によって再びFCEVとの生活が始まった訳であるが、やはり水素充填がネックである。それと、およそ2年で倍となった水素価格が悩ましい。

水素ステーション運営会社にもよるが、現在の水素価格は1,650円~2,200円/kgである。一番安い水素スターションはセルフ式である。そのセルフだが、一度講習をステーションで受ける必要がある。時間にして15分である。すでにクラリティの時にも受講していたが、車両が変わると再度受けなければいけないということだった。講習を受けると車両のナンバーと車両の水素タンクの使用期限を紐づけ、充填時に発行されるQRコードで認証が行われる。

講習を受けると次回からはセルフで行えるのであるが、代金の支払いはクレジットカードのみである。セルフでの充填はガソリンを入れるのとほとんど変わりはないが、一つ異なるには、充填口(ディスペンサーと車両側)を一度エアブローして水分を取り除く必要がある程度である。

水素充填に要する時間は3~5分程度。充填量にしてだいたい3~4kg。それで、およそ500km走れる。充電に時間が掛かるEVと比べて、短時間で充填できるのがFCEVのメリットと伝えられている。

しかし、これもステーションの規模にもよるが、前に車両がある場合など、前車の充填が終わるまで待つのは当たり前だが、その後、水素の充填圧力を上げるために10分程度待つことがある。

先客がバスの場合は最悪である。FCEVバスの充填にはそれだけで20分程度掛かる。私の場合、バス2台を待ったこともあった。自分が入れ終わるまでには、ステーションに到着してからおよそ1時間が経過していた。

また、水素ステーションに水素を充填するため、利用できるまで1時間掛かると言われ別のステーションで入れたこともあった。また、水素切れで本日閉店や、点検のための臨時休業に遭遇したこともある。これが水素ステーションの現実でもある。

自宅最寄りの水素ステーションが閉店

最後に電費についてお伝えしておく。水素は燃料なので「燃費」と筆者は言っているが、クラリティが80km/kg、ATTO 3が8.0km/kWh、そしてクラウンがまだ走行距離は3,000km弱であるが、100km/kgといった感じである。

クラウンにはスマホのアプリに充填情報を入れると記録してくれる。クラウンのランニングコストは、水素の価格(充填したステーション)で大きく変わるが、20~25円/kmである。クラリティはこれより2割悪いことになるが、1世代異なるので、クラウンの燃費がFCEVとして良くなったと考えるのが妥当であろう。このクラウンは、5年リースで補助金も受けて購入しているので、あと4年半付き合うことになる。

ここで一つまた不都合なことが発表された。自宅から一番近い水素ステーションが6月20日で閉店するというのだ。

EVの公共用充電スポット数は32,000カ所以上で着々と増え続けているが、水素ステーションは約160か所。高速道路には、東名の足柄SA下り線の1か所のみである。せめて東京=大阪間の上下線にあと2〜3か所は欲しいところである。

筆者は、ゴールデンウィーク中にアメリカの環境関連車両のイベントを視察してきた。そこで聞いたアメリカでの水素事情として、水素ステーションの数は全米で約55か所、ほぼカリフォルニア州に集中。水素価格は36ドル(5,200円/kg)程度。そしてトヨタはMIRAIの販売を止めたとも聞いた。ホンダもCR-V e:FCEVの販売(リース)に苦戦しているようだ。北米では、水素は大型トラック、定置型電源に活用する流れになりつつあるというのが、その展示会での私の理解である。

こうしてクラリティからATTO 3、そしてクラウンへと2年で3台にわたり乗ってきたわけであり、クラウンもあと4年半乗る。クルマとしては、さすが70年の歴史があるブランドのFCEVである。クルマとしての完成度の高さは申し分ない。

あとは、これ以上水素価格が上がらないことと、2030年に向け水素ステーションを1,000か所整備すると言う国の方針が実現していくことを期待する。

文/福田 雅敏

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この記事を書いた人

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で39か国訪問している。通勤などの足には、クラウンセダンFCEV(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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