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トヨタとホンダの中国専用EV試乗レポート/ホンダが売れない要因は?

トヨタとホンダの中国専用EV試乗レポート/ホンダが売れない要因は?

中国で発売されたばかりの日系BEV「一汽トヨタ bZ5」「東風ホンダ S7」の2台に試乗。中国専用のEV車種で、トヨタと日産が好調であるのに対してホンダは苦戦中。中国市場における日本メーカーの目指す先について考えました。
※冒頭写真は一汽トヨタ bZ5。

目次

日産「N7」とトヨタ「bZ3X」が販売好調

東風日産の「N7」。

日本メーカーが中国で販売するBEVたちがヒットしています。今年春の発売以降好調を続けており、2025年8月における合弁系BEV販売ランキングでも、東風日産(東風汽車との合弁)の「N7」が1万148台、広汽トヨタ(広州汽車との合弁)の「bZ3X」が7324台をそれぞれ販売してトップ2となっています。これは上汽フォルクスワーゲン(上海汽車との合弁)「ID.3」のおよそ1.5倍の販売台数であり、これまでの中国専売日系BEVからしたら目覚ましい進歩です。

2025年3月に発売した「bZ3X」は予約開始1時間で1万件以上を受注、予約サイトが一時アクセス不能になるほどの注目を集めました。人気の秘訣は発売以前から「10~15万元(約200~300万円)クラス」になると匂わされていたその価格で、発売と同時に実際の価格帯が10.98~15.98万元(約226~330万円)とアナウンスされました。これまで発売した「C-HR/イゾア EV」や「bZ4X」、「bZ3」と比較するとまさに「異次元の安さ」で、中国メーカーとの本格的な勝負を見据えた姿勢の現れとも言えます。

もちろんその価格が注目される要因となったわけですが、これはトヨタが徹底してアピールした「安全性」と「運転支援機能」の2つの要素を備えていなければ結果はかなり違ったかもしれません。トヨタは発売以前から中国国内のモーターショー会場にて報道陣を前に「バッテリーを発火させない」「運転支援機能でミスをしない」ことをbZ3Xの目標として掲げていました。

母数が圧倒的に多いことに加え、日本と異なる運用事情などで中国ではBEVの発火事故が報告されていて、それに対する不安の声も聞かれます。bZ3X の好調は、BEVでもトヨタは絶対に安全性を蔑ろにしないという姿勢が消費者にも届いたのでしょう。

また、中国ベンチャー「momenta」と共同開発したレベル2+のソフトウェアにLiDAR 1基を組み合わせたグレードを14.98万元(約309万円)から投入、「智駕(スマート運転の意)」需要にもしっかりと応えた形です。

日産 N7ヒットの要因もおおよそbZ3Xと同じです。なにかと行く末が案じられる日産ですが、2025年4月に発売したセダン「N7」は大変好調な販売となっています。価格は11.99~14.99万元(約247~309万円)からと、シャオペン(小鵬)の「MONA M03」やリープモーター(零跑)「C01/B01」、長安汽車「ネヴォ A07」といった同価格・同車格の中華EVを射程圏内に入れる形です。

運転支援機能に関してはbZ3XのようにLiDARは採用していないものの、momentaと共同開発した同等のソフトウェアを搭載しています。中国人好みの先進性を感じさせるコックピットデザインと合わせ、bZ3XもN7、どちらも現地の需要を的確に捉えたことで大ヒットを収めました。

bZ5試乗インプレッション/市場の需要を捉えたトヨタ

前置きが長くなってしまいましたが、今回の本題に移りましょう。最初に試乗したのは広汽トヨタではなく、一汽トヨタ(第一汽車との合弁)の「bZ5」です。コンセプトモデルも量産モデルもbZ3Xと同時に発表されましたが、発売はbZ3Xより2か月遅れること2025年5月に迎えました。ちなみにbZ5は当初「bZ3C」として発売予定でしたが、発売直前になって「bZ5」へと変更されました。

オーソドックスなSUV形状のbZ3Xに対し、bZ5では若年層をターゲットとした若々しい5ドアクーペSUVとなります。全長4780 mm x 全幅1866 mm x 全高1510 mm、ホイールベース2880 mmは「ハリアー」の全高を抑えたようなサイズ感で、ボディの厚ぼったさを打ち消す大口径ホイールと合わさってスポーティな印象も感じさせます。

bZ5は2023年に発売されたセダン「bZ3」同様、BYDとの合弁会社「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY(BTET)」を通じて共同開発されました。そのため、モーターやバッテリーはBYD製のものを採用しています。駆動方式は全グレードで出力268 hp/トルク330 Nmの前輪駆動となりますが、無闇に400~500 hp級のツインモーターにしないあたりに使い勝手の良さを重視しているのだろうと感じました。バッテリーは容量65.28 kWh/73.98 kWhの2種類、航続距離はそれぞれCLTC方式で550 km/630 kmと公表しています。

先述の通り、実際に運転すると扱いやすく、それと同時に必要なところではしっかりとパワフルなBEVであると感じます。運転支援の信頼感は上出来。中国の都心部では建物が密集している上に路上駐車などの障害物が多く存在しますが、そのようなシチュエーションでもルーフに搭載したLiDARユニットが周囲との距離を測定して教えてくれるので、そこまで不安にならずにスイスイと路地裏を駆け抜けていけます。

コックピットは昨今の中国での流行を反映させて物理ボタンを徹底的に排除、メディアやエアコンの操作は中央の15.6インチディスプレイに集約させています。操作性だけでなく安全性も考慮して筆者は物理ボタン派なのですが、こればかりは今の「現地の声」がそう望むので仕方ありません。いずれ中国の消費者も見せかけの先進性ではなく、運転中の操作性を考慮して物理ボタンの方が良いのでは、と気づいてくれたらと個人的には思います。

ウィンカー操作はハンドル盤面上の押しボタン、ライト/ワイパー操作はパドル状というユニークな構成ですが、慣れたらゲームのコントローラーのように最小限の手指動作で操作できるので案外良いかもしれません。

実はbZ5のサスペンションはbZ3Xよりも良い構成になっており、リアはbZ3Xがトーションビームなのに対し、bZ5はマルチリンクとなります。それゆえに後席における乗り心地は幾分か良いと思うのですが、一方で後輪が段差を超える際の振動音がキャビン内にかなり響く印象を受けました。バタつき感も否めず、この辺りは価格相応と割り切った方が良いでしょう。

bZ5は先述の2種類のバッテリーを設定、装備や運転支援機能の違いで「JOY」「PRO」「MAX」に分けた計6グレードを用意します。12.98~19.98万元(約268~412万円)とbZ3Xよりも2~4万元(約41~82万円)ほど高い価格帯なのでbZ3X並みのお得感は無いかもしれませんが、発売初月の販売台数は約1600台を記録、今後の伸びに期待が寄せられます。

S7試乗インプレッション/クルマとしては良いのに惜しい

一方、心配なのはホンダです。ホンダは2018年ごろから初代ヴェゼルをベースとする中国専売BEVを数車種リリースしてきた経緯を持ちます。EV需要が今ほど高くなかった頃から投入していた点では先見の明がありましたが、焦点はその後も需要を考慮しながらアップデートを継続できていたか? という部分です。

2022年には2代目ヴェゼルをベースとする「e:NS1/e:NP1」をそれぞれ「東風ホンダ(東風汽車との合弁)」と「広汽ホンダ(広州汽車との合弁)」からリリースしますが、中国ではガソリン車ベースのEVは「油改電」との俗称で呼ばれ、専用設計EVに比べて人気に劣ります。筆者も以前にe:NS1とe:NP1それぞれを試乗してその質感や乗り心地の良さは確かだと感じたものの、「油改電」のくせに価格が高いことが大きなマイナスとなり、両モデル合計で現在は月間100台前後という壊滅的な販売状況を招いています。

同じ「e:N」シリーズからは2024年に「e:NS2/e:NP2」が登場、こちらは専用ボディを有するなど幾分か特別感がありましたが、パワートレインはe:NS1/e:NP1と大差ない上に価格はやはり高く、販売台数は月間300台前後となります。

こうした中、2024年には新たなBEVサブブランド「イェ(火へんに華)」をローンチし、まずはSUV「S7/P7」を東風ホンダと広汽ホンダから発売すると発表しました。e:N車種と比べて大幅に向上したデザインや走行性能には筆者も発表当初より期待しており、今回ようやく東風ホンダが製造・販売する「S7」への試乗が実現した形です。

ボディサイズは全長4750 mm x 全幅1930 mm x 全高1625 mm、ホイールベースが2930 mmとホンダの「CR-V」より若干大きいですが、全高を低めに抑えることでSUVながらもハッチバッククーペのようなカッコ良さを体現しています。エクステリアデザインはシャープな印象で、水平基調のラインを多用した近未来的な印象をも感じさせます。

東風ホンダのS7と広汽ホンダのP7は基本的に中身が同じ、前後のデザインで差別化を図る姉妹車です。例えばフロントマスクはS7が左右のデイライトを一体化させて「X」を描くのに対し、P7は「コの字」デイライトを有し、その2つをイルミネーションで繋ぐデザインが目を惹きます。

大きな特徴のひとつがデジタルアウターミラーの採用です。2020年発売の「ホンダ e」でも採用していましたが、ホンダeではカメラがドアに密着していたのに対し、S7/P7は通常のミラーのようにアームを介し、円筒形のカメラユニットが突出しています。映像はドアノブの真上にあるディスプレイに投影されます。

コックピットはデジタルアウターミラー用以外に、インストルメントパネル用9.9インチ、そして中央に鎮座する12.8+10.25インチのディスプレイが存在します。センターディスプレイ上側はメディアやナビ、各種アプリを表示するのに対し、下ではエアコンの調整を担当します。エアコン操作用ディスプレイが分けられているスタイルはマツダ MX-30や、14代目トヨタ クラウンでも見られますが、比較的頻繁にエアコンを操作する筆者にとってエアコン操作メニューが常時表示されるのはとても助かります。

バッテリーは容量89.9 kWhのCATL製三元系リチウムイオン電池を採用しますが、今の中国市場で主流なのはリン酸鉄リチウムイオン電池なので、その流れに従わないのには少し驚きました。出力268 hp/トルク420 NmのRWDと470 hp/770 NmのAWDの2種類を用意し、一回の満充電でそれぞれ650 km/620 km(CLTCモード)を走れるとしています。

「イェ」シリーズは「走りの楽しいBEV」を念頭に置いて設計されています。全高を抑えて床下バッテリーによる低重心の恩恵を享受、これに加えて前後の重量配分を50:50にすることで、そこまでの高速域ではない街乗りでもハンドリングの楽しさが味わえました。今回試乗したのは470 hpのAWDモデルでしたが、クルマ本来の性能をフルで楽しみたいのであれば268 hpのRWDモデルで十分です。少なくとも中国の街中で470 hpも必要なシチュエーションはまず無いでしょう。足回りは「前・ダブルウィッシュボーン/後・マルチリンク」という2代目ホンダ NSXと同じ構成に驚かされました。このおかげで乗り味はほど良く硬く、ワインディングロードを走るのがとても楽しそうだなと思いました。

ホンダ苦戦の要因はその価格にあり

ホンダ S7は個人的にとても満足の行く仕上がりだったものの、このクルマは中国の消費者が求めるBEVではありません。販売台数は2025年3月の発売以来、両者合計の販売台数は月間500台を超えたことがなく、2025年6月における販売台数はS7が54台、P7が166台という厳しい数字です。

一番の敗因はその価格にあり、S7もP7も価格はRWDモデルが19.99万元(約412万円)、AWDモデルが24.99万元(約516万円)となります。ですが中国では「テスラ モデルY」「オンヴォ L60」「理想 L6」などが同じ価格で購入可能となり、これらの選択肢は運転支援機能やエンタメ機能に代表される「先進性」に優れ、またボディサイズや室内空間も大きいです。

中国の消費者が求める「先進性」は例えばコックピット周りの設計でも言えることで、S7/P7では各種スイッチが多いと感じてしまいました。もちろん筆者含む「クルマに慣れている人」は物理ボタンの操作性が優れているとわかりますが、クルマ保有初心者が多い中国市場ではそれらを極力排除したシンプルな設計が好まれます。これは「イェ」シリーズのテーマである「運転の楽しさ」にも言えることで、残念ながら中国の消費者にとってはそういうわかりにくい部分よりも、運転支援機能の充実さや加速性能の数値、画面の大きさというカタログ上のわかりやすい数字でクルマを選ぶ傾向にあります。bZ3XやN7はこれらの需要を理解した上で現地開発により価格を抑えたため、成功したのです。

トヨタもかつては中国でのBEV販売において遅れをとっていましたが、中国専売車種はしっかりと専用設計にし、開発を中国人エンジニアにリードさせる(RCE制度)といった「現地開発主義」により、中国人好みの商品設計を推進させています。この方式は広汽トヨタから2026年に発売予定の「bZ7」や、中国向け次期型カローラでも取り入れられています。

トヨタは過去の失敗を次に活かせていますが、果たしてホンダは同じことができるでしょうか。ホンダはこれまでに何度も中国展開を見つめなおす機会があったものの、会社組織としてのまとまりに欠けるのか、事態をイマイチ重要視できていない印象です。「e:N」シリーズと「イェ」シリーズを同時並行で展開する理由もよくわかりませんし、実際に現地ディーラーでそれぞれの違いについて聞いても回答は曖昧でしたので、これが「やる気の無さ」の証明なのかもしれません。

「イェ」シリーズからは5ドアセダン「GT」が2026年ごろの発売を控えています。「DeepSeek」の人工知能機能や、ファーウェイの車載システム、そして自動運転ベンチャー「momenta」と共同開発した高度な運転支援機能を搭載するとアピールしており、S7/P7より幾分かは中国の需要にマッチしているかもしれません。日系3社の中でも中国での販売低下に歯止めがかからないホンダですが、しっかりと状況を省みて需要を捉えた今後の展開に期待したいです。

取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)

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この記事を書いた人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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