4年ぶりの開催で多くのEVが鮮烈デビュー
2024年4月25日から5月5日まで、北京モーターショー2024が開催されました。北京モーターショーは上海モーターショーと1年ごとに交互で開催されており、前回(2022年)は新型コロナウィルス感染症の影響で開催中止、4年ぶりの開催となりました。
今回のショーでは約80ブランドが出展、中国ブランドだけでなく日本や欧州、韓国、アメリカなどのブランドも新たなモデルを数多くお披露目しました。日本ブランドではマツダが長安汽車と共同で開発したBEV/EREVの『EZ-6』が開催前より話題となっており、実際の発表後も現地の話題をかっさらいました。ほかにも、日産のコンセプトモデル『エラ・コンセプト』『エボ・コンセプト』『エピック・コンセプト』『エポック・コンセプト』の4台や、ホンダの新たな「燁」シリーズから『燁S7』『燁P7』『燁GT』といったクルマたちも鮮烈なデビューを飾りました。
トヨタも中国限定2車種のEVを初公開
トヨタは2023年4月の上海モーターショー2023で発表したコンセプトモデルbZ Sport Crossover Concept、bZ FlexSpace Conceptの量産モデルを初めて公開しました。
まずはbZ Sport Crossover Conceptですが、量産モデルには新たに『bZ3C』という車名が与えられました。車格はその数字からも分かるとおり、すでに中国で販売されている『bZ3』と同等になり、bZ3C自体は流行りのクーペ風SUVとなっています。
コンセプトモデルが発表された時から明らかとなっていましたが、bZ3Cはトヨタ、第一汽車との合弁会社「一汽トヨタ」、そしてBYDとの「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY(BTET)」を中心に共同開発されたモデルです。bZ3同様、バッテリーはBYDが製造するリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を採用、そしてクルマ自体の製造と販売は一汽トヨタが担当する形になります。
エクステリアデザインはコンセプト時代から大きく変らず、ボリューミーな車体ながらもビビッドで洗練されている印象です。コンセプトモデルではリアゲートのデッキ部分が後ろに大きく伸ばされていたので非常に大柄な雰囲気を感じ取りました。そのため、量産モデルでは車格を表す数字が「5」などになるのかとも予想していましたが、実際には「3」とのことで驚きました。
サイドから見ると、ルーフを低く見せるデザインの秀逸さに気がつきます。bZ3Cはクーペ風SUVなために最低地上高が高く、また居住性のためにキャビンの高さも確保されています。それと同時にスポーティさも演出するため、ホイールは21インチのものを採用しています。タイヤの外径を大きくすることで相対的にボディを薄く見せ、一般的なSUVの野暮ったさを極力排除した形となります。
コンセプトを「Reboot」と定め、乗り込んだら気分が変わる、楽しいクルマ作りをbZ3Cでは目指しました。若い購買層をターゲットとしており、自分だけのパーソナルスペースを提供するとしています。展示車両はドアを開けることができなかったために内装を詳しく観察することは叶いませんでしたが、赤色のシートやトリムからはアクティブな雰囲気を感じ取れます。また、フロントガラス上部にはLiDARユニットのようなものも確認でき、高度な自動化運転機能の搭載が期待されます。
bZ3Xは広汽トヨタなどと共同開発
一方、bZ3Cと同時にお披露目されたのが『bZ3X』です。こちらはコンセプトモデルbZ FlexSpace Conceptの量産モデルとなります。
bZ3XはbZ3Cと異なり、開発の中心は広州汽車との合弁会社「広汽トヨタ」が担っています。一汽トヨタでは「bZ3」「bZ4X」の2車種をbZシリーズとして扱っているのに対し、広汽トヨタでは「bZ4X」1車種のみとなります。広汽トヨタとしても自社専用モデルをラインナップに取り揃えて競争力を保ちたいという考えがあったでしょうし、それがようやく実現した形となります。
広汽トヨタは2023年11月に開催された広州モーターショー2023にて、自社の取り扱うbZシリーズに「鉑智」という中国名を与えました。同時に発表された広汽トヨタ版bZ4Xのマイナーチェンジモデルからそれが適用され、新たな中国名『鉑智4X』も誕生しました。今回のbZ3Xも広汽トヨタでは中国名『鉑智3X』とされており、この2台で「鉑智」シリーズのSUVラインナップを形成する形です。
bZ3XはbZ3Cと比較し、より保守的で親しみが感じられる内外装となっています。エクステリアデザインはコンセプト時代ですでにオーソドックスなファミリーSUVの姿をしていましたが、量産モデルでは鳥居型のテールライトを廃し、より一般的な左右一体型の「一」文字テールとなりました。また、フロントマスクはbZ3Cと同じく、最新のトヨタ顔である「ハンマーヘッド」を採用しています。
車体自体はそれほど大きくはなく、会場で見た印象はRAV4ほどのサイズ感でした。ですが、ホイールベースを長くして前後のオーバーハングを短縮、リアゲートとルーフの角度を直角に近づけることで、ミドルSUVのサイズ感で3列SUVのようなドッシリとした存在感を醸し出しています。
インテリアはクリームホワイトとチャコールグレーのツートンとなっており、シンプルながらも温かみのある内装空間が実現されていると感じました。また、メーターは昨今の中国車の流行りである細長ディスプレイを採用、大型センターディスプレイと合わせて非常に「中国市場向けらしい」設計です。加えて、ハンドル形状においてもbZ3Cとの差別化が図られています。
bZ3CではbZ3で採用されている、ウィンカー操作ボタンがハンドル上に配置されているタイプのハンドルとなっており、基本的な形状はbZ4Xやプリウスで採用されているものをベースにしています。対して、bZ3Xでは左右それぞれにボール状のダイヤルを配置、押しボタンは必要最小限にとどめたデザインとなっています。
大家族でも快適に長距離を移動できる「Cozy Home」をコンセプトとしており、こちらもbZ3Cと同じくLiDARユニットをルーフに搭載、先進的な自動化運転機能を提供すると見られます。広々とした車内空間にシンプルな内装設計、そして充実の安全性と、今の中国市場で求められている要素が詰まったBEVであると感じました。
中国市場には意欲的にEV新モデルを投入
お披露目された2モデルはトヨタが2026年までに発売を予定しているBEV 10車種に数えられます。bZ3CとbZ3Xは現時点では中国市場専売車種となり、発売は1年以内を予定しているとのこと。トヨタは2023年11月の広州モーターショー2023でBEVコンセプト「FlexCabin Concept」も発表しており、量産モデルは2024年中の登場を予定しています。
北京モーターショー2024において、トヨタは引き続き中国現地の声を聞き、中国の消費者層に響くモデルを投入していくと表明しました。この風潮は2023年11月に発表されたカムリからより顕著になっていると感じます。
それまでのトヨタ車は中国市場向けでも、例えば内装の設計などは基本的に他の仕向地と同じでした。それが、新しく登場したカムリでは木目調のタッチパネルや、ダッシュボードに組み込まれていないディスプレイなど、さまざまな点において北米仕様車と中国仕様車の違いが現れています。実際に筆者がbZ3CとbZ3Xの内装を見た際も、想定していたよりもしっかりと昨今の中国車のトレンドを抑えていると感じました。
中国市場は今、車内で過ごす時間をより有意義にするべく各社ともに内装の設計に力を入れています。こうしたトレンドの変化にいち早く順応するためにも、外国メーカーは今後より一層、中国メーカーとの密な連携が求められていくことでしょう。
取材・文/加藤 ヒロト