フォルクスワーゲン『ID.3』〜デザインの魅力に迫る【吉田由美】

ヨーロッパでは2020年9月からのデリバリー開始が発表されたフォルクスワーゲンの電気自動車『ID.3』。プレス向けプレゼンテーションで発表されたデザインとカラーに関する詳細を、カーライフエッセイストの吉田由美さんが読み解きます。

フォルクスワーゲン『ID.3』〜デザインの魅力に迫る【吉田由美】

『ID.3』がどんな電気自動車なのか再確認

2019年のフランクフルトモーターショー(IAA)で、大々的にお披露目されたフォルクスワーゲンの電気自動車(EV)ID.3。

フォルクスワーゲンは本格的に電動化に舵を切り、今後、電気自動車は「IDシリーズ」として販売しますが、その第一弾となるのが ID.3。ゼロから新たに開発された「MEB」(モジュラー・エレクトリック・ドライブマトリックス)という電気自動車専用のプラットフォームを採用する初めてのモデルとなります。

欧州ではすでに受注がはじまり、今年9月よりデリバリーが始まると発表されました。

『Golf』と同じセグメントのEVで、ボディサイズは全長4261㎜×全幅1809㎜×全高1552㎜。私は去年のフランクフルトモーターショー会場で実車を見て、可愛らしいお顔のせいか、もう少しコンパクトサイズという印象でしたが、一番大きさが近い現行型のGolf(4265×1800×1480)と比べると、全長が4㎜短いものの、全幅は9㎜大きく、全高は72㎜高くなっています。

先進運転支援システム(ADAS)や最新のフルコネクテッド機能も装備していますが、驚くのはその価格。電気自動車(EV)というとお値段が高いイメージですが、ID.3 は3万ユーロ(約358万円)~。最初にデリバリーされる『1st Edition』でも4万ユーロ(約478万円)以下〜と、これまでのEVに比べると意外とリーズナブルです。

フランクフルトモーターショーでは実車を取材しました。

電池容量は3タイプ。45kWhの「ピュア」、58kWhの「プロ」、77kWhの「プロS」。

一番電池容量が小さな「ピュア」の一充電最大航続距離は330㎞(WLTP ※EPA換算推計値=約294km)でモーターは最大出力126psと150psの2つから選べます。

「プロ」は、一充電航続距離が420㎞(WLTP ※EPA=約375km)で、こちらも最大出力は146psと204psから選べます。

そして77kWhの大容量電池を積んだ「プロS」はフル充電で最大550㎞(WLTP ※EPA=約490km)で、最大出力は204psとなっています。

デザインとカラーのプレゼンテーションを詳報

ID.3は、今年のジュネーブモーターショーで量産モデルを発表する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大のためモーターショー自体が中止に。その代わり、バーチャルモーターショーという形で発表されたのが、今年4月のことでした。

新型コロナ渦中の5月20日、そんなID.3のカラーとインテリアトリムデザインについて、オンラインのプレス向けプレゼンテーションが行われました。スピーカーは、フォルクスワーゲングループのチーフデザイナーであるクラウス・ビショフ氏と、カラー&トリムを担当したフラウケ・バウメッカ―氏のお二人です。

たとえば『e-Golf』は、EVであってもあえてゴルフの1グレード的な佇まいが与えられていました。フォルクスワーゲンをはじめとするヨーロッパの自動車メーカーは、エンジン車の伝統や使い勝手の延長線上にEVを位置付けている傾向がありました。でも、今回は違います。ID.3 は、電気自動車ならではのオリジナルのデザインを纏っているのです。

それはどういうものなのか。プレゼンテーションの内容をポイント別にチェックしていきましょう。

ICE(内燃機関車)とはデザインを差別化

「ID.3は、フォルクスワーゲンの重要なモデルです。従来の内燃機関のモデルとは、あえてデザインを差別化しました。これはVWの新しいデザイン言語で「I.D.3」は新しいアイコンとなります。そして、ユーザーがEVに乗っていることを主張するものです。しかし、これもまたVWです」

確かに、e-GolfはたとえEVであろうと、あくまでGolfの1グレードという位置づけで、見た目の違いはエンブレムにブルーが加わったり、フロントマスクにブルーのラインが入ったり、「e-GOLF」と書かれたバッジがあるぐらい。いわば「さりげなくEV」路線を貫いてきましたが、ID.3 ではそれを変えたことが最初に明言されました。

EVならではの「広さ」を確保

「ボディサイズは Golfと同等ですが、室内の広さは1サイズ上のPassatと同等。EVとしてフォルクスワーゲン史上最大の広さを確保しています。また使用している素材はサスティナブルでエコロジーです。センサーなどはさりげなく配備し、「技術を表に出さない」ことを基本としました」

EVは内燃機関の車と違い、エンジンやガソリンタンクが無い上、床下にバッテリーを搭載。エンジンより小さいモーターを搭載するため室内空間を広く取れるのがEVのメリットです。

エクステリアデザインについて

「まずはエクステリアデザイン。クルマ全体を一本の水平ラインで繋いでいます。EVは冷却用に空気での冷却をほとんど必要としないので、フロント部分の開口部が小さくなっています。それはエンジンが無く、モーターが後方に配置されているためです。これはVWにとって革命です。例えるなら、まるで『オリジナル・ビートル』が新たに誕生したような」
「そしてサイドビュー。ここも重要です。非常に穏やかでリラックスしたデザインです。大きいタイヤと大きなホイール、長いホイールベース、短いオーバーハング。Aピラーを寝かせた『キャブフォワードデザイン』です。窓を大きくしたことで、ガラスの存在感も示しています。これまでとは全く違うEVのユーザーエクスペリエンスを体験できます。ルーフは切り離されて浮いて見えるようになっています。そしてVWのDNAである太いCピラーは安全性の高さをイメージさせるものです」

「オリジナルビートル」といえばドイツの国民車として誕生し、そして長い間、愛されてきました。バッテリーを床下に配置して後輪駆動というのは空冷時代のビートルと同じレイアウト。「ビートル」の生産は終了となりましたが、この新しいID.3がこれからビートルのように長く愛される国民車になる、そんな期待が込められているのかもしれません。

サスティナブルへの配慮も

「リアゲートは重量削減と航続距離を延ばすため、黒い樹脂製にしています。新しいロゴは、VWの文字が細く、2次元になっています。そして空気抵抗を低くするためにリアウインドウは小さくしています。デザインを通じてサスティナブルであることを伝えながらも、VWであり続けなければなりません。それはお客様に安心していただくためにとても重要です。特徴的なのは、ID.3に近づくとヘッドライトがウインクすることですね」

車に近づくとウインクしてくれるのは、キュートなID.3とアイコンタクトを取る感じで楽しいですよね。

ボディカラーについて

「ボディカラーは6色。『マケーナ・トルコアーズ』がコミュニケーションカラーですが、ID.3はモデルごとにメインカラーを設定しています。ソリッドカラーは『ムーンストーングレー』の1色のみ。お客様にはモノクローム的なカラーや白が人気ですが、インテリアのライトなどでも自分の趣味を主張できます」
「ID.3のエクステリアパーツは黒と青っぽいグレーの2種類です。そしてインテリアは3種類あり、フォルクスワーゲンブランドの新しいデザインCI(ロゴ)を開発する際にキーワードになっていた『Vibrant』を象徴するカラーパッケージは夕日のようなオレンジ『サフラノオレンジ』を採用しています。オレンジは変化を象徴するカラーです」

フォルクスワーゲンの新しいロゴは、ID.3と同時に発表されました。6月15日に日本でも導入されたとか。個人的には新しいブランドロゴにはまだ見慣れませんが、華奢になったというかスリムになったというか、スマートになった、そんなイメージです。

これはフォルクスワーゲンの新しい時代を表すものです。フォルクスワーゲンは電動化、コネクティッド化などの未来を目指し、今の時代に合ったブランドとして進んでいきます。フラットな二次元デザインの新しいロゴは、無駄をそぎ落としたデザインになっていて、スマホなどの小さな画面でも認識しやすくなるというメリットがあるようです。BMWや日産もロゴを新しくするようなので、今、ロゴ変更ブームなのかも。

ビーガンな素材を採用

「自然からインスピレーションを受けたハニカムデザインをフロントマスク、Cピラーに施しています。インテリア素材は、できるだけビーガン(自然由来の素材や動物由来の素材を使わない)な素材を採用していますが、ステリングホイールだけにはレザーを使用しています。ステアリングは頻繁に手で触れるところなので、代わりの素材では品質が不十分だと判断されたためです。素材のコンセプトはGolfと違いますが、質感は同等レベルのものです」
「さらにID.3は、持続可能性+リサイクル性重視で、100%近くリサイクル素材を使用しています。ただし、ドアライナーなど塗料を塗った部分をリサイクルすることは難しい。インテリアにカッパー(銅色)が使われているものもありますが、最近この色は人気です。ID.3では屋根のモールとホイールに使用しています。これはホワイトやグレーと相性が良く、特に美しくなります。シートにはグリーンと青のホログラムに、レザーのアクセントを加えたジャガード・ファブリックを使用しています。最上級グレードのスポーツシートは『ARTVELOUR』です」

コストカットにも配慮

「そして重要なのは価格です。ID.3 は、数百万人のためのEVです。多くの方にEVを提供したいため、高コストになる技術をあえて採用せず、複雑性をできるだけ抑えています。また、ボディカラーの組み合わせをあえて少なくしたことで、よりリーズナブルな価格を可能にしていますが、『バイカラーコンセプト』やオプションなどでほかのカラーを提供します」

確かにボディカラーが6色とは少ないような気がしますが、それは追々、赤系やトレンドに合わせて登場するのかもしれませんね。

最後に、質疑応答も行われました。

Q.ID.3にもGTIのようなスポーツバージョンはありますか?
「もちろんそのようなバージョンも考えています」

Q. Golfはどうなりますか?
「Golfとは市場が違います。Golfもますます刺激的になります」

Q. GolfとID.3 でのデザイン言語の違いは?
「とにかく調整しました。そして優先順位が違います。たとえばID.3はデジタルデバイスが最優先です。最先端のソリューションであるイメージが大切。そしてパノラミックガラスルーフが使えます。リアのモーターは、理論的には、トランクはボンネットの下に提供することができましたが、しかし、車内の広さを最高のスペースに適切に提供するために、たとえば、ACシステムをボンネットの下に動かしました」

ID.3、そしてIDシリーズの日本導入は、今のところ調整中ということでまだ少し先になりそうですが、欧州でなら試乗できるかも。しかしこのコロナ禍では、欧州に行けるようになるのもいつになることやら。

一日も早くID.3に試乗できることを楽しみにしています。

(文/吉田 由美)

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この記事の著者


					吉田 由美

吉田 由美

短大時代からモデルをはじめ、国産自動車メーカーのセーフティドライビングインストラクターを経て、「カーライフ・エッセイスト」に転身。クルマまわりのエトセトラについて独自の目線で、自動車雑誌を中心にテレビ、ラジオ、web、女性誌や一般誌まで幅広く活動中。

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