フォルクスワーゲンが発表した初の純EVセダン『ID.7」ってどんなクルマ?〜上海でチェック!

2023年4月18日から27日まで開催された上海モーターショー2023では、多くの新エネルギー車が世界で初めてお披露目されました。フォルクスワーゲン初の電気自動車セダン『ID.7』もそのうちの一台です。中国車研究家の加藤ヒロト氏の現地レポートです。

フォルクスワーゲンが発表した初の純EVセダン『ID.7」ってどんなクルマ?〜上海でチェック!

セダン人気の高い中国で待望のVW製純電動セダン発表

フォルクスワーゲンの純電動サブブランド「ID」は2019年に発売されたCセグメントコンパクト『ID.3』からスタートしました。以来、クロスオーバーSUV『ID.4」、ID.4をベースとしたクーペSUV『ID.5』、中国限定SUV『ID.6」、そしてミニバンの『ID. Buzz」と、現在までに5モデルが基本的に展開されています。それに続く、6モデル目が『ID.7」となります。

IDシリーズのセダンは2019年のフランクフルトモーターショーでお披露目されたコンセプトカー『ID. Vizzion』に端を発します。その後、より市販モデルに近い形状を持つ『ID. Aero』が2022年6月に発表されました。

今回の上海モーターショーで発表されたID.7はDセグメントに属するセダンで、ボディサイズは全長4961 mm x 全幅1862 mm x 全高1538 mm、ホイールベースが2966 mmと、VWパサートと同等のサイズと車格に位置するモデルです。

競合モデルとしてはメルセデスベンツのEQEが挙げられ、サイズ感も同等のものとなります。ただ、Aピラーとノーズの角度が鈍角なEQEに比べてID.7ではより鋭角となっているため、全体的な印象はEQEよりも小柄な雰囲気を感じさせます。

ID.7は現時点でProとPro Sの2グレードが発表されています。どちらも搭載するモーターは出力210 kW(282 hp)の自社製ユニット「APP550」ですが、後者は前後にそのユニットを搭載するAWDモデルとなります。また、バッテリーサイズも前者は容量82 kWh(ネット値77 kWh)なのに対し、後者は容量91 kWh(ネット値86 kWh)となり、航続距離はそれぞれWLTC方式での予想値で615 kmと700 kmを誇ります。

ボディ形状は5ドアセダンとなりますが、シルエットは上手くセダンらしさを残しつつも、流行りのクーペ的要素を取り入れた流麗なデザインとなっています。また、他のID車種同様にBEV専用の「MEBプラットフォーム」で設計されているため、パサートなどの既存のセダンと比較すると、ノーズが短くて分厚いため、多少の不格好さも感じます。

インテリアは非常にシンプルにまとめられていますが、センターコンソールからは物理ボタンを極力排除し15インチのディスプレイに操作系を集約しているため、好みは分かれることでしょう。また、会場で前席に座った際、ボディサイズの割にはキャビンが窮屈であることも少し気になりました。

それでも、前席頭上から後席膝上あたりまで展開されているガラスルーフは堅牢な作りのボディに解放感を与えてくれます。ドアトリムやダッシュボードなどの内張りの質感も既存のID車種より大幅に向上しており、総合的にもかなり満足のいく仕上がりとなっています。

グローバル展開されるがID.7の中国仕様車は現地生産

フォルクスワーゲンが発表した初の純EVセダン『ID.7」ってどんなクルマ?〜上海でチェック!

ID.7はグローバル展開を予定しているモデルですが、中国仕様車は中国現地で生産されます。今回の上海モーターショーで出展された『ID.7 VIZZION』『ID.7 NEXT』は中国仕様車となり、欧州などでは発売されません。

ちなみに、フォルクスワーゲンの合弁会社は第一汽車との「一汽フォルクスワーゲン」、そして上海汽車との「上汽フォルクスワーゲン」の主に2つが存在します。フォルクスワーゲンは一つのモデルを、名前とデザインを変えて姉妹車としてそれぞれの合弁会社からリリースする傾向にあります。

例えば、大人気モデルのパサートは中国では上汽フォルクスワーゲンが製造・販売を行っていますが、対して一汽フォルクスワーゲンは『マゴタン』をパサートの姉妹車として手掛けています。これ以外にも、『ラヴィダ/ボーラ』『T-クロス/タクア』『テラモント/タラゴン』『ID.4 X/ID.4 Crozz』『 ID.6 X/ID.6 Crozz』が、それぞれ上汽フォルクスワーゲンと一汽フォルクスワーゲンが製造・販売している姉妹車になります。また、『タル/T-ロック』『ティグアン/テイロン』『ティグアンX/テイロンX』は姉妹車ではありませんが、両社のラインナップ内で同等の車格に位置するモデルとなります。

これに加え、上汽フォルクスワーゲンにはスポーツセダン『ラマンド』、フラッグシップセダン『フィデオン』、ミニバン『ヴィロラン』などが、そして一汽フォルクスワーゲンにはセダン『サギター』、ラージSUVの『タヴェンダー』などが両社の独自モデルとして存在します。

新しく登場したID.7 VIZZIONは一汽フォルクスワーゲンが製造・販売を行うモデルですが、既存モデルと同じく、上汽フォルクスワーゲンが担当する姉妹車もID. NEXTとして同時にお披露目されました。

展示されたID. NEXTはカモフラージュが施された上にガラス製の展示ケースの中に配置されたため、デザインの全体像がわかりにくくされていました。それでも、ヘッドライトとフロントのイルミネーションとの位置関係や、リアクオーターやCピラー周辺の処理における違いが確認できます。また、左右一体型となっているテールライトやリアバンパーも大幅にデザインが変更されており、両モデル間の差別化がしっかりなされています。

上汽フォルクスワーゲン版ID.7の正式なモデル名や発表時期は定かではありませんが、これによりID.7は中国で2つの合弁会社から製造・販売される形になります。

中国市場へのコミットメント

ID.7 VIZZION のインテリア。

フォルクスワーゲンが中国において純電動セダンを発表したことは、同社の中国市場に対する強固なコミットメントの現れと言えます。1980年代後半に中国が「改革開放」政策で外資を積極的に取り入れ始めた時、最初期に参入したメーカーがフォルクスワーゲンやダイハツでした。

フォルクスワーゲンは上海市政府と手を組み、まずは上海にてセダン『サンタナ』の少量生産を行います。そこから順調に台数を伸ばしていき、いつしかサンタナは上海市民にとっての国民車になっていきます。そして今でも上海の街中ではタクシーや警察車両、そして一般車両含め、多くのフォルクスワーゲン車を見ることができます。

そのような経緯がある中、未だ中国で根強い人気を誇る「セダン」というボディ形状を持つだけでなく、注目度の高いBEVであるID.7を中国で真っ先にお披露目したことは必然的に中国の購買層から好意的な目で見られることでしょう。むしろ、上海以外にピッタリな発表の場はないと言っても過言ではありません。

ID.7は2023年秋ごろに欧州と中国で販売開始、そして北米では2024年中の販売を予定しています。日本市場でも展開されるかは不明ですが、2022年11月に上陸したばかりのID.4に続くID車種として日本上陸を期待したいと思います。

取材・文/加藤 ヒロト

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					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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