ジャパンモビリティショー(JMS)2025から電気自動車関連の注目トピックをお届けしています。今回のテーマは電動バイク。ぶっ飛んだデザインのコンセプトモデルから、ロボティクスを活用したプロトタイプまで、電動バイクの未来を考えさせてくれた出展車をピックアップしました。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
SFマンガから飛び出してきた電動バイク?

EV OUTLIER CONCEPT
「みなさんに『AKIRAじゃん』と言われてます(笑)。でも、モチーフにしたわけではないんですよ」
ホンダが世界初公開した電動バイクのコンセプトモデル『EV OUTLIER CONCEPT(アウトライアーコンセプト)』の前で足を止めて、近くにいた説明員の方に、大友克洋さんの漫画『AKIRA』の主人公、金田が乗っているバイクに似てますね、と話しかけると、笑顔でそんな返事が返ってきました。
さらに「これは電動でしか実現できない価値を追求するプロジェクトで、そこから生まれた新しいデザインなんです」と解説してくれました。走りは、電動ならではの静粛性を生かして「グライダーのように滑空するイメージ」で、特徴的なのはライディングポジション。インホイールモーターを採用するなどして、レイアウトの自由度を高め、過去のどんなホンダ製バイクよりも着座位置を低くしているそうです。地面に近いとスピード感は高まりますよね。
OUTLIERを翻訳すると「異端児」でしょうか。「枠にとらわれない存在」という意味を込めているのだとか。なんと二輪駆動(!)です。それにしても、電動化技術を手にした令和のデザイナーが、想像の翼を自由に羽ばたかせたら、なんだか金田のバイクに近づいたって、すごいです、大友先生。
ホンダは電動バイクのラインナップを拡大

EV URBAN CONCEPT
隣には、昨年のミラノモーターサイクルショー(EICMA2024)でお披露目された『EV URBAN CONCEPT(アーバンコンセプト)』が並んでいました。太いタイヤでホイールベースが長いので迫力があります。ビッグスクーターかと思いきや、「もう少し小さめのイメージです」とのことなので、人気モデル『PCX』(125ccと160cc)あたりの電動バージョンという想定でしょうか。
スクータータイプのURBANは、OUTLIERと比べるとかなり現実的なデザインです。ちなみにEICMA2024で同時に発表された電動ネイキッドスポーツ『EV FUN CONCEPT(ファンコンセプト)』は、ほとんどそのままのスタイルで量産モデル『Honda WN7』として2026年に欧州市場で市販されると発表されました。

EV FUN CONCEPT。EICMA(ミラノショー)2024のリリースより引用。
ホンダは、2040年代に二輪製品でのカーボンニュートラル実現を目指していて、電動バイクのラインアップ拡大にも積極的です。2台のコンセプトモデルも、意外に早く市販されるかも、と期待してしまいます。首都高でAKIRAやってみたいなぁ……。
往年の人気バイクがEVになって復活
続いてスズキのブースを訪ねました。軽乗用EV(四輪)のコンセプトモデル『Vision e-Sky』とともに、メーンステージに展示されていた電動二輪はファンバイクのコンセプトモデル『e-VanVan(イーバンバン)』です。

e-VanVan
VanVanは、1970年代に50cc~125ccのモデルが販売されていた小型バイクの名称。極太のバルーンタイヤが特徴で、当時はホンダの『モンキー』『ダックス』などとともにレジャーバイク市場を牽引しました。2000年代に200ccのストリートモデルとして二代目も登場しています(いずれも生産終了)。
電動化された三代目は、初代に近い雰囲気です。前後輪とも、市販されている中で一番太いタイヤをチョイス。幅広ハンドルでライディングポジションも自由度高め。開発に携わったという説明員は、こう話していました。
「航続距離の問題があるので、電動二輪は基本的にスクータータイプの乗り物を中心に考えています。その中で、乗って楽しくなるようなバイクをデザインモデルとして提案しました」
電動バイクは、構造上、大容量バッテリーを積むことが困難です。まずは短い距離の移動を支えるモビリティとして普及が進むのは納得できますし、そこに「楽しさ」を詰め込もうという考え方には100%賛成できます。じつはスズキブースでは、気になった電動バイクがもう一台あったのですが、それはのちほど。
ヤマハはバイクでマルチパスウェイ?
同じ「楽しさ」でも、e-VanVanとは対照的な実走プロトモデルを出展していたのがヤマハです。ステージに並んでいたのはスーパースポーツタイプの電動バイク『PROTO BEV』。レーサーレプリカ、というか、このままサーキットを走ってもおかしくないフォルムです。カーボンファイバーが多用され、かなり軽量化されていそう。

PROTO BEV
モーター出力やバッテリー容量は非公開で、走行性能は不明ではあるものの、ワインディングロードを思いっきり楽しめるはず。「FUNの最大化を目的に軽量化とコンパクト化を追求」したそうです。電動化で目指す「FUN=楽しさ」の定義がメーカーによって違うということですね。
ヤマハブースは、PROTO BEVのそばにネイキッドタイプのPHEVモデルなども並んでいて、いわゆる「マルチパスウェイ」のイメージも伝わってきます。

MOTOROiD : Λ
JMS2023で注目を集めたパーソナルモビリティ『MOTOROiD2(モトロイドツー)』を進化させた『MOTOROiD : Λ(ラムダ)』も展示されていました。「モト(二輪)」+「ロイド(ロボット)」という名前通りの実験モデルなのですが、2年前はもっとバイクっぽかった気がします。
ラムダ君はハンドルもシートもなくなって、ロボットっぽさが増し増し。ペットとか、コミュニケーションツールに近いのかもしれません。実用性は置いて先進性に全振りした印象でした。
タタメルバイクの「ICOMA」も新提案

TATAMEL BIKEとTATAMEL BIKE+
人間の役に立つロボットを実現する「ロボティクス」と「モビリティ」の融合は、自動運転技術も含めて、二輪四輪を問わずにこれからどんどん進んでいくはずです。折りたたみ電動バイクを製造販売しているスタートアップ企業「ICOMA」が提案していた『tatamo!(タタモ)』というコンセプトモデルも、その流れに沿ったモビリティでした。

tatamo!
『タタモ』は、同社が販売中の『タタメルバイク』(原付一種)と同じように畳んでコンパクトに収納できます。さらに小型化されていて、最高速20km/hの特定小型原付区分を想定。最大の特徴は、ロボットのような振る舞いを取り入れていることです。走行時には速度などを表示するディスプレイが、折り畳んだフォルムでは「顔」のようになって、ライダーとのコミュニケーションを図ります。
手を近づけるとキョロキョロしたり、困ったりしているように見えて、なんともかわいい。現状は「センサーで人の動きを読みとって反応させているだけ」とのことでしたが、愛車とコミュニケーションする「楽しさ」は、ぜひ追求してもらいたいところです。
同社のブースでは、有名デザイナーとコラボした『タタメルバイク』の新デザインや、カスタムの自由度を高めた『タタメルバイク プラス』も紹介されていました。
国産大手メーカーとして唯一電動スポーツモデル『Ninja e-1』と『Z e-1』を市販しているカワサキから新たなEVバイク関連の発表がなかったのは寂しい限り。代わりにというわけではないでしょうが、『Ninja H2』ベースの水素エンジンモーターサイクルが展示されていました。
スズキがインドで市販しているEVスクーター
最後に、個人的に気になったモデルを紹介します。『e-VanVan』が脚光を浴びていたスズキブースで展示されていたEVスクーター『e-Address(イーアドレス)』です。

e-Address
スズキの「世界戦略車」で、インドでは今春から市販されているモデルです。バッテリー容量が3.07kWhで、一充電航続可能距離が80km(WMTCモード)。日本でも発売することを前提に、JMS2025に参考出品されたのだとか。
説明してもらっていて「なにこれ?」と思ったのが、見慣れない形状の充電口でした。電動二輪用の充電規格「e-PTW CHAdeMO」(二輪チャデモ)を採用しているそうです。初めて見ました。

ついに公共充電スタンドで経路充電できる国産バイクが! と、胸がときめいたのですが、一般公開日に再訪して確かめると、インドでも二輪チャデモの急速充電網が普及しているわけではなく、想定しているのは家庭用コンセントからの充電。付属する充電アダプターの最大出力は600Wだそうです。とりあえずは充電口だけ、未来に向けて一歩前進といったところでしょうか。
日本で販売されても、似たようなことになりそうです。説明員のお兄さんに「AC/DCコンバーターを積んで、J1772コネクターで6kW普通充電ができるようにしたらツーリングも楽しめますよ」と食い下がったところ、じつはコンバーターを車載したモデルも試作していたことを明かしてくれました。
でも、シート下にヘルメット収納スペースを確保する必要があったり、あまり重量は増やしたくないという判断などが働いて、現在の仕様に落ち着いたのだとか。うーん、実用性を重視するとそうなりますか。
6kW普通充電ができるEVバイクを待望
全国各地に整備されているJ1772コネクターの6kW充電網を活用することが、バイクのEVシフトを後押しするはずだと、筆者は勝手に妄想しているのですが、国内で販売されている電動二輪の中で、それが利用できるのはBMWのスクーター『CE04』だけ。他のメーカーにも続いてほしいところです。電動バイクでのロングツーリングが、いつか当たり前に楽しめるようになれば……。
それにしても、やっぱりお祭りはいいですね。いろいろな「楽しさ」の提案が、電動バイクの未来図を少し明るいものに感じさせてくれました。JMS2025は11月9日まで開催中。バイク好きのみなさんも楽しんでください。
取材・文/篠原 知存






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