EVの販売台数が急増しているタイで開催された「第47回バンコク国際モーターショー」に注目。2名の著者陣によるレポートをシリーズでお届けします。第一弾は日本でZEV戦略を進めるヒョンデのタイ現地法人のキーパーソンへのインタビューです。
ヒョンデのタイ進出は15年以上前から

2年ぶりに「Bangkok International Motor Show(BIMS47)」の取材を敢行した。ヒョンデジャパンの協力もあり、現地でHyundai Mobility Thailand(HMT)のManaging Director Wallop Chalermvongasvej氏にインタビューできることになった。タイでのEVの状況、ヒョンデの販売戦略や販売状況、新型サンタフェ投入の狙いなど、興味深い話が聞けたのでレポートしたい。
※編集部注:インタビューは一問一答スタイルで紹介します。
タイでの販売状況は?

Wallop Chalermvongasvej氏
Q. 本日はお時間をいただきありがとうございます。さっそくですが、タイではどのモデルが売れているのですか?
タイにおけるヒョンデの販売モデルで、最も売れているのは11人乗りのスターリアです。これは、HMTが参入する前のディストリビューターがH-1という11人乗りの商用バン・MPVを多く販売していたからです。2023年にHMTが正式にタイ国内で事業および販売を開始する前の15年間は、日本の総合商社が輸入代理店、ディストリビューターとして存在しており、その当時は11人乗りのH-1を多く販売していました。実際、私たちHMTが参入する前の過去15年間で販売されていたのは、この1モデルだけでした。タイでこの市場への認知度やブランドが確立されていたのです。
Q. タイでは中国勢の台頭や景気減速の話も聞きます。現在の販売状況は?
HMTとしての販売は2023年からですが、23年、24年は比較的好調で参入最初の年で5800台以上の販売実績を記録しています。このうち半数を占めるのがスターリア(H-1含む)でした。残念ながら、2025年は景気後退もあり販売台数は大きく落ち込みましたが、これはタイ市場全体の傾向です。モデル別の販売構成比は大きく変わらず、スターリアが半数弱、H-1と合わせて6割くらい。あとはIONIQ 5、サンタフェが各15%。パリセードが10%といったところです。
タイでの売れ筋はミニバンのスターリア

スターリア
Q. タイではミニバンに強いブランドのようですね。
はい。スターリア(今年前半にはEVモデルも発売予定)、スターゲイザー(東南アジア向けのコンパクトMPV)などが市場で高く評価されています。スターリア、H-1は、信頼性、耐久性に優れ市場でも15年以上の実績があります。競合車種としてはトヨタの「コミューター」(15人乗り)や日産の「アーバン」がありますが、コミューターはタクシーや観光地の送迎バスとして売れていました。乗用車としてのミニバンはスターリアのほうがコンパクトでファミリー層にはリーチしていると思います。
しかし、HMTはポートフォリオの拡大を進めています。乗用車としてのブランド、認知度を高めたいと思っています。

スターゲイザー
Q. 認知度拡大の戦略は?
高い品質と信頼性はHMTの武器だと思っています。HMT参入以前の15年間のヒョンデブランドも同じ戦略をとっていました。
ただし、HMTは進歩的なプレミアムブランドであることを強調したいと思っています。EV、PHEV、そしてADASといった革新技術を示しつつ、信頼性、耐久性を維持します。そのため、競合よりは若干高価なブランドとなりますが、ミニバン以外でもプレミアム層から市場を広げていきます。ご存じのように中国ブランドが価格競争力を武器にタイ市場に参入して、大規模な割引やプロモーションを展開してきています。
Q. 中国ブランドへの対策、対抗手段には何を考えていますか?
価格だけをみたら中国勢と勝負はできません。過大な割引やインセンティブに頼ったビジネスは健全とは言えません。ヒョンデ車が高いからといって利幅を多くとっているわけではありません。コストに見合った製品であり、車両を通じた長期的な体験、価値を提供することで差別化できると思っています。HMTとしての参入はまだ若いので時間はかかりますが、2台目、3台目を買いやすくする施策や長期的な顧客とのエンゲージメントを考えています。
タイのEVはエントリーカー
Q. スターリアや今回発表した新型サンタフェはPHEVが主力です。タイのEV市場は実際どうなんでしょうか。急成長している話も聞きますが、先ほどのように景気後退の話も聞きます。
海外のジャーナリストに説明すると信じてもらえないことがあるのですが、タイではEVは高級車やプレミアムカーではなく、新規顧客のエントリーモデルなのです。タイにはエコカー支援制度や購入者支援制度があります。初めて車を買う人にメリットがある施策ですので、若い人はEVを選ぶのです。自分が若いころは、ピックアップトラックが30万バーツくらいから買えました。現在ピックアップトラックなどガソリン車は50万バーツからしますが、EVの多くは30万バーツから買えます。
補助金や中国との自由貿易協定は政府が決めることで、我々にできることはあまりありません。既存企業にとっては好ましくないことですが、戦略はあります。
先ほど申したように、HMTは長期的な視点で市場をみています。タイのEV市場はまだ4年くらいしか経っていません。新興勢も品質が劣っているわけではありませんので、我々と同じように信頼性やサービス体制を整えてくるところは残ります。しかし、これは長期戦なのです。日本ブランドもそうですが、信頼性のほか、メンテナンスコストや部品の供給体制などでしっかり勝負することが重要だと思っています。
タイにインスター投入はあるのか?
Q. なるほど。ところで私は日本でインスターに乗っているのですが、インスターは非常に価格競争力を持ったモデルだと思います。同じ戦略をタイでとらないのでしょうか。
インスターはスモールカーですが、じつは、おそらく日本の価格は世界で一番安い設定になっています。グレードによりますが同レベルの韓国キャスパーEVは日本より高くなります。たしかに小型EVのニーズはありますので、市場やユーザーの声は大事にしたいと思いますが、現状、タイで日本のような価格設定は難しいと思っています。
Q. 最後に、今回のモーターショーで発表した新型サンタフェ(ミドルサイズSUV)について教えてください。スターリアに対してどんな位置づけの車になるのでしょうか。

サンタフェ
ヒョンデの歴史を振り返ると、スターリアの成功に始まり、スターゲイザー、クレタ(サブコンパクトSUV)と展開していきました。パリセード(大型SUV)、サンタフェと続くわけですが、パリセードとサンタフェはヒョンデのグローバルモデルです。品質、安全面、その他すべてがグローバル基準でつくられており、これをさまざまな国・地域に展開することが我々のひとつの目標です。

パリセード
グローバルモデルは、国境を超えて世界中で同じ基準で生産され、販売され、サポートされます。ドライバーに提供できる価値も同様です。これをタイにももっと広げる狙いがあります。サンタフェは価格的にスターリアより少し上のクラスになりますが、コストパフォーマンスは高いと自負しています。
想定しているユーザー層は、スターゲイザーは若いファミリー、結婚したばかりの人、子供がまだ小さい家族です。サンタフェは子供が5歳、8歳と成長したくらい。親の収入も増え、より広く、くつろげる車を求める世代でしょうか。レジャーも活発で海、山、アウトドアにも向いています。年齢層としては40歳前後から50歳くらいでしょう。
(インタビュー、ここまで)
エリアごとの戦略と現地化を進める長期戦

IONIQ 5 N
ヒョンデは、日本ではEVを中心としたZEV専業ブランドとしての認知が進んでいる。ラインナップする車種は、IONIQ 5、KONA、インスター(そしてFCEVのNEXO)とEVがメインだ。日本市場の特殊性を考えると、合理的なラインナップといえる。国内メーカー(ブランド)の牙城は、変革期にあれどいまだ強い。各社が押さえた市場の切り崩しは容易ではない。新規開拓が見込めるEVからブランドを地道に作っていくのはセオリーだろう。
昨年取材したインドネシアでは、「スターゲイザー」(インドネシア仕様)が最も売れているモデルだと聞いた。6人乗り、7人乗りのMPVがインドネシアでは需要が高いので、人気のスターゲイザーに内外装をインドネシア向けにしたモデルを展開している。
そして日本におけるインスターの価格設定など、各国、各地域でそれぞれの強みを生かすべく、タイでは顧客基盤を持っているH1、スターリアをベースとした戦略をとっていると考えられる。
タイのEVブームには、中国勢に価格勝負で参戦するのではなく、PHEV+プレミアムを戦略の基本としている。そのため、プレミアムEVとしてIONIQ 5を投入しており、タイ工場での生産も開始される。
Wallop氏が述べていたようにタイにおけるヒョンデの戦略は「長期戦」にある。筆者は、鍵はスターリア、サンタフェの流れをIONIQ 9へどうつなげるかにあると感じた。
【関連記事】
価格が高い? 充電インフラが脆弱? それでもEVが売れている現実/2025年上半期「インドネシア・マレーシア・タイ」EV販売レポート(2025年8月19日)
取材・文/中尾 真二






コメント