【テスラ社の2020会計年度第1四半期の決算報告】
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営業利益は前期並を確保
第1四半期の総売上高は59億8500万ドル、営業利益は2億8300万ドルでした。それぞれの前期比は19%減、21%減です。また営業利益率は4.7%で、2019年度の第3四半期から引き続き、4%以上のプラスを維持しています。
総売上高のうち、自動車の販売にかかる収入は51億3200万ドルで、前期比では19%の減少になりました。ただし自動車販売の利益率は25.5%で、前期の22.5%を上回ったほか、2019年第3四半期に記録した22.8%も超える高い水準を確保しています。
FINANCIAL SUMMARY
他方で、純利益は大きく下げて、前期の1億500万ドルから1600万ドルと、85%の減少になりました。とは言えテスラ社は決算報告のサマリーで、季節的に自動車販売が厳しい第1四半期に純利益を確保できたのは創業以来初めてのことであり、世界的に厳しい状況の中で過去最高の第1四半期を達成できたと説明しています。確かに、昨年の第1四半期は7億200万ドルの赤字なので、前年同期比では7億1800万ドルの大幅な増加です。
興味深いのは、「regulatory credits」、つまりCO2規制を回避するための実質的な排出権売買や、米国のZEV規制のクレジット売買などの売り上げが、前期の1.7倍近い3億5400万ドルになったことです。2019年度は第1四半期こそ2億1600万ドルあったのですが、その後は1億ドル強で推移していました。
規制に関連するクレジット販売金額が大きく増えた理由のひとつは、昨年4月に伝えられた、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とテスラの契約だと思われます。
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フィアットがテスラに数億ユーロを支払うCO2排出規制のための連合を結成
記事中で引用しているフィナンシャル・タイムズは、FCAが欧州のCO2規制による罰金を回避するために、テスラ社に数億ユーロを支払う契約を結んだと報じています。欧州では2020年からCO2排出の目標値が95g/kmになりますが、FCAは昨年時点で123g/kmだと言われていました。
このままだと巨額の罰金が発生するため、FCAは、テスラ社の車と合算してCO2排出基準を計算する方法を選択。見かけ上の排出量を抑えています。このためにFCAは、テスラ社に大金を支払っています。それが今回の、クレジットの売り上げになっていると思われます。
世界恐慌に匹敵する経済後退の中でも堅調
決算報告書のサマリーでは、ギガファクトリー上海では生産量が増加したことから、モデル3の利益率が大きく改善されたほか、モデルYも収益増に貢献したことを強調しています。テスラ社として初めて第1四半期で黒字化できたのは、このふたつのモデルの成功が大きな要因だったとしています。
コスト低減について、テスラ社の最高財務責任者(CFO)のザカリー・カークホーン氏は投資家の質問に対して次のように答えています。
「第1四半期に上海で生産される自動車のコストは、フリーモントでモデル3を生産するコストよりも低いうえ、コストをさらに削減する大きな余地も残っています。第2四半期以降の生産量の増加による固定費の吸収は、まだサプライチェーンに完全に適切化されていません。そのため、サプライチェーンの多くには追加のコスト削減の機会があります。私たちは価格を引き下げると同時に、マージンを拡大し続けます」
同時にイーロン・マスク氏は、中国でのモデル3の価格を決算発表の翌日に引き下げると述べています。その結果、現在の利益率がどう変化するかはまだわかりませんが、物理的な価格引き下げができれば中国で補助金が減少しても購買層への訴求力には変化がないことになり、現在の経営状態は維持されそうです。
こうしたテスラ社の決算報告は、多くのアナリストの予想を超えて好調だったと、ロイターやブルームバーグなどは報じました。このため株価も伸び、決算発表後の時間外取引では一時的に11%高まで上昇。時間外取引の終値は、前日の769.12ドルから800.51ドルに上がりました。4月初旬には400ドル台まで下がっていたので、1か月弱で2倍近くになったことになります。
ところで、新型コロナウイルス感染症の影響で、テスラ社は3月中旬以降、カリフォルニア州フリーモントやニューヨーク州バファローの工場を停止しています。バファロー工場では人工呼吸器の生産を計画していて、試作品も作っていますが、本業の車などの生産再開のめどは立っていません。
このためテスラ社は、2020年度通期の見通しを示していません。決算報告書では、「自動車の製造と、それに関連するグローバルサプライチェーンが以前のレベルにどれだけ早く戻るかを予測することは困難」なことなどから、2020年度の第2四半期で予想を示すとしています。
またマスク氏は、新型コロナによる世界的な経済危機の中で「先行きがはっきりしないのは明らかだ」としつつ、次のように述べています。
「(現在の危機的な状況の中でも)私たちは、将来への投資と新しいテクノロジーへの投資を続けることが正しい動きであるという結論に達しました。また主要な投資家とも話し合いをしたところ、彼らもこのアプローチをサポートしています。先行きが不透明なのは明らかですが、長期的な展望は非常に良いと思っています」
販売の中心はモデル3とモデルYに大きくシフト
テスラ社の好調な業績を支えているのは、今は間違いなく、モデル3とモデルYです。EVsmartブログの記事『テスラ2020年第1四半期の生産台数は約10万3000台』では、第1四半期の総生産台数が10万2672台で、このうち8万7282台がモデル3とモデルYだったことをお伝えしました。決算報告書でも、この数字は変わっていません。
決算報告では、財務関連の記述の中で、販売が予想通り、モデルSとXからモデル3とYにシフトしたことで平均販売価格がさらに落ちたと報告しています。ただし、車の販売の利益率は25.5%と高水準だったほか、全体での利益率も20.6%になり、過去18か月間で最高になっています。
ただし、モデル3とYの納車台数(7万6266台)が前期比で18%減少しています。原因は、第1四半期の途中でギガファクトリー上海がコロナの影響で一時的に停止したことや、3月には米国工場が停止したことなどにより生産能力が落ちたことです。
他方、ギガファクトリー上海の生産は計画通り順調で、モデル3は2020年の半ばには週に4000台(または年間20万台)を達成するとしています。そのためのサプライチェーンも確保したようです。また、上海では第1四半期にモデル3のスタンダードレンジプラスだけを生産していましたが、現在はロングレンジバージョンとパフォーマンスバージョンのオンライン予約を開始しています。
このことも含めて、上海で生産しているモデル3と、フリーモントで作るモデルYは、第2四半期まで生産が徐々に伸びていくと予想しています。
またベルリンの工場は、土地取得が完了し、建設を開始する予定です。2021年にはギガファクトリーベルリンでモデルYを生産し、納車する計画です。
ただし、問題は操業停止が続いているカリフォルニア州のフリーモント工場で、マスク氏は「ベイエリアで生産ができないことは深刻なリスクとして認識されるべき問題」と述べています。テスラ社の工場は現在、上海とフリーモントの2つで、フリーモントではモデルSとXの全台数を生産しています。主軸はモデル3とYに移っているとはいえ、マイナス影響が大きいことは間違いありません。
もうひとつ、ちょっと残念なのは、テスラ・セミの納車が2021年にずれ込むことです。決算報告では、その理由は明示していません。
中国のコロナ禍の影響がどうなるかはまだ未知数ですが、仮に回復が遅くなるとすると、テスラだけでなく、というよりもテスラ以上に、アメリカや欧州、日本の自動車メーカーへのマイナス影響が大きくなる可能性があります。
そう考えると、1930年代の世界恐慌の再来とも言われる中で第1四半期を堅実にまとめたテスラ社は、基礎体力が付いてきているということなのかもしれません。
テスラ社は決算報告で2020年の通期見通しを示しておらず、現在は年間50万台の車を納入するだけの生産能力を備えているものの、いつ、生産を増加できるのかは「依然として不透明」だとしています。
短期的な業績予想は示せないものの、「業界をリードする営業利益率と収益性を達成できると確信している」とも強調しています。そして決算発表でのテスラ経営陣の言葉を聞く限りは、昨年から黒字に転じたテスラ社の状況は、全世界的なコロナ問題の中でも「総じて堅調」だと言えそうです。
(文/木野 龍逸)