プラグインハイブリッドの燃料電池自動車〜メルセデス・ベンツ『GLC F-CELL』試乗レポート【諸星陽一】

メルセデス・ベンツが日本に導入した外部から充電可能な燃料電池自動車『GLC F-CELL』に自動車評論家の諸星陽一氏が試乗。ヨーロッパと日本だけで発売されている次世代車の印象は?

プラグインハイブリッドの燃料電池自動車〜メルセデス・ベンツ『GLC F-CELL』試乗レポート【諸星陽一】

13.5kWhのバッテリーに充電可能

2019年の東京モーターショーでダイムラー(メルセデス・ベンツはブランド名である)は興味深いモデルを日本で発売することを発表した。それはGLC F-CELLというモデルだ。GLCというモデルネームからもわかるように、CクラスベースのSUVモデルであることは容易に想像できる。

そして、F-CELLの文字はそれが燃料電池車であることを示している。しかしGLC F-CELLは単なるGLCの燃料電池仕様ではない。燃料電池仕様でありながら、走行用バッテリーに外部からの充電が可能なプラグインハイブリッドモデルである。燃料電池車でPHEVという組み合わせは、今のところ世界で唯一の存在だ。

このGLC F-CELLが発売を開始し、試乗の機会を得た。発売と言っても車両が完全にユーザーの所有となるわけではなく、4年間のクローズエンドリース契約のみの設定。つまり4年後にはクルマを返却しなければならない。設定価格は消費税込み1050万円で、リース契約は月額9万5000円(税込)。このリース契約料金には登録時の各種税金、自賠責保険料、リサイクル関連費用、リース期間の継続自動車税種別割なども含まれている。ちなみに4年間の総支払い額は456万円となる。

水素タンクはリヤシート下に1つ、センタートンネルに1つの計2つ。フロントセクションにはFCスタック(燃料電池)が収まる。私は燃料電池という言葉がどうも好きではない、電池というと貯めるという印象が強いからだ。なのでこのクルマの場合は、水素発電機と言ったほうがわかりやすいと思っている。

走行用のリチウムイオンバッテリーはリヤセクションに配置、モーターもリヤにのみ装着される後輪駆動方式を採っている。モーター出力は200馬力/370Nm。バッテリーはリチウムイオンで13.5kWhの容量を持つ。水素タンクはリヤシート下が77リットル、センタートンネルが37リットルで計114リットル。世界基準となる700気圧タンクで約4.4kgの水素を充填可能だ。


フロントボンネット内のFCスタック部と、カバーを外した様子。見えない部分はざっくり作るなあという印象も。

欧州と日本でのみ発売

GLC F-CELLは欧州のほかは日本でのみ販売される。にも関わらずきちんと右ハンドル仕様を用意しているところはダイムラーという会社がいかにしっかりとしているかを感じさせてくれる部分だ。

ドライバーズシートに乗り込み、システムを起動する。GLC F-CELLにミッションは存在しないが、ATのセレクトレバーと同様にステアリングコラム右の位置にドライブポジション(D、N、R、P)のセレクトレバーが存在する。Dポジションを選び走り出すと、じつに普通の感覚だ。普通というのはやたらとEVらしさを強調するような、演出が行われていないという印象。


ご存じのように電気モーターは起動時から最大トルクを発生する。このためどうしても発進時の、ほんのちょっとの距離、それこそタイヤ1回転程度からやたらと強い加速感を与えるようなことをするが、GLC F-CELLはそれを感じない。このあたりの作り方はクルマをよく知っているダイムラーならでという部分だろう。そして、アクセルを床まで踏み込むような乱暴な操作をしてもいわゆるEV的な加速はなく、どちからというとエンジン車のような加速感となる。

今まで乗ったEVのなかではもっともジェントルな加速感で、SUVとはいえメルセデス・ベンツを感じさせてくれる部分であった。GLC F-CELLは“コンフォート”、“エコ”、“スポーツ”の3つの走行モードが選べるが、“スポーツ”を選んでも、テスラのような加速感にはならない。

もっともGLC F-CELLの車重は2150kgとクラスを考えれば十分に重く、その重さがゆったりした加速に影響を及ぼしているのかもしれない。だが、重さは必ずしも悪ではない。効率のみを追い求めるのではなく、乗り心地を考えるならば、重さはよい方向に働くこともある。乗り味はゆったりとしたもので、加速感同様に上級だ。若干上下動を感じることもあったが、GLCであることを考えれば十分に許容できる範囲と言える。フロア下にビッチリとバッテリーを敷き詰めた電気自動車は、コーナーで振り子のような動きをすることがあるが、バッテリーもさほど重くないGLC F-CELLはちょうどいいレベルを実現していると言える。

気になる航続距離は欧州仕様車のWLTPデータが公表されている。それによれば、リチウムイオンバッテリーのみでは41km、水素燃料のみでは336km、ハイブリッドとしては合計である377km(EPA換算推計値=約336km、バッテリーのみで約37km)となっている。

水素補給に掛かる時間は約3分で、ガソリンの給油時間とほぼ変わらない。しかし、水素スタンドはまだまだ数が少なく、私の知る限りではガソリンスタンドや充電スタンドのように24時間営業のところも存在せず、インフラとしてはまだ未成熟な部分が残念である。一方、インフラが整備されれば家庭で充電、遠出する際には水素を充填という方法で、クルマとしての二酸化炭素排出抑制を実現できる水素FCPHEVは大きな可能性も秘めている。充電は普通充電のみ対応で、急速充電は備えていない。


先にも書いたようにGLC F-CELLの価格は1000万円オーバーであり、一般的な販売方式ではなく4年後にクルマを返却するリース方式を採っている。こうした販売方法でありながら、充電用ウォールユニット(11万円)と工事費用(10万円分、工事費が10万円を超えた場合は自己負担)をサポートするキャンペーンを展開中。もちろん4年間、もしくは15万kmのどちらか早く訪れたほうまでが保証されるプログラムの“メルセデス・ケア”も付属される。そして、このメルセデス・ケアの期間中は、希望するモデルを無料で利用できる週末貸し出しサービスの「シェアカー・プラス」が4回まで利用可能となっている。

(取材・文/諸星 陽一)

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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