EV用急速充電器1台を動かすために必要な風力発電の規模はどれくらい?

再生可能エネルギー発電の電力で電気自動車を充電すれば、完全にゼロエミッションのドライブを実現できます。再エネといえば太陽光発電が注目されがちですが、風力発電はどうなんでしょう。モーターエヴァンジェリストの宇野智氏が、素朴な疑問を探ります。

EV用急速充電器1台を動かすために必要な風力発電の規模はどれくらい?

風力発電×電気自動車で脱炭素ドライブを実現?

2022年に入ってからデビューした新型EVに試乗した総走行距離は2,000kmを超え、高速道路のSA・PAで充電した回数は17回に達しました。充電する度に、「この先、EVが増えて急速充電設備を増設したとき、電力供給は大丈夫なのだろうか? どうせなら、再エネで充電用電力を確保したい…」と思ってました。

ICEモデルの新型試乗で、千葉県は銚子の犬吠埼へ走りにいったとき、無数の風力発電機が立ち並ぶ様子を見て「これが高速道路のSAにあったら、急速充電設備の電力はまかなえるのでは?」と思い、続けて「はたして、急速充電器1基の電力を確保するために、どれくらいの規模の風力発電が必要なのだろうか?」という素朴な疑問が浮かびました。

タイミング良く、東京ビッグサイトで『第18回 スマートエネルギーWeek』が開催(2022年3月)されていました。「急速充電器1台動かすために必要な風力発電の規模はどれくらい?」の回答を得るために、足を運んでみました。

『第18回 スマートエネルギーWeek』は、『第10回 WIND EXPO(風力発電展)』『第15回 PV EXPO(太陽光発電展)』などをはじめとする9つの展示会で構成されていました。ローラー作戦で1社ずつのブースを見て回り……『JE Wind 株式会社(以下、JE Wind)』が私の疑問を解決してくれました。

大型風力発電機の国産化を目指す JE Wind 株式会社

JE Windは、今から10年ほど前にドイツのハンブルクに風力発電の風車を設計する研究所を設立、さまざまな形式の風車を製作し、既存の風力発電機メーカーにライセンスを供与して、海外の各メーカーが自社ブランドとして販売をしてきたという実績をもつ会社です。JE Windでは風力発電建設と運用のコストパフォーマンス向上、そして日本国内での風力発電普及拡大を目指しています。

JE Wind の説明員に筆者がぶつけた質問とその回答は次のとおりです。

Q. 90kWの急速充電器を1台動かすために必要な風力発電はどれくらいの規模?

表の右側「JE***-◯MW」の「***」は風車の羽根の直径、「◯」は発電出力。この表のラインナップで最も小型なものでも、羽根の直径は87m。欧州のトレンドでは150m以上という巨大な羽根の風車となっているとのこと。

風力発電には「洋上風力」と「陸上風力」の2種類あり、現在の日本で主流となっているのは、陸上風力です。

風力発電は、発電能力と羽根の大きさの2点が主なスペック、仕様となります。現在、陸上発電はどんどんと高出力化・大型化しており、欧州の風力発電メーカーでは、3MW機から4MW機といった大型機が中心になっているとのこと。

同社製品ラインナップの中では小型になる2MW(羽根直径87m)機では、その文字通り、2MW=2,000kWの発電ができ、EV用の90kW出力急速充電器なら、単純計算で22基が同時にフルパワーで充電する電力に匹敵します。

大型蓄電池併設で90kW器10台を運用可能

とはいえ、風力発電機は365日24時間、風を受けて回っているわけではありません。風が吹いていないと充電できない? と思ったら、近年、風力発電には大型蓄電池を併設する事例が増えているとのこと。つまり、風車が回っていなくても、風力による電気で充電できるようになるのです。

現在、日本で設置されている風力発電の稼働率は30%以上あればいい方だとのことです。平均すると年間100日程度以下しか稼働(風車が回っている)していないそうで、稼働率3割あれば十分(売電をして利益が確保できるという意味で)だそうです。3日に1日、風が吹いてくれれば大丈夫となると、なんとなく導入へのハードルが低く感じますね。

「本来はしっかりと設計しないといけない」との前置きがありましたが、ざっとした計算では、高速道路のSAでのEV急速充電設備への電力供給を目的として、2MW機1基とコンテナ1台分くらいの蓄電池(容量1〜3MW程度)があれば、風車の稼働率が30%としても、90kW急速充電器を10台弱、シームレスに運用できそうだ、という結果(仮)となりました。

テスラの大型蓄電池『Megapack』は世界各地で導入が進んでいます。

しかも、この仕組みであれば、系統電力から独立した電力自給自足が可能(あくまでも計算上ですが)です。大型蓄電池に役目を終えた電気自動車のバッテリーをリユースできるようになれば、コストが下がり、さらなる「風力発電&大型蓄電池」の普及につながるかもと、先日紹介した4Rエナジー牧野(前)社長へのインタビューを思い出しました。

風力発電機1基建てるのにいくらかかる?

計算例として示した、90kW急速充電器10台弱を安定稼働させるための風力発電設備を1基建てる場合の費用は、蓄電池も含めてざっと5~6億円となるそうです。

これが高いか安いか……、ちょっと素人にはわかりませんね。

Q. 建設計画から稼働開始までにかかる日数はどれくらい?

風力発電を「ここに建てたい!」と決めたら、まずは1年間「風況測定」をすることが必要となるとのこと。文字通り、風の強さを24時間365日測定して、稼働率(実際の場面では、売電による収入=利回りが重視される)に問題がないかどうかを確認しているそうです。

風況測定で問題がなければ、風車建設への申請などの諸手続きへと進み、おおむね1年ほどで建設が完了して運用開始。風況測定の期間を含めると稼働開始までに最低2年は必要となるとのことでした。「最低でも2年」は、思っていた以上に時間が必要でした。

Q. 風車が発生させる振動、低周波・高周波の悪影響はないか?

結論から言うと、それはないとのことでした。風力発電建設に関するガイドラインでは、「住宅から風車を最低500m以上離す」としており、基本的にこれを守って建てられているそうです。また、風車から低周波や高周波の発生源となるという話があったのは昔のことで、今では、認証機関を通して測定をして問題がないことを確認してから、建設計画を進めているとのことでした。

Q. 太陽光より風力発電のほうが環境負荷も少ない?

太陽光と風力発電を比較した場合、環境への負荷は圧倒的に風力のほうが少なくなるとのことです。風力発電と太陽光発電を比較すると、設置に必要な土地面積当たりの発電量は風力のほうが大きく、発電設備を運用するための土地も少なくすみます。

あとは、聳え立つ風車の威容をどう捉えるかですね。世界遺産にもなったオランダの風車のように、地域の象徴となれば良いのですが。

青森県六カ所村にて、風車のある風景。(2013年)

ここまでが、JE Wind社に取材した「急速充電器1台動かすために必要な風力発電の規模はどれくらい?」についての回答でした。

Q. 駐車場1台分の太陽光パネルの発電量は?

『第15回 PV EXPO(太陽光発電展)』の会場では、三菱電機システムサービス株式会社のブースで、カーポートにソーラーパネルを乗せて発電をするパッケージ商品の展示が行われていました。

カーポート1台分の発電量は「2kW程度です」との回答でした。EVの充電用として使うには不安定で出力も小さいため「駐車場の照明などの小さな出力の電気機器の電源として使っていただいている」とのことでした。

EV×再エネの未来が見えてきた!

風力、太陽光、バイオマスといった再エネの展示には、非常に多くの人が来ていました。今回の開催は特に、企業からの注目が集まっていたとのことです。カーボンニュートラル社会実現に企業として貢献するために、ますます再エネへの関心が高まっているということでしょう。

今秋から再販売される、三菱ミニキャブMiEVが出展されていた。担当の話によると、企業からの要望が多くあって再販に踏み切ったとのこと。

今日の学びをまとめます。「急速充電器1台動かすために必要な風力発電の規模はどれくらい?」という疑問に対する答えは、次のようになりました。

●羽根の直径90mほどの2MW機と、コンテナ1個分くらいの大型蓄電池というシステムで、EV用90kW急速充電器が10基ほど運用できる。
●その規模のシステムなら、3日に1日ぐらい風が吹いて羽根が回れば大丈夫。
●太陽光より風力発電のほうが環境への負荷が少ない。

EVシフトを支える、またゼロカーボンを達成するためのカギは、風力発電となるのではないかとさえ感じます。計画から運用開始までの2年以上という長い期間や設置コストがネックではありますが、高速道路のSA・PA毎に1基ずつ風力発電を建てれば(必ずしも隣接の必要はない)、当面、EV急速充電設備の増強と運用を行うための電力供給の課題を解決し、自動車の脱炭素を進める奥の手になりそうです。

ただ、全国各地いろんな場所で「それだけの風が吹いてくれるか」というのが最大の課題でもあります。こればっかりは、風まかせですね。

【動画】取材の一部始終はこちらから

(取材・文/宇野 智)

※編集部注/当初公開時「風車の直径が1mほどの小型風力発電機で、50kW以上の出力のものがいくつか展示されていました」との一文がありましたが、確認したところ、正しくは「風車の直径が1mほどの小型風力発電と、50kW未満の小型風力発電が多くなってきており、小型風力発電クラスの風車でも50kW級の高効率型も増えてきている」という説明があったということでした。本文該当箇所は削除しました。EVsmartブログとして、さらに注意深く正しい情報発信を行うよう留意します。ご指摘いただき、ありがとうございました。

この記事のコメント(新着順)11件

  1. 大変興味深く読ませて頂きました。勉強になりました。ありがとうございました。

    素人質問で恐縮ですが、『2MW機1基とコンテナ1台分くらいの蓄電池(容量1〜3MW程度)があれば、風車の稼働率が30%としても、90kW急速充電器を10台弱、シームレスに運用できそうだ、という結果(仮)となりました。』というところが理解できなかったです。稼働率が30%なら、1日0.6MW、もしくは10日のうち3日が2MW(この場合も1日当たりの蓄電量は0.6MW/日)、蓄電できるということかと思います。

    だとすると、600kW÷90kW=6.6 となりませんでしょうか?仰る通り、6.6台は10台弱ですが、6.6台と10台(弱)を比較すると、数字が1.5倍大きく見積もられているようにお見受けしました。

    この分野の素人ですので、計算等に間違いがありましたら、ご容赦下さい。

    1. J さま、コメントありがとうございます。

      2MW器がフル稼働すれば1時間に2MWhを発電できるということなので、稼働率30%として、1日24時間で48MWhの30%=14MWh強は発電できる計算になろうかと思います。
      蓄電池の大きさにもよりますし、「シームレス」をどの程度に捉えるかによりますが、仮に90kW器が1日12時間稼働する場合の消費電力は約1.1MWh。2MWの発電機で90kW器10台分くらいの充電用電力はまかなえる概算、と(編集部としては)理解しています。

      10台並んでいる90kW器が1日12時間稼働する状況を想像すると、ちょっとワクワク(本格的EV時代到来!) & ゾッと(インフラ整備は間に合うのか?)しますけど。。。

  2. 興味深く読ませていただきました。正確を期して恐縮ですが、「風強測定」は「風況測定」で、直径1メートルの小型風車の出力は50kWではなく350Wくらいかと察します。残念ながらこのクラスですと作るためのエネルギーを取り返すのさえほぼ無理ですので、電線のないところで使うなどコストを度外視しても設置する意義のある所限定の利用をお勧めします。

    1. Chaga さま、コメントありがとうございます。

      「風況」のご指摘ありがとうございました。修正しました。
      小型風力発電機のくだりは、いったん削除いたします。

      ありがとうございました!

  3. >また、風車の直径が1mほどの小型風力発電機で、50kW以上の出力のものがいくつか展示されていました。

    直径1mの風車では50kWの出力を出すのは無理です。50kWという数字は間違いだと思われます。

    1. やっちゃん さま、ご指摘ありがとうございます。

      小型風力発電機の出力について、記事公開前の校閲チェック漏れでした。
      取材執筆した宇野氏に確認中ですが、小型風力発電機に関するくだりをいったん削除いたします。

      ありがとうございました。

    2. 最近静岡県御前崎市浜岡を通りましたが風力発電所の風車がやたら多いのが目につきましたね。昔は浜岡といえば原子力発電所が有名でしたが東日本震災以降憚られた雰囲気あり…一方再生可能エネルギーブームで太陽光発電とセットでこの地も再エネ発電所だらけになってますよ。
      ただ浜岡の地名どおり海岸線の丘陵地だから風車はそこそこ回って発電しているようです。

      そういや風力発電所は電気事業法の規制を受けますよ。出力20kW以上で事業用電気工作物の扱いになり電気主任技術者の選任が必要、とはいえ2000kW未満なら電気保安協会や電気管理技術者へ外部委託できますがそれにしても毎月の点検や保安契約などのランニングコストがかかりますよホンマ。

      風車の問題といえば騒音とバードストライク。そもそも浜岡は原発立地だけに人口密度は低いですが、風車に鳥が当たると発電機への損傷被害もあるわ、猛禽類の数が減れば生態系も乱れるわ…しかし航空機エンジンのバードストライクは事前想定があり大概問題なく飛行できる設計なので経営側が軽視しているのも事実と思われます。

      たまたま静岡鉄道駿遠線の跡地探索でここへ来ただけですが…なんだかいろんな問題が頭をよぎりましたよ。もし駿遠線が今も残っていたら浜岡の原発もなかったと考えられ、こんな問題にも遭遇しなかった可能性がありますから。

  4. 30分急速充電1500円料金(90kw機なら許容されそう)で1日10回程度と稼働率高くできれば、単純計算で
    1500×10×365=5475000
    これが10箇所で54750000
    10年あれば5億を超えますね。
    当然風力発電機以外の費用もかかってくるし、365日充電器が可動できるわけないだろうけど、大型風力発電機の設計寿命は20年らしいから、存外コスト面ではなんとかなるのかも。

    1. 電気管理技術者です。風力発電と電気自動車充電器の組み合わせは魅力的ですが常時風が来るとは限らないのである程度は蓄電池が要りますよ!?
      仮にDC400Vで蓄電するなら太陽光発電+風力発電+蓄電池のオフグリッド体制構築が吉。そもそも交流と直流を返還するのに1~2割の損失が出ますよ?!ポータブル電源を使っている人ならピンとくるはず。
      しかも電力だけでなく電力量も重要な課題。蓄電池が必要になるのも電力量で余裕を調整すれば設備を最小限にできるから。その意味では電力吸収速度が速く電池内部抵抗の低いチタン酸リチウムイオン電池をバッファーとして使うべきやないですか!?そうすれば発電量差が多い日も安心です(笑)

      かなりメンドクサイこと書きましたが…理工技術系は神経質でメンドクサイ性格でないと務まらない仕様です(笑)
      浜岡原発周辺に風力発電が多いですが、騒音問題が少なく地形的に風量も風圧も比較的大きいからイニシャルコストを短期間でペイしやすい環境であると読みました。

  5. 『カーポート1台分の発電量は「2kW/h程度です」との回答でした。EVの充電用として使うには不安定で出力も小さいため「駐車場の照明などの小さな出力の電気機器の電源として使っていただいている」とのことでした』についてコメントします。(2kWh、/はいらない)

    確かに発電量はそれくらいですが、「EVの充電用として使うには不安定」というのは、三菱電機システムサービスの方の認識?不足です。

    出力は小さいですが、100V充電であれば三菱アイミーブMグレードの場合、純正コードで860Whほどですみます。太陽はいつも同じように出ているわけではないので発電自体は不安定ですが、ソーラーパネルが必要とする2倍以上の2000W(2kW)あれば、だいたい860Wh以上はまかなえます。また、曇りが続いたときのために電気を補う役目をする2kWhぐらいのバッテリーをつないでおけば、安心して運用できます。

    実際に私は、縦横2.5mと6mのコンテナの上に1600Wのパネルを設置して100V充電を行っています。(冷蔵庫も動かしているので、4kWhのバッテリーをつないでいます)
    https://evnews.blog.jp/archives/36241248.html

    200V充電をしようと思うと倍の4000Wのソーラーパネルは必要ですが、カーポートに駐車している昼間に電気を補充しておく用途なら100V充電で十分です。

    1. Eddyさんのシステムは所謂オフグリッドソーラーですよね。ソーラーパネルと蓄電池とチャージコントローラーを組み合わせれば100Vインバータ経由でも充電できるということで。
      当家はポータブル電源EFDELTAを野良仕事や災害対策だけでなくi-MiEV(M)の充電にも使っています。200Wソーラーパネルでも丸1日で0%⇒80%になりますからそんな日はあえて午前中に1時間電は自動車へ放電していますよ。このポータブル電源は400Wまでソーラーパネルを接続できるからうまくゆけば2時間程度は供給できますね。
      一時期風力発電も検討しましたが、大きな風車は騒音振動も問題だから日本の住環境への悪影響も考えねばなりませんよ!?その他バードストライク(鳥が風車に当たる)もあるため生態系への影響も考えねばなりませんが。
      実際太陽光発電所が多く風力発電所が少ないのもそれら問題が大きいと考えられます。もし本気で風力推進なら電気主任技術者の需要もそれに比例して発生するため電気保安業界でもっと認知されているはずですよ!?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

執筆した記事